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“まさかのモノ同士”の濡れ場を描いた「BL漫画」に想像が膨らみすぎる…作者が最も苦労した点は<漫画>

女子SPA! 2024年8月1日 15時46分

皆さん、BL(ボーイズラブ)の世界に興味はありますか? 私はガンガンに興味があります。何なら若かりし頃、その手の小説を書いてたこともあります。

そんなわけで現在も日常的にBLに接して生きている私なのですが、とんでもないものを見つけてしまいました。

それは……BLマンガ『放課後水入らず』!!

こちら、7月22日よりコミックシーモアにて無料公開されている作品なのですが、そのコンセプトはずばり“濡れ場がやさしい”BLマンガ。

なんと、「攻めと受け」を「傘と傘立て」に描き換えた『カサバース』という新ジャンルのBLなのです!……って、ちょっと何言ってるのかわかんないんですけど。マジで。

(注※ 攻め:カップリングにおいて主導権を持つ側。受け:それを受け入れる側)

とはいえ、理解不能という理由だけでBLと名の付くものをスルーするのは腐女子の名が廃る。とりあえず私はコミックシーモアで、『放課後水入らず』を読んでみることにしました。

◆傘×傘立てという無機物カップリングに萌えられるのか?

舞台は私立雨森高等学校の水泳部。たまに県大会で入賞するくらいのレベルであるこの部に、数々の大会で優勝をしてきた実力者・笠井駆(傘)が入部してきます。

そんな彼の泳ぎを横目に、自分の泳ぎに自信を無くしている先輩部員・立山広樹(傘立て)。放課後の部室で退部することを報告してきた立山に、密かに憧れを抱いていた笠井は想いが溢れだし……という展開のストーリーでした。

ちなみに今作は男性同士の生々しい絡みや恥ずかしい光景は存在せず、あくまでも絵的には傘と傘立ての交流という形になっています。私は比較的ディープなBL描写にも慣れているタイプなので、傘×傘立てという無機物カップリングに萌えられるのか? 少々疑問ではありました。

……が! そんなの杞憂オブ杞憂でしたよ。何がアレって、作品としての完成度の高さが凄すぎる! そこに存在していたのは確かなBLの世界! 主人公二人のもどかしい心の触れ合い、そしてフィジカルな意味での触れ合い、両方がしっかり備わっているのです。

濡れて、挿して、大きくなる傘。そしてそんな傘を受け入れる傘立て。ヤバい。この比喩表現、的確すぎやしねぇか。

◆これはけっこう性癖に刺さる……刺さるぞ!!

また、設定が憎いですよね。これって生意気な天才タイプの後輩攻めで、包容力ある先輩受けってことじゃないですか。個人的な好みになってしまいますけど、これはけっこう性癖に刺さる……刺さるぞ!!

さらに言えば「カサバース」というネーミングもニクい。昨今のBL界隈では「オメガバース」を筆頭に「Dom/Subユニバース」「ケーキバース」など〇〇バースという言葉がポピュラーになっている中、あえてそこに食い込んでくるとは。BL初心者だけでなくガチBL好きのオタク心もくすぐる、ハッキリ言って良作です!

そんなわけで『放課後水入らず』、私はひじょうに感銘を受けました。こうなったらぜひ、作品についてもっと深く掘り下げてみたい!

そこで今回、コミックシーモアに直撃インタビューを決行。『放課後水入らず』について、聞いてみたいことを、たっぷり質問してきました!

◆男性同士の生々しい描写を、いっそ無機質にしてみよう

――色々とツッコみたいこと……いえ、お聞きしたいことはあるのですが、まずは今作『放課後水入らず』をつくることになった経緯を教えていただけますか?

