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春ドラマ名作ベスト3。日曜劇場も壮絶だったけど、“号泣まちがいなし”のNo.1は

女子SPA! 2024年6月23日 15時46分

2024年春ドラマの多くが最終回を迎えました。すべてのプライムタイム(よる7時~11時)放送春クールのドラマをチェックした筆者の、観てよかったドラマ勝手にベスト3をご紹介します。

※以下、6月19日までの放送内容に関するネタバレを含みます。

◆3位:くるり~誰が私と恋をした?~/期待を裏切る完成度

まずはいい意味で期待を裏切る完成度だった『くるり~誰が私と恋をした?~』通称“くる恋”(TBS系)。“めるる”こと生見愛瑠が演じる主人公の緒方まことは、プライベートでも会社でも悪目立ちしないように生きてきた24歳です。しかし事故により、自分にまつわるすべての記憶を失ってしまいます。そこに、まことのカバンにあった男性用の指輪のサイズにぴったりな3人の男、自称“元カレ”公太郎(瀬戸康史)、自称“唯一の男友だち”朝日(神尾楓珠)、自称“運命の相手”律(宮世琉弥)が現れます。

◆どうせ胸キュン幕の内弁当、と思ったら全然違った

“恋の相手”と“本当の自分”を探していくラブコメミステリーとしてスタートした本作。はじめタイトルとキャスト陣をみて、「ヒロインが今どきのイケメンに言い寄られる話か。どうせ『胸キュン幕の内弁当』みたいな展開だろう」と勝手に決めつけていました。ごめんなさい。実際にはヒロインが、記憶喪失をきっかけに過去の自分と向き合い、“本当の自分”らしく生きようとする姿が丁寧に描かれていました。

嫌われることや傷つくことを恐れて仮面をかぶっていたヒロイン。3人の男たちだけでなく、職場、家族、友人と改めて対峙しながら関係を再構築していきます。ヒロインの前向きさと、“本当の自分”を大切にできるようになっていく成長ぶりに勇気をもらいました。またヒロインのまことを生見が、女性でも「可愛い~」とときめいてしまうほど愛らしく演じていたのも印象的。3人もの男に言い寄られる非現実っぷりへの納得度をもたせながらも、同性に嫌われない共感度の高さを両立していました。

◆“胸キュン”と“謎解き”を両立し、納得のラストへ

成長物語であると同時に、恋愛とミステリーの要素が随所に散りばめられていた本作。中だるみすることなく最終回まで楽しめました。実は3人が当初自称していた関係性は全員ウソだったこと、最終回ではまことが記憶喪失になった事故の原因は朝日にあったことが分かりました。まことは記憶を失う前に惹かれていた公太郎と、“本当の自分”らしくいられる関係性を築き、ふたりは結ばれます。とびっきりロマンチックなラストシーン、大団円で物語を締めくくりました。

登場人物の誰も悪者にしなかった描き方にも好感が持てます! 重ための作品が多かった春クールのなかで、和ませてくれる良作だったと思います。個人的には瀬戸の心地よい低音ボイスに、毎週癒されていました。

◆2位:アンチヒーロー/重厚な展開の“The 日曜劇場”

そして重ための代表格、日曜劇場『アンチヒーロー』(TBS系)も素晴らしかったです。主演の長谷川博己が演じたのは「殺人犯をも無罪にしてしまう」“アンチ”な弁護士・明墨。本作は明墨が、同じく弁護士の赤峰(北村匠海)や紫ノ宮(堀田真由)らとともに、12年前の“糸井一家殺人事件”で有罪判決を受けた死刑囚・志水(緒方直人)の冤罪を晴らそうとする物語です。

社会的テーマを扱うことも多い日曜劇場の枠で、本作は「正義とは何なのか?」を終始私たちに問うてきました。

明墨は分かりやすい“正義の人”ではありません。当初は、この人いい人? なんかいけ好かない感じ? と思わせ、分かりやすい主人公感がない。いきなり殺人犯に向かって「無罪にする」とか言って、本当に無罪にしちゃうし。しかしそれこそが、作り手が視聴者に問いたかった「人の正義不正義は、どう判断するのか?」というテーマなのかもしれません。明解な善悪を示さないことで、一つひとつの事件がどのように12年前の事件に繋がっているのか予測できませんでした。

第1・2話で無罪にした殺人犯の緋山(岩田剛典)が、志水を無罪にするキーマンと分かったときには心底びっくり! 近年では珍しくコメディ要素がまったくない、目が離せない秀逸な展開力に唸らされました。そして明墨は、警察官・倉田(藤木直人)、裁判官・瀬古(神野三鈴)、検事正・伊達原(野村萬斎)という権力をもつ者たちの“行き過ぎた正義感”と“保身”を明らかにしていくのです。

