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登録者数180万人超えのYouTuber→24歳で俳優転身は“遠回り”。連ドラでの演技が物語るのは

女子SPA! 2024年8月23日 8時45分

 チャンネル登録者数100万人をわずか1年で達成してしまったYouTuberが、YouTuber事務所ではなく、あえて大手に所属する。YouTube界の異端児と呼ばれるカルマの戦略は計り知れない。

 同名漫画の実写化ドラマ『波よ聞いてくれ』(テレビ朝日、2023年)ゲスト出演をきっかけに俳優活動にも力を入れている。現在では“元YouTuber俳優”という認識さえあるほど、演技には定評がある。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、「遠回り」を肥やしに独学で演技を磨いてきたYouTuber俳優カルマについて解説する。

◆生身の俳優による翻訳

 漫画作品を原作とする実写化映画で演技する俳優というのは、ものすごい違和感とのせめぎあいを演じているように思う。その違和感とは、2次元の漫画世界を3次元の生身の俳優が映画として翻訳する労力だと言い換えてもいい。

 2002年に公開された曽利文彦監督の『ピンポン』をエポックメイキングとして、今では当たり前のように実写化作品を享受している。原作漫画が映像に置き換わるとき、俳優はキャラクターのビジュアルの再現度など、原作ファンの厳しいチェックを受けなければならない。

 生身の俳優による翻訳作業としての演技はこうして困難を極めるのだが、2010年代に数々の少女漫画原作の“きらきら映画”に主演して実写化王子の異名を取った山﨑賢人は、むしろ涼しい顔して百人力の置き換え術を心得た強者だった。

◆俳優活動にも挑戦する人気YouTuber

 それからもうひとり、同じ曽利監督作『あしたのジョー』(2011年)で日本漫画の伝説的キャラクターをスクリーン上に立ち上がらせた山下智久も特筆すべき存在。山﨑と山下の実写化の才人ぶりは桁外れであり、彼らと同様に他の俳優たちが演じられるわけではない。事実、多くは実写化で苦戦を強いられている。

 原作ファンが抱く不安要素を少しでも軽減するため、キャラのビジュアルが微細に重視され、原作の世界観を尊重する。それによって俳優たちが漫画キャラの衣装を着せられたコスプレ的作品にしか見えないものは多い。

 2次元から3次元へ置き換える過程では、白々しく力んで決め台詞を吐くアグレッシブな演技も見てられない。なんてことが結構な頻度で起こるのが実写化作品の不都合なのだが、最近筆者はちょっと異質な存在を見つけた。近年、俳優活動にも挑戦している人気YouTuber・カルマである。

◆実写化でもちゃんと3次元として存在

 高橋文哉が一人二役でいじめられっ子と1000人のヤンキーを束ねる長を演じ分ける『伝説の頭 翔』(テレビ朝日、毎週金曜日よる11時15分から放送)は、山下智久主演でドラマ化された『クロサギ』や『正直不動産』の夏原武の原作(原案)デビュー作である。高橋扮するグランドクロスの伊集院翔と敵対勢力ブラッドマフィアの頭・東城真をカルマが演じている。

 初登場は第2話。入院中の翔になりかわった山田達人(高橋文哉)が地元のヤンキーにカツアゲされそうになったところへ、東城が現れて敵を撃退してくれる。「翔ちゃん」としきりに言って親しげだが、何か邪悪な了見があるように見える。

 そのあとの場面でもグランドクロスの窮地をいいタイミングで助っ人する東城は、終始おどけている。かと思いきや、得意技の顎外しで相手の顎をつかんではなさない。恐るべき悪のポテンシャルを秘めたキャラクターを演じるカルマの演技はなかなか迫力があり、ちゃんと3次元として存在している。

 おちゃらけキャラの空気感や台詞の発し方も白々しくない(このあたりは北総愚連隊総長・瀬山大護役の金城碧海のおおげさな熱の入り方と比較すれば歴然)。主人公と同じ職場で働く嫌味キャラを演じた『推しが上司になりまして』(テレビ東京、2023年)では、特に眉毛などを動かし過ぎて表情を誇張していたからなおさらすっきりした演技の印象を与える。

◆カルマの演技の核心

 そもそも実写化作品との相性がいいのかもしれない。初演技作として記憶されている『波よ聞いてくれ』と続く第2作『推しが上司になりまして』はいずれも漫画原作。今のところ、出演作すべてが、実写化作品ということになる。

 特に『波よ聞いてくれ』第6話にゲスト出演した演技は、表情の作り方などが評価された。総じて評するなら、地頭のよさで少ない演技経験をカバーしながらする平均点以上を手堅くアウトプットできるタイプだろうか。

 ただし、表情の作り方というのは演技の一側面に過ぎず、目に見えてほめやすい要素でもある。少なからず演技レッスンを施されたら、極限、誰でもいい表情はある程度作れてしまう。

『伝説の頭 翔』でも確かにユーモアと恐怖を揺れ動くような表情のうまさは目立つが、だからといってカルマの演技を表情のよさとしてばかり語ろうとするのは本質的ではない。彼の演技の核心はもっと別のところにあると思う。

◆「遠回り」こそが最大の肥やし

 芸能の世界にあこがれたカルマは、16歳で福岡から上京する。養成所に通い、俳優になろうとするがなかなか芽が出ない。そこで21歳のとき、彼は翻り、芸能人が出演するテレビよりも強い影響力を持ち、人々の日常生活に浸透するYouTubeに活路を見出だす。

 YouTubeチャンネル開設から1年で100万人もの登録者数を得た。バズりのきっかけは、有名芸能人に変装してマスク姿で街中に出現する動画。世界的人気のK-POPに着眼して、K-POPファンを取り込む発想を変装の足がかりにした。

 その後はK-POP一辺倒になることなく、山﨑賢人やジャスティン・ビーバーへと幅を広げたことが賢い。山﨑賢人に変装して原宿を練り歩いた動画は、現在までに652万回再生を回っている。

 変装といえば聞こえはよくないが、芸能、ひいては演技の初歩中の初歩は誰かを真似ることである。YouTuber初期時代からカルマはすでに試行錯誤と突飛な発想力によって演技の基本を独学で習得していったのだと考えられる。

 2021年、約1年間のYouTube更新休止を経て、エイベックスに所属することを発表した。発表記者会見では、「ここ日本言うてな」と冒頭から決め台詞をかましてくるが、YouTuberの自分がYouTuber事務所に入っても面白くないという事務所選びの持論は鋭い。

 YouTube界の異端児と呼ばれる理由がよく表明されてもいる。わずか数年の間に行われたカルマの遠回りは、劇的なものである。

『抱きしめたい -真実の物語-』(2014年)などの塩田明彦監督は、その著書『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』中で俳優になるためには「遠回り」だと言っている。そう、遠回りこそが最大の芸の肥やしであり、カルマの演技の核心だと思うのだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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