大御所お笑いコンビの「とんねるず」が、令和の時代でも大きな話題を生み出している。
とんねるずは、今年11月8日、9日にかけて日本武道館で『とんねるず THE LIVE』を開催予定。このライブのチケットが8月24日に一般発売されたのだが、すぐに売り切れて即完状態となった。
チケットサイトで超高額のプレミアム価格で転売されるなど、凄まじい人気の高さを見せている。
◆コンビ活動が激減するなか珍しいライブ活動
とんねるずといえば、ここ数年はコンビでの活動は激減し、2人で共演するのは正月に放送する『夢対決!とんねるずのスポーツ王は俺だ!!スペシャル』(テレビ朝日系)くらい。個人での活動がメインとなり、今回のライブはかなり珍しいイベントになる。
ライブの詳細は明かされていないが、歌をメインとしたものとなるようで、石橋は自身のラジオ番組で「テーマは泣かせる」だと公表。歌手として真っ向勝負を仕掛ける可能性が高く、とんねるずの往年の名曲がじっくりと聴けるライブになりそうだ。
そこで、今回は『とんねるず THE LIVE』のチケット即完を祝して、とんねるずの歌手としての魅力を再検証していきたいと思う。
◆お笑い業界の歴史を変えた「マジ」の歌手活動
とんねるずの歌手の歴史といえば、1984年12月にリリースした『一気!』からはじまるだろう。
この作品は、まさに当時のとんねるずを象徴する作品で、悪ノリな勢いだけのコミックソング。現在では考えられないような「一気飲み」をテーマにした楽曲で、昭和の良き時代を思わせる作品となった。この楽曲以前にもシングルとして『ピョン吉・ロックンロール』などを発売しているが、歌手として本格的に始動したのが『一気!』だ。
そして、とんねるずの歌手としての可能性を広げたのが、1985年にリリースした『雨の西麻布』となる。ムード歌謡を思わせる作品で、『一気!』からテイストがガラリと変更。オリコン5位にランクインするヒット曲となった。
かと思えば、ロック調の『やぶさかでない』、ディスコ調の『嵐のマッチョマン』、『炎のエスカルゴ』、2人が気持ちよく歌い上げる歌謡曲『迷惑でしょうが…』など、次々とジャンルの違うシングルを発売。
どの楽曲もヒットを記録し、1988年ころからは全国ツアーも開催するなど、お笑い業界の歴史を変えるような「マジ」の歌手活動を行っていくことになる。
◆秋元康氏が仕掛けたヒット曲の量産体制
それまで、お笑いにおける音楽活動はクレージーキャッツやザ・ドリフターズのように音楽とコントが混ざったもの、さらには番組企画でのユニット活動などがあった。また、芸人がアイドル的な人気を獲得して、ビートたけしのようにデビューする場合も。
だが、とんねるずはその流れを踏襲せず、アーティストとしてライブも念頭において楽曲を販売した。しかも、さまざまなジャンルに挑戦する貪欲さを歌手活動でみせ、音楽業界でもとんねるずは一目置かれる存在に。
とんねるずの歌手としてのブレイクを仕掛けたのは、コンビの生みの親の一人と言える秋元康氏だ。秋元氏はプロデュース・作詞を担当し、とんねるずが出演するテレビ番組とメディアミックスをうまく行いヒット曲を量産させる体制を作っていった。
それまでに無かったお笑いコンビの「マジ」の歌手活動となり、歴史をガラリと変えることに成功したのだ。
◆突然のシリアス路線となった『情けねえ』と『一番偉い人へ』
そんな実験的とも取れるとんねるずの歌手活動は、1991年に大きな転機を迎えることになる。
この年に発表した『情けねえ』は、これまでのとんねるずの楽曲に無かったメッセージソングとなり、大ヒットを記録して日本歌謡大賞を受賞。楽曲は大きな話題となり、『NHK紅白歌合戦』への出場も達成。
社会風刺が効いた作品を、とんねるずという「悪ふざけ」がメインのコンビが歌う違和感は、多くのファンの心を揺さぶることになった。
