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「共同親権を導入したら死人が出ます」離婚経験の女性が語った理由。起こりうる“大きすぎる問題”は<漫画>

女子SPA! 2024年7月4日 8時46分

「共同親権」の導入を柱とする改正民法などが5月17日に、国会で成立しました。共同親権が導入されると、離婚後も子どもの生活に関わる事を父親と母親が平等に決定できるようになります。

「子どもの権利を尊重できる」とされる一方で、離婚の理由が配偶者のDVや子どもへの虐待である場合、共同で親権を持つことで子どもやDV被害者に危険がおよぶ可能性があります。導入をめぐっては、X(旧Twitter)上では「#共同親権を廃案に」「#STOP共同親権」のタグが連日トレンド入りし、多くの反対署名も集まっていました。

共同親権の導入がはらむ問題点について、DV被害を受け母子避難をした体験を漫画にしている「ねこ★はち(@8FWktKqQjlp9cXU)」さんにお話を聞きました。

◆DV離婚の夫婦、共同親権が導入されたら起こる問題は

――離婚後共同親権が導入された場合、ねこ★はちさんが懸念していることはありますか?

ねこ★はちさん(以下、ねこ★はち)「共同親権になったら、学校行事への参加や子どもの進路決定、子どもの手術時などにも元配偶者の承諾サインが必要になります。父親と母親、両方のサインがないと、受験票が提出できなかったり、学校の行事に参加できなかったりする可能性があります。

つまり元夫の承諾がもらえないと、何もできなくなるんです。何かあるたびに元夫と話し合わなくてはいけません。私のようにDVを理由に離婚した夫婦や、意思疎通が困難な夫婦で『志望校を決めるのでサインをください』と、毎回確認しなくてはいけなくなったら大変です。

自分のケースでは婚姻中のように、『どういうことか説明しろ』と高圧的な態度をとられるでしょう。『お前の説明がわからないから認めない』と言われることまで想像できます」

◆“元配偶者の承諾”のために、再び支配下に置かれてしまうかも

――そもそも話し合いができなくて離婚をしたのに、お子さんについてまともな話し合いができるとは思えません。

ねこ★はち「一番懸念しているのは、承諾をする代わりに交換条件を出されることです。『承諾のサインを書く代わりに、子どもとの面会時間をもっと長くしろ』と言われる可能性もあります。承諾と引き換えに、例えばセックスを強要されるケースもあるかもしれません。夫からのDVからようやく逃げられたのに、承諾をたてに再び元夫の支配下に置かれてしまう女性がいると思います。

承諾のサインをもらいに行っても、どんなに必死に訴えてもまた鼻で笑われる……。婚姻中もそうだったように、会話が成立しなくて屈辱的なことを言われる。でも承諾をもらうために我慢をしなくてはいけません。元夫に弱みを握られているような気持ちです」

◆夫と離れてようやく自分を取り戻したのに

――それではいつまでたっても元夫から逃げられなくなってしまいますね。

ねこ★はち「元夫と暮らしている時の私は毎日のようにバカにされ、『病気だ』と言われて、判断能力もなくしていました。夫と離れてようやく自分で動けるようになったのに、子どもが大きくなるまで、また元夫との話し合いを続けないといけないと思うと絶望的な気持ちになります……。

学校行事や進路以外にも医療関係の承諾の手続きもとても大変になりそうだなと感じています。命に関わることは単独で決められますが、入院や手術となると都度、手続きが必要です。緊急時の延命措置をどうするか? どこまでするか? など、医療関係の書類はたくさんあります。それを全て元夫と話し合わなくてはいけません。それが現実的なことなのか? 国はそこまで考えているのか気になります」

◆共同親権のために、死人が出るかもしれない

――「共同親権が施行されたら、死人が出るかもしれない」という意見も出ています。

ねこ★はち「喧嘩になってどちらかが刺されるという話よりも、精神的に追い詰められて死を選ぶ方が出かねないと思います。夫からようやく逃げられたのに、子どものことを決める時にいちいちお伺いをたてて説明しないといけません。精神的な負荷に耐えられないのではないでしょうか。

