Infoseek 楽天

SNSで話題の”こういうのでいいんだよ朝食“ が賛否を呼んだワケ。実際に作ってみてわかったことは

女子SPA! 2024年6月29日 8時46分

「こういうのでいいんだよ」の真意。

 食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。

 先日、X上で投稿された朝ごはんのメニューが話題になっています。それは、とある女性が6月9日に投稿したもの。

 丁寧に作られた大きめ三角おにぎりに、丁寧に焼き上げられた玉子焼き、ぷりっと香ばしそうなウインナー、具だくさんの豚汁が並んでいます。どのメニューも作り手の愛情が伝わってくるような丁寧さがあり、おいしそうなビジュアルに14万件のいいねが付き、1万件のリポストがつく反響になっています。

 この投稿に対する反応をじっくり見ていくと、こういうので良いというか、こういうのが最高、どんな手の込んだ高級料理もこれには敵わないんだよな。という称賛コメントが多いものの、次第に自分の朝ごはんを卑下する投稿や、反論系まで広がっているではないですか。うーん、考えさせられます! そもそも朝ごはんはどうあるべきなんでしょうか?

 そこでまずは話題の朝ごはんを実際に作りながら、「こういうのでいいんだよ」という認識ギャップについて考えてみたいと思います。そして作る側と食べる側、どちらも無理をしない“究極の朝ごはん”のあり方を探ってみたいと思います。

◆自分で作ってみたら、1時間以上かかった

 まずは作ってみました。

 ごはんを炊いてにぎる、豚汁を煮込む、玉子焼きとウインナーを焼く。これらの調理を並行しながら進めてみましたが、豚汁30分、玉子焼き10分、ウインナー10分、おにぎり10分。ごはんを冷ます時間や盛りつけ時間を加味すると、1時間では仕上がりませんでした。

 あわただしい朝時間に1時間以上かけてごはんを準備するのを大変だと感じる人は少なくないはず。家族共働きが主流の現代において、作り手の体調や忙しさを考えると、「こういうのでいいんだよ」という表現に違和感を抱くのはまったくおかしいことではないと、実際に作ってみた立場として主張したいことです。

◆特に大変なのは「豚汁」

 特に大変だったのは、豚汁。女性の投稿の豚汁は前日に義父宅でふるまわれたものの残りだったようですが、一から作るとなると早起き必至。前日料理を温め直すにしても、気温も湿度も高い季節ですから冷蔵庫保存などの留意にも必要になります。

 ウインナーに切り目を入れる作業にも、集中力と時間が必要。1本10~15秒だとして、2~3分はかかります。

 このような工程は、料理する側の時間的余裕や価値観によって多様であってよいはず。私は仕事柄、料理を苦にしないほうではありますが、だからといって手の込んだ料理が最高だとはまったく思いません。

 大切にすべきは料理の出来栄えよりも、作り手の状況や立場のほうであり、このような工程をめんどくさいからやりたくないと感じる人がいても、まったくはずかしいことではないし、正常な感覚だと思います。やりたい人が食べる相手を想ってやれば素敵。それで完結です。

◆賛否の理由は、料理ではなく言葉にあり

 今回の投稿について賛否両論が盛り上がった理由を考えてみると、議論の対象は料理そのものではなく、「こういうのでいいんだよ」という言葉にあったのではないかと考えられます。

「みんなが大好きなメニューだけ並べればいいんだよ。野菜料理や凝った副菜が並ぶ、旅館の朝ごはんのような献立でなくていいんだよ」

 と解釈する人が大半だとしましょう。しかしながら一方で、朝ごはんを作ったことのある人であれば、この料理を作るのにどれほどの時間と苦労があるかをイメージするはず。

“作る苦労”と、こういうのでいいんだよという言葉がまとう“軽視感”との間に矛盾を感じ、それに不快感を抱いてしまう人がいてもおかしくはありませんよね。

◆こういうのでいいんだよ発言は、作り手さえも言うべきではない!?

 食事に対して“こういうのでいいんだよ”という発言は、作ってもらう側がしてしまうことで不穏なトラブルにつながることは想像がつくでしょう。

 しかし気をつけるべきは、それだけではありません。作る側がSNS上などで不特定多数に対して投稿する場合にも覚悟が必要です。さまざまな価値観のユーザーがいて当然の世界ですから、少しでも侮辱感や軽視感につながるニュアンスが潜んでいる場合、発言の影響力は計り知れず、「こういうのでいいんだよじゃないよ!」となる可能性があるのです。

 複雑な世界の中で、今回のような朝ごはんの投稿をする際の正解はなんなのでしょうか? 細かく考えていくと気をつけるべきポイントは山のようにありますし、万人が喜ぶような答はないかもしれません。

 避けたいのは、人や食べ物に対して軽視や侮辱につながるニュアンスや言葉。自虐、謙遜、卑下は誤解を生む可能性がありますから、よほどの配慮がない限り表現を慎重に検討したほうが良さそう。

 画像と言葉のバランスも重要です。どこまで気にするかの問題ではありますが、自分の家族に対して発信するニュアンスが、不特定多数にも同じ意図で伝わることはないという認識は有効でしょう。

◆じゃあどんな朝ごはんがいいの?

 安心する朝ごはん、喜ぶ朝ごはんはヒトや家庭によってさまざまで良いと思います。

 隣の家庭の正解が、自分にとって脅威になる可能性もあります。重要なのは、他家庭から学ぶことは良いけれど、無闇に比べないこと。あくまでも自分の家庭において作り手が無理をし過ぎることなく、食べる側にも喜びや感謝が生まれるほどよいバランスを、一度家庭の中で確認してみるのが良いと思います。

「玉子焼きは作るのが大変だから、卵かけごはんにしよう」や、「シリアルなら食べる人が各々で作れるしラクだよね!」という感じです。いずれにしてもどちらも心ある人間ですから、手抜きあり文句ありが健全。

 その中でお互いが、少しでも喜びやありがとうを発見していけたらよいのではないでしょうか。

<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>

【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12

この記事の関連ニュース