Infoseek 楽天

「生まれてきた赤ちゃんに障害があったら……」子どもの素朴な質問に“ダウン症の子”を子育てする母は?

女子SPA! 2024年7月1日 15時45分

もしも、自分の子供から「いつか僕がパパになって、生まれてきた赤ちゃんに障害があったら僕はどうしたらいい?」と聞かれた場合、なんと答えますか?

大阪のベッドタウンに暮らす、ガードナー瑞穂さん一家。アメリカ人の夫は小学校で美術と英語を教え、小学6年生の長男エイデンくん、小学3年生の長女璃莉(りりい)ちゃん、そして、小学校1年生の次女茉莉衣(まりい)ちゃんは、それぞれが個性豊かに育っています。

そんな瑞穂さんが出版した絵本『もし ぼくのかみが あおいろ だったら』は、実の息子からの質問がきっかけで生まれた本です。

ただ、エッセイと絵本、一気に2冊の作家となるまでには、いくつもの葛藤がありました。

◆授業参観中、突然教室を飛び出す息子

2019年春、瑞穂さんに1つの試練が降りかかりました。

当時、小学校1年生だった長男のエイデンくんが、学校に行くのを嫌がるようになったのです。

「ゴールデンウィーク前、初めての授業参観で、みんなと同じように座って参加することができない姿を目の当たりにしました。ついには癇癪を起こして教室から走って出て行ってしまいました」(カッコ内はガードナー瑞穂さん。以下同じ)

幼稚園生だったりりいちゃんと、2017年に生まれたダウン症の次女まりいちゃんを抱っこ紐に入れて授業を見ていた瑞穂さん。「お兄ちゃん見つけてくる!」とりりいちゃんも走って追いかけていってしまい呆然と立ち尽くすばかり。

「隣にいたお母さんから、『息子さん、大物になるよ』って言われて(笑)。この状況、今思えばちょっと面白いんですけど、当時はショックでしたね」

◆『学校は行かなあかんもの』

そこから、登校を渋るようになったエイデンくん。

毎日学校から電話がかかってきて「少しでも連れて来てください。行かないのは癖になってしまうから、1時間でもいいので」と言われ、一緒に登下校する日々が始まりました。

「夫はアメリカ人なので『ホームスクールでもいいんじゃない』なんて言ってました。でも、やっぱり日本育ちの私は、『学校は行かなあかんもの』って思っていたんです」

学校にはエイデンくんのための別室が用意され、レゴなどで遊べるようにしてくれていたといいます。学校としては、レゴで遊んで落ち着いて、徐々に学校へ気持ちを向けてくれたら……との思いがあってのこと。

しかし、当の本人はというと、1時間も遊ぶと「もう帰りたい」と言うエイデンくん。

「毎朝別室に入ろうとするだけでも泣くんです。一体何をしているんだろう?って思いました。夫は行かなくていいって言ってても、学校からの連絡は全て私に来ますから。やりとりがしんどくて。『お願いだから学校に行ってくれ!』って思ってしまうこともありました」

◆突然終了した不登校

2年生になると、エイデンくんの食が細くなり体重も減っていき、吃音のように言葉を繰り返す様子も見られるようになり、両親ともに危機感を募らせたといいます。

「とうとう、昼間は外に出たくないとまで言うようになってて……。高校生くらいであれば、不登校の場合の居場所の選択肢もあるのですが、まだ小学2年生です」

小学校2年生の秋、思い切って1クラス20名前後で、国際教育に力を入れている私立小学校へ転入することに。インターナショナルスクールではないものの、2人の担任のうち一人は外国人。一般的な公立小学校とは違う雰囲気の学校です。すると、何事もなかったかのように普通に通うようになったのです。

