大河ドラマも中盤を過ぎてくると、主人公を取り巻く人々が次々と去っていく。今回は、まひろにとって大切な人が逝った。
これも、まひろの新たな人生のスタートにつながるのか。
◆さよなら、宣孝
宣孝(佐々木蔵之介)がこの世を去った。まひろ(吉高由里子)と娘・賢子(永井花奈)のもとに来るときは笑顔でふたりを愛していた。賢子が生まれてから宣孝とまひろは穏やかに、仲睦まじかった。秘密を共有する者同士、というのもあったのかもしれない。
初回からまひろのそばにずっといた宣孝。まひろが宣孝から教わったこと、もらったものは数えきれないほどあるだろう。まひろの父・為時(岸谷五朗)が越前守の職を解かれても、「案ずることはない」という宣孝の存在はなんとも心強い。「自分がいるから大丈夫」と言ってくれる人がいるだけで幸せだ。宣孝の妻であった短い時間は、まひろにとっても少し心に余裕が生まれた時期だったのではないか。
賢子も、宣孝がいなければ生まれなかった。宣孝が再び通ってくれるように、と願うために石山寺に行き、そこで道長(柄本佑)と再会を果たしたのだから。
そんな宣孝の死をまひろが知ったのは弔いの儀も全て終わってからのこと。豪放で快活だった宣孝の姿だけを覚えておいてほしい、という北の方の意向だった。
宣孝の死を知らせに来た使者も、最期の様子を知らないと言う。
妾だから、夫の最期の姿を知ることもできない。そう思うと切ないが、いろんな女性のもとへと通っていた宣孝の、北の方だけしか知らない姿があってもいいのでは、とも思う。
◆道長の大切な人もまた……
「母として」が今回のサブタイトル。
それぞれが母としてどのような生き方をするのか、というのが描かれた。
印象的なのは詮子(吉田羊)だ。息子である一条天皇(塩野瑛久)との衝突。互いに愛する気持ちはあるものの、長い時間をかけて歪な関係となってしまった。
しかし、詮子が息子を大切に思っていることには変わりはない。「四十の賀」で倒れた詮子。一条天皇が駆け寄ろうとするが、触れてはならない、と一喝。穢れに触れてはならない。あなたは帝なのだから、と。穢れるから亡くなった者に触れてはならない、というのは、一条天皇をより孤独にさせているようにも思うけれど、母としても辛いことに違いない。
そんな詮子のそばにずっと寄り添っていたのは道長だった。互いにとって、かけがえのない存在で、ふと気を緩ませることができる間柄。詮子が亡くなったことによって、道長もまた、拠り所を亡くした。
◆道長のふたりの妻の戦い
「四十の賀」では倫子(黒木華)と明子(瀧内公美)の対立も。倫子の息子・田鶴と、明子の子・巌が一条天皇の前で舞を披露したのだ。もちろん、倫子と明子もいる。これには公任(町田啓太)も「妻をふたり同席させるのはよくないなぁ」。公任、昔は女性の心を慮る様子なんて全くなかったのに、大人になられたのですね、と余計なところで少し感じ入ってしまう。
舞を見た一条天皇は、明子の子・巌の舞の師に従五位下の位を授ける。これに田鶴が泣きだしてしまうが、道長はめでたい席では泣いてはならないとぴしゃり。倫子の険しい表情が恐ろしい。
母として、妻として、の戦いが展開されているわけだが、結果、道長の居心地の良い場所がなくなってしまうことになる。道長はもう少しその辺りを気遣っても良さそうな……。
道長の心の中に倫子も明子もいないから、こういうことになってしまうのだろうか。
◆定子が亡くなりききょうは……
愛する定子がこの世を去り、ききょう(ファーストサマーウイカ)は『枕草子』の執筆に集中していた。
それを携えてまひろのもとを訪れる。ふたりのシーンを久しぶりに見た気がする。
まひろのアドバイスから『枕草子』を書き始めたのだから、まひろにも見てほしい、ということだった。
定子のキラキラとした後宮での生活を描く『枕草子』だが、まひろは定子の影の部分も読みたい、と言う。「人には光もあれば影もある。人とはそういう生き物だ」しかしききょうは定子の華やかな姿だけを人々の心に残したいと言う。
定子の生活を間近で見ていたからこそ、だろう。影の部分の描き、それを読んだ人がなんと思うのか。男の子を生めと迫られ、一条天皇を狂わせた女性として陰口を言われ……。そんな定子の無念を晴らしたいという思いがヒシヒシと伝わってくる。
さらにききょうの目的はもうひとつある。道長に一矢報いたい。
定子を追い詰めたのは道長だと考えていたのだ。
定子の兄と弟を配流し、出家した定子を一条天皇から引き離し、自分の娘を中宮の座につけた。そのせいで定子の身も心も弱ってしまった……。
視聴者側としては「道長はそんなことしていないよ!誤解だよ!」と思うのだが、「左大臣・藤原道長は恐ろしき人」という視点もないと、今の道長像もないわけで……と考えると納得である。
そしていよいよ、まひろが物語を書き始めるようだ。書き手として、まひろがどのような苦悩と喜びを表現していくのかも気になるところだ。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ
