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独立を発表した48歳俳優の葛藤。軟弱→屈強キャラに変化も露呈した“もろさ”とは

女子SPA! 2024年7月21日 15時46分

 2024年7月1日、俳優の伊藤英明(48歳)が所属事務所を退所し、独立することを発表した。30年近い俳優キャリアの中での決断は、どのようなものだったのか?

 俳優・伊藤英明をイメージする作品は、おそらく世代によってそれぞれ違うかもしれない。それだけにひとつの代表作によって背負うことになるイメージは強烈なものだろう。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、伊藤英明の事務所退所が意味するところを考える。

◆俳優・伊藤英明の決断

 伊藤英明が所属事務所グランパパプロダクションを退所する決断した理由について考える上で、おさえておくべきことは大きくふたつ。ひとつは、現在48歳の伊藤が50歳を前にして、「今までのキャリアに自信がない」こと(Yahoo!ニュース Voiceのインタビューより)。

 もうひとつは、1997年から2022年まで25年間所属したA-Teamの創業者で、俳優としての伊藤を根底から形成した小笠原明男が2018年に亡くなったこと。

「今までのキャリアに自信がない」という伊藤自身の言葉からは、“俳優イコール商品価値”としての判断をどこに置くのかが、もはや自明のことではないという正直な気持ちが伝わる。

 いずれにしろ、50歳になったときの俳優・伊藤英明を想像したとき、意識的にも無意識的にもミドルエイジクライシス(中年の危機)をうっすら感じたのか……。30年近くも第一線で活躍してきたこれまでの俳優活動を踏まえれば、あまりにも切実な感覚だろう。

◆「海猿」以前と以後で決定づけられる俳優としてのキャリア

 1993年、ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト(第6回)で準グランプリ。1997年、『デッサン』(日本テレビ)で俳優デビューする。

 伊藤の名前が国民的なものになるのは、やっぱり「海猿」シリーズ(2004~2012年)からだろうか。伊藤の長いキャリアを俯瞰したとき、一般的な認識として、この「海猿」以前と以後で区分することができる。

 同シリーズは、2004年公開の映画『海猿 ウミザル』に始まり、2005年にはテレビドラマ『海猿 UMIZARU EVOLUTION』(フジテレビ)が放送された。2012年公開の『BRAVE HEARTS 海猿』の興行収入は73億円を超え、その年最大のヒット作となった。こうした成績面からも名実ともに伊藤英明を代表する作品であることは間違いない。

 伊藤が演じた仙崎大輔という役柄は、画面内での骨太な魅力があるばかりか、画面外でも「海猿」以前以後でひとりの俳優のキャリアを決定づけるほど力強かった。

◆陰陽師シリーズでの愛すべき相棒感

 ただ、筆者からすると、「海猿」前夜の作品にこそ、伊藤英明らしさがあったようにも思う。同シリーズで打ち出された屈強なイメージより、どこまでも軟弱なキャラクターを演じていた時期も同じくらい魅力的だったからだ。

 例えば、野村萬斎と共演した「陰陽師シリーズ」(『陰陽師』(2001年)と『陰陽師Ⅱ』(2003年))。野村扮する陰陽師・安倍晴明の相棒であり、右近衛府中将・源博雅を伊藤が演じた。奇々怪々、平安京で次々起こる難事件を晴明と一緒に解決していくバディ物だ。

 バディ物というのは大抵、一方がしっかり者でもう一方がちょっとマヌケなキャラに設定される。伊藤扮する博雅は完全に後者で、晴明の足を引っ張ってばかりいるが、愛すべき相棒感がある。

◆海猿以前は軟弱キャラを演じていた

 一見、野村も伊藤も二枚目なのだが、あえて伊藤に軟弱ですっとぼけた三枚目役を担わせることで、映画全体にユーモラスな要素を導入している。「海猿」以後では想像がつかない伊藤英明の柔らかな魅力が溢れていた時代。

 もうひとつ、伊藤を代表する軟弱キャラ作品がある。フジテレビ開局45周年記念ドラマとして唐沢寿明主演でドラマ化され、大学病院医学部教授たちの権力闘争を描いた『白い巨塔』(2003年)だ。伊藤は、唐沢扮する財前五郎教授に目をかけられる下っ端医局員・柳原弘を演じた。

 いかにも弱々しい感じの柳原は、いつも猫背でびくびくしている。先輩や同僚たちからは軽んじられているが、ちょっとした打算から財前教授だけはとりたてようとする。財前教授から医療ミスの責任をなすりつけられた柳原が、裁判の傍聴席から反旗を翻す場面は同作の大きな見どころだった。

◆事務所退所が意味するところは?

『陰陽師』と『白い巨塔』という2作で軟弱キャラを演じた伊藤からすると、「海猿」シリーズの仙崎大輔役は、紛れもない新境地に違いなかった。でもそれがどこか形作られたイメージに思えたのはなぜだったろう?

 事務所退所に踏み切った伊藤が、「今までのキャリアに自信がない」と言うのが、まさに同シリーズ以降、自らに課せられた屈強なキャラクターのイメージのためではなかったのか。その意味では、『悪の教典』(2012年)のサイコパス教師・蓮実聖司役は、どこか屈強さの脆さを象徴していたように思う。

『TOKYO VICE』(WOWOW、2022年)で演じた汚職刑事役は、いかにも前時代的に男臭い役柄だったが、もはや「海猿」の仙崎大輔のような完全なる正義漢ではなかった。

 伊藤英明の出演作品とは、イメージとの葛藤そのものでもある。それらを払拭して、まっさらな、風通しがいい自然な状態に一度立ち戻ること。それが今回の事務所退所が意味するところでないかと思うのだが、どうだろう?

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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