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朝ドラ『虎に翼』34歳俳優が“横顔ばかり”なワケ。「日本屈指の美形」の魅力が引き出される瞬間に注目

女子SPA! 2024年8月2日 8時44分

『虎に翼』(NHK総合)の主人公・佐田寅子の開心術はすごい。最初は単なる変わり者にしか見えなかった星航一(岡田将生)が、今や笑顔の人になっている。

 それにしても笑顔の人になってからの航一は横顔ばかり写る。それはなぜだろう?

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、横顔ばかり写る理由を考える。

◆看板メニューのハヤシライス

「お二人ともいつものでいいのかしら」

 佐田寅子(伊藤沙莉)にとっては、明律大学女子部時代から一緒に法律を学んだ学友。最高裁判所初代長官・星朋彦(平田満)の息子で、今は新潟地方裁判所の判事である星航一にとっては、なじみの喫茶店の店主。

 男爵家出身の桜川涼子(桜井ユキ)は、戦後、新潟の地で元お付きの玉(羽瀬川なぎ)とともに喫茶店ライトハウスを営んでいる。街の人々から愛されるこの店に、常連客の航一が寅子を連れてくる。寅子と涼子が再会したのが、第17週第81回。

 それからというもの、寅子と航一にとって憩いの場所になる。毎週通ってくれる二人に対して涼子が、看板メニューである「いつもの」ハヤシライスを提供する。それを嬉しそうに待っている航一の表情が毎回見逃せない。

◆見切れるくらいぎりぎりの航一

 広くはない店内だが、寅子と航一には定席がある。調理場の様子が見え、涼子と玉と楽しく会話できるカウンター席。カウンター内から見て、右手に航一、左手に寅子が決まって座る。

 基本は寅子と涼子が女子部時代のようにおしゃべり。航一は黙っている。カウンター内から運ばれてくるハヤシライスを見て、航一はただただ嬉しそうに微笑む。

 第81回、ハヤシライスを初めて食べる場面では、画面上手の航一が見切れるくらいぎりぎりで写り込んでしまったかのように捉えられている。その後の喫茶店場面でも、航一は寅子の横で見切れそうになることが多い。

◆横顔ばかり写る理由

 なんでちゃんと航一の顔全体を写してあげないんだろう? カウンター内から航一の顔正面を捉えても、すぐに横を向く。なかなか顔正面が写らず、カメラは彼の横顔ばかり意図的に捉えているように見える。気づけば、この場面も横顔、あの場面も横顔という具合に。

 その理由はたぶん、寅子と出会って以来、航一がどんどん心を開いていく素直な変化を捉えるためだと思う。あんなに取り付く島がない人物像だった彼が、第16週第79回以降、優しく微笑むようになった。

 第18週第87回では、猪爪家の元女中・稲(田中真弓)がライトハウスの手伝いに入り、カウンター内で寅子の女学生時代についての昔話を繰り広げる。

「昔からお優しいお嬢さんでしたから、知らないうちに人に寄り添ってしまうというか、相手もどんどん心が近付いてしまうというか」と話す稲に対して、カウンター席で傾聴していた航一が「なるほど」と発する。

 自分の心の変化をはっきり認識した瞬間だが、ここでも航一の顔が正面から短く写されたあとにすぐ横顔が写ることで、表情の陰影が強調されている。

◆美麗俳優の魅力

 このカウンター席、言うなれば、航一の心情変化と表情の変化を定点観測するための場所。観測の最適なポジションとしてカメラは、岡田将生に対して横向きに置かれる。

 考えてみると、日本屈指の美麗俳優である岡田将生の美しさとは、横顔の魅力として引き出されることが多い気がする。キャリアの重要な転換点になった『昭和元禄落語心中』(NHK総合、2018年)では、老けメイクを施して落語家・八代目有楽亭八雲を演じ、顔正面ショットが基本ながらときおりインサートされる横顔が、研ぎ澄まされた美しさをたたえていた。

 背筋がこおるほどの美しさにまで到達するのが、さらなる転換の演技を印象付けた『ドライブ・マイ・カー』(2021年)。同作の主人公・家福悠介(西島秀俊)と同乗する夜の車内。長い会話場面で、岡田将生の横顔が恐怖に縁取られる。役柄としては、殺人を犯した俳優の横顔でもあった。

◆「なるほど」と「にっこり」のハイブリッド

 転換点となった出演作品を経て、『虎に翼』の航一役で神秘的な雰囲気に磨きをかける。第85回で、航一が寅子と娘・優未(竹澤咲子)と食事する場面。「航一さんは戦時中に何か……」とたずねる寅子に対して、右手人差し指を静かに唇にあてて「秘密です」とだけ答える瞬間、航一の横顔がこれまででもっともアップで写る。

 そのあと、お会計を払うために座敷を出た航一が襖の前で立ち止まり、うつむく。これもやや寄りの横顔。あるいはその直前。杉田兄弟弁護士の兄・杉田太郎(高橋克実)が、優未を見て戦死した孫娘を思い出して号泣する場面。

 太郎のことをあまりよくは思っていなかった航一が彼のことをぎゅっと抱きしめる。「ごめんなさい」としきりに謝る航一も横顔。不思議な空気感を持った人ではあるが、どの横顔もそれぞれ温かい。

 その座敷席は、杉田兄弟が主催する麻雀大会のためのものだった。頑張って麻雀を習得しようとする寅子が、麻雀牌が入った袋を取り出す第86回の場面もいい。大の麻雀好きの航一が、にこっとして「なるほど」と発する表情は、寅子が「航一さんの拠り所」と指摘する「なるほど」と「にっこり」のハイブリッド。

 しかもここは横顔ではなくちゃんと正面から。最高裁判所人事課長・桂場等一郎(松山ケンイチ)のトレードマークであるへの字とハの字へ自在に変形する唇に匹敵する強烈なハイブリッドだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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