酷暑だった今年。いつも以上に体調管理に気をつけた人も多いかと思いますが……お口のケア、忘れていませんか?
じつは気温が上がる夏は、口の中のトラブルが増える季節。虫歯や歯周病のリスクが上がったり、口臭が出やすくなったり。暦の上ではすっかり秋とはいえ、厳しい残暑が続いていますから、まだまだ注意が必要です。
◆唾液が減って渇くと健康状態に影響も
夏の暑さとお口トラブルについて、歯科医師の照山裕子先生はこう解説します。
「暑くて息苦しいと、どうしても口を開け放しにすることが多くなりますよね。また汗をたくさんかくので体も脱水に傾きがち。そのため唾液が減って口の中が渇いてしまうのです。
唾液はさまざまなかたちで体を守っていますから、唾液が減少すると健康状態を損ねることにつながりかねないのです」(照山裕子先生 以下、カギカッコ内同じ)
照山先生によると、唾液の役割はさまざま。唾液が口の中を潤すことで食べかすや歯垢、細菌を流す「自浄作用」のほか、唾液に含まれる消化酵素がデンプンを分解しての消化促進。食事などによって溶けてしまった歯質を修復したりもしているそう。唾液が十分に分泌されることで、私たちの体は健康に保たれているのです。
◆重要なのは唾液の“量”と“質”
「そういえば、口の中がなんだかネバつく」「口の渇きが気になる」なんて人は、唾液の量が減っている可能性があります。気づかぬうちに、「口、クサっ!」と思われているかも!?
じゃあ、口の中が潤っていればいいのかというと、それだけではないようで、照山先生は、「唾液の質を高めることも大事」だと言います。
「先ほども指摘したように、唾液自体にいろいろな働きがあり、病原体の侵入を防ぐ『抗菌・抗ウイルス作用』も唾液の重要な役割のひとつ。唾液は物理的に細菌を洗い流しているだけでなく、唾液の力によって体を守ってくれています。唾液力を高め、『質のいい唾液』をしっかり出して口の中の乾燥を防ぐことが、全身の健康をも守る万病対策になるのです」
そして、その「唾液の力」を担う主体が、免疫物質「IgA(免疫グロブリンA)」という物質なのだそう。
「IgAは口や目、鼻、腸管などの粘膜に存在し、細菌やウイルスなどの病原体から体を守ってくれています。とくに口は食事など外から異物が最初に入ってくる場所であり、ここで病原体の侵入を防ぐことがとても大事なのです」
たとえるなら、IgAは頼りになる屈強な「門番」。侵入した細菌やウイルスなどの外敵を見つけると、IgAはベタっとくっついて捕まえ、唾液で洗い流しているのだそうです。
実際、IgAが減ると風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなる可能性が指摘されています。プロスポーツ選手を対象にした研究(※1)では、風邪をひくと健康時に比べてIgAが明らかに低下し、その減少は風邪の症状がでる3週間前からはじまっていたとか。
※上記画像は、血清IgAを用いてIgAの働きを可視化したもの
今夏は手足口病や溶連菌感染症、新型コロナウイルス感染症などが流行しましたが、秋が訪れ、冬に向かって、インフルエンザなどが流行する感染症のハイシーズンに突入します。今からIgAを十分に含んだ「質のいい唾液」をつくれる体になることが必要なのです。
◆質のいい唾液をしっかり出すために
では、「質のいい唾液をしっかり出す」ためにはどうしたらいいのでしょうか? 照山先生に、唾液を増やすケア、IgAがしっかりと含まれる「質のいい唾液」を作る方法を教えていただきました。
●よく噛む
「よく噛むことで唾液の分泌が増えます。一口30回を目標にするといいですよ」と照山先生。でも、一口30回ってけっこう大変……。
「噛む回数が自然と増えるよう調理を工夫してみてください。例えばサラダにカリカリのゴボウチップスを混ぜたり、麺類にネギやミョウがなどの薬味を加えたり、食感の異なる食材を組み合わせるだけでも噛み応えが出て、自然とよく噛むようになりますよ」
●「ブクブクうがい」をする
水を少し口に含み、ほほを膨らませずながら、強く速く口の中の水をかき回す「ブクブクうがい」も唾液を増やすそう。
「舌や口の周りの筋肉を鍛えることができるので、口腔機能の向上につながります。水圧で口の中の汚れを落とすことができるので食後の習慣にしましょう」
うれしいことに、ブクブクうがいは、ほうれい線が薄くなるなどの美容効果も期待できるそう!
