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「生後8か月で亡くなった愛娘に合う仏具が見つからない…」ガラス仏具店を開店した女性の想い

女子SPA! 2024年7月17日 8時45分

 大切な我が子を亡くす体験は、親にとっても、周囲の人にとっても耐え難くつらいものです。

 代表の住吉育代さんは、生後8ヶ月で愛娘を亡くした一人。その際に子ども用のガラス仏具を自ら制作したことがきっかけで2010年にガラス仏具専門店「Bee-S」を設立しました。

 Bee-Sのオンラインサイトには、可愛らしい色味のガラス仏具や子ども用や分骨用の小さなガラス骨壷、個性豊かなデザインの骨壷カバーなどの写真がたくさん並んでいます。本記事では、Bee-S代表の住吉さんに、自身の経験や今の活動にかける想いについて話を聞きました。

◆仏具を探すことで娘を亡くした悲しみを受け止めていった

――子ども用の仏具を販売するようになったきっかけについて教えてください。

生後8ヶ月で天国へ旅立った娘のために、子ども用ガラス仏具を制作したことが今の活動につながっています。娘は生まれつきの先天性心疾患を持っていたため、何度も入院し私がお世話していたのですが、生後8ヶ月で亡くなってしまいました。

葬儀ホールで葬儀をしたとき、同じ施設で行われていた他の葬儀は高齢で亡くなった方がほとんどで、8ヶ月の娘の葬儀を行うことに、「なんで私の娘がここにいるんだろう」と強い違和感を抱きました。家に帰ってからも、葬儀業者の方が設置してくれた白い祭壇や仏具を見て、娘の存在が“神様”仏様”のような、遠い存在になってしまったのだと感じ、悲しみが一層強くなったのを覚えています。

この違和感をなんとかしたいという思いから、白い祭壇を娘らしいピンクやお花で飾り、仏具をガラスで作ることを思いつきました。これが今の事業の始まりです。

――ご自身でガラス仏具を作り始めてから、Bee-Sとして販売しようと考えた経緯についても聞かせてください。

ガラス仏具を作り始める前、一度娘らしい仏具を探そうと仏具店に主人と伺ったことがありました。でも、そこにはいわゆる仏教の荘厳なデザインのものしかなく、娘に合うものが見つからず……。主人と一緒に「これは娘には買えないね」と帰ってきました。しかし、家に帰れば白い陶器の骨壺などがあり、早くなんとかしたいと思っていたんです。

そのとき、最初に勤めていたガラスの仕事を思い出し、同期のガラス作家に相談しました。すると「いいよ、一緒に作ろう」と言ってくれて、そこから一緒に作り始めるようになりました。高校生のときから起業することが夢だったこともあり、自分たちで作ったガラス仏具を販売してみようかなと思い、Bee-Sが誕生しました。

――娘さんらしい仏具を揃えることで、当時持っていた悲しみの受け止め方は変わりましたか。

そうですね。娘に洋服を買ってあげるような気持ちで仏具を選び、時にはガラス製品から自分で作っていました。それが結果として、私自身のグリーフケア(死別の悲しみを抱える遺族に寄り添い、立ち直るよう支援すること)になっていたのだと感じています。外に出かけたときにも娘にしてあげられることを考えるようになり、それが少しずつ私の心の支えになっていきました。

ただ、人それぞれ悲しみの受け止め方は違うと思っていて、私のように悲しみのエネルギーが外に向かう人もいれば、家で一人で涙を流し、徐々に受け止めていく人もいると思います。

◆依頼は、大切な人との思い出を反映したデザインも

――現在、Bee-Sではどのような商品を展開していますか。

 仏具や骨壷カバーなど、基本的にはセミオーダーのスタイルで、それぞれのお客さんに合わせた作品を手作りしています。一つひとつがユニークで、同じものがない点が特徴です。

最初のラインナップは、私が娘に買ってあげたいという思いから出発して、それをベースとした作品を提案していました。それに対してお客さんからの要望が増えてきて、今ではさまざまな種類の作品を作っています。

