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2024上半期もっともブレイクした23歳女優はなぜ“逸材”なのか。ブレイク前夜に対面した筆者が読み解く

女子SPA! 2024年7月4日 15時45分

 昭和・平成・令和、たぶんどの時代でも通用する才能である。阿部サダヲ主演ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS、2024年)に出演した河合優実を見て、多くの視聴者がそう思ったのではないだろうか?

 2024年6月28日に発表されたORICON NEWSの『2024年 上半期ブレイク俳優ランキング(女性編)』では堂々の一位を獲得。『不適切にも~』出演がきっけで“大ブレイク”という認識が広くあるけれど、彼女の普遍的な魅力は、映画俳優としての佇まいにこそ、より強烈に、鮮烈に宿っていると思う。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、実際に目の前にしたエピソードなどを交えながら、河合優実の逸材ぶりを解説する。

◆映画史に接続された山中瑶子監督

 山中瑶子監督の最新作『ナミビアの砂漠』が2024年5月25日(現地時間)、第77回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した。これが紛れもない快挙だと日本のメディアで報じられても、アカデミー賞などに比べていまいちピンとこないかもしれない。国際映画批評家連盟賞は、コンペティション部門とは別に独立した部門。

 華やかなカンヌ本賞に比べたら、地味と言われたら地味。本賞より同賞に注目する人はよっぽどの映画好きかもしれない。過去には日本人監督の作品として、青山真治監督の『EUREKA』(2000年)やアカデミー作品賞にもノミネートされて話題になった濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021年)が受賞している。

 青山真治監督は、2000年代以降の映画界はその名を置いては語れないくらいの存在なのだが、そんな映画史の文脈に山中監督が今回接続されたことが、ほんとうにすごいことなのだ。

◆主演俳優は河合優実

 山中監督の受賞はさらに日本大学芸術学部の在学生、卒業生にとっては特別嬉しいことでもある。山中監督もまた所謂、日芸生だったからだ。卒業生である筆者にとっては、映画学科監督コースの後輩にあたる。休学中の彼女が初めて長編を監督した『あみこ』(2017年)の話題は今でも語り種だ。

 でも単に後輩が受賞したから嬉しいのではない。『ナミビアの砂漠』の主演が河合優実だからでもある。実は河合とはちょっとした縁がある。筆者の同期生だった嵐あゆみ監督が、日芸卒業後に進学した東京藝術大学大学院の修了作品として監督した『透明の国』(2020年)の主演俳優が、河合優実その人だったのだ(しかも同作の指導教員は、青山監督の大学の先輩である黒沢清監督!)。

 公式には『透明の国』が映画初主演作品になるのかな? そんなつながりで、筆者は一度、河合に挨拶する機会を得た。渋谷のユーロスペースで行われた上映会のあと、ロビーで監督から紹介してもらった。第一印象は可憐。ひと目見てわかる。あぁ、この人は例えば、大瀧詠一の楽曲に描かれるように鮮やかな可憐さの持ち主だと。

◆映画に愛される人

 確か、一言か二言、話しただけだった気がするが、その可憐さと映画的な佇まいにすっかり魅了されてしまった。イケメン研究を生業にしている筆者だけれど、このときばかりは目の前にいる河合優実という存在しか目に入らない。

 唾をつけると言ってはなんだけれど、彼女のその後の活躍に豊かな期待を抱いた。思った通り、それ以降の河合優実の大躍進ぶりはすさまじい。『サマーフィルムにのって』(2021年)出演を機に、話題作に次から次へ。

 伊藤健太郎の復帰作として阪本順治監督が用意した『冬薔薇』(2022年)や『ひとりぼっちじゃない』(2023年)では、一見可憐さとは正反対に見えて、その実、底から身震いするほどの純度を誇っていたと思う。心底映画に愛される人。それが河合優実の美点であり、比類なき才能だろう。

◆普遍的な魅力の持ち主

 そんな清濁を神秘的にたたえた彼女が、さらにグッと話題を集めるのが、宮藤官九郎による脚本で、昭和、平成、令和を鋭く批評したドラマ『不適切にもほどがある!』である。同作で河合が演じたのが、1980年代から令和にタイムトラベルする主人公の体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)の娘・小川純子。

 元祖スケバン映画『女番長ブルース 牝蜂の逆襲』(1971年)みたいな雰囲気をストレートにまとって気概十分。不適切な暴言吐きまくりのキャラクターだが、やはり河合が演じるからには可憐さも持ち合わせる。無敵なほどに視聴者の心をくすぐる人物像だった。

 映画だけでなくテレビドラマでもここまでの存在感を発揮出来る。中森明菜風のヘアスタイルは、ネット上で「令和の山口百恵」と評された。確かに似てる。河合自身は当然令和世代だけれど、レトロな雰囲気でもある。昭和・平成・令和関係なく普遍的な魅力の持ち主なのだ。

◆手練れのケレン味を醸す

 というわけで、もうとにかく引っ張りだこ。映画もドラマもあっちこっち、河合優実のクレジットが飛び交う。ちょっとしたバブルなんじゃないかと思うくらい。

『ナミビアの砂漠』は、2024年9月6日から劇場公開される。6月7日に公開された入江悠監督の『あんのこと』でも主演。10月公開の『八犬伝』への出演も発表されたばかり。それから同じ鈍牛倶楽部所属の坂東龍汰との共演ドラマ『RoOT / ルート』(テレビ東京、2024年)が、テレビ東京深夜枠だからこその滋味深さ。

 これがかなり面白かった。第1話、探偵事務所の新人・佐藤(坂東龍汰)が自動販売機から飲み物を取り出そうとする。そこへ調査員・鈴木玲奈(河合優実)がやってきて、後ろから小突いて、「ちょっと、あんたどこで油売ってんの?」と涼し気な表情で初登場。

「油売ってんの?」なんてさらりと言ってのける俳優がいったい今、何人いるだろうか? 何とも脱力した顔して一息に台詞を発するのもいい。すごいのワンショットに快くゾクッとした。畳み掛けるように出演作品を重ねた河合がすでに手練れのケレン味を醸す。

 渋谷で会った夜はどんな表情だったっけ? もう一度反芻しながら、ほんとうにすごい逸材が出てきたなぁと思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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