さらに、この流れは1992年リリースの『一番偉い人へ』に引き継がれることになる。お笑いで天下を取ったとんねるずが、あえてもがき苦しむ同世代の気持ちを汲み取ったようなメッセージソングを発表したことで、カリスマ性を高めることに成功した。
◆『ガラガラヘビがやってくる』140万枚超え
このシリアスな名曲たちに挟まれる形で、1992年には『ガラガラヘビがやってくる』をリリース。下ネタ全開のコミックソングで、とんねるずのアーティストとしての幅の広さをここでも見せつけることになった。
『ガラガラヘビがやってくる』は140万枚以上というミリオンセールスを達成。『情けねえ』、『一番偉い人へ』よりセールスが良いというのも、何ともとんねるずらしい結果だと思える。
その後は、『がじゃいも』、『フッフッフッってするんです』、『ガニ』と番組にあわせたコミックソングが多くなり、コンビの人気の高さもあっていずれもヒットしていく。
ただ、アーティストとしての勢いは薄れ始め、最終的には1996年にリリースしたJ-POP調の『おまえが欲しい』で、とんねるずとしてのシングルは終焉を迎えている。
普通であれば、ここで音楽活動は終わらせるところだが、とんねるずの場合は「野猿」、「矢島美容室」でブレイクを達成。それぞれでヒット曲を発表し、長い期間にわたって音楽業界で偉業を達成し続けることになった。こんなお笑いコンビはとんねるず以前にも以降にもいなく、伝説を作り上げていった。
◆とんねるずの歌手活動終焉と同時期にダウンタウン浜田の台頭
余談だが、とんねるずとして歌手活動が終焉した時期には、同じくお笑い業界の大物がヒット曲を発表した時期と重なる。
ダウンタウンの浜田雅功が、小室哲哉と組んだ「H Jungle With t」で『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント』をリリースしたのが1995年3月。その後、1996年までに3枚のシングルを発表し、いずれも大ヒットを記録している。
とんねるずがアーティストとして勢いを無くしたのと同時に、H Jungle With tが台頭してきたのは偶然なのか?
とんねるずとダウンタウンは不仲が常に報じられていただけに(現在では当事者たちが否定しているが…)、浜田の歌手活動は、とんねるずに何かしらの影響を与えたと考えるのが普通だろう。もしかしたら、浜田の活躍がとんねるずの歌手活動を終わらせたのかもしれない。
そんなライバル同士の2組だが、今年5月には浜田がテレビ番組『ごぶごぶ』(毎日放送)の音楽フェスで、小室とタッグを組み『WOW WAR TONIGHT』を熱唱。
「H Jungle with t」は実に約29年ぶりのライブ出演となったが、なんの因果かとんねるずのライブも2人だけのステージは29年ぶりとなる。今年は2組が一時的ながら復活を遂げたわけで、お笑い業界にとって記念すべき年になったと言えるだろう。
◆悪ふざけとシリアスのバランスが歌手としての魅力
最後にとんねるずの歌手としての魅力を解説したい。どの楽曲でも言えるのだが、悪ふざけとシリアスが良いバランスで混ざり合っているところが最大の魅力だ。
コミックソングだけに偏らず、かといってまじめなシリアス路線にいきすぎない。絶妙なバランス感覚があるからこそ、それぞれの楽曲の良さが引き立ち魅力を増幅させていくと考える。
また、活動の中で2人は生歌にこだわっていた。お世辞にも石橋に関しては歌がうまいとはいえないが、それでも魂を揺さぶるような歌唱は多くのファンを引き付けて離さない。
歌手活動にも真剣だったからこそ、ここまでとんねるずの楽曲は、いまでも支持をうけているのだろう。
◆『みなさんのおかげでした』最終回の歌唱を超えるか?
