人と関わる仕事をしていたら避けては通れない「クレーム対応」。時には対応に困ってしまうようなあり得ないクレームもあるでしょう。今回は保護者からのクレーム対応に頭を悩ませたという小学校教諭に話を聞きました。
神奈川県在住の小学校教諭・由美さん(仮名・37歳)は、昨年初めて3年生の担任を請け負うことになりました。これまでは高学年を受け持つことが多かったため、初めて3年生の担任をさせてもらい、子どもたちがとても可愛く感じると話していました。
◆通知表作成は教員の大仕事
「新しいクラスでは、生徒をまとめるのに多少の苦戦はあったものの、無事1学期の終わりが近づき、教員の大仕事と言っても過言ではない、通知表作成の時期がやってきました。私が勤める小学校の通知表は、絶対評価でABCを付けることになっています。
テストの点数や、宿題の提出率、授業態度などさまざまな項目を加味して成績をつけているのですが、この通知表が保護者からのクレームの始まりでした」
そう語ってくれた由美さんでしたが、実際に通知表の付け方に疑問を持って連絡が来るケースもまれにあるようで、保護者の方にはなぜこの評価になったのかしっかり説明して納得してもらったことも過去には何度かあるそうです。
◆通知表を配り終えた日、保護者が怒りで来校
「通知表を配布した日、クラスの生徒の、小林くん(仮名)の保護者が学校に来ました。職員室に入ってくるなりとても怒った様子で、『由美先生、うちの子は頭が良いのになぜこの成績なんですか? 納得いかないです』というので、テストの点数以外にも評価の基準があることをお伝えしました」
しかし、保護者の方は「毎回テストは100点なのに、Aが付かないのはおかしい、通知表を直してほしい」と食い下がってきたそう。
「『小林くんは確かにテストの点数は良いと思います。ですが、宿題はほとんどやってきていないですし、授業中は教科書も出さずに違うことをしていて、何度も注意をしているんです。テストの成績は資料の一部で、他の項目も総合して成績を出します。ですからテストが良いからといって必ずAが付くわけではないんです』と話しました」
保護者は不満そうではあったものの、ひとまずこの場では納得し、帰っていったといいます。しかし……。
◆「うちの子に宿題は出すな!」その心理は?
「後日、また小林君の保護者から学校に電話が来て、『塾の宿題で忙しいから、うちの子には宿題を出さないでほしい。今学校でやっている範囲は全教科が塾で終わっているから大丈夫なんです』と言われました」
塾に行っていて忙しい子は他にもいるのですが、このようなことを言われたのは初めてで、とても驚いたという由美さん。小林君は中学受験をするようで、学校の授業中にもよく塾の宿題をやっていて、何度か注意したこともあったといいます。
「保護者にも『学校では学校授業を受けてください』と伝えたのですが、『今やっている内容は簡単すぎるので、受験のためにできることをしたい』と言われました。何度話しても分かってもらえず、お怒りのまま電話をガチャッと切られてしまったんです。
数日後、小林君の保護者から校長先生宛に電話がきたようで『息子と合わないから担任を変えてほしい』と言われたようでした。結局電話では話にならず、保護者の方は終始お怒りの様子だったため、別日に校長先生を含め、面談することになりました」
◆異例の4者面談
そして、面談当日。
「放課後、小林君と保護者がやってきました。最初に口を開くなり、『そもそも、うちの子が中学受験に落ちたら責任が取れるのでしょうか?』と言われ、自分の子どもさえよければそれでいいという考えなんだと思ってしまいました」
続けて保護者は「先生はうちの子をよく見てくれないですし、うちの子が嫌いなんじゃないですか?」と畳み掛けてきたそう。
「もちろんそんなはずはなく、お友達に優しい一面も良く知っていますし、通知表は全ての資料をもとに付けているのでそういったことも伝えましたが、なんだか話がどんどんズレて、大事になっていったんです」
◆保護者のクレームがどんどんエスカレート
最初に通知表でのクレームがあってから、なんだか話がとても大きくなっている気がして、怖くなったと由美さんは語ってくれました。
「校長先生は小林君に、『小林君は、たくさん勉強していてとても偉いね、だけど学校では塾の勉強とはまた違う学ぶことがたくさんある。友達と一緒に意見を出し合って授業に参加したり、自分の意見をみんなの前で発表したり、クラスに参加するということも、小林君のためになることなんだよ』と伝えていました。
私は本当にその通りだと思うと同時に、小林君はお友達とも仲良くできる子なので、周りと馴染めないわけでもないため、塾の宿題を学校でやるように親に言われているのではないかと思っていたんです」
◆その場を収めた子どもの言葉
そこで由美さんは、小林君に「学校の宿題が多くて大変?」と聞いてみました。すると小林君は「学校の宿題は量が多いわけじゃないし、大変じゃないです。でもお母さんに学校の宿題はやらなくていいから、塾の宿題をするようにって言われているから、塾の宿題が終わらなくてできないんです」と話したのです。
「通知表の付け方に関しても、授業に参加すること、宿題を提出することもテストと同じくらい大切だと小林君本人に話すと、「これからはちゃんと頑張ります」と言ってもらえました。保護者の方は子ども本人の言葉を聞き、それ以上口を開かなくなり、なんとかその場を収めることができました」
保護者が学校に思うところはさまざまあるとは思いますが、まずは親子でのコミュニケーションも大切だと感じさせてくれるエピソードですね。
<文・取材/鈴木風香 イラスト/ズズズ@zzz_illust>
【鈴木風香】