●ストレスをリリースする
「リラックス状態で、副交感神経が優位にあると唾液の分泌が増え、サラサラした唾液が出ます。逆に、ストレスや緊張状態にあって、交感神経が優位になると唾液の分泌が減ってしまいます」
ストレスをゼロにすることは難しいけれど、イライラやムカムカといった気持ちはなるべく早く手放すようにしたいですね。
●腸内環境を整える食事を心がける
「体の中の最大の免疫器官は腸。そのため、腸の状態と免疫物質であるIgAは深くかかわりがあります。腸内環境が整っていると、腸で産生される免疫物質の質が向上し、それがめぐりめぐって口内のIgAの質が向上されると考えられているのです」
つまり、食物繊維やヨーグルト・乳酸菌など腸内環境を整える食品を意識的に取り入れると、腸内環境が改善。全身状態のバランスが整い、その結果として、唾液の量と質の改善に役立つのだそう。
実際に、特定の乳酸菌を使用したヨーグルトを摂取すると、唾液量と唾液中のIgAが増加したという研究(※2)があります。 また、ヨーグルトには夏場の疲労感の軽減につながるという報告(※3)も。
厳しい残暑を乗り切るためにも、ほどなく訪れる感染症ハイシーズンに備えるためにも、「唾液力」を高めていきたいですね。
【照山裕子先生】歯科医。日本大学歯学部卒業、同大学院歯学研究科にて博士号取得。世界でも専門家が少ない「顎顔面補綴」が専門。予防医学の重要性を提唱する中で「毒出しうがい」を考案。著書は『食事でムセる かみ切れない 口臭が気になる人のための口の強化書』(アスコム)など。
※1 NevilleV,etal.MedSciSportsExerc.2008;40:1228-36
※2 Yamamoto Y et al.(2019), Effect of ingesting yogurt fermented with Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1 on influenza virus-bound salivary IgA in elderly residents of nursing homes: a randomized controlled trial, Acta Odontol. Scand., 77(7):517-524.
※3 Nutrients 2018, 10(7), 798; https://doi.org/10.3390/nu10070798
<文/小山武蔵>
じつは気温が上がる夏は、口の中のトラブルが増える季節。虫歯や歯周病のリスクが上がったり、口臭が出やすくなったり。暦の上ではすっかり秋とはいえ、厳しい残暑が続いていますから、まだまだ注意が必要です。
◆唾液が減って渇くと健康状態に影響も
夏の暑さとお口トラブルについて、歯科医師の照山裕子先生はこう解説します。
「暑くて息苦しいと、どうしても口を開け放しにすることが多くなりますよね。また汗をたくさんかくので体も脱水に傾きがち。そのため唾液が減って口の中が渇いてしまうのです。
唾液はさまざまなかたちで体を守っていますから、唾液が減少すると健康状態を損ねることにつながりかねないのです」(照山裕子先生 以下、カギカッコ内同じ)
照山先生によると、唾液の役割はさまざま。唾液が口の中を潤すことで食べかすや歯垢、細菌を流す「自浄作用」のほか、唾液に含まれる消化酵素がデンプンを分解しての消化促進。食事などによって溶けてしまった歯質を修復したりもしているそう。唾液が十分に分泌されることで、私たちの体は健康に保たれているのです。
◆重要なのは唾液の“量”と“質”
「そういえば、口の中がなんだかネバつく」「口の渇きが気になる」なんて人は、唾液の量が減っている可能性があります。気づかぬうちに、「口、クサっ!」と思われているかも!?
