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「お母さん許さない」息子から‘’元彼女が隠れて出産していた‘’と聞き憤る母。その後交わした言葉とは/『海のはじまり』

女子SPA! 2024年8月5日 15時45分

第5回にしてようやく少しほっこりできた。月9『海のはじまり』(フジテレビ系 月曜よる9時~)はこれまでずっと京都の夏のように湿度が高かった。

それが第5話では、夏(目黒蓮)が海(泉谷星奈)を月岡家の家族に会わせるなど、ほどよい適温状態に。弥生(有村架純)のメンタルも安定してきてなによりだった。

◆海(娘)、海(sea)、産み、罪と来て今回は「髪」

海(娘)、海(sea)、産み、罪(堕胎をした罪ではないが弥生が抱く罪悪感的なこと)と日本語ラップの韻のようなモチーフが連なっている『海のはじまり』。今回は「髪」だった。ちなみにスピンオフは「兄」(のはじまり)。

他者の髪に触る行為は親密さの表れだ。美容師やヘアメイクスタッフ以外、関係が近くないと髪の毛をいじることはない。美容師やヘアメイクスタッフだって気心が知れた人でないとなかなか任せたくないものだ。

冒頭は、水季(古川琴音)と海(泉谷星奈)の回想場面で、朝、出かけに水季が海の髪を結ぶ。時間もお金もないシンママはかわいくできないのかと子供に心配させないように、青山のカリスマ美容師に髪を切ってもらおうと水季は明るく振る舞う。住んでいる部屋は時間もお金もなくは見えない。番組の途中で流れるイオンのCMにちょっと似ている。

そして現在。水季の実家で、前回、株をあげた南雲翔平(利重剛)がお風呂上がりの海の髪を梳いている。もろこしご飯の準備をしながら、夏は、海の話を実家の家族たちにまだしてないことを朱音(大竹しのぶ)に執拗(しつよう)に口撃されてむっとなる。

やると言いながら腰をあげないことをお風呂に入ることを例に出して語られ、それとこれとは違うのではないかと夏は納得がいかなくて。でも、たとえこんなふうに論点がズレても、それで崩壊するほどの険悪さはまったくなく、なんだかほのぼのしている南雲家。夏がこんなにも朱音に反抗できるのは距離が縮まってきた証拠であろう。

◆誰に対してもいつもどこか遠慮気味の夏

ただ、夏は、他者との距離の取り方が不器用であるという問題点は容易には解消されない。夏休み、南雲家で海と生活体験するにあたり、弥生が髪を結う練習台になってくれる。女性の繊細な髪の毛におっかなびっくり触れる夏に、弥生は「性格出てる」「やさしすぎ、ゆるすぎ」とからかう。

やさしすぎて、誰に対してもいつもどこか遠慮気味の夏だから、弥生や水季のように自ら距離を縮めてきてくれる人が助かるのだろう。ただし弥生は、水季のように天然でぐいぐい行くタイプではなく、誰に対しても無理してサバサバしたように見せてきただけなのだ。

「自分で自分のことをやるのはどんどん上手になった」と髪を結いながら弥生は自分の過去を思い出す。

有村架純の髪の毛がサラサラで弾力もあって、三つ編みがするっととける様子はまるでシャンプーのCMのようであった(シャンプーのCMは最近はやっていないがまたやっていただきたい)。

親との関係がよくないため、弥生は夏と親を会わせることをためらっている。夏は家族仲がめっぽいいいにもかかわらず、弥生をまだ紹介しないでいた。

夏の両親はうすうす恋人がいるのは知っていて、紹介される機会を待っている。その前に海のことを話さなくてはいけない。「練習しとく?」と弥生に聞かれて、すこしヘン顔をする夏とその顔をちょっと真似する弥生が微笑ましい。穏やかな空気でほんとうにホッとする。

◆「お母さん許さない」から気持ちを切り替えて

そして、ついに夏は実家の家族に海のことを切り出す。月岡和哉(林泰文)、月岡ゆき子(西田尚美)、月岡大和(大聖)と夏、4人の食卓で、てっきり結婚したい人の話だと思って「コロッケ食べながら聞く話じゃないし」と和哉は言うが、夏はコロッケを食べながら「子供がいる」と明かす。

授かり婚と誤解して、むしろ喜ぶ家族たち。おそらく、夏に気を使ってもいるのだろう。そうじゃないのだと、不器用にゆっくりと夏が説明をはじめるが、真相を知ったゆき子は表情を曇らせる。

