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「長生きする猫の特徴」が最新研究で解明…マタタビには“意外なメリット”が明らかに

女子SPA! 2024年7月15日 8時45分

 今、日本は空前の猫ブームだ。近年では犬の飼育頭数を猫が上回り、その数なんと900万頭超(※)。人々を魅了してやまない猫の魅力とは何なのか、獣医師で研究者の獣医にゃんとす先生に語ってもらった。

(※2023年時点。一般社団法人日本ペットフード協会調査より)

<本記事は、『別冊SPA!猫が好きにもほどがある』より一部抜粋し、再編集しています。>

◆かつては犬派だったにゃんとす先生

 猫の飼い主向けの情報を発信し、SNSのフォロワー数が計13万人を超える獣医にゃんとす先生。猫好きを自任し、猫にまつわる書籍も出しているにゃんとす先生だが、以前は断然犬派だったとか。きっかけは捨て猫だった愛猫・にゃんちゃんとの出会いだったそう。

「獣医学科2年生のとき、ある先輩が大学構内に捨てられていたのを保護したのが、生まれて間もないにゃんちゃんでした。飼い主募集の一斉メールが届き、長年猫を飼ってみたいと思っていたのですぐさま挙手。

 2週間ほど先輩が面倒を見てくれている間に、必要なアイテムを揃えてからお迎えしました。数時間ごとにミルクをあげなくてはいけないので、授業やバイトとの両立が大変で。バイトの昼休憩で急いで帰宅して、自分の昼食は返上して20分でミルクをあげてまたバイトへ……といった生活をしていました」

 今は12歳の立派なシニア猫に成長したにゃんちゃん。にゃんとす先生を魅了するのは時折見せる素顔だとか。

「犬の『大好き!』とグイグイくる感じもいいのですが、猫と暮らしはじめたら程よい距離感と、僕にだけ見せてくれる甘えん坊でわがままなところにやられてしまいました(笑)」

◆にゃんちゃんの忘れられないエピソード

 そんなにゃんちゃんの忘れられないエピソードがあるそう。

「研究者になる前は、在籍していた病院で僕がにゃんちゃんの健康チェックをしていたんです。診察中はものすごくお利口で、看護師さんたちに褒められるほどでした。今の研究所に移ってからは、僕が診察できる環境ではなくなったので普通に患者として動物病院に連れていきました。

 すると、診察室内から今まで聞いたことがないような叫び声がギャ~ッと聞こえてきて。『そっか、今までは僕が診察していたから大丈夫だったんだね』『まだ知らない面があったんだな』と。ごめんよ、と思いながら、いとおしさも増した出来事でした」

◆不治の病に苦しむ犬猫たちを救いたい

 現在にゃんとす先生は「不治の病で苦しむ犬や猫を救う」という夢のため、とある研究所で研究に取り組んでいる。

「あらゆる動物のがんなどの難治性疾患のメカニズムについて研究しています。犬猫の薬は人間用の薬を流用するのが通常なので、新薬などの導入にどうしても時間がかかってしまうのがネックなんです。

 もちろん安全性は担保したうえではありますが、人間よりも動物のほうが治験を行うハードルが低いので、新しい治療を先に動物でできたらと考えています。動物での臨床結果をもとに人間の治療に応用するほうが効率的ですし、なすすべなく命を落としてしまう動物も減らせるんじゃないかと思うんです」

 海外ではすでにそういった事例もあるという。

「アメリカではヒトの小児がんに対する新しい治療法を、犬の骨肉腫で臨床試験を行うというプロジェクトが進んでいます。日本でもこういった事例をつくれたら、病気に苦しむ人間も犬猫も新薬をもっと試せるようになるはずです」

◆発信し続けることで研究を知ってもらうきっかけに

 研究で忙しい中、発信を続けるのには理由がある。

「夜間救急で働いていたころ、猫にとっては猛毒のユリを食べて運ばれてきたり、異物を誤食した猫の開腹手術をしたりしていました。知識さえあれば防げる事故や病気で、助かるはずの命が助からないケースを目の当たりにして、’19年頃からXで発信を始めました」

 さらに、その発信力を本業の研究に役立てたいという思いもあるのだとか。

「愛玩動物である犬猫の病気の研究には、どうしても国から予算が下りづらい現状があり、僕ら獣医学研究者にとって大きな課題となっています。最近はクラウドファンディングで研究支援を募るケースが増えているので、このアカウントを通して自分の研究を知ってもらうきっかけになればと。

 国全体としての優先度は低くても、飼い主さんにとってペットは家族も同然。将来的には飼い主さんたちと一緒に研究を進めていけたらいいですね」

◆愛猫に長生きしてもらう秘訣とは

 にゃんとす先生いわく、猫に長生きしてもらう秘訣は「猫の幸福度を高めること」だという。

「幸福度を高めるには、本能を満たしてあげることが大切です。おすすめは、食事に遊びを取り入れること。狩猟本能を駆り立て、ストレス軽減や認知症予防に効果があるのではと考えられています。にゃんちゃんは製氷皿にフードを一粒ずつ入れて、前足で取り出して食べる遊びがお気に入りです」

 また、マタタビに関する非常に興味深い最新研究があるという。

「マタタビの依存性などを心配する声も多かったのですが、昨年、岩手大の宮崎雅雄教授らの研究チームが、マタタビの安全性を世界で初めて明らかにしました。また、マタタビの幸福感の正体であるネペタラクトールには、蚊を寄せ付けない効果があることも判明し、感染症から身を守っていた説が浮上しています」

◆「猫ブーム」に抱く複雑な思い

 近年の空前の猫ブームには、にゃんとす先生も複雑な思いを抱いているそう。

「猫業界が盛り上がることは喜ばしいのですが、多くの企業が猫に関する商品の開発や販売に参入する流れが生まれており、その中には獣医師の視点から『ちょっと良くないなぁ』と思う商品もあるのが正直なところです。

 見極めは難しいので、引き続き正しい知識の発信をしていけたらと考えています。猫のために良いものを作ろうとしている企業さんとの取り組みなども進めて、本当の意味で猫に優しい製品を増やしたいです。ブームによるこの猫への熱量が保護猫や殺処分問題などにも向かうと良いですね!」

「不治の病で苦しむ犬猫を救いたい」。ニャンとも壮大な夢を実現するために、日々にゃんとす先生の研鑽は続く。

【獣医師・研究者 獣医にゃんとす先生】

国立大学獣医学科を卒業後、臨床経験を重ね、獣医学博士号を取得。現在はとある研究所で難治性疾患の基礎研究に従事。猫情報を発信するXアカウント:@nyantostos

<取材・文/姫野桂>

【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei

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