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47歳女優の“神秘”感の正体とは。大物ハリウッド俳優との緊張キスシーンで世界的な存在に

女子SPA! 2024年8月8日 15時46分

 地上波の連ドラで小雪を見るのは久しぶりだ。毎週木曜日よる9時から放送されている『スカイキャッスル』(テレビ朝日)に出演する小雪が、いったいどんな姿で登場するのか。

 想像を超えてぞくぞくする。物語の展開そっちのけで、小雪に目が釘付け。日本だけでなく世界を魅了してきた存在に目が眩む。どうしてこんなにクリアな存在感を放ち続けているんだ……?

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、小雪の魅力を解説する。

◆全然ワクワクしてこないのだけれど……

 7月期のドラマは正直、肩が凝るものが多い。放送前から期待値をあげるばかりで、中身はロボットのようなカメラワークとカット割り。アグレッシブなだけで胃もたれするような俳優たちの演技……。

 有象無象の中、『スカイキャッスル』が韓国の大ヒットドラマの日本リメイクであり、『梨泰院クラス』(2020年)の制作スタジオと日本版『六本木クラス』(2022年)の制作スタッフが再タッグを組んだ作品と言われてもねぇ。全然ワクワクしてこないのだけれど、でも本作には特別な魅力を放つ存在がいるので、かろうじて大丈夫。

 小雪である。第1話の初登場から演技に寸分の狂いも、無駄もない。視線の動きだけ見てもすべてが計算づく。カメラが横アングルから捉える喉の微動すら見逃せない。大げさなドラマ展開は単純に肩が凝るけど、小雪の存在感を前にすれば、背筋をピンとして見ることが最低限の礼儀だと思ってしまえる。

◆最恐の鬼教師を彷彿とさせる見た目

 本作のメイン舞台は、大層豪華な邸宅が並ぶ住宅街・スカイキャッスル。そこには帝都病院に勤務する医者家族たちが暮らす。各家庭の最大の関心事と言えば、子どもたちを立派な跡継ぎとしての医者にすべく、名門校合格を目指す受験戦争。

 一足先に息子を名門校に合格させたのが脳神経外科部長・冴島哲人(橋本じゅん)を家長とする冴島一家。受験指導を担当したのが、小雪扮する受験コーディネーター・九条綾香である。指導料は年間3000万円。少人数指導で必勝を掲げる合格請負人だ。

 指導に関すること以外、余計なやり取りはしない。ピクリとも笑わない。漆黒の衣装をまとい、髪をまとめあげているその見た目は、『女王の教室』(日本テレビ、2005年)で天海祐希が演じた最恐の鬼教師を彷彿とさせる。同役と酷似する九条の役柄が、小雪の無駄のない演技と見事にコミットしている。

◆映画的な唇同士の接触

 それにしてもドラマ作品に出演する小雪の姿を久しぶりに見た気がする。現在、47歳。(あまり好ましい表現ではないが)稀代の“クールビューティー”と形容されていた頃が懐かしい。

 もともとはパリ・コレクションにも参加するモデル出身だった彼女が俳優デビューしたのは、織田裕二主演の『恋はあせらず』(フジテレビ、1998年)。映画俳優としての才能もすぐに開花し、日本アカデミー賞主演女優賞を受賞した『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)など、公開から20年近く経っても小雪マジックの華やかさは色褪せることがない。

「ウイスキーが、お好きでしょ」のメロディでお馴染みのサントリーウイスキー角瓶テレビCMのイメージが強い人も多いと思う。

 近年では、一ノ瀬ワタル主演のNetflix配信ドラマ『サンクチュアリ-聖域-』(2023年)で相撲部屋に活気を供給する女将を演じたり、朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合、2023年)では、『極道の妻たち』(1986年)の岩下志麻ばりの関西弁で凄みを利かせたりする。

 でも筆者が驚嘆し続けているのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』よりむしろ前の映画作品。エドワード・ズウィック監督作『ラスト サムライ』(2003年)だ。近代的な明治政府軍に対する旧武士階級の敗残の美学を描いた同作で、主演俳優トム・クルーズの相手役になったのが小雪だった。

 渡辺謙扮する士族リーダーの妹・たか(小雪)が、自分の夫を殺した相手であるネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)に、夫の鎧を着てほしいと頼む場面。無言の緊張感が持続する画面内、たかがネイサンの服を脱がせていく。

 ある瞬間ふとトムと小雪の唇と唇が重なる。何か触れてはいけないものに触れてしまったかのように、小雪が後ろめたくさっと唇を引く。単なるキスでも接吻でもない。それはどこまでも甘く、映画的な唇同士の接触だった。

◆世界的な存在になった瞬間

 普通に考えて、トム・クルーズと唇を重ねた日本人俳優はたぶん小雪だけだろう。映画史に記憶された場面を生きた小雪はあの瞬間、確かに世界的な存在になった。そしてそれが今でもゆるやかに彼女の俳優人生を持続させている。

 私生活では2011年に松山ケンイチと結婚。3児を出産した。それでも俳優としてトム・クルーズの唇と接触した肉の記憶は永遠に残る。すごく大げさなことを言ってるように聞こえるかもしれないが、小雪とはそういう神秘を体現してしまった俳優なのである。

 結婚以降、俳優としての露出は減った。それなのに、ぼくらが小雪の存在を忘れたことがあっただろうか? 連ドラ初主演作『きみはペット』(TBS、2003年)で松本潤とトレンディなラブロマンスを演じていた頃は確かに懐かしい。

 でも、同作以来14年ぶりの主演ドラマとなった『大貧乏』(フジテレビ、2017年)の小雪に対しては、復帰作だなどと軽々しく思わなかった。『大貧乏』の裏で放送された木村拓哉主演ドラマ『A LIFE~愛しき人~』(TBS、2017年)には、松山ケンイチが出演し、リアルな夫婦対決だと形容されてもいた。それがどれだけ小雪という存在を矮小化するのか。小雪とは、いつでも現在進行形で特別な存在なのだから。

◆解像度を数値化する存在

『スカイキャッスル』第2話冒頭で、九条からの指導権を獲得したはずの浅見紗英(松下奈緒)が、前の指導家庭だった冴島家の崩壊の一因が、九条にあるのではないかと疑念を抱いてこう言う。

「まるで人間の血が通わない機械みたい」

 確かに九条は鬼のサイボーグ講師である。役柄に合わせて小雪の立ち居振る舞いもサイボーグ感満載。裏を返せば、このセリフはあえて機械的な演技に徹する小雪への褒め言葉なのではないか?

 小雪の演技は鋼のように無駄がないばかりか、本作に出演する他のどの俳優とも違って、変にアグレッシブになることを封印している。リアルにサイボーグになろうとしている方向性の先にはやっぱりあの役との類似が。第2話ラスト、計算外のハプニングで九条が左腕に切り傷を負うのは、『女王の教室』第7話で天海扮する阿久津真矢が右手を負傷する姿と似ているのだ。

 視聴者は九条の存在を通じて、スカイキャッスルという錯綜した空間を俯瞰し、事の経緯を客観的に観察できる。ラビリンスのようなドラマ全体の構造上、展開が見えづらかったり、分かりづらい部分をきめ細かい解像度まで上げて見やすくしてくれるのが、小雪の役割である。

 逆にいえば、本作の見え方は彼女次第でもある。そういえば、家庭用テレビとして当時高画質だったパナソニックのビエラCMに小雪が起用されていたことを思い出した。あらゆる事物を鮮明に写し出す画面内の小雪自体が、解像度を数値化する存在だったからだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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