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朝ドラ『虎に翼』で39歳俳優が“自分の間違いに気づいたときの一言”に感動!声を張り上げて

女子SPA! 2024年8月28日 8時45分

 判事・花岡悟(岩田剛典)による「ありがとな」や星航一(岡田将生)が初めて心の内を明かす雪景色など、『虎に翼』(NHK総合)には男性俳優たちがかもす名場面が多い。

 主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)が、新潟から帰ってきてからは、上司である桂場等一郎(松山ケンイチ)が、映像演出が突出する瞬間を担っている。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、桂場の「失言だった!」に感動しながら、本作のカメラワークに着目する。

◆カメラワークに着目

 ここ数年の朝ドラ史上では最大の力作だと銘打てる『虎に翼』だが、選択的夫婦別姓など戦後の現代史の課題に取り組む作品態度や第21週第103回でオープンリーゲイの俳優やトランスジェンダー女性の歌手を配役した社会的意義ばかりが本作の美点ではない。

 映像作品とはそれだけで政治的なものでもあるが、もっと映像そのものの技法やカメラワークを含む演出にも着目する視点があってもいいんじゃないか。第20週から佐田寅子が、異動先の新潟から東京へ戻ってくる。第97回、東京地方裁判所に配属された寅子が所長室に挨拶にくる場面を特筆しておきたい。

 所長室に入ると、ここまで寅子を引き上げてくれた上司たち、ライアンこと、久藤頼安(沢村一樹)と多岐川幸四郎(滝藤賢一)が手放しに歓待してくれる。ただひとりむっとした顔して所長の席に座る桂場等一郎以外は。

◆手の動きと連動する美しさ

 朗らかな笑いと和やかなユーモアを交えた歓待を済ませて、久藤と多岐川は所長室を出ていく。寅子は所長席とちょっとだけ距離を置いて、改めて桂場と対面する。

 多岐川の下、家庭局の英雄のような存在になっていた寅子の新潟異動を突然決めたのが、他ならぬ桂場だった。その辞令に多岐川は憤慨するが、異動を命じた理由が、他の裁判官同様に着実な地盤固めを促すものだと知り、逆に桂場の愛を讃えた。

 数年のときを経て、見知らぬ土地に投げ込まれた寅子はしっかり地盤を固めてきた。寅子が席に近づくと、桂場はむにゅっと唇を上げる。間髪いれずに東京地方裁判所での配属先を告げ、「早く行け」。いつもの調子で、そろりと右腕をつきだし、相手にしっしと手の甲を動かすのだ。

 この動かし方に注目。まず1、2(しっし)の拍で手を動かし、半拍置き次に1、2、3(しっしっし)と動かす。寅子が退室しようとするとふたりをサイドから捉えたカメラが滑らかにフォローし、桂場の指先の延長にあるかのように下手から上手へムーヴ。途中、どこからともなく鐘の音。桂場のしっしと連動したこのカメラワークの美しさは、本作でたぶん最も美しい。

◆映像演出が突出する瞬間

 あんまり安易にたとえるのもあれだけど、そうだな、これまでに筆者が同じように感じてきた映像作品だと、ルキノ・ヴィスコンティの『夏の嵐』(1954年)冒頭。ヴェネツィアのラ・フェニーチェ歌劇場内部を捉えた流麗なカメラワークのことを思い出した。

 激動のイタリア史をヴィスコンティ特有のメロドラマとして描く同作もたぶんに政治的で社会的な意義がある名作だが、それ以上に観客たちはカメラの美しいムーヴに魅了されっぱなしである。同様に『虎に翼』のカメラワークだって、社会的メッセージを超えた力強い表現力がある。

 新潟篇から東京篇となり、桂場の再登場によってこうした映像演出が突出する瞬間は他にもある。たとえば、戦前から寅子たちが憩いの場にしてきた甘味処「竹もと」での場面がわかりやすい。

◆桂場と団子の決闘場面

 第99回、新潟で心を通わせ、現在交際中の寅子と星航一が会話しているところへ、桂場がやってくる。あからさまに嫌そうな顔をする桂場に対して、「そんな顔しなくていいじゃないですか」とすかさず寅子。

 ふたりが個人的に交際することは構わないが、それが社会的な地位にひびくことは注意すべきだと桂場は釘を刺す。ともあれ、彼が竹もとにきた用事はそんな老婆心にあるわけではない。老齢の身からそろそろ店を譲ろうと考えた店主夫婦の下で店の味を学ぶ竹原梅子(平岩紙)の試作品の試食にやってきたのである。

 寅子と航一も背筋を正して見守る。緊迫した雰囲気。桂場の前にあんこ団子が置かれる。画面には西部劇風の音楽。打楽器、ギター、コーラスの盛り上げ方が西部劇の中でもイタリアのマカロニウエスタン臭がぷんぷん。桂場はあんこ団子を手にして眺め回し、対峙する。一度寅子の方へ視線をズラし、にらむ。そして一口。目を開いて梅子を見る。静かに深く首を振る。団子との真剣勝負。決闘である。

 たかだか団子の試食だというのに、大げさ過ぎはしないか。と思う視聴者もいるかもしれないが、ここではマカロニウエスタンにいくつもの名曲を提供したエンニオ・モリコーネ風の音楽によって、桂場と団子の決闘場面のエモーションを意図的に高めている。

◆「失言だった!」の一言に感動

 決闘ついでにいうなら、竹もとは寅子と桂場にとって因縁の場所でもある。寅子が法律の道を志して、明律大学女子部に入学する前から、この場所では大小のドラマ(戦い)が繰り広げられてきた。その一つひとつが決闘であり、その間、桂場は何度トレードマークのへの字型の唇を八の字型にゆるめたり、戻したりしたことか。

 寅子が所長室で桂場と面会した場面で、「共亜事件のあと、私、桂場さんに法とは何かというお話をしたんです」と言った、その「お話をした」場所も竹もとだったと記憶している。だから、あんこ団子への異常なこだわりを持つ桂場の決闘場面が描かれるにはここしかないのである。

 でもこだわりの面で桂場の上をいくのが、寅子という人である。第103回、航一からのプロポーズを受けると結婚によって名字が変わることに悩む寅子が、妙案として仕事上の姓は佐田のままにできないかと桂場に相談しに行く。

 桂場は「なぜそんなくだらんことにこだわるんだ」と聞く。これに寅子がカチン。「なぜこだわる? はて」と口火をきる。激しい口調で「私のこだわりをくだらないと断じられる筋合いはありません」と抗議する。桂場はしまったという顔で「失言だった!」と声を張り上げる。この一言には感動した。

 自分の失言はその場ですぐに謝る。後から問いただされて「記憶にありません」だとか「嫌な気持ちにさせたなら」なんて曖昧なフレーズは出さず、即座にきっぱり。「あんこの味」にあれだけこだわる人は、発言の潔癖さにもこだわる人なのだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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