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看護師から「クサい!」さらに医師が言い放った驚愕の言葉とは?有名病院の高額ナニコレ診療の実態

女子SPA! 2024年7月24日 15時45分

―連載「沼の話を聞いてみた」―

他人に理解されにくい病は数多くあるが、そのひとつに「化学物質過敏症」がある。生活のなかで触れるわずかな化学物質によって、頭痛や吐き気、めまい、かゆみほかさまざまな不定愁訴(ふていしゅうそ)が現れるという。

40代の林田ナオさん(仮名)も、化学物質過敏症と診断されたひとりだ。

はじまりは、10年以上前。派遣社員として働いていた会社の商材によりアレルギーがひどくなり、仕事はおろか、日常生活もままならぬほどに体調が悪化した。そこから医師の指導や書籍の情報を頼りに、農薬、添加物、化学物質を極力避ける生活を実践している。

ところが次々と、首をかしげたくなる出来事に遭遇したと話す。その体験のはじまりを聞いていこう。

◆看護師から「クサい!」はじめての病院で衝撃体験

「化学物質過敏症は体の不調に加えて周りに理解してもらえないつらさもありますが、頼れる医者に出会えなかったのも、かなり悩ませられた部分です」

当時はいま以上に、化学物質過敏症は「よくわからないもの」とされていた。「研究や解明が待たれる」という状況で、専門とする病院は少なかった(いまでも少ないだろうが)。

しかし幸いにも、通える距離の某有名病院に専門外来が設けられていた(現在その病院は化学物質過敏症の診察を終了している)。そうとなれば選択の余地なく、そこへ予約を入れた。

普通なら「ラッキー」と言えそうだが、ナオさんの場合はそれが迷走(いわば沼の入り口)のきっかけとなってしまった。

「クサい!」

満を持しての診察当日。まずはじめに、ナオさんは更衣室で看護師に怒られた。ナオさんから漂うシャンプーの香りが強いという指摘のようだ。

◆怒る看護師&医師

「そんなニオイがするようなシャンプーを使うから、化学物質過敏症になるのよ!」

診察の予約を入れると、事前に手紙が届く。診察当日はしっかり入浴をして化粧品などは一切つけずに来るようになどの、指示が書いてあるのだ。そのとおりに入念に全身を洗い、挑んだのが裏目に出た。

その専門外来では外からの化学物質を持ち込まないために、更衣室で用意された衣服に着替えてから、待合室に入室するシステムだった。

「当時はまだ、化粧品や柔軟剤の香りが体調不良の原因になることが広くは知られておらず、私も化学物質過敏症に関して無知だったので、シャンプーの香りにも気をつけるべきだとは、知りませんでした。しかしこの界隈では常識とされているようなので、そこは私が勉強不足だったのでしょう。でもできれば、事前に届く手紙に『無香料のもので洗う』と書いておいてほしかった……」

勉強不足だからといって怒らんでも、とは思う。

しかしこれはまだ、些末(さまつ)なことだった。同外来におけるナオさんのファーストインパクトは、「高額サプリと空気清浄機を買わないと激怒される」というナニコレ診察だ。

「診察がはじまると症状の聞き取り、それから生活指導が行われました。先生いわく、歯磨き粉や洗剤も、石けん系のものを選ぶ。毎日散歩と半身浴。便秘はダメ……そんな一般的な話のあと、コエンザイムQ10のサプリ摂取を勧められるんです。“これが肝心!”といった雰囲気でした」

医師の話では、本来は1カ月分10万円はする高品質なサプリメントを、メーカーの社長がうちの患者のために特別に月3万円で買えるようにしてくれている。サプリとあわせて、空気清浄機も必須。知り合いの店に置いてあるから、そこで買うといい、とのことだった。

サプリメントは“食品”であり保険診療で認められないゆえに、高額になりがちだ。しかしナオさんには、貯蓄がなかった。

◆高額の「治療」に悲鳴

当時は派遣で働き、実家とは絶縁。特定のパートナーもいなく、誰にも頼れない状況だった。仕事をやめれば、すぐに生活が立ち行かなくなるが、化学物質過敏症の原因物質を取り扱う職場で働きつづけることはむずかしい。

そこで、休職(ひいては失業保険受給)のために診断書をもらいにきたのだ。とりあえず1カ月分のサプリを買ったとしても、継続して飲むことは金銭的に無理だった。

ちなみにコエンザイムQ10 とは、2001年に食品規制の緩和によって、健康食品への配合が可能になった補酵素のこと。うっ血性心不全の症状改善に使われていた医薬品のコエンザイムQ10(ユビデカレノン)もあるのだが、「化学物質過敏症には処方できないと聞いた」とナオさんは説明する。

◆取り付く島もない医師を前に

「試したいのはやまやまだけど、いまの自分に高額なサプリは買えない……そう説明しました。すると突然、大声で怒りはじめるんです。何か失礼な言い方をしてしまったかと思ったのですが、身に覚えがまったくないので、あっけにとられましたね」

医師は大声で、こう主張する。

「僕はねえ! そんな不真面目な患者には! 診断書は書かない!! サプリをちゃんと飲んで通ってくる人にしか、治療法は教えない!!!」

いや、だから、怒らんでも……(単にハイテンションな病院なのかという可能性も頭をよぎったが)。故・大島渚監督を思い出してしまう病院である。

いくら必要でも、ない袖は振れない。努力で改善できることを放棄しているならともかく、そこを怒られるのは理不尽だ。

「ほぼ診察室から追い出される形で、その日の診断は終わってしまいました。目的の診断書はもらえずで、受付で看護師にどうすれば……と涙ながらに相談しました、回答は『どうなんでしょうね……?』と、そっけないものでしたけど」

休職に必要な診断書は、結局2回目の診察で無事もらうことができたという。

「そのときは、指定された店で空気清浄機を買おうと思う、と話したからなんですかね? それとも初回はたまたま、虫の居所が悪かったからなのか。私には、理由がわかりようもありません。

診断書をもらい目的は果たせたので、その病院は二度と行きませんでした。いまはもう、その医師は在籍していないようです」

この空気清浄機でも、トラブルが発生した。指定の店で販売されている指定の空気清浄機は、お値段10万円。初診時は「高い」と感じたが、2回目の診察を待つ数週間、体調不良にのたうち回り、不安と体のつらさから「これで治るのなら安いものだ!!」と購入に踏み切ったのだ。

◆空気清浄機より衣食住

しかし店から帰宅した瞬間、我に返った。

「……いやいやいや、高すぎる! 今月の食費と家賃どうするの!」

“10万円の空気清浄機”が高いかどうかは機種にもよるが、家庭用としては高価な部類だろうし、そもそもナオさんの懐には厳しかった。少なくとも、8畳のワンルームだというナオさんの住まいであれば、もう少しリーズナブルなものでもよさそうだ。

余談であるが、小さなメーカーが製造しているスペシャル機能を謳う空気清浄機のなかには、「根拠なし」として消費者庁から景品表示法違反(優良誤認)で措置命令が出るケースもある。金銭的にも機能の効果的にも、時間をかけて、吟味したいところである。

「注文した店からメーカーに注文するという話でしたから、商品の発送もまだ行われていないはず。すぐに店へ、キャンセルの電話をかけました。すると『無理です』の、一点張り。病院の紹介なのに……いや、紹介だから強気なのか? 30分近く言い争った挙句、クーリングオフ制度にふれると、しぶしぶ返金に応じてくれました。サプリといい、空気清浄機といい、いまだにあれは何だったんだろう……とたびたび思い出しますね」

◆医療に背を向け、体質改善

巷ではそうした健康家電を売る医師はめずらしくなく、それ自体が違法というわけではないが、「威圧的に買わせようとする」というやり口に問題があるのは明白だ。

そのような出来事を経てナオさんは、医療全般を否定するまでには至らなかったものの、化学物質過敏症に関しては、「自分でできる範囲で体質改善法」を目指すことにした。

一般に、代替療法や民間療法を選ぶ人に「病院で嫌な目にあった経験がある」とはよくある話だが、ナオさんも同じ道筋をたどったのだった。

今回の体験談は治療内容や診察態度の是非を問うものではなく、民間療法に流れていく典型的なケースとして、ご紹介した。その後ナオさんがどのような民間療法にハマったかは、また次の機会に。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru

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