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狂気の不倫ドラマに出演する20歳俳優の父親は“まさかの人物”。笑ったときのエクボが似てる

女子SPA! 2024年7月31日 15時45分

『夫の家庭を壊すまで』(テレビ東京、毎週月曜日よる11時6分放送)第3話で、主人公・如月みのり(松本まりか)が、沸騰した鍋でグツグツとパスタを茹でる。尋常ではないグツグツ音から、夫の不倫への制裁煮えたぎる本作のテーマが端的に示されている。

 近年は毎クール、複数の不倫ドラマを各局がこぞって放送している。物語的には、『夫婦が壊れるとき』(日本テレビ、2023年)や『夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2』(テレビ東京、2024年)との類似はありながら、『夫の家庭を壊すまで』は激しくドロドロしている。でもそのドロっと感にひときわさわやかな要素を導入するのが、注目の若手・野村康太である。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、BLドラマから不倫ドラマを経て確実にステップアップする野村康太を読み解く。

◆「見逃し配信の再生回数」記録更新が感慨深い

 放送後の見逃し配信再生回数が、テレビドラマの人気度を測る指標になって久しいが、松本まりか主演の不倫ドラマ『夫の家庭を壊すまで』が、テレビ東京歴代最多の再生回数を記録した。「ネットもテレ東」とTVerで第2話が配信されると、1週間で200万回再生を超えたのだ。これは同局の「全コンテンツの中で歴代初」と発表されている。

 筆者がこの記録更新についてことさら感慨深く思うのは、本作の原作者である赤石真菜が、母校である日本大学芸術学部映画学科(以下、日芸)の親しい学友だから。

 日芸時代の彼女は、新作脚本が書けたら真っ先に読ませてくれた。ある日、校舎があった所沢のファミレスで、懐刀のようにさっと差し出してきたのが、不倫物の脚本だった。彼女にとっては初挑戦のジャンル。セクシャルな描写が詳細に書き込まれたト書きからは、少し照れくささがにじんでいたのをよく覚えている。

 そんな彼女が不倫漫画の原作者としてデビューし、今回のドラマ化で大記録を打ち立てた。しかも筆者がイケメン研究を生業にすることを知る彼女は余念がない人だ。本作で注目すべきは野村康太という若手俳優であり、きっと気にいるはずだとわざわざ連絡してくれて、不倫物を極める旧友が自作をレコメンドするのだ。

◆ジャンルレスに予想を超えてくる才能

 野村康太? 初めて聞く名前だった。どうやら沢村一樹の息子だと言うが、確かにイケメン研究にはもってこい。どこから見ても純度100%ぶっちぎり具合ではないか(!)。

 でも待ってくれ。極めて清新な第一印象を受けた若手俳優が出演する最新作だよね。主人公の復讐心と連動するあまり、松本まりかの演技自体が狂乱する寸前で踏みとどまる。刃物のような狂気が恐怖の材料としてひたすら煮込まれる、そんな不倫ドラマの鍋の中に、野村康太が丸腰で投げ込まれて大丈夫か?

 では、実際の画面上で野村康太は、どう写っているのか。初登場は、第1話のちょうど中盤。これが驚いた。その瞬間は、不倫ドラマらしくハラハラさせる疑念の場面として活写されている。不倫ドラマだろうが何だろうが、ジャンルレスに予想を超えてくる才能がある。

◆不倫とBLで効果は倍々かと思ったら……

 松本まりか扮する主人公・如月みのりは、冒頭からモノローグで、「幸せ」の一語を繰り返す。夫・如月勇大(竹財輝之助)と息子との幸せな生活は、何としても守らなければならない。みのりにとっての幸せとは、強迫観念でさえある。

 ある朝、出勤した勇大が忘れていったスマートフォンの通知を見て、みのりは不倫を疑う。疑念はすぐに確信に変わる。勇大が通知の相手と待ち合わせる場所で張り込む。どんな女性がやって来るのかと思ったら、相手は男性。しかも高校生。

