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“亡くなった家族の姿”を3Dフィギュア化、なぜ…?製作者を取材「最初はお断りしていたんです」

女子SPA! 2024年7月4日 15時46分

 遺影をもとに3Dプリンターで故人の姿を立体的に表す「遺人形(遺フィギュア)」。大切な人を亡くした人々が、死後も故人の存在をを身近に感じられるよう、在りし日の姿を精巧に再現する遺人形を迎えているのだそうです。

 この遺人形はなぜ誕生し、遺された人々のどんな思いが込められているのでしょうか。

 今回は同製品を製造するロイスエンタテインメントの廣瀬勇一社長、そして山岡未弥さん、三島実那子さんに、サービスを提供する立場からお話を聞きました。

◆故人の存在をより身近に感じられる「遺人形」

──遺人形とはどのようなものですか?

山岡:遺人形は、最新の3D技術とフルカラー3Dプリンターを使い、ご依頼者様からご提供の遺影をもとに作られます。材質はフルカラー樹脂(プラスチック)で、サイズは高さ20~30cmまで製作可能です。

製造過程としては、デザイナーがお写真を元に作った3Dデータをお客様が確認し、承認をいただいたデータで3Dプリンターを使ってフィギュアを成形・着色、納品といった流れです。3Dデータをご確認いただく段階で修正を依頼いただくことも可能で、修正回数によって料金や完成期間も異なりますが、20センチのサイズであれば17万8000円(税抜)で、2か月程度かかる場合が多いです。

──利用者は主にどんな方なのでしょうか?

山岡:お葬式を控えてご遺影を準備される際に、周囲やインターネットなどの情報を通じてこちらのサービスを知ったというご遺族が多いです。写真だけだと寂しく思う方々が、故人の存在をより身近に感じられる遺人形に意義を見出されるようです。

ほかにも、四十九日などの節目を迎えられた時期に、改めて「会いたい」という思いを募らせて遺人形を作り、ご親族に披露されるケースもあります。

◆遺族の依頼がきっかけ

──なかには「終活」の一環として、ご自身が注文するケースもあるのでしょうか?

山岡:「家族に遺したい」という目的でご注文される方がたまにいらっしゃいますね。タキシードやドレスなどをお召しになった姿を遺そうとする方は意外に少なく、普段着のままをご希望される場合が多いです。

──そもそもこのサービスは、どのようにして始まったのでしょうか。

山岡:弊社は2013年に創業した3Dデザイン会社で、キャラクターフィギュアやプロダクト模型を、3Dソフトでデザインして3Dデータ化し、造形しています。

その中で人物フィギュアの製作も行っており、ご本人の身体をスキャンして取ったデータを元に出力し、立体化するサービスも提供しているのですが、そこから派生するかたちで「亡くなった人のフィギュア製作を依頼したい」というお客様の声をいただいて……というのがそもそもの始まりでした。

◆故人を立体化する難しさに「最初はお断りしていた」

──ではもともとは御社発信のサービスではなく、お客さんの要望に応えて作ったという経緯だったのですね。

山岡:実はそうなんです。

廣瀬社長:正直に言うと、最初はご依頼をいただいてもお断りしていて……。というのも、故人を立体化するにあたり、技術的なハードルがさまざまあるためです。まず、ご存命の方のフィギュアを作るにはご本人の身体をスキャンしてデータを取るのが基本的な製作過程ですが、故人の場合それができないので、お写真を元に作ることになります。

ご遺族から借りたお写真を元に作ることもできますが、撮られた時期や表情もバラバラだったりするので、正確なデータを取るのが難しいだろうということは、サービスを始める前から懸念していたので、気軽には始められませんでした。

しかし、「どうしてもお願いしたい」と熱量の高いご要望に押されるかたちで始めると、多くの方が喜んでくださったので、続けて今に至っています。こちらも可能な限り故人の在りし日に近いかたちで仕上げたいので、「できるだけさまざまな角度から撮影した複数枚の写真をご用意いただく」「正面のお顔が映った写真は必須」「手振れやピンボケが無いお写真で」などの注意事項を事前にご案内したり、3Dデータの段階でご確認いただくようにしています。

◆「こんな顔じゃない」と言われることも

──実際にサービスを行ってみて分かったこととして、どんなことがありますか?

