単にチャラいだけなのか、胡散臭いのか……。でも魅力的ではある。『虎に翼』(NHK総合、午前8時放送)で沢村一樹が演じる久藤頼安は、そんな感じの人である。
主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)のことを何度もアシストし、目をかけてくれる。この愛情深さ、どうも不思議でちょっとマジカルな雰囲気ではないだろうか?
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“胡散臭ハンサム”沢村一樹を解説する。
◆“胡散臭ハンサム”の系譜
沢村一樹は何だか好きな俳優である。カッコいいなと思ったことしかない。だけど、あえてちょっと斜めから見つめると、この人はどうも胡散臭いなと思ってしまう。
そう、沢村一樹とは、“胡散臭ハンサム”なのだ。現在56歳。このまま年を重ねたら、きっと草刈正雄や長谷川初範のように滋味深く胡散臭いハンサム俳優の系譜に順当に連なるんじゃないかしら。
朝ドラ『虎に翼』に出演する沢村を見て、その系譜をより強く感じた。初登場は、第10週第46回。戦後、家族を養うため、職を得ようと司法省にやって来た主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)へのナイスアシストだった。
◆「ライアン」と呼ばれる人
寅子は特にアポを取っていなかった。人事課長になかなか取り次いでもらえないところへ、沢村扮する民放調査室主任・久藤頼安が颯爽とやって来る。「やぁ、待たせたね」とひと芝居打ってくれたのだ。
寅子をひと目見て気に入った様子の久藤は、人事課長に紹介すると言ってくれる。気さくにエスコートまでしてくれようとする。極めつけが、「何てお呼びしようかな」と言いながら、咄嗟に「サディ」とニックネームをつけてしまうこと。
「ライアン」と英語風に呼ばれるこの男はいったい、何者なのかといぶかしがる寅子。頼安(よりやす)で「ライアン」だと後から説明してくれる。どうやら大名家出身で、「ライアン」と別に「殿様判事」というあだ名もあるらしい。うーむ、やっぱり胡散臭い!
◆寅子に対してまたしてもアシスト
人事課長は、桂場等一郎(松山ケンイチ)だった。甘味処「竹もと」で寅子の母・猪爪はる(石田ゆり子)と一戦交えたことがあるこの人が、採用担当ともなると、そりゃ一筋縄ではいかないだろう。
裁判官として雇ってほしいと頭を下げる寅子だが、等一郎はやっぱり取り合おうとしない。そこへ、ライアン再登場(!)。「取ってあげなよ」と言って、またしてもアシストしてくれる。
寅子と等一郎のやり取りを見て、やけに楽しそうでもある。渋々善処しようとする等一郎だが、さっきからずっと鼻に何かついてる(さつまいもの皮?)。それをさりげなく取ってしまう「ライアン」という人の度量は、どこまで広いんだろうか?
◆「思ったより謙虚なんだね」寅子への眼差し
結局、寅子は、久藤のところで事務官として雇われる。取り掛かるのは、新民法の改正案について。日本政府の現状では「生ぬるい」とGHQから差し戻されているのだ。
寅子は、久藤から意見を求められるが、入省以来の彼女はどうも無感情になる「スンッ」状態に陥っている。これまで社会に対して疑問符を浮かべてきた「はて」がうまく発揮出来ない寅子に対して、久藤からは「思ったより謙虚なんだね」と言われる。
寅子を試すような視線の久藤がカメラ目線になる。彼の眼差しは、優秀だと見込んだ者をテストしている。GHQのアルバート・ホーナーにも寅子を「見定め中さ」と言っている。かと言って、久藤の眼差しが温かくないわけではない。
尾野真千子のナレーションが二度繰り返すように、確かに「胡散臭い」けれど、愛のある人であることに間違いない。寅子への眼差しは、そうだな、優秀な教え子への期待と愛情を込めたものだろう。
◆スプーン一杯のイチゴジャム
その意味では上司と部下のような関係とは少し違うかもしれない。それはどこか不思議とマジカル。寅子にとっての司法省は、「ハリー・ポッター」シリーズの見習い魔法使いたちが学ぶホグワーツ魔法魔術学校のように見えなくもない。
久藤の期待と愛情の眼差しは、同シリーズを通じて主人公が必ず懇意になる闇の魔術に対する防衛術の先生のそれとよく似ている。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004年)では、特訓のあとに必ずチョコレートをくれる先生が登場するが、アメリカへ視察経験がある久藤もまた異国の甘い物を持っている。
第11週第52回から寅子は、家庭裁判所準備室に異動になる。室長・多岐川幸四郎(滝藤賢一)があまりに風変わりでコミュニケーションを取るのに苦戦する。そんなとき、前の上司だった久藤が、日米開戦前に全米のファミリー・コート(家庭裁判所)を回った際、日本の厳しい雰囲気の裁判所とはいかに異なっていたかを説明してくれる。説明しながら、久藤が出してくれるのが、イチゴジャム入りの紅茶だ。
彼がカップにお茶を注ぎ、スプーン一杯のジャムを入れる。ジャムがぽとっとつかるワンショットが丁寧に挿入されている。その甘い一匙が、この「ライアン」という人の愛情深さと比例していることは言うまでもない。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)のことを何度もアシストし、目をかけてくれる。この愛情深さ、どうも不思議でちょっとマジカルな雰囲気ではないだろうか?
