Infoseek 楽天

断食に「体に味噌を塗って毒出し」も!あらゆる“自然派”健康法を試した女性が目を覚ました瞬間とは

女子SPA! 2024年7月31日 15時46分

―連載「沼の話を聞いてみた」―

化学物質過敏症を患ったことから、さまざまな健康法をわたり歩いている女性がいる。

はじめはその筋で有名な病院の専門外来の戸を叩いたものの、医師が勧める高額なサプリを断ったことから激昂され、医療への拒否感が高まったという経緯がある。なんとか診断書をもらい休職にこぎつけてからは、病院を頼らず、民間療法を自分で調べて実践することに決めたという。

そんな体験を語ってくれたのは、40代の林田ナオさん(仮名)。アーティスティックな雰囲気が印象的で、つらかったであろう体験をユーモラスに話してくれた。

◆快適!丸刈りライフ

筆者が「アーティスティック」と感じたのは、ナオさんの大胆な行動にもあるだろうか。

ナオさんは診断書を手に入れて休職するとまず、毛髪をすべてそり落としたという。

体調の悪化で髪が重くうっとうしくなったことに加え、シンプルな原料の石けんひとつで全身洗えるのがいいと判断したからだ。

「一切の添加物が入ってないというアレッポの石けんを買い、外出して帰宅したらすぐに頭からつま先までしっかりと洗うことを習慣としました。何が入っているかわからないから、スキンケアは一切なし。髪を乾かす手間もなく、すぐに布団に飛び込める。めっちゃ快適でしたよ」

◆皮膚に味噌を塗る?!あらゆる療法を試した

さまざまな健康法に関する本も読み漁り、とある断食法に出会い感銘を受けた。

「その本の教えに従い、一定期間食べない断食に加え、体に味噌を塗って毒出しする療法なんかも試しましたね。その断食法に役立つグッズを売っているネットショップもあって、不調の原因になる体の歪(ゆが)みを正すための、かまぼこ型の木の枕を買って寝たり。

毒出しの効果はよくわかりません。体がかゆくなり、肌荒れしたのは好転反応(※)……と思い込んでいました」

(※治療によって体が改善に向かう中で、一時的に悪化した状態になる体の反応のこと。東洋医学で用いられる概念で、標準治療では用いられない。悪質な健康食品や美容サービスで健康被害が発生した際に利用されがちな言葉として、厚生労働省などからも「鵜呑みにしないよう」注意喚起されている)

隣は何をする人ぞ。聞いてみないとわからない、超プライベートな姿である。

しかしそうした療法が肌に刺激となったのか、今度はアトピーも発症してしまった。ナオさんの見解では「正しい味噌じゃなかったからなのかもしれない」という話だが、正しい味噌とは何だろうか。

次は、自然農法の農作物だけを食べるように心がけた。

化学物質過敏症についての情報発信や講演、相談会なども行っている、自然系食品販売会社が販売していたので、ここで売られているものなら信頼できそうだと、ナオさんは期待に胸をふくらませた。

◆販売会社は、私たちの味方!?

同じ境遇の消費者に需要があり、時には抽選に参加しないと買えない品物もあるほどの人気だったという。肥料も農薬も使わない自然農法の米や味噌、調味料。ごくたまに、昔ならの製法にこだわったという日本酒なども楽しんだ。

「それがもう、素晴らしく美味しいんですよ! 不調があるなりに、求職活動できるくらいに回復したので、この自然食のおかげだと実感しました。

販売会社が開催している講演会にも通ったり。登壇者が『ここの野菜を食べたおかげで、脱ステロイド(※※)に成功して人生変わった!』と体験を語るのを聞くと、ああ、この食品会社はわたしたち患者に寄り添ってくれるんだなあ……って思えて、ますます信頼が高まっていきました」

(※※炎症性皮膚疾患の治療で広く使用されているステロイド外用剤を、塗る必要がなくなる状態になること)

◆どうせなら、その会社で働きたい

そこからまた大胆な行動に出るのが、ナオさんらしい。どうせなら、その自然食品会社で働きたいと思い、募集の出たタイミングで面接を受けたのだ。

ところがそこで、ナオさんの心を凍りつかせる言葉が次々と飛び出した。

採用面接における一般的なやりとりが終わると、フレンドリーなノリの面接官は、こんな話をはじめた。

「なるほど~。林田さんは化学物質過敏症なんですね。でも、そのほうがいいんですよ! 添加物や農薬をとらなくてすむんですから!」

その瞬間、会社に対するナオさんの信頼が消滅した。

化学物質過敏症によって、いままでどれほど自分がつらい思いをしてきたか。

飲食店で使われる食材の添加物や農薬、すれ違う人の香料で不調が悪化するので、友だちと外食することもできない。頼れる家族はいないのに、病気で職を失った。不調をだましだまし和(やわ)らげ、必死に日常生活を取り戻そうとしている。

それを「よかった」とは、さすがに聞き流せない言葉である。しかしナオさんの心中を置き去りに、どんどんトークに拍車がかかっていく。

「この前なんかねぇ、うちの若手社員が風邪をひいて。彼、前から昼ごはんにコンビニおにぎり食べてたんですよねえ~。そしたらもう、案の定! しかもそのうえ……風邪薬まで飲んじゃって! 3日も休んだんですよ!? 薬を飲まなければ、もっと早く回復したのに。薬や添加物って、本当に怖いです」

◆「うちの食品だけを食べていれば」

普通に健康な人であれば、コンビニおにぎりを食べてもいいのでは? そう思ったナオさんは、疑問を口にしてみた。

「えーと……。貴社ではコンビニおにぎりを食べていたら、叱られるのですか?」

面接官の答えは「イエス」である。ただし「時々ならOK」。自然食品会社のイメージというものがあるのはわからなくもないが、お高い自社商品を無理なく買えるくらいの給料をくれるのだろうか。

「一番理解できなかったのは、『うちの野菜だけを食べれば、病気にならない』という主張でした。化学物質過敏症はもちろんのこと、がんも、うつも、花粉症もアレルギーも、うちの自然食を食べていればかからない! と断言しだして、唖然(あぜん)。

ちなみにその会社では、自然栽培の野菜を食べていれば病気にならないという主張のもと、健康保険がありませんでした。必要な人は、個人で国民健康保険に加入するとの話です」

◆完治も改善もむずかしい疾患

素直な性格のナオさんの顔に「えーーーー」という気持ちが丸出しになっている光景が、目に浮かんでしまった。

面接は話が盛り上がることなく終わり、予想どおり採用されなかった。

その後、金銭面的にも自然食はやめ、いまでも不調は改善されないままだ。「電子レンジを使うときは、正面に立たない(電磁波対策)」「健康茶を飲む」などの工夫を、細々とつづけている。

ひとり暮らしで就労も外出もままならず、社会から切り離されがちな生活を送る毎日のなかで、ふとこう思うという。

「無農薬の野菜を食べてこなかったから、こうなってしまったのかな」

ナオさん自身、それが根拠のない呪いのようなものだという自覚はあるという。それでも、方々で言われたそうした言説が、いまでも頭を離れない。

化学物質過敏症の人にとって、自然であることが重要なのは当然だろうが、商業的に都合よく語られる「自然が一番」という主張の罪深さが、実感できるエピソードである。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru

この記事の関連ニュース