Infoseek 楽天

「ママ友だから断りづらい…」公民館での“体験会”の正体は?保育園のママグループに忍び寄る怪しい影

女子SPA! 2024年6月20日 15時45分

日常のどこにでもある、広く浅い沼の入り口。子育て中の母たちを狙う教科書のような体験談が、今回の沼の話である。

30代の沢渡清美さん(仮名)は、とある地方都市に暮らすワーキングマザーだ。子どもの保育園時代に親しくなったママ友グループのあいだでいま、マルチ系アロマへの会員登録が広まりつつあるという。

ママ友グループの前にマルチの商品が登場したのは、「アロマクラフト」(アロマオイルを使って作るものの総称。アロマバスソルトやアロマスプレーなどがある)の体験会でのことだ。定番オブ定番の、入り口である。

マルチ商品に触れるきっかけとしてママ友に誘われるケース以外だと、子育てイベントで情報を得た、マルシェなどで体験ブースが設置されていた、などもあるだろう(実際、筆者もそれをよく見かける)。

清美さんの場合は、保育園卒園の準備が本格的に始まる秋口に、ママ友つき合いが活発になったことがきっかけだ。小学校入学の準備も控え、親たちの連帯が高まるタイミングでもある。

◆ママ友からの誘いがはじまり

それまでは、コロナ渦だったことも影響して、清美さんが特別仲よくしている保護者はいなかった。ところが、同じ小学校へ進む予定の家庭と一緒に入学前検診に行くするなどの機会を通じて、休日に集まって遊ぶ仲までに発展し、ひとつのグループができあがったのだ。

そうしたある日の公園帰り。

「まだ帰りたくない!」

子どもたちがそう騒ぐので、複数の家庭でそのまま食事をしに行くことになった。その席で、ママ友のひとりである恵美さんがこう切り出した。

「次の日曜、みんなでアロマクラフトの会に参加するの。ハル君のおうちも、まるちゃんのおうちも行くよ」

同じテーブルにいれば、親の会話は当然子どもの耳にも入る。

「みんなが行くなら、自分も行きたい行きたい!!」

当然の流れである。ましてや、保育園以外で集まる楽しさを覚えたばかりだから、なおさらだろう。

◆知っている人は、知っている

清美さん自身も、いろいろなつながりができること自体は、うれしく感じていた。

ところが当日すぐに、誘いに乗ったことを後悔した。ケースから取り出されたアロマオイルのビンを見て、すぐに気づいたからだ。

「あーーーーー。あのマルチだ」

清美さんは、利用していたSNSのX(旧Twitter)で、たびたびそのアロマオイルの画像と悪評を見かけていたからだ。一方、ほかのママ友たちはXを使用しておらず、Instagramの利用が中心だった。

Xと比べると、Instagramではその手の批判は圧倒的に少ない。

だから清美さん以外の参加者は、それが巷で何かとウワサになっているアロマ系マルチだということを知らなかったようだという。

「公民館の和室で行われたアロマクラフト体験会は、誘ってくれたママ友ともうひとり、アロマ講師と名乗る初対面の女性が進行を務めていました。あとからインスタを見ると、その女性がマルチ会社のベテラン会員でした。

横のつながりを大切にしつつ、有益な体験談を語る人を参加させようという勧誘マニュアルを後日知りましたが、まさにそのとおりに会は進められました」

◆不調のないワーママはいない!?

講師が、参加者に呼びかける。

「日常生活で困っている症状や、健康の悩みはありませんか? 自己紹介もかねて、ひとりずつ教えてください」

「寝不足」

「疲れがとれない」

「頭痛持ち」

「生理前がしんどい」

「気圧の変化に弱い」

ママ友たちは次々に不調を話し出す。

「不調!? ないない! 毎日元気元気!」なんてワーママは幻に等しいので、不調を問われれば、誰でも何かしら出てくるだろう。

そこから寄り添いのいとぐちをつかむのは、マルチのアプローチとして無難な方法である。ところが、さらにもう一歩攻め込むのが、この界隈のやり口だ。

◆講師が語る、数々の「奇跡」

「参加者の不調語りがひととおり終わると、講師がおもむろに自分の話をはじめます。激務でくたびれ果てた毎日の末、大病を患ったが手術後に奇跡の妊娠。出産後はひと息つく暇なく、子どもの夜泣きに振り回される日々。そして発症した子どもの化学物質過敏症。