――骨壷カバーも多く展開されています。骨壷カバーに着目した理由はありますか。

仏具をお送りしたお客様からお写真をいただくことも多いのですが、写真を見ていたらかわいいものを揃えているけれど、骨壷カバーだけ空間に馴染んでいないように感じていました。ネットで骨壷カバーについて調べたところ、やはり古風なものしか見つからず。そこで、かわいい骨壷カバーを自分で試行錯誤して制作するようになりました。

――やはり骨壷も故人の存在を感じる大切なものなんですね。

我が子を亡くした方の中には、遺骨を納骨せずに自宅に置いておく親御さんや、自分が亡くなったときに一緒に納骨してほしいという親御さんが多くいます。

親の心境として、大切な我が子を感じられる遺骨を本人が会ったことがないご先祖様と一緒にお墓に入れるのは、寂しい思いをまたさせてしまうと感じることもあります。愛する我が子とずっと生涯一緒にいることを考えると、その人らしい骨壷カバーはとても大切な要素なんです。

◆当初は9割以上が子どもを亡くした親からの依頼だった

――どういった方がBee-Sの仏具を求めにいらっしゃるのでしょうか。

以前は9割がお子さんが亡くなられた方でしたが、最近は親御さんが亡くなられたお客様なども増えている印象です。弊社はペット用の商品は扱っていませんが、「ペットにも購入してもいいですか」というご連絡もいただきます。大切にされる気持ちがあれば、どなた様用のものでも構いませんとお伝えして、ご希望に合った商品をお届けしています。

――お客さんからはどんなオーダーが多いですか?

子どもの名前にちなんだ柄、生まれた季節の模様、好きなキャラクターなどに基づいたデザインのリクエストが多いですね。あとは、お洋服のリメイクや色合いの組み合わせなど、お子さんが使っていたものや個性を反映させたデザインなどもあります。

具体的には、ふわふわのレースを使ったドレス風のデザインや、宇宙柄やヒーローがテーマのデザインを加えたり、七五三や入学式用の着物をイメージとした作品を作ったりと、お客さんのニーズに応じて多彩なアイテムを提供しています。

――オーダーを受ける際に必ず聞いていることはありますか?

明確にイメージが定まっていないお客様には、最初にお好みの色について希望をお伺いします。ご希望があれは、それに合う色のサンプルを送って、その中でお気に入りのものを見つけ、段階を経てイメージを絞り込んでいく方が多いです。実際に製品を見たい方にはショールームに足を運んでいただき、お客様と数時間一緒に話しながら決めることもあります。もちろん、一度自宅に帰って考えたりする方もいます。

◆大切な人を亡くした人の心のケアになることも

――さまざまなお客さんがいる中で印象的なエピソードがあれば教えてください。

ショールームに来てくださるお客様の中には、自身のことについて話してくださる人もいます。以前、製品をお送りした後にお客様から感想をいただいた際、「普段は病院勤務ですが、まさか自分の子どもを見送ることになるとは思いませんでした」とお話しいただいたことがあります。

この話を聞いたとき、お金持ちであろうが、職業がどうであろうが関係ないんだなと感じました。亡くなる背景も、病気や自死など、みなさんさまざまな事情を抱えています。でも、共通しているのは大切な人を見送った経験です。その点で、みんな同じ方向を向いていることを再認識しました。

――お客さんと会話する中で、故人の方が亡くなった背景などがわかることもあるのでしょうか?

お客様からお話したくないという方もいらっしゃると思うので、私から詳細を質問することはありません。ただ話をしてくださる方には、大切な方の名前、その方の思い出やご経験についてお伺いしながら、制作を進めています。

制作に注力しすぎて、イメージと完璧にマッチしていなければ受け入れられないという方もいらっしゃるのですが、手作りにはイメージを具体的な形にすることが難しい場合もあるのです。その点はお客様にもお伝えしています。

精神的なケアを求めている方であれば、毎月開催している少人数制のお話し会もあります。そこでは、悲しみを吐き出したり、大切な人についてお話したりできますし、参加者が話したいときに気軽に寄っていただけます。

