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私って発達障害?→“毒親育ちのトラウマ”による症状だと判明。でも生きるのがラクになった理由

女子SPA! 2024年6月29日 8時45分

 幼少期に受けた虐待や性被害など、過去の傷(トラウマ体験)を心や体が覚えていることによって、大人になっても心身にさまざまな症状が現れる「トラウマ関連疾患」。その治療について書かれた、精神科医・生野信弘先生の著書『トラウマからの回復』が2024年5月30日に発売されました。

 本書では、トラウマ疾患を抱える当事者への取材をもとにした架空の患者「ハナ」の視点から、治療の様子や日常生活での思考の変化を追いながら、トラウマ関連疾患やその治療について、わかりやすく解説されています。

 今回は、父親からの暴力や性的虐待に苦しんだ過去や、トラウマと対峙した経験をコミックエッセイ『母が「女」とわかったら、虐待連鎖ようやく抜けた』(竹書房)などに描いているあらいぴろよさんに、自身のトラウマ治療の体験や、本書の感想聞きましした。

◆自分の中で反芻したい“温かな言葉”が山盛りの本

――本書について、どんな感想を持ちましたか?

あらい:私自身、1年半ほど前からトラウマ治療を受けているのですが「自分の中で反芻したい」と感じる温かな言葉が山盛りの本でした……! あっという間に読破してしまいました。

情報のバランスがよく、トラウマ治療に興味を持っている人が知りたいことが詰まっています。例えば、治療に漢方薬が用いられることが紹介されているところです。精神科で処方される薬に対して怖いイメージを持っている人は多いかもしれないですが、「漢方だったら試してみようかな」と思える人もいるのではないでしょうか。

また、治療を始める前は、先が見えない不安があるのですが、この本を読むことで何となく“ゴール”や“区切り”をイメージができるところもいいですね。治療中はつらい過去を思い出す中で、苦しくて逃げ出したい気持ちになることがあります。私自身、治療の効果をまだ感じられない段階に「どうせ治療しても苦しいなら、何もせずに鬱々と暮らしていればよかった」と思ってしまうつらい時期がありました。それは、治療の終わりが見えないことが一因だったと思います。

この本では、ハナは人が変わったように劇的にハッピーになるわけではないけど、いろいろなことに気づき、自分の人生を生きる覚悟が決まるような気持ちになって、“静かに”治療が終わっていくという1つのケースが書かれています。この“静かに”というのがまさに私自身が体験したことでした。治療が終わっていくところが見えるのは、当事者にとって希望になると思います。

――エピソード部分はハナの治療の様子が医師との会話形式で描かれていますが、この点についてはどう思いましたか?

あらい:他人がカウンセリングを受けているところは滅多に見ることができないので、この本を読んで、「カウンセリングってこういう感じでいいんだ」と感じられるのではないかと思います。

◆「カウンセリングあるある」に共感!

――ハナと医師のやり取りで、印象に残ったことはありますか?

あらい:まず、この先生はすごくいい先生ですね!(笑)こういう先生ばかりではないのが現実だけど、「こんな先生もいるんだ」と望みが持てると思います。やりとり全体を通して、著者の生野先生の「自分のことを見失わないでね」というメッセージが込められていると感じました。また、作中の先生が、ハナが自分で気づけるように「こういう考えもあるよ」と少しずつ助言してくれる様子は、読むだけで気持ちが落ち着く人がいると思います。

――ハナについはいかがでしょうか。

あらい:ハナが先生に少し突っかかる場面など、「あるある!」と思いました。ただ実際には、カウンセリングで先生に言われたことに対して「それってどういう意味?」と思ったとしても口に出せなかったりするんです。でも、ハナは思ったことをちゃんと先生に言ってくれるので、自分にはできないことを疑似体験できるし、「カウンセリングでは本当に何を話してもいいんだよ」という見本になっていると思います。

――あらいさん自身も、そういうことがあったのでしょうか。

あらい:治療に来ているはずなのに、お医者さんが求めていそうな返答をしてしまったり、話したいことがあったはずなのに、いつもの癖で「大丈夫っす!」と元気なふりをしてしまったり……。病院に行くときは気合が入っているので、つい大丈夫だと思ってしまうんですよね。

患者側としては、ハナみたいに最初から心を裸にしてカウンセリングを受けられたらいいなと思います。そこに少し付け足すとしたら、話したくても体が固まったり涙が溢れたりで声を出せなくなることがあるので、話したいことをメモしておいたり、先生に手紙を書いていって「これだけ読んでください」と渡してもいいと思います。

また、希望の治療法があれば積極的に伝えることが大切です。自分の体・心に合うものを探す旅のような気持ちでいられればベストですね。

◆「ハナ頑張ってるやん!」

――特に共感した場面はありましたか?

