Infoseek 楽天

「声が出ない…」ネットで追い詰められて不安症になった私と、夫の支え/犬山紙子

女子SPA! 2024年8月7日 8時46分

 夫婦関係がうまくいかない…と悩んでいませんか?でも「100%うまくいってる夫婦」なんて存在しない気もします。

「夫婦はそもそも他人。“問題があること”を前提に、どうリカバリーするかが重要だと思います」と言うのは、エッセイストの犬山紙子さんです。犬山さんが自身の体験、そして多くの夫婦を取材してわかった「リカバリーのヒント」とは?

(以下は犬山さんの著書『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』を再構成したものです)

◆ネットで追い詰められて2回不安症に

●犬山紙子×劔 樹人夫妻のケース

劔(うつ状態)、犬山(不安症)がどのように互いと向き合い支え合ってきたのか、対談しました。今回は、私の不安症の体験です。

犬山:私の不安症は1度目は結婚後、夫がうつ状態になる前です。それはネットが理由だったんですけど、声が出なくなっちゃったんですね。まったく出ないわけではないのですが、声を出すのにものすごく気力がいる、そしてずっと動悸がしているような状態です。

さすがに声が出ないのは仕事にも支障が出るのですぐ事務所に連絡して、1週間ほど様子を見ても改善しなかったので心療内科に行き、このときは服薬治療で2か月程度で治りました。

2度目は2019年の5月ごろ。児童虐待防止の活動をするなかで「どうにかして亡くなる子どもを減らしたい」という気持ちが強くあったんです。ですがコメンテーターのお仕事をするなかで自分自身の力不足を感じたり、「なんでこんな適当な情報を流すの?」という怒りを感じたり、つらいニュースで涙が止まらなくなってしまったりという状態になり……。

そして、今回もまたネットでさらに追い込まれて。私の発言が拡散されて大量のレスが返ってくることがストレスでした。いいものも悪いものも“刺激”ってストレスになるんですよね。するとまた不安症になりまして。

この時は、早朝にものすごい動悸で目が覚めるという症状。「なにか取り返しのつかないことをしたんじゃないか、自分のせいで子どもたちに迷惑をかけてるんじゃないか」という思いが拭いきれないほど強くなっていって。もう仕事もやめたくなって、事務所にもそんな話をしてました。

でも「この感じは不安症だ」と自覚はできていたのはよかったと思います。事務所にも「私が言ってることは不安症という状況下での発言です」と混乱のないよう伝えることもできました。

◆SNSの通知を切って脳を休ませた

――2度目の治療は具体的にどうやって行ったんですか?

犬山:服薬治療と、カウンセラーさんに話を聞いてもらったことで、4か月くらいで大丈夫になりました。SNSの通知を切ったりと脳を休ませる方法も勉強したりして。

そのときは夫も自分を責めている状態だったから、夫に不安をぶつけたくないなあという気持ちがあったんです。そんな気持ちもカウンセラーさんに聞いてもらってましたね。

劔:性格的に彼女は喜怒哀楽がすべて表に出るほうなので、つらいんだろうなというのは僕も感じました。かわいそうでしたね。でも自分は何もしてあげられないんじゃないか、むしろ自分が悪いんじゃないかって気持ちになっていて……。

――そのころ、劔さんはどんなしんどさを感じていたんですか?

劔:僕はデフォルトでダメなのがしんどかったですね。彼女はいいとき悪いときがあるのに、自分はずっとダメ。「不平等だな、自分は役に立たないな」という感覚はありましたね。そこでちゃんと彼女を助けられたら自分にとってもプラスになると思うんですけど……。

◆「生きててくれてありがとう」

犬山:でも、夫はとても優しくて気も遣ってくれるし、顔を見るだけで癒されるんですよ。育児や家事を頑張ってくれて、私が休むことに集中できる環境を作ってくれる。だから感謝しかないわけですが、感謝の気持ちを伝えても……。

劔:僕は全然そういうのが響かないんですよ。

犬山:お互いが不安定なときも愛情は変わらずありました。綺麗事じゃなく心底大好きで、尊敬していて。それはこれまでの彼の優しさや思いやりの積み重ねのおかげですね。だから離婚したいともほぼ思いませんでした。

唯一、離婚したほうがいいのではと思ったのは、私のせいで夫がうつになっているんじゃないかと自分を責めたとき。「自分が夫に対して悪であるならば、大好きだけど別れるしかない」と。まぁそれもカウンセラーさんに話して否定してもらい、すぐ正気に戻りました。

劔:仲はめちゃくちゃ良いんですよ。

犬山:お互い状態が悪くても、ただそこにいてくれたら嬉しい感じです。「生きててくれてありがとう」みたいな気持ちがあって。それは揺るがないものだなと。

◆お互い、心の病になって得たものがある

――つまり、ふたりの間に大きな愛情や信頼関係があったからこそ、乗り越えられた、と。

犬山:ただ、これは程度だったり症状による部分もあるので、あくまで「私たち夫婦の場合は」という話かと思います。でもやっぱり、いざというときにお互いを信頼したままでいられるのはそれまでの日常が本当に大切なんだよなと。これが夫に毎日「なんで家事全然しねーんだよ!」みたいにキレてたら違っていたかもしれません。

劔:僕の場合は、「僕が人と違う」っていうのを学ぼうとしてくれる人(=妻)によって非常に助けられている部分はあるのかなと思ってます。人とはちょっと違うって感覚をもって生きている人って、なかなか理解されないじゃないですか。

何か不都合があったときに詰め続ける人だったら、僕は潰れてしまっていたと思うんですよ。

犬山:私は、うつもひと括りにできないということを痛感しました。共通しているのはきっちりとプロに頼って、第三者の力を借りる、ということですね。今となっては、なぜもっと早く夫を心療内科に連れていけなかったのか、なぜもっと早く私の怒りっぽさを問題視してカウンセリングを受けなかったのかと思います。

お互いの精神疾患と向き合った先にも「幸せ」ってのはちゃんとあります。そうした時期を過ごすことで、この先何かあっても支え合っていけるなあって土壌が整ったわけです。

◆普段から意識しておきたいヒント

1.5人に1人が生涯で精神疾患になるということを知っておく。パートナーがなるかもしれないという心算で、お互い知識を持ち、共有しておくこと。

2.メンタルケアにおいて認知行動療法は効果がある人も多く、エビデンスもある。うつでなくても知っておくとよい。

3.SNSは通知を切ることができる。それだけでもストレス軽減になる

<文/犬山紙子 イラスト/劔樹人>

【犬山紙子】
1981年生まれ。エッセイスト、コメンテーター等としてTV出演も多数。著書に『私、子ども欲しいかもしれない。』『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』など。2014年に劔樹人さん(ベーシスト、漫画家)と結婚。長女の誕生を期に、2018年、児童虐待防止チーム #こどものいのちはこどものもの を発足。 
@inuningen 
@inuyamakamiko

この記事の関連ニュース