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過去作では悪役を…朝ドラ『虎に翼』25歳俳優が「素晴らしい役を得た」と断言できるワケ

女子SPA! 2024年7月13日 8時46分

 すごく人懐っこくて、いい演技だなと思う。『虎に翼』(NHK総合)に出演する三山凌輝のことである。

 主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の弟・猪爪直明を演じる三山のキラキラ具合が話題だが、第15週第73回で寅子と会話する場面が、俳優・三山凌輝最大の見せどころとなった。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、素晴らしい役を得たなと実感する本作の三山凌輝を解説する。

◆俳優・三山凌輝の躍進

『虎に翼』で三山凌輝は、ほんとうにいい役を得た。SKY-HI総合プロデュースの下、日本の音楽シーンを活気づけ、牽引するダンス&ボーカルグループBE:FIRSTのメンバーである三山は、俳優としてはまだそれほど出演作品は多くない。

 だから『虎に翼』での猪爪直明役を新境地だの真骨頂だのと形容することは簡単だけれど、俳優・三山凌輝を考える上ではもっとそれ以上の意味があるような気がする。

 2022年公開の『HiGH&LOW THE WORST X』では、主人公たちが敵対する不良組織の総帥的な悪漢として登場し、悪の美しさが全身から溢れていた。同作以降、彼は悪役路線でいくのかと思ったら、全然テイストや世界観が異なる『虎に翼』で躍進してしまうという。

◆初登場にうっとり。戦後の猪爪家の希望そのもの

 三山が演じるのは、寅子の弟という役柄。帝国大学進学を目指し、学業に励むため単身、岡山の進学校で寄宿舎生活。視聴者はどんな好青年になって帰ってくるだろうと期待したことだろう。

 終戦間近、第9週第41回で直明が帰ってくる。胸ときめく好青年に成長していた。三山の初登場にはもううっとり。周囲からは「寅ちゃん」と呼ばれる寅子のことを「お姉ちゃん」と呼ぶのも何だか新鮮。

 育ちの良さはもちろん、ものすごく素直で人懐っこい。戦後の猪爪家の希望そのもの。実際、帝大進学を諦め、働いて家庭を支えると言って改まる姿にはグッとくる。

◆さわやかな活字中毒者

 だけどここは姉として、弟の好きな道を歩んでほしい。第42回では、一家を支える柱のひとつになりながらもこっそり隠れて、一冊だけ売らずに手元に置いた本のページを何度でもめくる。台所に座り込んで、一行一行食い入るように熱心に見つめる。

 直明は単に優秀なだけでなく、根っからの本の虫なのだ。そんな弟の姿を見た寅子は、一度弁護士の看板を下ろして押し入れにしまい込んでいた法律書を直明に貸す。

 直明は、「えっ、いいの?」と目を見開く。自分の専門分野でなくとも、目の前に本があり、文字が書かれていたら、それだけで読みたくてたまらない。こんなにもさわやかに貪欲な活字中毒者が彼以外にいるだろうか?

◆大きな見せ場で好演

 猪爪家の愛くるしい次男を演じる上で、三山は意気込み十分ながら、演技自体が力むことはない。彼は自分の個性を主張することよりも役柄との対話を徹底的に優先しているように見える。

 ほんとにまっさらな状態の三山凌輝を直明役に差し出している感じ。こうした柔軟さは、パフォーマーとして培ってきた持久力と忍耐力に裏打ちされたものだろう。役と並走しながら、リズミカルにきちんと演じる。

 寅子が家庭裁判所設立に奔走する第11週第55回は、直明の大きな見せ場だった。家事部と少年部を和解させるべく、寅子は戦災孤児を支援する直明の力を借りることにした。純粋にボランティア活動をする彼が訴えれば、家事部と少年部がうまく結束するはずと考えたのだ。

 猪爪家の家庭内でも、「なんてキラキラした目」とナレーションで説明される通り、家族たちは直明に心底惚れ惚れしている。寅子が勤務する家庭裁判所準備室をたずねて説得を試みる直明のキラキラ効果は絶大。本作の脚本のト書きには「目がキラキラしている」と書いてあったらしい。自分がどう画面上に写るのかを心得た三山が役にググッとコミットする好演だった。

◆素晴らしい役を得たなと実感

 ちょっと細かい場面だと、第14週第66回も忘れがたい。判事補に昇格した寅子は毎日大忙し。帰宅時間は遅く、寝不足が続く。この日も居間で仕事をしたまま寝てしまった。そんな姉をちゃきっと起こすのは直明のモーニングルーティーン。

 一声掛けて起きないなら、もう一度。「お姉ちゃん!」と声を張り上げ、寅子はびくっと目覚める。この一瞬の叩き起こしコールにも精魂込める三山の演技が晴れ晴れとして、すがすがしい。

 家庭内のことがおろそかになっている寅子と真正面から向き合うのも直明だ。第15週第72回。新潟への異動が決まった寅子が帰宅する。家のことをあずかる猪爪花江(森田望智)と言い合いになり、直明がすかさずフォローに入る。

 第73回、寅子は自分のどんな配慮が足りなかったのかと直明に聞く。直明は「ほんとうにささいな、ん? みたいな、ズレは結構あったかな」と正直に話す。この「ん?」の間合いが絶妙なのだが、初めて寅子に意見する場面について三山はインタビューでこう語る。

「あのときの場の雰囲気は、本当に本番だけで出た生の空気感だったと思います」(『ステラnet』インタビュー)。三山凌輝は、『虎に翼』で素晴らしい役を得たなと実感した。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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