元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『サユリ』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:夢のマイホームへと引っ越してきた神木家。郊外の中古の一軒家で、祖父母・両親・子ども3人の家族の幸せな時間もつかの間、次々と不可解な現象に襲われてゆきます。
「この家には“何か”がいる」
呪いの根源は、この家に棲みつく少女の霊“サユリ”だった…という話であれば、従来のスタンダードなJホラーですが、ここから予想外の“異展開”が!
押切蓮介の同名人気ホラー漫画を『貞子vs伽椰子』『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズの白石晃士監督により実写化した本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか。(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
◆“ババア”の貫禄に拍手喝采。いいぞ、もっとやれ
死して尚燃え尽きることのない恨みつらみ、常軌を逸した怨念、見境のない祟(たた)り。
日本の幽霊や邪神たちは皆その圧倒的な執着、ある種の生真面目さによって生きている人間たちをじわじわと追い詰め、奈落の底へと叩き落す。
日本人が怖がらせようと思って作ったものなのだから、どうしたってこの国の風習や文化、宗教とは切り離せないものとなっていて、その執念深さと姿を見せないことにより倍増される恐ろしさからはどうしたって逃れられない。
しかし、常々こう思ってもいたのだ。え、所詮は死んじゃってるんですよね、残りかすみたいな存在ですよね、生きている人間の方が強いに決まっていませんか? と。
こうも思っていた。ビデオを見たからアウト、敷地に立ち入ったからアウト、って理不尽すぎるだろ。その強すぎる力はあなたの本当の仇(かたき)に使うべきじゃないのか? あなたの過去とこっちは関係ないんですけど? とも。
そんな私にとって『サユリ』はまさに我が意を得たりな作品だ。「地獄送りにしてやるんじゃ!」と叫ぶ強すぎる“ババア”の貫禄(かんろく)にもう拍手喝采。いいぞ、もっとやれ。
◆敬意をもって“ババア”と呼びたい。生きている人間舐めんなよ
中古ではあるものの、念願の一戸建てマイホームへと引っ越した神木家。しかし、家族七人の幸せな日常は長くは続かず、次々と不幸な出来事が一家に降りかかる。
一人、また一人と家族の命が奪われていくなか、ついに認知症を患っていたはずの祖母が覚醒。生き残った長男と共に、家族を殺したこの家に住まう怪異への復讐を誓う。
前半の正統派Jホラーな容赦のない描写の恐怖と言ったら。仲の良い七人家族の食卓が和やかだからこそ、理不尽に奪われた平穏な日常のかけがえのなさを痛感し、生存者二人の燃え滾(たぎ)るような怒りに共感せざるを得ない。
後半の怒涛の展開こそがこの映画の真骨頂。ノールールに暴力を振るい無双する女傑たる祖母のことは、おばあちゃん、とかではなく敬意をもって“ババア”と呼びたい。生きている人間舐めんなよ、というような力強いメッセージを感じて鑑賞後なんだか勇気が湧いてきた。
最近の私、暑さにへばってちょっと弱っていたみたい。部屋を綺麗にしてたくさん食べて、命を濃くしてしっかり生きる。負けてたまるか。
『サユリ』
監督:白石晃士 原作:押切蓮介「サユリ 完全版」(幻冬舎コミックス刊) 脚本:安里麻里、白石晃士 出演:南出凌嘉、根岸季衣、近藤華、梶原 善、占部房子、きたろう、森田 想、猪股怜生ほか 配給:ショウゲート 製作プロダクション:東北新社 2024年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/108分/R15+ ©2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
そんな宇垣さんが映画『サユリ』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:夢のマイホームへと引っ越してきた神木家。郊外の中古の一軒家で、祖父母・両親・子ども3人の家族の幸せな時間もつかの間、次々と不可解な現象に襲われてゆきます。
「この家には“何か”がいる」
呪いの根源は、この家に棲みつく少女の霊“サユリ”だった…という話であれば、従来のスタンダードなJホラーですが、ここから予想外の“異展開”が!
押切蓮介の同名人気ホラー漫画を『貞子vs伽椰子』『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズの白石晃士監督により実写化した本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか。(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
◆“ババア”の貫禄に拍手喝采。いいぞ、もっとやれ
死して尚燃え尽きることのない恨みつらみ、常軌を逸した怨念、見境のない祟(たた)り。
日本の幽霊や邪神たちは皆その圧倒的な執着、ある種の生真面目さによって生きている人間たちをじわじわと追い詰め、奈落の底へと叩き落す。
日本人が怖がらせようと思って作ったものなのだから、どうしたってこの国の風習や文化、宗教とは切り離せないものとなっていて、その執念深さと姿を見せないことにより倍増される恐ろしさからはどうしたって逃れられない。
しかし、常々こう思ってもいたのだ。え、所詮は死んじゃってるんですよね、残りかすみたいな存在ですよね、生きている人間の方が強いに決まっていませんか? と。
こうも思っていた。ビデオを見たからアウト、敷地に立ち入ったからアウト、って理不尽すぎるだろ。その強すぎる力はあなたの本当の仇(かたき)に使うべきじゃないのか? あなたの過去とこっちは関係ないんですけど? とも。
そんな私にとって『サユリ』はまさに我が意を得たりな作品だ。「地獄送りにしてやるんじゃ!」と叫ぶ強すぎる“ババア”の貫禄(かんろく)にもう拍手喝采。いいぞ、もっとやれ。
◆敬意をもって“ババア”と呼びたい。生きている人間舐めんなよ
中古ではあるものの、念願の一戸建てマイホームへと引っ越した神木家。しかし、家族七人の幸せな日常は長くは続かず、次々と不幸な出来事が一家に降りかかる。
一人、また一人と家族の命が奪われていくなか、ついに認知症を患っていたはずの祖母が覚醒。生き残った長男と共に、家族を殺したこの家に住まう怪異への復讐を誓う。
前半の正統派Jホラーな容赦のない描写の恐怖と言ったら。仲の良い七人家族の食卓が和やかだからこそ、理不尽に奪われた平穏な日常のかけがえのなさを痛感し、生存者二人の燃え滾(たぎ)るような怒りに共感せざるを得ない。
後半の怒涛の展開こそがこの映画の真骨頂。ノールールに暴力を振るい無双する女傑たる祖母のことは、おばあちゃん、とかではなく敬意をもって“ババア”と呼びたい。生きている人間舐めんなよ、というような力強いメッセージを感じて鑑賞後なんだか勇気が湧いてきた。
最近の私、暑さにへばってちょっと弱っていたみたい。部屋を綺麗にしてたくさん食べて、命を濃くしてしっかり生きる。負けてたまるか。
『サユリ』
監督:白石晃士 原作:押切蓮介「サユリ 完全版」(幻冬舎コミックス刊) 脚本:安里麻里、白石晃士 出演:南出凌嘉、根岸季衣、近藤華、梶原 善、占部房子、きたろう、森田 想、猪股怜生ほか 配給:ショウゲート 製作プロダクション:東北新社 2024年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/108分/R15+ ©2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。