廣瀬社長:人間は亡くなった方をイメージで捉えていて、正確な見た目を覚えていないケースが多いということですね。遺された人の記憶にある故人の姿と実際のギャップがあることもしばしばで……。「こんなんじゃない」と言われても、こちらはご提供いただいたお写真のとおりに作っているので、困っちゃうんです(笑)。

そういう意味で遺人形は、実際の見た目よりも、ご依頼者様のイメージに近いかたちに仕上げることが優先されるものなので、製作段階でしっかりとヒアリングすることが大切ですし、3Dデータの段階でご依頼を受けて何度も修正することもあります。そういった場合、長くて3~4か月かかりますね。

──キャラクターや存命の人物フィギュアよりも技術的なハードルが高いうえに、依頼者も特別な思いを抱いているぶん難しさがあるのですね。ビジネスとしてのメリットはいかがなのでしょうか。

廣瀬社長:正直、商売としてはかなり厳しいものがあって、ある意味では利益度外視で続けているサービスと言えます。

◆“ビジネス的にはNG”でも続けているワケ

──そのような事情があるなか続けているのには、どんな理由があるのでしょうか。

廣瀬社長:技術的にも難しいですし、いろいろなコストがかかるので販売価格も決して安くはない遺人形ですが、それでも「作ってほしい」というご依頼者の気持ちを考えると、やっぱり大切な人がこの世を去ったということをまだまだ消化できていない方が多いのではないかと思います。だからビジネス的にはNGだけど、こういうサービスがあってもいいんじゃないかなというのが、続けているひとつの理由ですね。

それから、実際にお客様とやり取りをしている担当者のふたりが一番難しさを肌で実感しているはずなのですが、これまで「辞めたい」と申しだされたことはなくて。

三島:お問い合わせしてくださる方も、大切な人が亡くなってつらい思いをしてる中で、少しでも何かを心の支えにしたいというお客様が多いんです。ご依頼時やヒアリングの際にお電話をすると、つらい胸の内をお話をされる方もいらっしゃいます。

山岡:3Dデザイナーが多数いる弊社の特徴は、リアルな造形で仕上げられるクオリティですので、これまでフィギュア製作で培ってきた技術をもって、お客様の要望に可能な限りは対応したいというのが私の思いです。でき上がった遺人形を受け取ったお客様からは「立体物ならではの存在感があって、まるで故人が帰ってきたようだ」というお言葉もいただいています。

◆「料理人だからお玉を持たせたい」など依頼内容もさまざま

──技術力で、遺された方の心の支えになっているのが遺人形のサービスということですね。依頼者の思いに応えるべく、料金を追加すれば生前の故人をイメージさせる付属品も製作するなどオプションサービスなども行っていらっしゃるそうですが、これまで印象的だった注文などはありますか?

山岡:「亡くなった親御さんが大切にしていた愛犬のフィギュアも一緒に添えたい」や、「料理人の故人の遺人形にお玉を持たせたい」「釣り好きな夫だったので、大きい鯛のフィギュアを持たせてあげたい」などのご要望をいただいたことがあります。やはり、故人にまつわる思い出を想起させるものが多いですね。

それから、なかには等身大サイズの遺人形のご注文も、過去に2件ほど承りました。ただ、大きさも相当な上にコストも数百万円かかってしまうので、ご家族からは反対の声もあったそうです。

廣瀬社長:先ほども申しあげたとおり、ご依頼をいただいたことで始まったこの遺人形ですので、サービス自体もお客様の声に対応するかたちで拡充しています。弊社の3Dデザイン・造型の技術もこれからさらに進化していきますので、あくまでこちらが可能な範囲で皆さんの思いにお応えできればと思います。

──今後技術がもっと進歩すれば、さらに安価で遺人形を制作することや、自宅で遺人形を作ることも可能になるのでしょうか?

廣瀬社長:3Dプリンターの技術は日進月歩の勢いで進化しておりますので、恐らく今後技術がさらに進歩すればコストダウンも可能ではないでしょうか。とはいえ、遺人形サイズを出力できる大きな3Dフルカラープリンターは業務用がほとんど。なので、ご自宅で取り扱うことはまだまだ難しいでしょうね。

<取材・文/菅原史稀>

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