Infoseek 楽天

池上季実子、65歳。コロナで死の淵をさまよって変化したこと「もう終わってしまうかもしれないと…」

女子SPA! 2024年7月4日 8時45分

 芸能活動50周年を迎えた、俳優の池上季実子さん(65歳)。現在公開中の映画『風の奏の君へ』では髪の毛の色を6回も脱色して初の老け役に挑戦するなど、映画・舞台と精力的に活動しています。

 インスタグラムなどSNSも積極的に使い、日々明るく過ごしている池上さんですが、2022年にコロナウイルスに感染し倒れた際、生死の境をさまよったそうです。しかしその体験が、俳優・池上季実子を変えたと言います。お話を聞きました。

◆確立された池上季実子像を変えたかった

――本作、『風の奏の君へ』のオファーは、いつ頃だったのでしょうか?

池上:オファーが来たのは、2019年でした。ただ、今回の映画のお話が来るまでは、自分はどうなのかなと思っていました。

それまで二枚目路線と言いますか、ある意味で演じる役に偏りがあって。それはそれでありがたく、それで確立された池上季実子像があることもわかっていたので感謝はしていたのですが、一方で、役者なのでいろいろな役を演じたいとも思っていたんです。なので今回おばあちゃん役、二つ返事でした。

――物語の中心となる兄弟の祖母役は、どのように演じたのですか?

池上:シャキッとしたおばあちゃんではなく、足も悪くて座るのも一苦労なおばあさんがいいなというイメージが、まずありました。孫がおばあちゃんを心配して帰って来ている家、田舎にありそうな感じです。

◆リアルな白髪のため、髪の毛を6回も脱色

――髪の毛の色も何度も抜いたそうで、見た目もガラリと変りましたね。

池上:白く染めただけでは、大きな画面に映ると分かってしまいますからね。リアルにしたかった。まず西麻布の美容院に行きましたが、そこでは2回やりましたが、あまりやってくれなかったんです(笑)。

それで知り合いの藤沢の美容院に行って、3回目。もともとがすごく黒い髪の毛なので、茶色や黄色になっちゃうんですね。でも白くならなきゃ意味がないと、4回、5回、合計6回やりました。それでもミルクティーみたいな色が残ったので、ロケ地の岡山に行って撮影までの3日間もナチュラルに馴染ませて、それから撮影しました。

――雄大な岡山の自然を背景に、恋愛などさざまなテーマで語られる物語でしたが、完成した映画を観てどうでしたか?

池上:人間の心の襞(ひだ)、特に若い3人の青春の心の襞(ひだ)をはじめ、日本の今の置かれている過疎化の問題、昔からあったお茶の伝統、そういうわたしたちが普段忘れがちなものをさりげなく伝えている映画で、わたしはすごく好きでした。そこへ松下奈緒さんが奏でるピアノが、おしゃれにミックスしている。地味ではありますが、さりげなくテーマがつまっている作品ですので、一度ご覧になってほしいです。

◆病床では「これで終わってしまうかも……」と思いを巡らせていた

――デビュー50周年を迎え、SNSなどを見ていてもポジティブに日々を過ごされている印象ですが、その原動力はどこから湧いてくるのでしょうか?

池上:自分でも元気な人間だと思っていたので、まさかコロナで倒れて“お花畑”を見ることになるとは思っていなかったわけです。ただそうなると、人間いつ死ぬか分からないから、無駄な時間は嫌だなと思うようになるんです。

それまで以上に好きな人に会い、食べたいものを食べ、大好きな仕事、芝居をいっぱいしたいと思うようになる。単純な理由です。もともとそういう性格でしたけれど、余計にそれが強くなりました。

――2022年にコロナになり生死の境をさまよったと話題になりましたが、病気で落ち込まず、反対にもっと気力が出てきたわけですね。

池上:病院でひとりでいると、だんだん頑なになってくるんですね。テレビでは新しいドラマがたくさん放送されるので、自分はずっと病室にいると置いて行かれた感じになってしまう。長らく芝居をやっていたけれど、これでもう自分は終わってしまうかもしれないと。何のために自分は芝居をやってきたのかと思うんですよね。

ベッドの上で、本当にいろいろと想うわけです。自分の青春時代、遊びたいけれど遊ばなかったですし、子どもできて子どもを育て、母子家庭で頑張ってきたこと。寝る間も惜しんでやってきた仕事だって。

◆一期一会という言葉の意味が、前よりも深くなった

――人と会うことが難しい、孤独感が増した時期でもありましたね。

池上:仕方がないんですよね。生きている人で回っていく世界だから。でも自分が外に出ていく、仕事をしていたという感覚がないくらい、止まっていた感じがあったんです。そこへ、撮影がコロナで止まっていたこの映画の話が再び来たのですが、「季実子さんどうしますか?」と聞かれたときに、ダムの決壊みたいにバーッ!と感情があふれ出したんです。

知らない間に自分がフタをしていたのか閉じていたのか、その言葉ひとつで「やります!」と決めました。それで治療も進んだような気がするんです。人間は目標があるとアドレナリンが出るもので、わたしの先輩にもいましたよ。現場で胃痙攣を起こしたけれど、本番になったら治っちゃった方が。役者はこういう異常なアドレナリンが出るものなのですが、それに近いと思う。

――もしかすると50年前のデビュー当時より、今のほうが仕事は楽しいのではないでしょうか?

池上:そうかもしれないです(笑)。楽しい感覚は同じですが、何か違うところはある。今「ここにわたしはいる!」みたいな感覚があるかな。あの時わたしが死んでいたら、今ここにはいないんだ、みたいな、そういう想いはあります。

一期一会という言葉の意味が、前よりも深くなったとは思います。もしも2022年に死んでいたら、今こうしてわたしたちも会えていなかったわけですよね。せっかく会ったんだから、これはきっと意味があるって思うようになりました。

――つらい経験も意味があったと受け止められることは大切なんですね。

池上:わたし、こんなにおしゃべりじゃなかったんですよ(笑)。プライベートではしゃべるけれど、取材の人に対してしゃべるタイプじゃなかったんです。でも退院してから、誰とでもしゃべるようになった。しゃべり急いでいるような感じかな(笑)。生きているうちに、これを言っておきたい、あれを伝えておきたいと、すごいしゃべっている気がします。「お願い、わたしの話を聞いておいて!」みたいな感じかな(笑)。

<文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>

【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。

この記事の関連ニュース