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有村架純演じる“彼女”の衝撃の過去とは?絶望的な涙が止まらないドラマ『海のはじまり』

女子SPA! 2024年7月15日 15時46分

「彼女さんが一番巻き込み事故って感じよね」(朱音〈大竹しのぶ〉)

彼女さんとは弥生(有村架純)のこと。第1話を見たときやや心配だったが、有村架純さまが恋人の昔の彼女の亡霊(面影)に苦しむだけの役のわけはないのだ。

月9『海のはじまり』(フジテレビ系 月曜よる9時~)、第2話は有村演じる百瀬弥生の重い過去が明るみになる。

◆恋人の家に少女が。焦りを隠して場をやり過ごす、有村演じる

弥生が年下の恋人・月岡夏(目黒蓮)の部屋を訪ねると、少女・海(泉谷星奈)がいた。様々な可能性が弥生の頭のなかを瞬時に駆け巡ったことであろう。

でもさすが年上、焦りを隠し、「じゃああとで聞くよ」「大丈夫大丈夫」と流し、「お姉ちゃんの遊び相手してもらっていい?」と少女の自尊心をうまくくすぐり、その場をやり過ごす。

「お姉ちゃんが遊んであげる」とか「お姉ちゃんと遊ぼう」とかいう上目線ではなく「遊び相手してもらってもいい?」と下手に出るとはコミュニケーション能力がお高い。結果、(遊んでもらって)「癒やされた」と満足げな弥生。

やがて、夏から連絡をもらった祖母・朱音が迎えに来て海は帰っていく。ちなみに海のやけに感情に溢れた表現力豊かな黒めの割合の高い瞳は、大竹しのぶに似ている。隔世遺伝設定だろうか。

海が帰ったあとも詰問することなく平静な弥生に、夏は海が自分と昔の恋人で、先日亡くなった南雲水季(古川琴音)の子供であることを明かす。

◆有村架純の瞳から涙が伝って落ちるカットがとても美しかった

衝撃の事実を知らされたばかりでは混乱しているよねと思いやり、妊娠を知らされていなかったのならしょうがないと理解を示す。

年上とはいえ、弥生はこんなに包容力があっていいのか。感情を出さず、穏やかに夏の話を傾聴するばかりで、こんなふうだとどこかでストレスが溜まるのではないかと思ったけれど、そういう問題ではなくて、彼女のなかにはもっと溜めていることがあった。

会社のトイレで後輩と生理や産婦人科検診の話をする弥生。朝ドラ『虎に翼』(NHK)といい、生理をはじめとして女性特有の身体的な悩みを最近はドラマで率直に描くようになっているようだ。そのときに何か思うところがあるような表情を弥生が浮かべていた。

後日、弥生の家に夏が来て、海のことをさらに深く話す。

子供を「自分が殺した」とずっと罪悪感を抱えていたと吐露する夏。話を聞いたあと、弥生はトイレにこもって涙する。トイレの床に腰をおろせてしまうとはなんて掃除をきれいにしているのだろうか。蓋(ふた)した便座に座って泣くのだと絵にならなかったのだろうけれど。

このときのあおった有村架純の瞳から涙が伝って落ちるカットがとても美しかった。声を漏らさず必死に耐えようとしてもなお止まらない涙。

◆弥生も朱音もひっそり溜めていた悲しみがふいに溢れ出る瞬間

第2話ではもうひとつ、涙が印象的な場面がある。朱音が水希を思って涙する場面だ。遺影に向かって話しかけ、お水を取り替えようとして、水をこぼしてしまい「ごめんね」「ごめんね」と言いながら、涙が溢れ出る。溢れた水が呼び水になったように止まらなくなる。

ただ遺影を見て泣くよりも、このようなワンクッションが入るとオリジナリティも出るし、何気ないときに悲しみを思い出して泣いてしまうリアリティも出る。弥生も朱音も、こんなふうにお腹のなかにひっそり溜めていた悲しみがふいにちょっとした刺激で溢れ出る瞬間があることを実感させてくれる。

話を戻そう。弥生のトイレの涙は、このときはまだ、なぜこんなに絶望的に悲しみをたたえているのかわからない。ずっと、物わかりよく振る舞っていたけれど、やっぱり、夏に子供がいたことがショックなのかもしれないと思って視聴していたら、翌朝、弥生は引き出しのなかから花柄の手帳を取り出す。

そこに挟んであったのは、エコー写真。弥生はかつて中絶していたのだ。相手と合意のうえで、中絶費用も出してもらっていた。中絶同意書に、コップに入ったお茶の影が映っている回想場面も儚(はかな)くもの悲しい。

水子供養のお墓。一昔まえだったら、赤い前掛けをしたお地蔵さんがずらっと並んだ画になりそうなところだが、現代はロッカー式の収蔵庫。弥生はおりにつけお参りに来ているようだ。

そして、弥生はお参りしたあと、いつものようにさばさばした様子で、夏に電話をかけ、海のお母さんになることもやぶさかではないというような話をする。でも電話を切ったあとは憂い顔だ。

◆子供を生んだ水希と子供を産まなかった弥生、切ない対比

子供を生んだ水希と子供を産まなかった弥生。なんとも切ない対比である。

子供がいたことを突然知ってなかなか実感のわからない「海(パパ)がはじまらない」夏と、子供を生むことを選ばなかった弥生。

これはどちらが辛いだろうか。比べるものではないけれど、命を葬ってしまったことはどうしたって消せはしない。

第1話では夏の、水希の思いに気付けなかった後悔が胸に迫ったが、第2話では、命を葬った弥生の後悔(懺悔?)が迫りくる。『海のはじまり』は海と弥生の業の物語なのかーーとやや受け止めきれないものを感じるなか、ひとつだけ、救いがあった。

鳩サブレーである。

◆鳩サブレーの特別な思い出が夏にとっては色濃く残る

水希の実家にあった鳩サブレー。水希が好きだったお菓子と聞いて海は「夏くんも好きかなあ 夏くんにもあげようかな」と1枚とって無邪気にまた夏の家にいこうとする。

その後、夏が朱音の家を訪ねてきたとき、手土産にもってきたのが鳩サブレー缶。それを見て、いつもわりと仏頂面な朱音が思わず微笑んでしまう。

鳩サブレーは夏にとっても思い出のお菓子であった。大学時代、講義を受けながら、こっそりかじっていた水希。食べる?と聞かれて食べると答える夏。

3枚のサブレーを選んでという水希。向かって右端を選ぶと、「当たり」という。何が当たりなのか不明だが、水希が当たりと思えば当たりなのだ。

第1話に引き続いて水希は不思議ちゃん。でもこの特別な思い出が夏にとっては色濃く残って忘れられない。

◆鳩サブレーもビスコも郷愁を誘う

鳩サブレーは、萩の月と東京ばな奈と並ぶ三大銘菓としてSNSを賑わし、メーカーのサイトがサーバー落ちしてしまったくらい盛り上がった。

夏も弥生も、抱えるにはなかなか重い問題を抱えているが、鳩サブレーのさくっとした食感を思い出すと朱音と同じように笑顔になれる。

鳩サブレーも良いが、弥生が朝、食べているトーストもさくっと美味しそうでCMのようだった。パンのメーカー・フジパンがスポンサーで、綾瀬はるかや森七菜がCMでパンを美味しそうに食べていた。

そして、弥生の中絶した子の位牌の入ったロッカーには、かわいらしいおもちゃとビスコがあった。ビスコはお土産アイテムではないが、やっぱり郷愁を誘うお菓子である。

<文/木俣冬>

【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami

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