紅茶文化だから、が正解ではありません。
食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。
先日久しぶりにイギリスに行ってまいりました。旅の目的は、コロナ後の食リサーチ。レストランやホテル、スーパー、マーケットなどをたくさん回り、リアルな状況を確認できました。
そしてスタバマニアでもある私は、イギリスにあるスタバにもたびたび足を運ぶことに。そこで感じたのは、「日本みたいに盛り上がってないな」という印象だったのです。昨年訪れたフランス・パリではどこに行ってもスタバがあり、グッズも含めて充実していたのに……。いったいどうしてなのでしょうか?
そこで今回は、イギリスでスタバが王者として君臨していない理由について考えてみることに。「もともと紅茶文化だからでしょ?」という予想をしたくなりますが、実はそうとは言えない、明らかな理由がありました。
◆①コーヒー文化はスタバよりもずっと前からはじまっていた
まずはカフェ文化がいつどこではじまったのか? というところから確認していくと、その答えは、16世紀後半から17世紀前半、フランスとイタリアからということになります。
1686年にパリで「カフェ・ド・プロコープ」、1720年にヴェネチアで「アッラヴェネツィア・トリオンフォンテ」というカフェがオープン。この時にすでにカフェラテが誕生しています。
実はイギリスにおいてコーヒー文化がはじまったのは、カフェよりも前の1652年の「コーヒーハウス」という存在でした。コーヒーハウスとは、コーヒーを飲む憩いの場。大人の社交場として人気を集め、ロンドン市民が集まりさまざまな情報を交換をするようになりました。
さらに新聞が置かれ、郵便や株式取引、保険などの役割を果たす場にもなっていたそうで、そこには必ずコーヒーがありました。
またイギリスの紅茶文化の国だと思われがちですが、紅茶の喫茶習慣がはじまったのはコーヒーハウスより後の1662年から。つまり、イギリスにおいてはコーヒーと紅茶は共に古い歴史がある飲み物なのです。
◆②イギリスには「COSTA(コスタ)」がある
それでは現代のイギリスにおいてはコーヒーショップがどのような状況になっているのか? という話に移りましょう。
スタバがアメリカ・シアトルで創業したのは1971年。実は同じ年にイギリスで創業したのが、「Costa Coffee(コスタコーヒー)」でした。創業者のブルーノ・コスタとセルジオ・コスタの兄弟がコーヒーの焙煎所からスタートし、1978年にはロンドンのヴォクソール・ブリッジ・ロードに初店舗をオープン。
その後、身近なコーヒーショップとして業界1位に君臨しています。つまりスタバとしては先駆者がすでにいる状況で、現在店舗数においてもコスタが2467店舗(2018年9月)、スタバが1266店舗(2023年10月)と圧倒的な大差をつけてリードしています。
またイギリスでは日本のようなアイスコーヒーやフラペチーノが主流ではなく、ホットドリンクとして味わう習慣が浸透している(アイスコーヒーを飲む人ももちろん少しずつ増えているようですが)ため、後から参戦したスタバは強みを発揮しにくい環境とも考えられます。
またロンドンにおいてグッズコーナーを見ていくと、日本やパリよりもバリエーションは少なく、保温・保冷機能のないタンブラーが主流になっており、グッズを手にする人はほとんど見かけませんでした。
◆③過去のスキャンダルとイギリス創業チェーンの存在感
スタバが圧倒的に独走できない理由は他にもあります。
それは、スタバのイギリスにおける税金逃れスキャンダル(※)と、イギリス創業の大手チェーンがコスタ以外にもあり、確かな存在感を発揮しているから。
例えば、「Caffè Nero(カフェネロ)」。エスプレッソにこだわったイタリアスタイルのカフェチェーンであり、スタバよりも大人の雰囲気が漂います。そしてもう一つは「Pret a Manger(プレタ・マンジェ)」。サンドイッチを主力とするファストフードチェーンで、コーヒーのサブスクリプションサービス(1か月あたり30ポンド(6000円前後)でコーヒー商品やココアなどが何杯でも購入可能)を実施しています。
以上いかがでしたか? イギリスにおいてスタバが今後躍進する決め手は、イギリス国民に信頼されること、そして強みや個性をどのように発揮できるか? という点にあるでしょう。今後も注目していきたいと思います。
※スタバは1998年からイギリスでの事業展開をスタート。当初からの14年間にわたり意図的に損失を計上、イギリスにおいて法人税をほとんど納めていないことが2012年に報じられ、大きなバッシングを受けた。イギリス国内ではボイコット運動まで発展。
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12
食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。
先日久しぶりにイギリスに行ってまいりました。旅の目的は、コロナ後の食リサーチ。レストランやホテル、スーパー、マーケットなどをたくさん回り、リアルな状況を確認できました。
そしてスタバマニアでもある私は、イギリスにあるスタバにもたびたび足を運ぶことに。そこで感じたのは、「日本みたいに盛り上がってないな」という印象だったのです。昨年訪れたフランス・パリではどこに行ってもスタバがあり、グッズも含めて充実していたのに……。いったいどうしてなのでしょうか?