◆長谷川博己と野村萬斎の演技合戦! 続編を期待させた最終回

最終回では明墨がラスボス伊達原と法廷で対決。伊達原を演じた野村萬斎は、あまりに強い存在感をもつ俳優であるがゆえに、初登場からずっとラスボス感が。その通りに展開したのですが、各話での出演量が押さえられたこともあり最終回では存分に萬斎節を楽しめました。

そして伊達原サイドにいた検事・緑川(木村佳乃)が裏切り、主演の長谷川と凄まじいほどの演技合戦が繰り広げられていくのです。見応えがありました。明墨が法廷で語った「こんな不平等な世の中で、誰もが気づかないうちに自分の物差しで人を裁き、罰を与えている。人は人を裁くことが快感ですからね」という言葉にはハッとさせられます。そして最後には、法を、罪を犯しながらもがき続けた両名はにらみ合い、明墨は伊達原に「ともに地獄に落ちましょう」と告げます。そのときの笑顔にはゾクッとしました。さすが長谷川博己!

物語のラストでは志水の再審が決定し、娘と再会して涙を誘いました。しかし12年前の真犯人は分からないまま。続編を期待する声が高まる最終回となりました。

◆1位:アンメット ある脳外科医の日記

この春クールで最も心を揺さぶられた作品は、『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)でした。漫画『アンメット ーある脳外科医の日記ー』(原作:子鹿ゆずる、漫画:大槻閑人/講談社刊)を原作に、事故によって記憶障害の重い後遺症を持つ脳外科医の主人公・川内ミヤビ(杉咲花)が、仲間たちと患者を全力で救い、自分自身も再生していく物語です。

◆“役を生きている”俳優たちと、丁寧な人間描写

観た人たちが口を揃えて“傑作”という本作の魅力は、繊細な人間描写にあると思います。

ミヤビの記憶障害は、過去2年間の記憶が抜け落ちた上で、今日のことを明日にはすべて忘れてしまうというもの。誰に会って何を話し、何に喜び、悲しんだのかを毎日リセットされるのは、想像を絶する状態です。しかし物語のなかで、私たちは気づかされます。記憶がなかったとしても、積み重ねてきた努力や関係性は失われないし、強い感情は心が覚えて繋がっていくということに。それを教えてくれるのが、登場人物たちなのです。

ミヤビと、同僚の脳外科医であり婚約者を名乗る三瓶(若葉竜也)の両名はもちろんですが、ミヤビの主治医・大迫教授(井浦新)、同僚の救命医・星前(千葉雄大)、看護師長・津幡(吉瀬美智子)、かつてミヤビに好意をもっていた脳外科医・綾野(岡山天音)といった、彼女を取り巻くキャラクターの人柄や関係性も丁寧に描かれました。一人ひとりの解像度が高く、役者たちが皆、まさに“役を生きている”と感じさせるのです。ミヤビだけでなく、それぞれに抱えているものがある。その不完全さを、愛おしく映し出しています。

◆不完全さを補い合い、支え合っていく姿に涙

そんな“不完全”な登場人物たちが、この物語では支え合って患者たちを救っていきました。第1話で三瓶が、医療行為を避けるミヤビにかけた言葉「川内先生の技術や知識で今できることを提案しています。足りない部分は周りがフォローすればいい。当然のことです。川内先生、あなたは障害のある人は人生を諦めて、ただ生きていればいいと思っているんですか?」は全話に通じています。そこには、優しさがあふれている。

医療ドラマは、医師の技術や難病が治るか治らないかに焦点が当たりがちです。しかし本作では、とにかく人と人が支え合うことの尊さが、登場人物たちの日常を通じて描かれています。「完璧である必要はない。きっと誰かが明かりを灯してくれる。助け合って生きていこう」。そんな風に、視聴者を勇気づけてくれる作品です。

第9話でミヤビの記憶障害の原因が、決して人がメスを入れてはいけない領域・ノーマンズランドにあり、無理に手術をすれば命に関わる状態であることが判明しました。第10話では、葛藤しながらもミヤビの手術ができるよう練習に没頭する三瓶に、ミヤビは「手術をしない」と告げます。それは三瓶に笑顔でいてほしいから。しかし最後には倒れてしまうミヤビ。もうほぼ毎話泣かずにはいられないのですが、6月24日放送の最終回は号泣必至でしょう。ハンカチを握りしめて、ミヤビがまた美味しそうにごはんを食べる姿が観られるように、祈りたいと思います。

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この春はドラマの放送枠も増えて、深夜帯も含めると数多くの作品が放送されました。皆さんのお気に入りのドラマはありましたか? もう来週には夏ドラマがスタート。どんな名作が生まれるのか、今から楽しみです。

<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>

【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201

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