「入学金を払っても、行くかどうかは分かりません。正直、賭けでした。新しい環境でゼロから始めるというのが、息子にとってもよかったのかもしれません」

◆登下校の日々から生まれた絵本

毎朝公立小学校に一緒に登下校していた時期、なんとかして学校に着くのを遅くしたかったのか、エイデンくんが不思議な問いかけを瑞穂さんにするようになりました。

例えば、「もし、僕の髪の毛が青かったらそれでも僕のことを好き?」「もし、僕が猫だったら、それでも僕のことを好き?」など。

その度に「大好きだよ」と愛情を伝えていました。この会話が面白いなと思い記録をするようになりました。

エイデンくんが新しい学校に通い始め、一緒に路線バスに乗ろうとしたある日。ダウン症の青年がICカードを使いこなしバスに乗り込み、スマホで天気予報を調べている姿を見かけたのです。

「あのお兄さんすごいね!(ダウン症の妹)まりいちゃんもきっとなんでもきるようになるんちゃうん!?」と、テンション高くエイデンくんに話しかけると、

「いつか僕がパパになって、生まれてきた赤ちゃんがダウン症だったら、僕はどうしたらいい?」と、ぽそりと返ってきたのです。この問いかけに、瑞穂さんは言葉を失ったと言います。

◆子どもの個性を愛せるか

「まだ私もダウン症を受け入れきれずに葛藤していたころで、即答できませんでした。

今思うと、もし僕の髪が青色でもママ僕のこと好きだった?という質問は『学校に行けない僕でもママは僕のことを好きでいてくれる?』って聞きたかったんだと思います。

でも、それは怖いから、遠回しな質問をしていたんじゃないかな。

『パパとママがあなたたちを大好きなように愛したらいい。心配しなくていいよ』と、返事をしましたが、これは自分自身へ向けた言葉だったようにも思います」

エイデンくんは、算数は苦手ですが、歴史が大好き。新しい学校に行くようになり本来の明るさを取り戻し、毎日歴史にまつわる作品作りに没頭するなど、個性が輝いています。

イラストレーターでもある瑞穂さんは、このエイデンくんとのやりとりを、コピー用紙に絵と文を切り貼りしたささやかな絵本にしました。家族に見せて本棚にしまわれていたこの絵本が、出版にまで至ったと言います。ちなみに海外の人にも読んでもらえるように、英訳もつけました。翻訳をしたのは、夫のブルースさんです。家族みんなで作り上げた絵本が完成しました。

◆「目の前の子どもとの時間を楽しんで」

エイデンくんが不登校だった小学2年生のころ、「WISC」という発達検査を受けたことがありました。「息子だけ受けるのはフェアじゃない」と思い、心療内科を探して瑞穂さんも検査を受けた行動力に驚かされます。

「2時間の検査で、先生とパズルをしたり、数字を覚えたり、色々なことをするんです。パズルをするのは『この時間がこのまま続いてほしい』と思えるくらい幸せな時間。でも、数字が、もう全然覚えられない(笑)。人にはできることとできないことがあると、身をもって実感できて、すごくよかったです」

この検査の結果で、向いている仕事の一つに「作家」があった瑞穂さん。数年経って、本当に作家としてデビューを果たしました。

「人の出会いやご縁って不思議ですよね。まさか、私が本を出すことになるなんて、この時は夢にも思っていなかったですから」

瑞穂さんの言葉からは、子どもたちへの深い愛情が伝わってきます。「正直に言葉を書き綴ることが楽しくて仕方がなかった」と話す瑞穂さんの軽やかな生き方は、暗いトンネルを抜けて、思いがけない場所へとたどりつきました。

絵本を通して瑞穂さんが伝えたいのは、「『Be your self(自分らしく)』空気は読まなくていい、自分らしく生きてほしい」ということだそう。

「言葉で言うのは簡単だけど、皆さんはできていますか?」実際、本を読むと自問自答せざるをえない内容でした。

<取材・文/かたおかゆい>

【かたおか由衣】
東京都出身。 リゾート運営会社勤務と専業主婦を経てフリーライターに。2019年から4年間竹富島で暮らす。教育、子育て、エンタメを中心にインタビュー記事やコラムなどを執筆。20代で出産し、転勤や子どもの不登校などままならないことにぶつかりながらも乗りこなす日々。漫画やエンタメに癒されている。
Twitter:@Momyuuuuui

この記事の関連ニュース