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目黒蓮、棒立ちのしぐさが見事。人に合わせてしまうタイプの主人公は一番何もできない/『海のはじまり』

女子SPA! 2024年8月12日 8時46分

月9『海のはじまり』(フジテレビ系 月曜よる9時~)第6話は、因縁の物語になっていた。

水季(古川琴音)と弥生(有村架純)は同じころに妊娠していたのみならず、同じ産婦人科に通っていて、患者が自由に記すノート上で出会っていたのだ。

弥生は中絶したことをこのノートに書いて、このノートを読んで、生むか産まないか迷っている人に、他人のせいにしないで自分の意志で選択することをお勧めしていた。

◆海が存在しているのは弥生のメッセージのおかげでもある

言ってしまえば、海(泉谷星奈)がいまこの世に存在しているのは、弥生の書いたメッセージのおかげでもあったのだ。父・翔平(利重剛)に次いで弥生の言葉が水季を思い留まらせた。バタフライエフェクト。物事は間接的につながっている。

そういうことがあると海の存在がますます愛おしくなる。単に水季と夏(目黒蓮)の子供ではなく、みんなの子供という感じ。子供とはこういうふうにみんなで慈(いつく)しみ育んでいくものなのだろう。

毎回、水季と海の回想シーンが丁寧に出てきて、思い出が色濃いのだが、水季の念が強く残っていて海を頼むと残された人たちに語りかけているような気もする(それがホラーといわれる所以かも)。

さて。夏は南雲家にお泊り中。朝、起きると、ベッドの横には海がいる。海の部屋は海(sea)のように青い。朱音(大竹しのぶ)に起こされて、ふたりでゆっくり起きて、朝ご飯。

海が卵焼きを落とすと、さっと動くのは朱音と翔平。テーブルをふいたティッシュを海がゴミ箱に投げ入れそびれても、一番近くにいる夏は咄嗟(とっさ)に動けない。

そんな彼にもようやく自主的に動くチャンスがやってきた。海の髪を結うチャンスが訪れる。ところが海は「編み込み」をねだり、編み込みは事前に習ってなかった夏は途方にくれる。

結局、朱音が編み込みしてくれて、夏と海は水季と海が住んでいた部屋へとお出かけ。すでに解約しているが、大家(岩松了)が入れてくれた。

家賃も滞納しないしゴミの分別もちゃんとしていたと聞いて、夏の知っている自由人の水季らしくないと思うが、大家は「そういう人ががんばってそうしてたんでしょうから」よりちゃんとしていたのだろうと水季の努力を認めてくれた。こんな理解力のある大家さん、いいなあと思う。

◆「僕のほうが悲しい自信があります」津野くんのせいいっぱいの意地

別の日は、夏が微妙に左右ふぞろいながら海に三つ編みをして、図書館へ出かける。残念ながら休館日だったが、海が津野(池松壮亮)を呼び出し、特別に開けてもらえた。

休日の勤務先を貸切状態で楽しむといえば、池松壮亮主演映画『ちょっと思い出しただけ』を思い出す。池松演じる主人公が水族館でバイトをしていて、休日、水族館に忍び込み、恋人(伊藤沙莉)とはしゃぐエピソードがあるのだ。

『海のはじまり』でも池松演じる津野は、一度、休日に図書館に入ってみたかったと言って、海以上にはしゃぐ。初回からずっと浮かない顔ばかりしていた津野くんが大声を出して明るく笑いながら走りまわり、ぐいっと海を抱き上げる。この一連の場面は最高に解放感にあふれていた。

津野は、やってみたかったという、昼間に図書館でビールを飲むことを、夏につきあってもらう。そこで彼は「比べるもんじゃないとかよく言いますけど、月岡さんより僕のほうが悲しい自信があります」とマウントをとる。

それから部屋のソファでみつけた髪ゴムを水季につける。せっかく夏が結った三つ編みをほどいて、ひとつ結びに。

このとき海が少し夏を気遣うのと、三つ編みのおかげで髪にふわふわとウエーブがかっていい感じになっているところには救いがあるが、手際よく津野が髪をほどいてほぐす手つきを見る夏の顔はせつなそうだ。まるで「月岡より津野のほうが髪を結う自信があります」を見せつけられたように。

でも法的にも血縁的にも関係性の弱い津野くんのせいいっぱいの意地だからここは津野くんのやりたいようにやらせてあげたい。

◆目黒蓮、人に合わせてしまうタイプの夏の棒立ちの仕草が見事

みんな海を甘やかしすぎかと思えるほど慈しんでいる物語かと思いきや、実は夏が一番何もできなくて、みんなが気を使って彼の居場所を作っているような物語でもある。「夏くんが三つ編みしてくれたからふわふわ」「またやってね」と海は気遣っているわけではなく本心からそう言うのだろう。

第6話は津野の素直な面が出たのと同時に、夏の動きの悪さが際立ってしまう。夏はとても不器用な人で仕方ないのだが、食事のときも、髪を結うときも、図書館でも、ことごとく自分の何もできなさを突きつけられて、途方にくれて見える。

目黒蓮はこのなにもかも手をこまねいてしまう感じがよい。実際の目黒はもっと動きのいい人であろう。にもかかわらず、こんなにも何もできない、棒立ちの仕草が見事だし、逆に親しみがわく。気持ちが一歩遅れがちな人はいるものだから。

人に合わせてしまうタイプで、自分で決めることが苦手。待ってないで自分で動けと職場でもよく言われるし、実際、ある程度やることを決められているほうが楽。という夏のような人はけっこういるのではないだろうか。

◆どこまでもやさしい、他者を肯定する世界が海を介して伝播

朱音は夏のそういうところが子育てに向いていると言う。自分のペースを崩されてイライラしたりしない、そこが夏のいいところなのだと朱音は彼を肯定する。ああもうどこまでもやさしい、他者を肯定する世界は、海を介して大人たちに伝播(でんぱ)していく。たぶん、海がいなかったら、みんな自分勝手にぎすぎす生きてきたのではないだろうか。

何もできない夏だけれど、カメラのシャッターは押せる。何もできないけれど、夏は海を見つめている。目黒蓮、カメラのCMに出そう。カメラを構える姿が似合う。

夏はまだまだ海に対しておじけたところがあり、南雲家も月岡家も弥生も、夏と海をどう対応するか悩んでいる。でも、冒頭に記したように、彼らが思う以上に、水季と弥生は運命的なので、心配はないだろう。

それよりもこのドラマで大事なのは、子宮頸がんの検診を受けることなのだ。早めに検診を受けていれば、水季のような悲しい運命をたどる可能性は少なくなる。

第2話に続き、第6話でも弥生が後輩社員に検査の大切さを語った。テレビで子宮頸がん疾患啓発の新キャンペーン『いつかじゃなく、「今」だ。』のCMを見かけるたび、『海のはじまり』を思い出す。

<文/木俣冬>

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