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有村架純のシャワーに濡れながらの涙が強烈に物語る絶望。月9で描かれる「いまどきの問題」とは?/『海のはじまり』

女子SPA! 2024年7月29日 15時46分

月9『海のはじまり』(フジテレビ系 月曜よる9時〜)、第3話に引き続き、第4話も有村架純劇場であった。

◆中絶後のシャワーの場面は絶望を強烈に物語る

第3話の終わりに流れた4話の予告編、有村演じる弥生がバスタブのなかでシャワーの水に濡れながら泣いている場面は予告以上に鮮烈。

弥生が中絶手術をしたあと、お風呂掃除をしていたら、堪(こら)えていた感情のダムが決壊してしまう。お腹にシャワーをかけて濡らす行為はお腹のなかにもう命がない絶望を強烈に物語る。

弥生は授かった子に対してとても配慮があった。恋人(稲葉友)に妊娠を告げ、躊躇(ちゅうちょ)なく中絶するものと思われていたことにショックを受ける回想シーンでは、ひとり喫茶店に残り、コーヒーのおかわりを頼むとき、カフェイン入りに変える(初回オーダーはノンカフェにしていたのが店員の聞き方でわかる。カフェインの過剰摂取は妊娠中は要注意)。

妊娠がわかったときから即座にカフェインにもお腹を冷やさないようにも気をつけるが、もはやそんなの関係ないという自虐めいた行為を繰り返すことで、弥生の罪悪感がいっそう色濃く見える。

◆生真面目な弥生は夏がすぐに認知しないのにいい顔をしない

弥生はとても生真面目(生真面目演技が有村架純はうまい、背筋をのばし、ちょっと小鼻を膨らませた表情が最高)。だから、夏(目黒蓮)が海(泉谷星奈)の認知をすぐに行わず、関係をゆっくり作っていこうとしているのを聞いて、いい顔をしない。

あとで、それは、彼女が海の母親になることで、過去の自分のした行為を払拭したかったから焦っていたからだと明かされる。

ここで描かれるのは、予期せぬ妊娠をしたときの問題と、他者とのコミュニケーションの問題である。

夏は、弥生がああしろこうしろと指示はしないものの、決断させようと話をもっていくことが気になって「決めさせようとしないで」と反論する。

弥生がそうする理由は、過去の恋人も母も、弥生の気持ちお構いなしに自分の考えを語るばかりだったことがいやだったからで。

要するに、相手はどうしたいのかをまず傾聴することが肝要なのだ。ひじょうにいまどきの問題である。

◆思考の途中にいる夏を目黒蓮がみごとに演じている

とかく物事は、相手の気持ちを聞かないことによって不幸な方向に転がってしまう。最たるケースが水季(古川琴音)である。夏がどうしたいか聞かずに、勝手に判断し、子供を堕ろすことにしたものの、やっぱり黙って生み育てることにした。

夏は、優柔不断で即決できない人だけれど、相手のことも思いやれるから、彼の考えをじっくり待てば、良い方向に進んだかもしれないのだ。

そう、夏はゆっくりと何が最適か考える人として描かれている。言葉数も多くないし、ぼそぼそしゃべるし、表情もいつもわりと困っているような顔をしていて感情がわかりにくい。でもそれは思考の途中だからだ。

その思考過程にいる人物を目黒蓮がみごとに演じている。彼は、いつも迷い考えて、ある瞬間に笑顔になる。彼が笑顔になれば、いまの状況には問題がない。正しい選択ができている、そんな安心の笑顔なのである。

◆素朴な海は津野に一緒に遊ぼうと言う

たとえば、3話の終わりから4話の冒頭にかけての海(sea)での夏と海。ここでの夏の笑顔は最高だった。そこに朱音(大竹しのぶ)による、水季が加わった親子3人の楽しい時間はこのうえもなく美しかった。

空も海もとてもきれいな色で、完璧とはこういうことを言うのだと思わせたが、興味深いのは、海は、夏と海(sea)を満喫したあと、津野(池松壮亮)と電話で、今度は一緒に海に行こうと言うことだ。

「なんで前みたいにいっぱい会えないの?」と素朴な疑問も発する。海が現れる前は津野が頻繁(ひんぱん)に遊んでいたのだろう。津野は「パパじゃないからかな」と返すが、海にはピンとこない。

そんな会話をしているときの海は、高いところのものをとるときに使用するような台にちょこんと座っている。足がすらりとすでに長く、最近の子は成長著(いちじる)しいなあと思う。

◆大人たちの心をほぐす海にSNSでは「天使」との声

さらに海は、弥生にもてらいなく「夏くん好き?」「じゃあまた3人で遊ぼう」と言うが、もやる弥生に「ママじゃないからだめなの?」「誰も悪くないのにみんな好きなのに夏くんと一緒にいちゃだめなの?」と素朴に問いかける。

ルールに縛られてがんじらがめになっている大人たちの心を、海がほぐしていくといった風情である。それをSNSでは「天使」と称える声が散見した。

この回のサブタイトル(?)は「なんで、好きなのに一緒にいちゃダメなの?」で、血や法律で定められた家族が一緒にいることを優先することの不思議さを思わせる。

でも、海ちゃんがこのまま、いろんな人に愛され育まれていくと、恋人をたくさん作ってしまう博愛の人になってしまいそうと余計なお世話だが妄想が膨(ふく)らんで止まらない。

◆水季の父・翔平がすばらしすぎた

さて。第4話は有村架純劇場ではあったが、水季の父・南雲翔平(利重剛)の人柄の良さ。妊娠、中絶の話を聞いて水季と朱音のギスギスする関係に、翔平が手をさしのべる。

水季は、自分が親不孝だと自覚していてこんな子が生まれてきたらこわいと考える(はじめて子供を生むときの不安の現れだろう)が、翔平は「親不孝と決めるのは親だよ」と諭(さと)す。

水季の浅はかな独断を、父が止め、さらに、彼女の本音を聞き出すことに成功する。朱音の書いた母子手帳まで見せて。それによって水季は子供を生むことを決断するのだ。海の誕生は、翔平のおかげといっても過言ではない。

ベッドに腰掛けて話す翔平、こたつに頭を乗せる翔平。「正直言うとね、孫楽しみ。すっごく楽しみ」と笑う翔平。どれもすばらしすぎた。

だが、その頃、弥生は中絶しているという、なんとも残酷な対比。弥生にも翔平みたいな人がいてくれたら……。きっと、夏は、翔平みたいな人になるのだと思う。

◆心情が静かにずしんと重めに伝わってくる演出

第4回は、翔平と水季のシーン、水希が仰向けになって涙を流すカット、バスタブの弥生など、印象的な画がいっぱい。心情が静かにずしんと重めに伝わってくる。

演出は、脚本・生方美久×村瀬健プロデュースドラマ『いちばん好きな花』(23年)でドラマ演出デビューしたジョン・ウンヒ。このひとの演出回をもっと見たくなった。

<文/木俣冬>

【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami

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