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朝ドラ『虎に翼』34歳俳優の“表情の読めなさ”が気味悪い…アカデミー賞ノミネート作でも発揮していた狂気

女子SPA! 2024年7月19日 8時45分

 朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)史上最高に風変わりな裁判官・星航一(岡田将生)が再登場した。

 相変わらず、奇妙な間合いで気味悪い雰囲気を漂わせる。でも、この人の言葉には何かとても重要なものが含まれている気がする……。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、岡田将生の演技をじっくり待つことの重要性を解説する。

◆岡田将生の再登場

『虎に翼』第16週第76回から、主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)が、新潟地家三条支部の支部長として赴任した。東京では、家庭局局長・多岐川幸四郎(滝藤賢一)が、熱い涙をにじませて寅子を送り出した。

 女性初の裁判官が地方に支部長としてやってくれば、それなりの偏見は覚悟していた寅子だったが、思いの外、支部の面々は賑やかに歓待してくれる。でも何だか居心地が良いわけでもない。

 ちょっとは寂しさと東京時代の懐かしさもあるのだろう。ある日、思わぬ来客に寅子は喜ぶ。彼女を待って椅子に腰掛けていたのは、初代最高裁判所長官・星朋彦(平田満)の息子である星航一。岡田将生の再登場に視聴者だってときめく。

◆新潟でも気味悪いキャラ

 航一は現在、新潟地方裁判所刑事部に裁判官として配属されている。彼とは星長官の著書『日常生活と民法』改訂のための改稿作業で、少なからぬ時間を共有した仲。とは言え、第14週第66回の初登場は、本作史上最高に風変わりな雰囲気を漂わせていた。

 長官室での会話場面では、「この人、何だか、とっても、すんごく、やりづらい」と心の底から寅子がやりづらそうにしていた。それを岡田将生が気味悪く演じるものだから、航一は、相当なくせ者キャラとして毎週、出ずっぱりになるのかと思っていた。

 改稿作業がうまく運び、甘味処「竹もと」で改訂原稿を長官自ら読み上げる第67回以来、航一はひとまず出番がお休みに。すると第16週から、まさかの新潟で再登場という。同地でもしっかり気味悪いキャラを徹底している。

◆どこまでも「読めない」人

 寅子と航一は支部長室に移り、改めて対面する。こうして向き合うと、長官室での会話が懐かしく、ちょっとした昔話に花を咲かせるかと思えば、航一はやっぱり「やりづらい」人なのだ。

 航一の感情の動きって、ほんとどうなってるのか。寅子が「お休みの日は何を?」と聞くと、「休みの日は」と奇妙な間をおいて「休んでいますね」と答える。取り付く島がない。この人の感情は、いちいちリセットされるのだろうか?

 寅子の心の声を代弁する尾野真千子のナレーションが思わず、「相変わらず、いろいろと読めない」とつぶやく。新潟の自動車の交通事件について三条支部分の資料をまとめてもらうために会いに来たのだが、寅子が新潟に赴任したから、ちょっと顔を見に来た感じもある。どこまでも「読めない」人だ。

◆いつから謎めいた俳優になったのか?

 航一の考えていることが「読めない」だけでなく、岡田の演技自体も次にどう来るのか、予測するのが容易でない。あの独特な会話の間合いによって、視聴者をいちいちはぐらかしてくるような演技。

 でもそれがやたら心地よく感じてしまう。もっともっとはぐらかしてくれ、岡田君。みたいな感じで。いつからこんなに謎めいた演技をする俳優になったのだろう?

 彼の演技が明らかな変節を迎えたのは、第96回アカデミー賞で作品賞にノミネートされた濱口竜介監督作『ドライブ・マイ・カー』(2021年)からだ。同作で、西島秀俊扮する演出家・家福悠介の舞台に出演する人気俳優・高槻耕史を演じた。

 一見、さわやかなイケメン俳優という感じだが、車内での長い会話場面では、いきなりこの世の者とは思えない顔をのぞかせ、観客の背筋を凍りつかせた。この人、何かしでかすに違いない。そう思わせる狂気を全身にまとっていた。

◆発酵過程の演技を待つこと

 高槻の行動は、観客の想像を遥かに超えるものだった。以来、岡田の演技に目まぐるしいケミストリーが生じている。特に『虎に翼』では、岡田の演技がどんどん発酵してる感じがする。

 ここからどんな味わい深い演技が醸されるのか。航一役を見つめるということは、岡田の発酵過程の演技をじっくり待つことでもある。あるいは、寅子と再会するごとに、いちいち謎の空気感を漂わせながらも、その都度核心部分に迫るワードを吐く航一の言葉を待つことが、とても重要。

 第78回、気まずい関係が続く娘・佐田優未(竹澤咲子)に戦病死した夫・佐田優三(仲野太賀)の思い出話をうまく教えてあげられない寅子が泣き明かした翌朝。支部長室にやって来た航一が、寅子に、「昨夜、泣きましたか?」と聞く。

 そこへどかどか入ってきた弁護士・杉田次郎(田口浩正)からちょっとした貢ぎ物(弁当)を渡され、航一はひたすら「結構です」と頑なな涼しさで言う。同地の古い慣習(悪習)について寅子に気づかせようとサインを送るように見える。待てば待っただけ、それ相応の回答めいたものを提示してくる。

 発酵を続ける岡田将生の身体を借りて、大切な言葉を漏れ聞かせようとする航一のその言葉に傾聴しよう。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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