私も元夫と再びやりとりをしないといけないとなると、過去の自分の気持ちを思い出して具合が悪くなります。『あの人からは逃げられない』と思うと、『死んだ方がマシだな』と思うこともあります。

物理的な暴力を伴うDVがあった場合、家庭裁判所が共同親権を配慮してくれるという話もありますが、どこまで配慮してもらえるかはわからず不安です。私の場合、夫に首をしめられた記録や証言、メールが残っていますが、5年以上も前の話です。何年も経ったし、その間に夫と子どもの面会交流もあって事件もなかった。だから大丈夫と言われる可能性もあります。

モラハラや精神的なDVもありますよね。それを家庭裁判所で証明するのはとても難しいし、何年経っても今どうであっても、その傷が癒えることはないと思います」

◆共同親権で「連れ去り犯がいなくなる」という意見のおかしさ

――絶望的な気持ちになりますね。

ねこ★はち「共同親権のメリットがわからないというのが正直な気持ちです。共同親権に賛成している人からよく聞くのは『連れ去り犯がいなくなる』という声です。でも、話し合える夫婦の関係性であれば、子どもを連れて逃げることはないと思います。その場合は共同親権がなくても、離婚後も子どもと会うことができます。

私の両親も離婚していますが、『共同親権はあったとしても、必要はないよね』と言っています。子どもである私も、両親の共同親権がなかったことで不便に感じたことはありません。法案も可決ありきで話が進んでいるように見えますし、養育費の問題が解決していないことも気になります」

◆共同親権の申し立てを何度もする嫌がらせも?

――話し合いができていれば、加害者から“連れ去り”と呼ばれるような「避難」も起きていない気がします。

ねこ★はち「他に、共同親権は何度も申し立てができるというのも気になっています。嫌がらせのために親権の申し立てを何度もする人は出てくると思います。これはリーガルハラスメントで何度も裁判所に呼び出される可能性もあります。

働いていると、一定の収入があり基準を超えてしまうため生活保護はもらえません。必死で働いて子育てをしても、元夫に何度も裁判所に呼ばれ仕事を休み、弁護士費用も重なり生活保護で暮らすよりも貧しい状況になりかねません。かといって仕事を辞めるわけにもいきません。

また、配偶者のDVから子どもと一緒に逃げた場合でも、共同親権が認められたら『連れ去り』とみなされ、刑事告訴をされてしまいます。

私の場合は運良く無事、夫から逃げられました。子どもも大きくなったので、子どもが誰と住むかには子どもの意思が反映されます。でも、これから配偶者から逃げようとしている方々は、共同親権の導入により、心身が危険な状況からの『避難』であっても刑事告訴されてしまう可能性が出てくるんです」

◆子どもが両親の板挟みになる可能性

――そうなったら、より深刻なDV被害者が多く出てしまうかもしれません。

ねこ★はち「ここで立ち止まって、本当に子どもの利益になるための法案かを考えてほしいです。

子どものための法案のはずなのに、子どもが両親の板挟みになる可能性もありますよね。『パパにこのサインもらってよ』と母親に頼まれたり、子どもが使い走りにされたり利用されたりすることも考えられます。DVや虐待などから逃げたくて別れた夫婦なのに、また夫婦の嫌な部分を子どもに見せてしまうことになります。子どもも両親の顔色を伺うようになりかねません。

共同親権が施行されることで精神的に追い詰められる配偶者、子、がいることを配慮してほしいと思います」

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改正法は2026年5月23日までには施行されることになっています。DV被害を受けた配偶者や、虐待を受けた子どもはどこまで守ってもらえるのか? 施行まであと2年。今後の動向を注視しなくてはいけません。

<取材・文/瀧戸詠未 漫画/ねこ★はち>

【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。Twitter:@YlujuzJvzsLUwkB

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