「男だからサインしてお金出してやさしい言葉かけて、それで終わり。からだが傷つくこともないし。悪意はなかったんだろうけど。でもそういう意味なの。隠したってそういうことなの」とたったひとりで生んで育てた水季のことをゆき子は思いやる。

「お母さん許さない」と穏やかだけど本気で憤(いきどお)るゆき子だったが、気持ちを切り替えて、コロッケ食べながら「最近孫がほしいなと思っていたとこ」と微笑んだ。

その晩、夏とゆき子はふたりっきりで話す。水季の死因が子宮頸がんだったことを知らなかったこともゆき子に明かす夏。それからゆき子の人生で一番大変だったのは、離婚して再婚するまでの、夏とふたりで生活していたころだということを聞く。

お金も時間もないと気持ちがすり減っていき、なかなか美容院にいけなかったゆき子のシンママ時代は冒頭の水季と重なった。母親ひとりで(子どもに)さみしい思いをさせないなんて無理と諦めて、まわりに頼るようになって少し楽になったゆき子は、その後、再婚し、いまやおしゃれなオレンジワインを息子と飲む、豊かな暮らしっぷりである。なによりである。

◆津野の言葉は視聴者の冷静なツッコミにも近い

ゆき子は夏に、水季が誰に頼ったか知ろうとしたほうがいいよ、とアドバイスする。すると、次の場面は、海が、一時期、水季の唯一の頼りだった「津野くんに会いにきた」と図書館にやってくる。

うれしい津野くんだが、海が帰ったあと同僚の三島芽衣子(山田真歩)に「ママの病気がわかったり死んでからあらわれるなんてみんな調子いいよね」「ゆってないです思っただけです」と愚痴る。彼の言葉は視聴者の冷静なツッコミにも近いだろう。

三島は「家族でもなんでもないんだけどさ、ずっとそばにいたのわたしたちだけで支えていたの津野くん」「いなくなったら急に外野な感じ」と津野の気持ちを慮(おもんばか)る。津野にもまた、わかってくれる人がいる。でも津野はまだそのありがたさには気づいていなそうだ。いまの彼は水季と海のことでいっぱいいっぱいなのだ。

「血でも法律でもつながってないですからね」「弱いもんですよそばにいただけの他人なんて」とさみしい気持ちになっているところを、ものすごーく上から引きで撮影することで、津野くんと三島が小さく映り、その遠い距離は、海の家族になれない寂しさのようだった。

◆子供連れ再婚した月岡家と海との対面

一方、月岡家と海はいよいよ対面を果たす。大和と海、それぞれにカメラがぐーと寄っていくことで、互いが互いを注目しているのがわかる(今週の演出はチーフの風間太樹)。

月岡家の場合は、子供連れの再婚で、夏と和哉、ゆき子と大和は、血のつながりはないながら法律ではつながっている。大和は血のつながっていないゆき子と関係性は友好だが、「お母さん」(亡くなった母)と「ママ」(ゆき子)と呼び分けていて、その秘密を海と共有する。

◆血がつながった人もつながってない人も混ざって新しい家族へ

終盤は、畳み掛けるように髪、髪、髪。弥生は美容サロンに行き、見知らぬシンママが美容師と話している内容を小耳にはさむ。ここにもまた、美容に使える時間もお金も潤沢ではない人がいる。

津野くんは自宅ソファの隙間に海の髪ゴム(冒頭の回想でつけていたもの)を見つける。海は津野くんの自室にも来ていたのだと思うと、同情を禁じえない。津野くんは夏と比べて、髪を結うのもドライヤーをかけるのもたぶん巧いだろう。

南雲家では、夏が海の髪にドライヤーをかけている。ものすごーく距離をとっておそるおそる乾かしている夏に、朱音も、海も、じりじりしている。他者との距離を異常なまでに取ってしまう夏はなんて不器用なのだろうか。

だが、それでも楽しい我が家。4人分のおコメを何合炊くか翔平はわからない。たぶん、はじめての4人暮らしなのだろう(水季がいたときは3人暮らし)。朱音と翔平は未知なる4人分のおコメを炊く生活にわくわくしている。

弥生はひとり、自室で、海の好きなコロッケづくりを練習している。海の好きな「すみっコぐらし」の絵本も準備して。血がつながった人もつながってない人も混ざって新しい家族の形ができはじめているのだ。そこに津野くんも入れてあげてほしい。

ところで、ゆき子は、夏の父は「どっかで元気にしてるでしょ」と言っていた。血のつながった夏の父はそのうち出てくるだろうか。そうなったらそうなったでまた一波乱ありそうだが。

さて、「髪」のつぎは何(なに)?

<文/木俣冬>

【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami

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