あらい:ハナが「解離性フラッシュバック(※)はおさまってきたけど、今度は人との関係について考え込むようになった」と話す場面で、「私もこういうことあったわ~!」と思いました。「フラッシュバックが減った」という良いところに目を向ければいいのに、なぜか当事者は悪いところに目を向けてしまいがちなんですよね。

もっと、ハナを褒めるように自分を褒めていいんです。「フラッシュバック減ってるやん! ハナ頑張ってるやん! 私も頑張ってるやん!」と(笑)。

また、治療を受けることで今まで気づいていなかった問題が出てきて、苦しくなってしまうところも共感しました。私自身、過敏になっていたことがおさまってくることによって、新たな問題が顔を出すことがありました。

何十年も抑え続けてきたものだから、ゆっくり時間をかけてほぐしていくんだよ、そうすればきっと自分を信じられるようになっていくし、生きるための力を取り戻すことができるようになるよ、同じように感じて苦しんでいる人にそう伝えたいです。

※解離性フラッシュバック…過去に受けたトラウマ体験をあたかも今その瞬間体験しているかのように感じること。トラウマ体験そのものを忘れていたとしても起こりうる

◆治療をとおして「私って結構いいヤツだったんだ」と思えるように

――あらいさんは、治療を受けたことで変化はありましたか?

あらい:なんというか、落ち着いていられるようになりました。今まではいろいろなことにとにかく過敏で、すぐに不安になって、どうでも良いことで泣いたり怒ったり、忙しかったです。その上で育児や仕事をしていたので無意識に頑張り過ぎて、いつもヘトヘトでした。

でも治療を受けたことで、「生まれつきの性格なんだ」「発達障害の特性があるのかな」と思っていたことが、トラウマによる症状だと分かったことがたくさんあって。症状を治療していくことで、感情の起伏や見返りを求めてしまう癖がやはり「症状」だとわかったり、少しずつおさまっていったりして、「私って、結構いいヤツだったんだな」と思えるようになりました(笑)。

――治療を受けるまで、当事者が症状だと自覚できないこともあるんですね。

あらい:私の場合は、慢性的な鬱の症状があることも分かりました。自分では「私が鬱なんて、まさか!」と思ったのですが、投薬を受けたら回復したんです。体調や寝つきが悪いことや、いつもなぜかしんどいと確かに感じてはいましたが、「そういうものだ」と思って生きてきたので……。それらが解消されるとは夢にも思っていませんでした。「症状」と知り生きるのがめちゃくちゃラクになりましたわ。

◆諦めることと、受け入れることは全然違う

――どんな人に、この本を読んでもらいたいと思いますか?

あらい:トラウマ治療中の当事者はもちろんですが、「もしかしたら自分もそうかも」という人や、「虐待を受けたわけではないし」と一歩距離を置いている方でも、交通事故に遭ったり流産をしたことで自分らしくいられなくなってしまった人など、さまざまな人にこの本を知ってもらいたいですね。

当事者の友人や生活を共にしている方にも読んでもらえるといいと思います。私自身、夫に対して治療中にトゲトゲした気持ちになってしまった時期があったので、お互いに知識があれば、もっとラクに乗り越えられたかもと思います。治療や支援は専門家に任せたうえで、周りの人に「こういう状態なんだな」とわかってもらえるだけでもいいと思います。

――本書を通して、知ってほしいことはありますか?

あらい:苦しいのをそのままにしなくていいし、「諦めることと、受け入れることは全然違う」と伝えたいです。治療法や医師との相性はあるので絶対に上手くいくとは限らないけど、「絶対に希望はある」と私は実感しています。

治療を受ける前は、「私はこういう人生なんだ」と、諦めに近い受け入れ方をしていました。そうすることで覚悟が決まることもあったので、ジタバタした時間が無駄だとは思わないし必要だったと思います。

でも、この本に出てくる先生みたいな人はきっといるから、無理に1人で立ち向かわなくてもいい。「一緒に立ち向かっていこう」というのは生野先生が伝えたいことだと思うし、私もすごく賛同します。

【あらいぴろよ】

1984年生まれ。イラストレーター、漫画家。東京都足立区で夫・息子・柴犬と暮らす。趣味は散歩とプロレス観戦、鼻ほじり。座右の銘は「欲しいならちゃんと欲しがれ」

Xアカウント:@pchaning

公式サイト:あらいぴろよのポートフォリオサイト

<取材・文/都田ミツコ>

【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。

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