そこで今回は、イギリスでスタバが王者として君臨していない理由について考えてみることに。「もともと紅茶文化だからでしょ?」という予想をしたくなりますが、実はそうとは言えない、明らかな理由がありました。
◆①コーヒー文化はスタバよりもずっと前からはじまっていた
まずはカフェ文化がいつどこではじまったのか? というところから確認していくと、その答えは、16世紀後半から17世紀前半、フランスとイタリアからということになります。
1686年にパリで「カフェ・ド・プロコープ」、1720年にヴェネチアで「アッラヴェネツィア・トリオンフォンテ」というカフェがオープン。この時にすでにカフェラテが誕生しています。
実はイギリスにおいてコーヒー文化がはじまったのは、カフェよりも前の1652年の「コーヒーハウス」という存在でした。コーヒーハウスとは、コーヒーを飲む憩いの場。大人の社交場として人気を集め、ロンドン市民が集まりさまざまな情報を交換をするようになりました。
さらに新聞が置かれ、郵便や株式取引、保険などの役割を果たす場にもなっていたそうで、そこには必ずコーヒーがありました。
またイギリスの紅茶文化の国だと思われがちですが、紅茶の喫茶習慣がはじまったのはコーヒーハウスより後の1662年から。つまり、イギリスにおいてはコーヒーと紅茶は共に古い歴史がある飲み物なのです。
◆②イギリスには「COSTA(コスタ)」がある
それでは現代のイギリスにおいてはコーヒーショップがどのような状況になっているのか? という話に移りましょう。
スタバがアメリカ・シアトルで創業したのは1971年。実は同じ年にイギリスで創業したのが、「Costa Coffee(コスタコーヒー)」でした。創業者のブルーノ・コスタとセルジオ・コスタの兄弟がコーヒーの焙煎所からスタートし、1978年にはロンドンのヴォクソール・ブリッジ・ロードに初店舗をオープン。
その後、身近なコーヒーショップとして業界1位に君臨しています。つまりスタバとしては先駆者がすでにいる状況で、現在店舗数においてもコスタが2467店舗(2018年9月)、スタバが1266店舗(2023年10月)と圧倒的な大差をつけてリードしています。
またイギリスでは日本のようなアイスコーヒーやフラペチーノが主流ではなく、ホットドリンクとして味わう習慣が浸透している(アイスコーヒーを飲む人ももちろん少しずつ増えているようですが)ため、後から参戦したスタバは強みを発揮しにくい環境とも考えられます。
またロンドンにおいてグッズコーナーを見ていくと、日本やパリよりもバリエーションは少なく、保温・保冷機能のないタンブラーが主流になっており、グッズを手にする人はほとんど見かけませんでした。
◆③過去のスキャンダルとイギリス創業チェーンの存在感
スタバが圧倒的に独走できない理由は他にもあります。
それは、スタバのイギリスにおける税金逃れスキャンダル(※)と、イギリス創業の大手チェーンがコスタ以外にもあり、確かな存在感を発揮しているから。
例えば、「Caffè Nero(カフェネロ)」。エスプレッソにこだわったイタリアスタイルのカフェチェーンであり、スタバよりも大人の雰囲気が漂います。そしてもう一つは「Pret a Manger(プレタ・マンジェ)」。サンドイッチを主力とするファストフードチェーンで、コーヒーのサブスクリプションサービス(1か月あたり30ポンド(6000円前後)でコーヒー商品やココアなどが何杯でも購入可能)を実施しています。
以上いかがでしたか? イギリスにおいてスタバが今後躍進する決め手は、イギリス国民に信頼されること、そして強みや個性をどのように発揮できるか? という点にあるでしょう。今後も注目していきたいと思います。
※スタバは1998年からイギリスでの事業展開をスタート。当初からの14年間にわたり意図的に損失を計上、イギリスにおいて法人税をほとんど納めていないことが2012年に報じられ、大きなバッシングを受けた。イギリス国内ではボイコット運動まで発展。
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12