「近年、BLジャンルは映像化なども増えて一般的になってきています。コミックシーモアの中でも人気のジャンルではあるのですが、BL初心者の方々にも、もっとコミックや小説を読んでもらう機会を増やしたいという思いから企画が始まりました」(コミックシーモア、以下カッコ内同)

――ジャンルの読者層を広めるため、というわけですね。それにしてはかなりソリッドな設定を考えついたような。

「初心者に訴求するためにはどうしたらいいか? と考えた時に、我々のように普段からBLに接している人間にはもはや難しいのではという話になりまして(笑)。今回はあえて外部の男性プランナーさんに企画を依頼したんです。

その方はまさにBL=男性同士の濡れ場がメインと思ってBLを敬遠してきたという方でした。今回のことをきっかけに色々と作品を読み、BLの魅力は性的な描写ではなく、男性同士の心の葛藤や揺らぎ、ギャップ萌えにあるのだと理解してくれたんです」

◆傘×傘立ては、ロジカルに考えた末の解答

――たしかに、BL=激しい濡れ場の印象を持っている人は多いのかも。

「だからこそ一歩が踏み出せずにいる人が多いんですよね。そのためにも先入観を取っ払って、BLに対して食わず嫌いな人も安心して見れる濡れ場を作らなければいけない。受けと攻めを何か別物に変換する必要があったんですよ。

男性同士だからこそ、描写が生々しくなりがちなのが大きな課題でした。そこを無機質なものにしてしまえば、見やすくなるのでは?と考えたのです」

――「傘×傘立て」のカップリングは、どこから着想を得たのでしょう?

「攻めと受けは極端に抽象化すると、棒と穴なんですよね。かつ一般的に馴染があって、濡れる・大きくなる・折れるなどの表現ができるもの……傘と傘立てだ! と、プランナーさんが導き出しました」

――凄いですね、その発想!

「プランナーさんがロジカルに考えた末の解答です。私たちも企画案をいただいて衝撃を受けました(笑)」

◆漫画の作者が語った「最も難しかったこと」は

――作品づくりの途中で苦労した部分があれば聞かせてもらいたいです。

「まず企画案を伝えた時点で、作者のあぶく先生をかなり困惑させてしまいました(笑)。傘と傘立てをBL漫画でどう表現するのか……最も難しかったのは、構図を探すことだそうです」

――間違いなく難関な作業ですよね。

「傘にも傘立てにも表情がないので、普段なら描ける漫画的な表現ができないんですよ。気が付くと描いたものがすべて背景になってしまったとか。だからコミカルな動きをつけたり、アイテムを持たせたり、色々な工夫が為されています。あぶく先生いわく『漫画家としての引き出しの数を試されているようだった』とのことです」

――あぶく先生の作画、無機物のはずのキャラクターが見事にちゃんと生きているように見えました!

「臨場感のあるページに仕上がっていますよね。私たちも出来上がりを見てかなり興奮しました。あぶく先生には感謝しかありません」

◆「想像が膨らみすぎる」「逆にこれは玄人向けだ!」

――もともとBLが好きな読者とBL初心者の方で、作品に対する感想に違いはありましたか?

「BL初心者の方のSNSでは『普段得意ではないが、この発想は面白い』『これなら読める』など、企画意図が伝わった嬉しい反応がありました。

BL好きな読者さんにも『想像が膨らみすぎる』『逆にこれは玄人向けだ!』など、たいへん喜んでいただけたようです」

――どちらの層の読者からも絶賛となった「濡れ場がやさしい新たなBLジャンル」、今後の展開も考えているのでしょうか?

「一旦『カサバース』は今回限りとなっていますが、評判も上々なのでここから派生した企画が生まれたらいいなと思っています。

BLは本当にいろんなジャンルがありますから、今後『〇〇バースをつくった』という読者さんが出てきてくれたら、すごく嬉しいですね」

――ありがとうございました!

◆筆者が自宅の傘で、BLっぽい写真に挑戦した結果

ちなみに、コミックシーモアさんは、自宅の傘と傘立てがBLっぽく見えるための専用カメラフィルタ「カサバースフィルタ」までご用意してくれています。

わが家でも撮ってみましたが、傘立ての形が特殊&度量が狭すぎて、微妙な写真になってしまいました。こんなことならちゃんとした傘立て買っておけばよかった……大後悔です。

<取材・文/もちづき千代子 漫画/あぶく>

【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama

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