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“胡散臭ハンサム”沢村一樹を解説する。
◆“胡散臭ハンサム”の系譜
沢村一樹は何だか好きな俳優である。カッコいいなと思ったことしかない。だけど、あえてちょっと斜めから見つめると、この人はどうも胡散臭いなと思ってしまう。
そう、沢村一樹とは、“胡散臭ハンサム”なのだ。現在56歳。このまま年を重ねたら、きっと草刈正雄や長谷川初範のように滋味深く胡散臭いハンサム俳優の系譜に順当に連なるんじゃないかしら。
朝ドラ『虎に翼』に出演する沢村を見て、その系譜をより強く感じた。初登場は、第10週第46回。戦後、家族を養うため、職を得ようと司法省にやって来た主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)へのナイスアシストだった。
◆「ライアン」と呼ばれる人
寅子は特にアポを取っていなかった。人事課長になかなか取り次いでもらえないところへ、沢村扮する民放調査室主任・久藤頼安が颯爽とやって来る。「やぁ、待たせたね」とひと芝居打ってくれたのだ。
寅子をひと目見て気に入った様子の久藤は、人事課長に紹介すると言ってくれる。気さくにエスコートまでしてくれようとする。極めつけが、「何てお呼びしようかな」と言いながら、咄嗟に「サディ」とニックネームをつけてしまうこと。
「ライアン」と英語風に呼ばれるこの男はいったい、何者なのかといぶかしがる寅子。頼安(よりやす)で「ライアン」だと後から説明してくれる。どうやら大名家出身で、「ライアン」と別に「殿様判事」というあだ名もあるらしい。うーむ、やっぱり胡散臭い!
◆寅子に対してまたしてもアシスト
人事課長は、桂場等一郎(松山ケンイチ)だった。甘味処「竹もと」で寅子の母・猪爪はる(石田ゆり子)と一戦交えたことがあるこの人が、採用担当ともなると、そりゃ一筋縄ではいかないだろう。
裁判官として雇ってほしいと頭を下げる寅子だが、等一郎はやっぱり取り合おうとしない。そこへ、ライアン再登場(!)。「取ってあげなよ」と言って、またしてもアシストしてくれる。
寅子と等一郎のやり取りを見て、やけに楽しそうでもある。渋々善処しようとする等一郎だが、さっきからずっと鼻に何かついてる(さつまいもの皮?)。それをさりげなく取ってしまう「ライアン」という人の度量は、どこまで広いんだろうか?
◆「思ったより謙虚なんだね」寅子への眼差し
結局、寅子は、久藤のところで事務官として雇われる。取り掛かるのは、新民法の改正案について。日本政府の現状では「生ぬるい」とGHQから差し戻されているのだ。
寅子は、久藤から意見を求められるが、入省以来の彼女はどうも無感情になる「スンッ」状態に陥っている。これまで社会に対して疑問符を浮かべてきた「はて」がうまく発揮出来ない寅子に対して、久藤からは「思ったより謙虚なんだね」と言われる。
寅子を試すような視線の久藤がカメラ目線になる。彼の眼差しは、優秀だと見込んだ者をテストしている。GHQのアルバート・ホーナーにも寅子を「見定め中さ」と言っている。かと言って、久藤の眼差しが温かくないわけではない。
尾野真千子のナレーションが二度繰り返すように、確かに「胡散臭い」けれど、愛のある人であることに間違いない。寅子への眼差しは、そうだな、優秀な教え子への期待と愛情を込めたものだろう。
◆スプーン一杯のイチゴジャム
その意味では上司と部下のような関係とは少し違うかもしれない。それはどこか不思議とマジカル。寅子にとっての司法省は、「ハリー・ポッター」シリーズの見習い魔法使いたちが学ぶホグワーツ魔法魔術学校のように見えなくもない。
久藤の期待と愛情の眼差しは、同シリーズを通じて主人公が必ず懇意になる闇の魔術に対する防衛術の先生のそれとよく似ている。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004年)では、特訓のあとに必ずチョコレートをくれる先生が登場するが、アメリカへ視察経験がある久藤もまた異国の甘い物を持っている。
第11週第52回から寅子は、家庭裁判所準備室に異動になる。室長・多岐川幸四郎(滝藤賢一)があまりに風変わりでコミュニケーションを取るのに苦戦する。そんなとき、前の上司だった久藤が、日米開戦前に全米のファミリー・コート(家庭裁判所)を回った際、日本の厳しい雰囲気の裁判所とはいかに異なっていたかを説明してくれる。説明しながら、久藤が出してくれるのが、イチゴジャム入りの紅茶だ。
彼がカップにお茶を注ぎ、スプーン一杯のジャムを入れる。ジャムがぽとっとつかるワンショットが丁寧に挿入されている。その甘い一匙が、この「ライアン」という人の愛情深さと比例していることは言うまでもない。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu