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夜の顔は“人気SM嬢”のNPO代表…28歳女優がここまでハマる理由。話題の新ドラマでみせた“説得力”の正体

女子SPA! 2024年7月24日 15時46分

 毎週水曜日よる10時から放送されている『新宿野戦病院』(フジテレビ)で、橋本愛がかなり重要な役どころを担っている。

 本作の舞台である新宿歌舞伎町の現実とテーマそのものに肉薄する演技は、橋本ならではの表現力だ。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、清濁ないまぜの現実を提示する本作の橋本愛を解説する。

◆都市空間に息づく橋本愛

 橋本愛は、都市空間に溶け込むのがうまい俳優だと思う。都市の喧騒でも静かな憩いの場でも、必ず橋本特有の空気感をまとわせて、その場所に有機的に存在する。

 橋本の演技とは、都市空間と橋本愛が出会う化学反応だとも言える。例えば、井の頭公演100周年を記念して製作された『PARKS パークス』(2017年)は、顕著だった。冒頭、橋本扮する吉永純が、井の頭公園を自転車で走り抜ける。

 橋本による自転車の走行をカメラが、ただただ純粋に捉え続ける感動がある。武蔵野市と三鷹市に広がり、吉祥寺駅から歩いてすぐの大きな公園内で、橋本愛というひとりの俳優が息づくような画面の連続がきらめいた。

◆歓楽街で演じる支援スタッフ

 出演最新作『新宿野戦病院』では、打って変わって新宿歌舞伎町をメイン舞台に、都市そのものの生々しさを代弁する。第1話冒頭から語り部を担い、アジア屈指の歓楽街について、動画配信を通じて外国人向けに英語で説明するのだ。

 橋本扮する南舞は、歌舞伎町で支援活動をするNPO法人Not Aloneの新宿エリア代表。2015年に新宿東宝ビルが開業して以来、その周辺部でたむろする若者たち(いわゆるトー横キッズ)には特に目をかける。

 歓楽街という限定的な区画の中で、橋本が熱心な支援スタッフを演じているだけで、とても切実なものを感じる。では、舞はなぜこの街での支援を続けているのだろうか?

◆美容皮膚科医からの求愛

 本作の物語は、歌舞伎町で三代続く聖まごころ病院で働く風変わりな医師と患者たちのやり取りとして展開する。院長・高峰啓介(柄本明)の甥で、美容皮膚科医・高峰亨(仲野太賀)が主人公。

 毎晩のようにギャラ飲みに明け暮れる人物で、誰かにすぐ恋をしてしまうプレイボーイ(?)。路上で泥酔していた謎の元軍医・ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)を助けた舞にもすぐに一目惚れ。

 Not Aloneの事務所まで参上して求愛するのだが、舞は、「高峰さんにとってこの社会は平等ですか?」と問いを投げかける。ビジネスと金にしか興味がない享だが、舞がどうして支援を続けているのか、その理由を知る。

◆作品世界の外の橋本愛

「私にとってこの社会は平等じゃないから」

 とても切実なフレーズ。社会の中で弱い立場に置かれる人々を常に描いてきた脚本家・宮藤官九郎のテーマ性が集約されている。そしてそれが橋本愛の口から発せられることが重要。

 風俗嬢の金銭トラブルや難民申請のサポートまで、無料相談で支援する舞はソーシャルな人物だが、作品世界の外の橋本愛も社会に対して意識的な態度の人だ。そのことがはっきり打ち出されたのは、2023年、橋本が自身のInstagramのストーリー上で、トランスジェンダー女性の公共施設利用に言及して、「そういった場所では体の性に合わせて区分する方がベターかなと思っています」と発言し物議をかもしたとき。

 この発言に対して橋本は、謝意を込めた文を再投稿。自分の認識不足を正直に謝り、芸能人による問題発言後の対応としては理想的というか、まともな態度に写った。しかもそれで済まさないところが、橋本愛という人。

『週刊文春』での連載「私の読書日記」でコラム「われらはすでに共にある」を掲載。文頭、「私がこれから記述する、極めて短期間で学んだ知識、表現、言葉には、依然として理解の足りていない内容が含まれる恐れが十分ある」と丁寧にエクスキューズしながら、Instagram上での発言からこのコラム掲載までの間に、できるだけ理解を深め、問題提起とともに、この先も現在進行形でアップデートすることを表明した。

◆清濁ないまぜの現実

 実際の橋本愛自身が、これだけソーシャルな態度の人だからこそ、『新宿野戦病院』の南舞役は、作品世界内だけでなく、現実感覚としても意義深くなる。しっかり背骨のある社会性を背負うなんて、日本のエンタメ界では、ほんとうに稀有な存在だ。

 ソーシャルであるということは、享が言うように、「キレイ事じゃ済まない」側面もあることを舞はしっかり明示してもいる。彼女には支援スタッフとは別にもうひとつの顔があるのだ。最初に気づいたのは、聖まごころ病院に出入りする警察官・岡本勇太(濱田岳)。

 第2話、パトロール中の勇太は、歌舞伎町の一角のラブホテルにサングラスをかけた派手な格好の舞と続いて中年男性が入って行くところを撮影する。彼女が実はSMクラブの人気キャストであることを突き止め、第3話、舞に問いただす場面では、本人はあっさり事実を認める。

「薄汚い中年男性しばいて稼いだお金で弱い立場の人々に寄り添ってます。いけませんか?」とすさまじい早口。それが歌舞伎町という都市空間の片隅にある、清濁ないまぜの現実であることを本作の橋本愛は、痛烈に教えてくれている。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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