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映画『先生の白い噓』公開で起きた“もう一つの大問題”。インティマシーコーディネーター騒動だけじゃなかった

女子SPA! 2024年7月13日 8時44分

7月5日に公開が開始された、鳥飼茜氏の同名漫画が原作の映画『先生の白い噓』。主演を務める奈緒サイドからの「インティマシー・コーディネーターを入れてほしい」という要望を、三木康一郎監督が断ったことで注目を集めた。公開前から大きな話題を呼んだが、公開後もまた思いがけない角度からの意見が多く寄せられている。そこから明らかになった、もう一つの大問題とは——。

※本記事には性暴力と、男性から女性への暴力に関する描写がありますのでご注意ください。また、同作品の一部ネタバレを含みます。

◆「軽くパニック」「目を覆いたくなった」若者の声

それは、内容の過激さにショックを受けた人たちの声だ。とりわけ、嵐やKing & Princeなどがエージェント契約を締結しているSTARTO ENTERTAINMENTに所属する若手グループ・HiHi Jetsのメンバーで、本作のメインどころで出演している猪狩蒼弥を目当てに映画を見に行った若い女性からの「映画を観て軽くパニックになった」「目を覆いたくなるシーンが多かった」「トラウマになる子いないか心配……」といった悲痛な声がSNSで散見された。

なぜ、このようなことが起きてしまったのだろうか。

◆凄惨な内容と、“15歳から鑑賞可”のギャップ

本作はR15+(15歳未満の入場・鑑賞禁止)に指定されており、女性が男性に髪を引っ張られながら性行為を強要されるシーン、男性がマウントポジションから女性を一方的に殴るシーンなど、衝撃的なシーンの連続だった。

いずれも原作でも描かれた重要なシーンではあるが、映像だからこその迫力もある。特に“血”を映像で見た時のインパクトは大きい。原作を履修済みでも映像の圧力により、精神的なダメージを受ける可能性も低くないのではないか。まして、内容をほとんど知らずに鑑賞した場合の衝撃は相当なものだろう。

猪狩は現在21歳。猪狩のファンも10代後半から20代前半が多いはずだ。10代後半であれば、まだまだ性暴力をはじめとした暴力に対する耐性や免疫など無いに等しい人も多いはずだ。ショックを受けたという声がSNSに多く寄せられたのも納得である。

◆それでも映倫基準ではR18+にならない

そもそも、本作はR15+で良かったのだろうか。本作は乳首が映るわけでもなく、臓器が飛び出ることもない。映倫の定める「映画分類基準」におけるR15+の基準は満たしている。とはいえ、性暴力はかなり慎重に扱わなければいけない題材である。人によってはトラウマを思い出しかねない内容は、R18+(18歳未満の入場・鑑賞禁止)であっても決して大げさではない。

ただ、R18+となるとターゲットが狭まるだけではなく、テレビCMを含むほとんどの宣伝が打てず、将来的な地上波放送もできない。当然、興行的にも厳しくなるため、R18+を想定して制作する判断は簡単ではない。

ただ、ショックを受けた若者の声が少なくない現状を鑑みると、「性暴力」を含む暴力を扱う映画のレイティングの決め方は、今後議論される必要がある。

◆公式ホームページの“明らかな問題点”

本作がR15+であるかが十分に伝わっていたのかも疑問が残る。各映画紹介サイトの紹介ページではR15+と書かれているが、肝心の公式ホームページのトップページからはR15+であることはわからない。

「THEATER」というボタンをクリックすると、ようやく「R15+」と書かれた映倫の申し訳程度の小さいロゴが見つかる。これではR15+ということは伝わりにくい。

また、性暴力描写についての注意喚起も非常に分かりづらい場所にある。スマホであれば映画の公式サイトを下にスクロールし、「ご鑑賞予定のみなさまへ」というボタンをクリックして初めて、「本作には、性被害や暴力に関する描写がございます。鑑賞されるお客様によっては、フラッシュバックを引き起こすことやショックを受けられることも予想されます。予めご留意くださいますよう、お願い申し上げます」という注意書きを閲覧できる。

このように、公式ホームページをざっと見ただけでは、一般的なヒューマンドラマや恋愛映画と解釈されてしまう恐れもある状態だ。

◆ バラエティでの「明るすぎる宣伝」

出演者の番宣からも、ショッキングな内容を含む映画になっていることは十分に伝わっていない印象だ。

猪狩は7月4日に放送された『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)をはじめ、ここ最近は映画の宣伝をかねてのバラエティ番組の出演が目立つ。宣伝の際には「15歳未満の鑑賞はできない」という旨のテロップが表示されるが、猪狩の口からは概要がサラッと説明されるのみ。R15+であること、過激なシーンがあることなどは基本的に口にしていない。出演者にはどうすることもできない、時間や内容の制約があるのだろう。

また、6月29日に放送された『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP マッサマンVSおバカ女子日本代表SP』(フジテレビ系)では、猪狩はドッキリにかけられ、鼻にプラスチックの棒を指した状態で映画の宣伝をしていた。

◆出演者の心も、観客の心も守る制作を

もちろん、猪狩や出演者を責めるつもりは一切ない。ただ、今回のような作品を宣伝するのであれば、そのことを視聴者にキチンと伝わる内容・台本にしなければいけないのではないか。なにより、バラエティ番組の雰囲気は大抵明るい。そういった空間で宣伝された映画であれば、仮にR15+であることが伝わっても、深く考えずに映画館に足を運んでしまいかねない。

今回のような作品では、映画公式ホームページだけではなく、テレビ番組での宣伝方法についても詳細なルールを設ける必要を感じる。それらを議論することにより、精神的に傷つく人を減らせるのではないだろうか。

言わずもがなではあるが、インティマシー・コーディネーターが入っていればまた見え方が違ったはずだ。撮影現場を安全に導くことだけではなく、観客の心を守ることにもつながる。その必要性についても一緒に議論されてほしい。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

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