――仏具の制作・販売以外にも活動されているのですね。

ほかにはボランティア活動を行っています。具体的には、娘がお世話になった先生や看護師さんに対して直接何かをすることは難しいので、子どもの入院施設への寄付というかたちで支援をしたり、オンラインでのお話や講演会を通じて、病院や医療関係者、そして今闘病中の子どもたちやご家族にエールを送る活動をしたりしています。11月9日にもグリーフケアの講演イベントを企画しています。ご興味がありましたら、詳細をお問い合わせください。

◆遺影や仏具のあるスペースを“明るい場所”として

――お客さんにはどのような想いで仏具を届けているのでしょうか。

大切な人と話せない、触れられないことは、本当につらいことです。そういうつらさがあるからこそできる限りのことをしたいと思いますし、お客様がほしいと思うものを一生懸命考えて制作するようにしています。

大切な人を亡くした経験から、悲しみが再び襲ってくるのではないかと思ったり、家族の間で気を遣って話せなくなってしまったりすることは珍しくありません。ですが、故人にぴったりの場所があれば、たとえば「今日こんなものを買ってきたよ」という会話が生まれるでしょう。なので遺影や仏具のあるスペースは“明るい場所”として、お客様に提案したいと思っています。

――ご自身の経験からも仏具や仏壇という存在が、お子さんの死を受け入れるきっかけになったと感じていますか。

うちの家族に関しては、娘のための場所があることで、家族全員で娘を認識し、“仏様”という特別な存在ではなく家族の一員として受け入れています。私自身も、大きな変化があります。これまでは花を飾る習慣などは私にはなかったのですが、季節の花を仏壇に飾るようになりました。お盆には季節の野菜を使ったお盆飾りをするようになりました。娘がいろいろなことを教えてくれているような気がします。

◆亡くなった娘へ、今思うこと

――そういう意味では、遺影や仏具を置く空間自体が心の拠りどころになっている部分もあるのでしょうか。

そうですね。ママさんたちの間では「我が子のおうち」という表現がよく使われるんですね。その子の居場所としてリビングやダイニングなどがあり、そこに向かい合うことや空間を大切にすることが、その子の存在を感じる場所として重要な役割を果たしていると思います。毎日、仏壇で行うようなお線香やお水のお世話、お花の手入れなども、存在を感じられる大切な日常の一部です。

日本では、宗教の有無に関わらず、大切な人がいる場所はさまざまな形で存在します。たとえば、虹を見たり空を見上げたりすることで、大切な人との結びつきを感じることもありますし、墓や仏壇がその思いの拠りどころとなることもあります。そのような形で、“我が子のおうち”として、大切な存在を感じられる場の一部として機能しているのかもしれません。

――お仕事を通して娘さんを感じる瞬間はありますか。

この仕事は私がやりたいことであり、娘がいたからこそ続ける力が湧いています。今でも空の上で娘が見守ってくれているような、一緒にやっているような感覚があります。大変なこともありますが、「お母さんがんばってるよ!」と思っていますし、娘が背中を押してくれているおかげで前に進めています。本当にすごい娘です。

――誰もが経験する死ですが、誰かの死を乗り越えられていない人、大切な人を亡くしてつらい思いをしている人はたくさんいると思います。そんな方たちに向けてメッセージをお願いします。

他人が何を言っても、それを受け入れることはできません。私が娘を亡くしたときもそうでしたが、どんな言葉も耳に入らないというか、状況は何も変えられません。よくグリーフケアでは「そのままでいいんだよ」と言いますが、いろんな感情に自分が飲み込まれないように、いろんな方を頼っていいと思います。私ができることは大切な方のお品を一緒に作ることしかありませんが、少しでも悲しみに寄り添う活動ができたらいいなと思っています。

<取材・文/Honoka Yamasaki>

【Honoka Yamasaki】
昼間はライターとしてあらゆる性や嗜好について取材。その傍ら、夜は新宿二丁目で踊るダンサーとして活動。
Instagram :@honoka_yamasaki

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