 それが野村扮する三宅渉だ。みのりは、目を見開いて「男」と驚きの声をもらす。勇大と渉は、待ち合わせ場所のジュエリー店に入り、ニコニコしながら勇大が渉の首元にネックレスをあてたりする。仮に自分の夫が、同性愛者だとして、でもさすがに高校生はマズいんじゃないか。

 夫が同性の恋人を作っていた不倫ドラマだと、堀田茜主演の『私と夫と夫の彼氏』(Paravi、2023年)がある。BLドラマと不倫ドラマが各クールで量産されるテレビドラマ界の現行トレンドからすると、(単純な理論だが)両ジャンルの掛け合わせ効果は倍々。

◆息子の初陣にテクニカルなアドバイス

 でも違った。みのりが張り込みを続け、勇大と渉が食事を楽しんでいるところへ、別の女性が加わる。さっきのジュエリーは、その女性・三宅理子(野波麻帆)の誕生日を祝うプレゼントだった。みのりとの幸せなはずの3人家族以外に、勇大はもうひとつの家庭との二重生活を送っていた。

 夫のもうひとつの家庭を崩壊させることを誓ったみのりは、まず渉に接近する。彼が通う塾の担任になるのだが、広くはない教室内で蛇に睨まれた蛙のように、野村が184センチの長身を縮こまらせるのがいい。

 第2話冒頭、みのりが渉のややゆるんだネクタイをキュッと直す。野村が首をくっと引いた瞬間、あれ、お父さんの面影。笑ったときに浮き出るエクボなども、沢村一樹が浮き出てくるくらい似てる。似てるついでに言えば、教室で静かに座る涼し気なサラッと感は、そうだな、『オオカミ少女と黒王子』(2016年)で主演の二階堂ふみが、“和製アラン・ドロン”と形容した吉沢亮がメガネを外したら、きっとすごく似ている。

 こりゃいいぞ。完全に野村康太ファンになった。俳優とモデルを両軸にキャリアをスタートした野村は、デビュー作を一緒に見てほしいと沢村一樹と約束していたらしい。『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』(読売テレビ、日本テレビ、2022年、以下、『新・信長公記』)の前田利家役が、デビュー作になるだろうか。

 息子の初陣に対して、沢村が「目線はもう少しこうした方がいいよ」と、次の現場ですぐ使えるテクニカルなアドバイスをしているのも微笑ましいエピソードである(モデルプレスのインタビューより)。

◆BLドラマから不倫ドラマへ

「ずっと見てたがや」と言って勢いよく敵に好戦する同作の前田利家役は、確かにまだ視線の動かし方、決め方、安定のさせ方が定まっていない演技ではある。ほんとうに初々しい初戦だった。

 若手俳優のキャリア形成にはいくつかの方向性があるが、現在の王道は、BLドラマでまず足場をならすこと。若手俳優にとってのBLドラマ出演とは、いわばその俳優のトリセツを抽出するための試金石のような役割だと筆者は考えている。

 その意味で、仮面ライダー俳優出身でも、恋愛リアリティ番組出演歴もない野村にとって、BLドラマは何としても出演する必要があった。今年配信されたBLドラマ『パーフェクトプロポーズ』(フジテレビ)で初主演を果たしたのは重要なつなぎ目。

『新・信長公記』から考えると、演技の水平軸はブレずにうまく抑えられていた『パーフェクトプロポーズ』(第5話の初キスシーンは、BLドラマ史上最高にサラッとした名演技)を経て、『夫の家庭を壊すまで』で不倫ドラマに出演することで、俳優として次のフェーズに入ったと考えていい。

 主人公が偏執狂になることで共通点も多い、齊藤京子主演のドロドロ不倫ドラマ『泥濘の食卓』(テレビ朝日、2023年)では、Mr.Childrenのボーカル・桜井和寿の息子である櫻井海斗が出演した例もある。

 BLドラマから不倫ドラマへ。野村康太は、着実にステップアップしている。段階を踏んで現場を積むごとにめきめき実力を伸ばす姿が、豊かに可視化されるタイプの俳優だ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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