これも、まひろの新たな人生のスタートにつながるのか。
◆さよなら、宣孝
宣孝(佐々木蔵之介)がこの世を去った。まひろ(吉高由里子)と娘・賢子(永井花奈)のもとに来るときは笑顔でふたりを愛していた。賢子が生まれてから宣孝とまひろは穏やかに、仲睦まじかった。秘密を共有する者同士、というのもあったのかもしれない。
初回からまひろのそばにずっといた宣孝。まひろが宣孝から教わったこと、もらったものは数えきれないほどあるだろう。まひろの父・為時(岸谷五朗)が越前守の職を解かれても、「案ずることはない」という宣孝の存在はなんとも心強い。「自分がいるから大丈夫」と言ってくれる人がいるだけで幸せだ。宣孝の妻であった短い時間は、まひろにとっても少し心に余裕が生まれた時期だったのではないか。
賢子も、宣孝がいなければ生まれなかった。宣孝が再び通ってくれるように、と願うために石山寺に行き、そこで道長(柄本佑)と再会を果たしたのだから。
そんな宣孝の死をまひろが知ったのは弔いの儀も全て終わってからのこと。豪放で快活だった宣孝の姿だけを覚えておいてほしい、という北の方の意向だった。
宣孝の死を知らせに来た使者も、最期の様子を知らないと言う。
妾だから、夫の最期の姿を知ることもできない。そう思うと切ないが、いろんな女性のもとへと通っていた宣孝の、北の方だけしか知らない姿があってもいいのでは、とも思う。
◆道長の大切な人もまた……
「母として」が今回のサブタイトル。
それぞれが母としてどのような生き方をするのか、というのが描かれた。
印象的なのは詮子(吉田羊)だ。息子である一条天皇(塩野瑛久)との衝突。互いに愛する気持ちはあるものの、長い時間をかけて歪な関係となってしまった。
しかし、詮子が息子を大切に思っていることには変わりはない。「四十の賀」で倒れた詮子。一条天皇が駆け寄ろうとするが、触れてはならない、と一喝。穢れに触れてはならない。あなたは帝なのだから、と。穢れるから亡くなった者に触れてはならない、というのは、一条天皇をより孤独にさせているようにも思うけれど、母としても辛いことに違いない。
そんな詮子のそばにずっと寄り添っていたのは道長だった。互いにとって、かけがえのない存在で、ふと気を緩ませることができる間柄。詮子が亡くなったことによって、道長もまた、拠り所を亡くした。
◆道長のふたりの妻の戦い
「四十の賀」では倫子(黒木華)と明子(瀧内公美)の対立も。倫子の息子・田鶴と、明子の子・巌が一条天皇の前で舞を披露したのだ。もちろん、倫子と明子もいる。これには公任(町田啓太)も「妻をふたり同席させるのはよくないなぁ」。公任、昔は女性の心を慮る様子なんて全くなかったのに、大人になられたのですね、と余計なところで少し感じ入ってしまう。
舞を見た一条天皇は、明子の子・巌の舞の師に従五位下の位を授ける。これに田鶴が泣きだしてしまうが、道長はめでたい席では泣いてはならないとぴしゃり。倫子の険しい表情が恐ろしい。
母として、妻として、の戦いが展開されているわけだが、結果、道長の居心地の良い場所がなくなってしまうことになる。道長はもう少しその辺りを気遣っても良さそうな……。
道長の心の中に倫子も明子もいないから、こういうことになってしまうのだろうか。
◆定子が亡くなりききょうは……
愛する定子がこの世を去り、ききょう(ファーストサマーウイカ)は『枕草子』の執筆に集中していた。
それを携えてまひろのもとを訪れる。ふたりのシーンを久しぶりに見た気がする。
まひろのアドバイスから『枕草子』を書き始めたのだから、まひろにも見てほしい、ということだった。
定子のキラキラとした後宮での生活を描く『枕草子』だが、まひろは定子の影の部分も読みたい、と言う。「人には光もあれば影もある。人とはそういう生き物だ」しかしききょうは定子の華やかな姿だけを人々の心に残したいと言う。
定子の生活を間近で見ていたからこそ、だろう。影の部分の描き、それを読んだ人がなんと思うのか。男の子を生めと迫られ、一条天皇を狂わせた女性として陰口を言われ……。そんな定子の無念を晴らしたいという思いがヒシヒシと伝わってくる。
さらにききょうの目的はもうひとつある。道長に一矢報いたい。
定子を追い詰めたのは道長だと考えていたのだ。
定子の兄と弟を配流し、出家した定子を一条天皇から引き離し、自分の娘を中宮の座につけた。そのせいで定子の身も心も弱ってしまった……。
視聴者側としては「道長はそんなことしていないよ!誤解だよ!」と思うのだが、「左大臣・藤原道長は恐ろしき人」という視点もないと、今の道長像もないわけで……と考えると納得である。
そしていよいよ、まひろが物語を書き始めるようだ。書き手として、まひろがどのような苦悩と喜びを表現していくのかも気になるところだ。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