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池上彰氏の番組内容「テレビで放送すべきではありません」「俗説中の俗説」批判の専門家を直撃

女子SPA! 2024年8月6日 8時45分

<7月20日のテレビ朝日「池上彰のニュースそうだったのか!!」で、「日本」の読みが「ニッポン」から「ニホン」になったのは〈せっかちな江戸っ子が早口で話し〉たためと解説。これはきわめて明白な俗説中の俗説で、「※諸説あり」と断ったとしても、テレビで放送すべきではありません。>とX(旧Twitter)に投稿したのは国語辞典編纂者の飯間浩明さん。

◆テレビではよく目にする「諸説あり」に警鐘

テレビではよく目にする「諸説あり」という言葉。

なんとなく便利な言葉として使われていますが、飯間さんは<『諸説あり』という表現は、専門家が真実を追究して、それでもなおいくつかの説に分かれる、という場合にこそ使うべきです。専門家なら「それは事実に反する」と、あっさり否定できるような説を「諸説」の中に加えるべきではありません。「諸説あり」がフェイクを拡散させる免罪符になってはいけません>(X投稿より)と警鐘を鳴らします。

投稿には2万以上のいいね!をはじめ、大きな反響がありました。たしかにテレビで放送していると信じてしまう人が多くなりますよね。飯間さんに詳しいお話を聞いてみました。

◆明らかに事実でない説明を放送

「たまたまテレビをつけていたところ、明らかに事実でない説明を放送していたので、見過ごすことはできないと考えて投稿しました。番組の姿勢を問う、などと大げさに言うつもりはありません。ただ、専門家に確認を取ればすぐに俗説だと分かる説を放送すべきではない、とは思いますね」(飯間浩明さん)

飯間さんによると、番組内で説明されていた「“日本”の読みが“ニッポン”から“ニホン”になったのは、せっかちな江戸っ子が早口で話したから」という説はありえないのだそう。

室町時代末期にはすでに“ニッポン”および“ニフォン”(“ニホン”の先祖に当たる発音)があり、江戸時代に入って、京都でも江戸でも“ニホン”の発音になったとのこと。「せっかちな江戸っ子」はどう考えても無関係で、「諸説あり」の範疇(はんちゅう)から外れるといいます。

◆起きた理由は…人選ミスをしないための方法

それではなぜ、専門家が見れば「明らかに嘘」と分かる内容がテレビでもっともらしく紹介されてしまったのでしょうか。

「過去に何度か別の番組で【せっかちな江戸っ子】説を唱えている人がいたので、今回もその人の話を聞いたのではないでしょうか。大学名誉教授の肩書もある人で、番組の制作会社は『専門家だから間違いないだろう』と思ったのかもしれません。でも、ご当人の専門は日本語ではないようです」(飯間浩明さん)

素人がなにかしらの専門分野について取材したい場合、どの専門家が一番詳しいのか判断するのは難しいものです。今回の番組スタッフはどのように人選すべきだったのでしょうか?

「新聞社の人に聞いた方法ですが、まずは大学院生に『こういうことについて詳しい先生を知りませんか』と尋ねるというのです。なるほど、その方面の研究をしている院生ならば、妥当な人選ができますよね。SNSで情報を発信している院生も多いので、コンタクトを取ってはどうでしょう。

大学院生と知り合いになれなくても、複数の人にセカンドオピニオンを求める方法もあります。ある研究者の著作の内容が事実かどうか知りたいとき、その内容を別の専門家に当ててみるのです。複数の専門家が事実と認めれば、一応は正しいと考えてもいいでしょう」(飯間浩明さん)

◆言ってもいないことが放送!フェイクへの感度が鈍ってしまった現代

飯間さんは過去に、方言に関するテレビの取材に回答したところ、その回答から飛躍した内容を放送されてしまった経験があると言います。

「事前取材で、最近の女子高校生が自分を『わい』と呼ぶことについて、その『わい』はどこから出てきたのか?と聞かれました。

『関西を中心に青森から鹿児島まで全国で使われている方言なので、どこから来たとかは言えませんね』と答えたんです。ところが、実際に放送された番組を見ると、『女子高生の“わい”のルーツは青森方言!?』ということになっていました」(飯間浩明さん)

なぜ言ってもいないことを放送されてしまったのでしょうか!?

「制作会社の人が、青森がルーツだったら面白いと思ったのではないでしょうか。どうせテレビなんて真面目に見ている人はいない、教育番組じゃないし、と考えているのではないかと疑います」(飯間浩明さん)

◆有名人ブログから抜粋しただけの「コタツ」記事

テレビ以上に、ここ数年で特にネットリテラシーは一気に悪化した感があります。Xでもインプレッションを稼ぐためだけに嘘か本当か紛らわしい情報をそれらしく流すアカウントや、TikTokでも著作権を無視した切り抜き動画が量産されており、「切り抜きでしかテレビは見ない」と豪語する若者も少なくありません。

「切り抜きで見たから元のコンテンツは見なくてもいいとなると、元のコンテンツの制作者は意欲が下がりますね。それから、タレントなどの文章や発言を「まず」「そして」などでつないだだけの「コタツ記事」も増えました。私は『原文盗用型』と呼んで批判しています」(飯間浩明さん)

「私自身の投稿もそういうコタツ記事になっているのを見つけたことがあって、がっかりしました。その種の記事が、元のSNSやブログのアクセス増加につながるかというと、あまり期待できません。元の記事から、記者が鋭い視点でニュースバリューを作り出すというのなら分かりますが、単にコピペして、自社のニュースサイトのアクセス数を上げるというやり方は倫理性を問われます。

『諸説あり』とごまかす番組や、TikTokの切り抜き、コタツ記事などに慣れてしまうと、『とにかく面白ければいい』という考え方に陥っていきます。たしかに、“ニッポン”が“ニホン”になった理由も、女子高生の『わい』のルーツも、人命に関わるようなものではありません。どうでもいい人にとってはどうでもいい。

でも、その『どうでもいい』の積み重ねが、事実に対する感度を鈍らせることになります。事実の軽視がどういう事態につながるか、私たちはもっと警戒すべきです」(飯間浩明さん)

なんとなくテレビやネットを鵜呑(うの)みにしてしまうことは、現代では極めて危険なことだということですね。情報に触れたら「本当にその情報は正しいのか?」と少し疑問に思うだけでも事実への感度が鈍ることを防げるはずです。

<文/女子SPA!編集部>

【女子SPA!編集部】
大人女性のホンネに向き合う!をモットーに日々奮闘しています。メンバーはコチラ。X:@joshispa、Instagram:@joshispa

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