自分も体調不良が重なり、試行錯誤の毎日……。そこで出会ったのがこのアロマ! アロマの助けで化学物質と添加物を取り除いたら、不調が改善されて、人生変わった! そしていかにその商品が素晴らしいか、を延々と聞かされました」

こうした体験談は、マルチ商法にかぎらず、健康器具や健康食品販売でも定番だろう。

さらに講師は「家族の健康に大切な話」と幾度も強調しながら、農薬と添加物の怖さを解説しはじめた。

この界隈では「植物から抽出した精油(アロマオイル)は自然で安全」と考えるので、一般には安全性が確認されている農薬も添加物も、過剰に嫌う傾向がある。

嫌うというよりも、それらを悪者にすることで商品の優位性を高める、というべきか。

「アロマでハンドクリームを作るクラフトワークは実質30分くらい。残り1時間半近くのほとんどは、商品がいかに素晴らしいかの演説でした。

『お下がりは市販の柔軟剤が使われているから、子どもに着せると一気にアトピーが悪化する。だからアロマで手作り柔軟剤を作っている。子どもが興奮して寝てくれない? このアロマを使うと一発で静かになりますよ! 発熱時はこれを塗ると2日で熱が下がる!』 ……私には、共感しにくい話がたくさんでした」

パワフルな子どもらが、一発で静かになるアロマ。その話が本当なら、逆にコワいと思うのは筆者だけではないだろう。子どもの発熱は、何も塗らなくても2日経てば下がるケースが多そうだが。

◆アロマ原液は取扱注意!

この手のマルチ系アロマは「飲用」が問題視されるが、この会ではそれは行われなかった。しかし残念ながら、もうひとつ疑問視されている「原液直塗り」が登場した。

一般には、アロマオイルは刺激が強いため、希釈して使うのが必須とされているが、なぜかこのマルチ系アロマ会社のユーザー間では、原液を肌に塗る方法が横行している。

「みんなが当然のように手にとって塗るのでつられて私もやってしまったんですよね。オイルを直に触った指と、それを伸ばした左腕が翌日真っ赤に腫れてしまいました。

幸いうちの子は何かを肌に塗るのが大嫌いなので大人たちに近づいてきませんでしたが、興味を持った子はその場でいろいろ塗られていましたね。みんな、お肌大丈夫だったかな……」

◆違法性を避けるための定番手段

清美さんは、会場でもらったサンプルのオイルを筆者へ送ってくれた。ふたをあけると、積極的に嗅がずとも、濃厚な香りがあふれ出す。これを肌に直塗りとは恐ろしい……と実感できた。

販促のための根拠なき健康トークと、精油の危険な使用法。この集まりにおける問題点はそこだろう。

本来の目的を告げずに面会の約束をして勧誘行為を行えば「ブラインド勧誘」という違法行為になるが、この会はあくまで「アロマクラフト体験会」。その場で会員になる手つづきをしたり、商品を売るわけではない。

つまり、行政からは「問題なし」と判断されるラインなのだ。

「もし商品を買いたいなら、会員になるとリーズナブルに購入できるから、興味があったら別途声をかけてくださいね、くらいの説明でした。でもそれで終わるはずがありません。後日、別の集まりでママ友たちが続々と入会している現場を目撃しました」

その後子どもたちは小学校へ進み、現在も保育園グループのママ友たちとのおつき合いがつづいている。そのグループを中心に、周囲に会員が着実に増えているようだ、と清美さん。

◆子どもを通じた関係性だから

でも、それを止めることはできない、と清美さんはため息をつく。

「マルチ商法だからやめたほうがいい。その利用法は危険だーー正面から正論を言うのは、すごく簡単です。でも、これからも子どもたちが同じ小学校に通い、地域の保護者同士、まだまだおつき合いがつづくんです。

親がもめることで、子どもの交友関係に影響がないともかぎりません。自分は手を出さないように、見て見ぬふりをするしかないんです」

特に声の大きいリーダー格のママ友が中心になっているのも、ツッコむハードルがさらに高くなっている。

◆マルチは人間関係を、壊す

こっそり行政にも連絡をしてみたが、たらいまわしにされた挙句、この時点でできることはほぼない、という結論に至ったという。

同じ健康法に取り組む仲間として、ひいては同じ権利収入を目指す仲間として、新たなグループを形成するママ友たちは、この後どうなっていくだろう。

家族を含む人間関係が焼け野原になる可能性、健康に不具合が出る可能性。縁を切ることはできないだけに、清美さんの心配は尽きない。でも、適度な距離を保って、ただ見ていることしかできない。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru

この記事の関連ニュース