フリーライター・記者。ファッション・美容の専門学校を卒業後、アパレル企業にて勤務。息子2人の出産を経てライターとして活動を開始。ママ目線での情報をお届け。Instagram:@yuyz.mama
神奈川県在住の小学校教諭・由美さん(仮名・37歳)は、昨年初めて3年生の担任を請け負うことになりました。これまでは高学年を受け持つことが多かったため、初めて3年生の担任をさせてもらい、子どもたちがとても可愛く感じると話していました。
◆通知表作成は教員の大仕事
「新しいクラスでは、生徒をまとめるのに多少の苦戦はあったものの、無事1学期の終わりが近づき、教員の大仕事と言っても過言ではない、通知表作成の時期がやってきました。私が勤める小学校の通知表は、絶対評価でABCを付けることになっています。
テストの点数や、宿題の提出率、授業態度などさまざまな項目を加味して成績をつけているのですが、この通知表が保護者からのクレームの始まりでした」
そう語ってくれた由美さんでしたが、実際に通知表の付け方に疑問を持って連絡が来るケースもまれにあるようで、保護者の方にはなぜこの評価になったのかしっかり説明して納得してもらったことも過去には何度かあるそうです。
◆通知表を配り終えた日、保護者が怒りで来校
「通知表を配布した日、クラスの生徒の、小林くん(仮名)の保護者が学校に来ました。職員室に入ってくるなりとても怒った様子で、『由美先生、うちの子は頭が良いのになぜこの成績なんですか? 納得いかないです』というので、テストの点数以外にも評価の基準があることをお伝えしました」
しかし、保護者の方は「毎回テストは100点なのに、Aが付かないのはおかしい、通知表を直してほしい」と食い下がってきたそう。
「『小林くんは確かにテストの点数は良いと思います。ですが、宿題はほとんどやってきていないですし、授業中は教科書も出さずに違うことをしていて、何度も注意をしているんです。テストの成績は資料の一部で、他の項目も総合して成績を出します。ですからテストが良いからといって必ずAが付くわけではないんです』と話しました」
保護者は不満そうではあったものの、ひとまずこの場では納得し、帰っていったといいます。しかし……。
◆「うちの子に宿題は出すな!」その心理は?
「後日、また小林君の保護者から学校に電話が来て、『塾の宿題で忙しいから、うちの子には宿題を出さないでほしい。今学校でやっている範囲は全教科が塾で終わっているから大丈夫なんです』と言われました」
塾に行っていて忙しい子は他にもいるのですが、このようなことを言われたのは初めてで、とても驚いたという由美さん。小林君は中学受験をするようで、学校の授業中にもよく塾の宿題をやっていて、何度か注意したこともあったといいます。
「保護者にも『学校では学校授業を受けてください』と伝えたのですが、『今やっている内容は簡単すぎるので、受験のためにできることをしたい』と言われました。何度話しても分かってもらえず、お怒りのまま電話をガチャッと切られてしまったんです。
数日後、小林君の保護者から校長先生宛に電話がきたようで『息子と合わないから担任を変えてほしい』と言われたようでした。結局電話では話にならず、保護者の方は終始お怒りの様子だったため、別日に校長先生を含め、面談することになりました」
◆異例の4者面談
そして、面談当日。
「放課後、小林君と保護者がやってきました。最初に口を開くなり、『そもそも、うちの子が中学受験に落ちたら責任が取れるのでしょうか?』と言われ、自分の子どもさえよければそれでいいという考えなんだと思ってしまいました」
続けて保護者は「先生はうちの子をよく見てくれないですし、うちの子が嫌いなんじゃないですか?」と畳み掛けてきたそう。
「もちろんそんなはずはなく、お友達に優しい一面も良く知っていますし、通知表は全ての資料をもとに付けているのでそういったことも伝えましたが、なんだか話がどんどんズレて、大事になっていったんです」
◆保護者のクレームがどんどんエスカレート
最初に通知表でのクレームがあってから、なんだか話がとても大きくなっている気がして、怖くなったと由美さんは語ってくれました。
「校長先生は小林君に、『小林君は、たくさん勉強していてとても偉いね、だけど学校では塾の勉強とはまた違う学ぶことがたくさんある。友達と一緒に意見を出し合って授業に参加したり、自分の意見をみんなの前で発表したり、クラスに参加するということも、小林君のためになることなんだよ』と伝えていました。
私は本当にその通りだと思うと同時に、小林君はお友達とも仲良くできる子なので、周りと馴染めないわけでもないため、塾の宿題を学校でやるように親に言われているのではないかと思っていたんです」
◆その場を収めた子どもの言葉
そこで由美さんは、小林君に「学校の宿題が多くて大変?」と聞いてみました。すると小林君は「学校の宿題は量が多いわけじゃないし、大変じゃないです。でもお母さんに学校の宿題はやらなくていいから、塾の宿題をするようにって言われているから、塾の宿題が終わらなくてできないんです」と話したのです。
「通知表の付け方に関しても、授業に参加すること、宿題を提出することもテストと同じくらい大切だと小林君本人に話すと、「これからはちゃんと頑張ります」と言ってもらえました。保護者の方は子ども本人の言葉を聞き、それ以上口を開かなくなり、なんとかその場を収めることができました」
保護者が学校に思うところはさまざまあるとは思いますが、まずは親子でのコミュニケーションも大切だと感じさせてくれるエピソードですね。
<文・取材/鈴木風香 イラスト/ズズズ@zzz_illust>
【鈴木風香】
フリーライター・記者。ファッション・美容の専門学校を卒業後、アパレル企業にて勤務。息子2人の出産を経てライターとして活動を開始。ママ目線での情報をお届け。Instagram:@yuyz.mama