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トラウデン直美「おじさんの詰め合わせ」発言を“性差別”だと騒ぐ人が見落としている大問題

女子SPA! 2024年8月27日 8時46分

 トラウデン直美の発言が物議を醸しています。8月21日放送の『News23』(TBS系)で、自民党総裁選のポスターを「おじさんの詰め合わせ」と発言して、ネット上で賛否両論が分かれているのです。

◆賛否が平行線だが、発言自体を問題化している点は共通

 彼女に共感する人たちは、権力を握る人たちがいまだに男性優位であることを端的に指摘しただけであって、決して男性差別をしたわけではない、と言っています。

 その一方で、これを“おばさんの詰め合わせ”と表現したら大問題になるのに、おじさんならバカにしていいとでも言いたげな昨今の風潮はおかしい、と批判する声も多く聞かれました。

 いまも両者の意見は平行線をたどっている状況ですが、いずれもトラウデン直美個人の見解についてどのような立場を取るかという点では共通しているように思います。

 そこで今回の一件を視点を変えて見てみましょう。トラウデン発言こそ、「おじさん」支配の象徴そのものなのではないでしょうか?

 自民党総裁選ポスターを「おじさんの詰め合わせ」と評し、体制に一矢報いたと溜飲を下げる風景そのものが、他ならぬ「おじさん」的発想から生まれているからです。

◆若い女性におじさんを否定させるという「おじさん性」

 どういうことかというと、才色兼備の若い女性に「おじさん」の否定をさせるというニュースエンターテインメントの構図が、強固な「おじさん」性の影響下にあるということです。

 いつの時代も、若い女性に叱られる「おじさん」の絵はウケます。ガス抜き役を見栄えのする女性に割り当てることで、本質的な議論を巧みに回避していく。

 そのような振り付けを差配するのは、だいたい男性の力です。

 ゆえに、極めてクレバーなトラウデン直美は求められた役割をこなしただけであって、その発言の是非を問うのはナンセンスといえます。

◆「ニュースエンターテインメント」は鉄板のストーリーを求める

 自民党という安全なサンドバッグを叩くことで成立するニュースエンターテインメントを裏付ける一例として、今回は「おじさんの詰め合わせ」なるパンチラインが生まれたわけです。

 慶應義塾大卒、サステナビリティへの意識も高く、欧米(西側)の価値観を持ち合わせているキャラの立った若い女性が古臭い自民党を批判する。こうした鉄板のストーリーを必要とするコンテンツと見ればわかりやすいのではないでしょうか。

 それは、いうなれば「おじさん」的なものの反動なのでしょう。だからこそ、その爽やかな正義感には濃厚な「おじさん」の後味が残っているのです。

 キャラの立ったご意見番が役割をこなすという点でいえば、2021年まで『サンデーモーニング』(TBS系)に出演していた張本勲氏と似ています。スポーツコーナーで不甲斐(ふがい)ないプレーや結果に対して、「喝!」とやっていたやつですね。

 張本氏は、昔かたぎの価値観を現代に持ち込むことで正論を打ち出す論法でした。

 それが今回は女性、若年層から男性、中高年への“喝”に変わっただけの話。つまり、やり方としてはどちらも「おじさん」的なのに他ならないのです。

◆日本のニュースショーの脆弱性があぶり出された

 今回のトラウデン発言を支持する人、怒る人、色々いました。しかしながら、引きの絵で見ると、それは「おじさん」に対する敵対的な性差別でもなければ、また日本社会に対する率直な批評でもありません。

 逆にそうした議論の可能性の芽を摘み、秒で消費されるキャッチフレーズでしかなかった。

 それは現代のコメンテーターに最も求められる能力でしょう。

 トラウデン直美があまりにも優秀なアクターであったために、またひとつ日本のニュースショーの脆弱性があぶり出されたのだと思います。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4

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