じゃあ、口の中が潤っていればいいのかというと、それだけではないようで、照山先生は、「唾液の質を高めることも大事」だと言います。
「先ほども指摘したように、唾液自体にいろいろな働きがあり、病原体の侵入を防ぐ『抗菌・抗ウイルス作用』も唾液の重要な役割のひとつ。唾液は物理的に細菌を洗い流しているだけでなく、唾液の力によって体を守ってくれています。唾液力を高め、『質のいい唾液』をしっかり出して口の中の乾燥を防ぐことが、全身の健康をも守る万病対策になるのです」
そして、その「唾液の力」を担う主体が、免疫物質「IgA(免疫グロブリンA)」という物質なのだそう。
「IgAは口や目、鼻、腸管などの粘膜に存在し、細菌やウイルスなどの病原体から体を守ってくれています。とくに口は食事など外から異物が最初に入ってくる場所であり、ここで病原体の侵入を防ぐことがとても大事なのです」
たとえるなら、IgAは頼りになる屈強な「門番」。侵入した細菌やウイルスなどの外敵を見つけると、IgAはベタっとくっついて捕まえ、唾液で洗い流しているのだそうです。
実際、IgAが減ると風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなる可能性が指摘されています。プロスポーツ選手を対象にした研究(※1)では、風邪をひくと健康時に比べてIgAが明らかに低下し、その減少は風邪の症状がでる3週間前からはじまっていたとか。
※上記画像は、血清IgAを用いてIgAの働きを可視化したもの
今夏は手足口病や溶連菌感染症、新型コロナウイルス感染症などが流行しましたが、秋が訪れ、冬に向かって、インフルエンザなどが流行する感染症のハイシーズンに突入します。今からIgAを十分に含んだ「質のいい唾液」をつくれる体になることが必要なのです。
◆質のいい唾液をしっかり出すために
では、「質のいい唾液をしっかり出す」ためにはどうしたらいいのでしょうか? 照山先生に、唾液を増やすケア、IgAがしっかりと含まれる「質のいい唾液」を作る方法を教えていただきました。
●よく噛む
「よく噛むことで唾液の分泌が増えます。一口30回を目標にするといいですよ」と照山先生。でも、一口30回ってけっこう大変……。
「噛む回数が自然と増えるよう調理を工夫してみてください。例えばサラダにカリカリのゴボウチップスを混ぜたり、麺類にネギやミョウがなどの薬味を加えたり、食感の異なる食材を組み合わせるだけでも噛み応えが出て、自然とよく噛むようになりますよ」
●「ブクブクうがい」をする
水を少し口に含み、ほほを膨らませずながら、強く速く口の中の水をかき回す「ブクブクうがい」も唾液を増やすそう。
「舌や口の周りの筋肉を鍛えることができるので、口腔機能の向上につながります。水圧で口の中の汚れを落とすことができるので食後の習慣にしましょう」
うれしいことに、ブクブクうがいは、ほうれい線が薄くなるなどの美容効果も期待できるそう!
●ストレスをリリースする
「リラックス状態で、副交感神経が優位にあると唾液の分泌が増え、サラサラした唾液が出ます。逆に、ストレスや緊張状態にあって、交感神経が優位になると唾液の分泌が減ってしまいます」
ストレスをゼロにすることは難しいけれど、イライラやムカムカといった気持ちはなるべく早く手放すようにしたいですね。
●腸内環境を整える食事を心がける
「体の中の最大の免疫器官は腸。そのため、腸の状態と免疫物質であるIgAは深くかかわりがあります。腸内環境が整っていると、腸で産生される免疫物質の質が向上し、それがめぐりめぐって口内のIgAの質が向上されると考えられているのです」
つまり、食物繊維やヨーグルト・乳酸菌など腸内環境を整える食品を意識的に取り入れると、腸内環境が改善。全身状態のバランスが整い、その結果として、唾液の量と質の改善に役立つのだそう。
実際に、特定の乳酸菌を使用したヨーグルトを摂取すると、唾液量と唾液中のIgAが増加したという研究(※2)があります。 また、ヨーグルトには夏場の疲労感の軽減につながるという報告(※3)も。
厳しい残暑を乗り切るためにも、ほどなく訪れる感染症ハイシーズンに備えるためにも、「唾液力」を高めていきたいですね。
【照山裕子先生】歯科医。日本大学歯学部卒業、同大学院歯学研究科にて博士号取得。世界でも専門家が少ない「顎顔面補綴」が専門。予防医学の重要性を提唱する中で「毒出しうがい」を考案。著書は『食事でムセる かみ切れない 口臭が気になる人のための口の強化書』(アスコム)など。
※1 NevilleV,etal.MedSciSportsExerc.2008;40:1228-36
※2 Yamamoto Y et al.(2019), Effect of ingesting yogurt fermented with Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1 on influenza virus-bound salivary IgA in elderly residents of nursing homes: a randomized controlled trial, Acta Odontol. Scand., 77(7):517-524.
※3 Nutrients 2018, 10(7), 798; https://doi.org/10.3390/nu10070798
<文/小山武蔵>