今回、『とんねるず THE LIVE』はどんな構成になるのか分からない。ただ、石橋が「テーマは泣かせる」だと宣言しているだけに、推測するなら『迷惑でしょうが…』、『情けねえ』、『一番偉い人へ』などを軸として、さらに「懐かしすぎて泣ける」楽曲も用意するのではないだろうか。
現時点では、2人での歌唱という意味では、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の最終回でラストに歌唱した『情けねえ』が強烈なインパクトと感動をファンに残している。
果たして、このパフォーマンスを超えるライブをみせてくれるのか、期待して11月を待ちたい。
<文/ゆるま小林>
【ゆるま 小林】
某テレビ局でバラエティー番組、情報番組などを制作。退社後、フリーランスの編集・ライターに転身し、ネットニュースなどでテレビや芸能人に関するコラムを執筆
とんねるずは、今年11月8日、9日にかけて日本武道館で『とんねるず THE LIVE』を開催予定。このライブのチケットが8月24日に一般発売されたのだが、すぐに売り切れて即完状態となった。
チケットサイトで超高額のプレミアム価格で転売されるなど、凄まじい人気の高さを見せている。
◆コンビ活動が激減するなか珍しいライブ活動
とんねるずといえば、ここ数年はコンビでの活動は激減し、2人で共演するのは正月に放送する『夢対決!とんねるずのスポーツ王は俺だ!!スペシャル』(テレビ朝日系)くらい。個人での活動がメインとなり、今回のライブはかなり珍しいイベントになる。
ライブの詳細は明かされていないが、歌をメインとしたものとなるようで、石橋は自身のラジオ番組で「テーマは泣かせる」だと公表。歌手として真っ向勝負を仕掛ける可能性が高く、とんねるずの往年の名曲がじっくりと聴けるライブになりそうだ。
そこで、今回は『とんねるず THE LIVE』のチケット即完を祝して、とんねるずの歌手としての魅力を再検証していきたいと思う。
◆お笑い業界の歴史を変えた「マジ」の歌手活動
とんねるずの歌手の歴史といえば、1984年12月にリリースした『一気!』からはじまるだろう。
この作品は、まさに当時のとんねるずを象徴する作品で、悪ノリな勢いだけのコミックソング。現在では考えられないような「一気飲み」をテーマにした楽曲で、昭和の良き時代を思わせる作品となった。この楽曲以前にもシングルとして『ピョン吉・ロックンロール』などを発売しているが、歌手として本格的に始動したのが『一気!』だ。
そして、とんねるずの歌手としての可能性を広げたのが、1985年にリリースした『雨の西麻布』となる。ムード歌謡を思わせる作品で、『一気!』からテイストがガラリと変更。オリコン5位にランクインするヒット曲となった。
かと思えば、ロック調の『やぶさかでない』、ディスコ調の『嵐のマッチョマン』、『炎のエスカルゴ』、2人が気持ちよく歌い上げる歌謡曲『迷惑でしょうが…』など、次々とジャンルの違うシングルを発売。
どの楽曲もヒットを記録し、1988年ころからは全国ツアーも開催するなど、お笑い業界の歴史を変えるような「マジ」の歌手活動を行っていくことになる。
◆秋元康氏が仕掛けたヒット曲の量産体制
それまで、お笑いにおける音楽活動はクレージーキャッツやザ・ドリフターズのように音楽とコントが混ざったもの、さらには番組企画でのユニット活動などがあった。また、芸人がアイドル的な人気を獲得して、ビートたけしのようにデビューする場合も。
だが、とんねるずはその流れを踏襲せず、アーティストとしてライブも念頭において楽曲を販売した。しかも、さまざまなジャンルに挑戦する貪欲さを歌手活動でみせ、音楽業界でもとんねるずは一目置かれる存在に。
とんねるずの歌手としてのブレイクを仕掛けたのは、コンビの生みの親の一人と言える秋元康氏だ。秋元氏はプロデュース・作詞を担当し、とんねるずが出演するテレビ番組とメディアミックスをうまく行いヒット曲を量産させる体制を作っていった。
それまでに無かったお笑いコンビの「マジ」の歌手活動となり、歴史をガラリと変えることに成功したのだ。
◆突然のシリアス路線となった『情けねえ』と『一番偉い人へ』
そんな実験的とも取れるとんねるずの歌手活動は、1991年に大きな転機を迎えることになる。
この年に発表した『情けねえ』は、これまでのとんねるずの楽曲に無かったメッセージソングとなり、大ヒットを記録して日本歌謡大賞を受賞。楽曲は大きな話題となり、『NHK紅白歌合戦』への出場も達成。
社会風刺が効いた作品を、とんねるずという「悪ふざけ」がメインのコンビが歌う違和感は、多くのファンの心を揺さぶることになった。
さらに、この流れは1992年リリースの『一番偉い人へ』に引き継がれることになる。お笑いで天下を取ったとんねるずが、あえてもがき苦しむ同世代の気持ちを汲み取ったようなメッセージソングを発表したことで、カリスマ性を高めることに成功した。
◆『ガラガラヘビがやってくる』140万枚超え
このシリアスな名曲たちに挟まれる形で、1992年には『ガラガラヘビがやってくる』をリリース。下ネタ全開のコミックソングで、とんねるずのアーティストとしての幅の広さをここでも見せつけることになった。
『ガラガラヘビがやってくる』は140万枚以上というミリオンセールスを達成。『情けねえ』、『一番偉い人へ』よりセールスが良いというのも、何ともとんねるずらしい結果だと思える。
その後は、『がじゃいも』、『フッフッフッってするんです』、『ガニ』と番組にあわせたコミックソングが多くなり、コンビの人気の高さもあっていずれもヒットしていく。
ただ、アーティストとしての勢いは薄れ始め、最終的には1996年にリリースしたJ-POP調の『おまえが欲しい』で、とんねるずとしてのシングルは終焉を迎えている。
普通であれば、ここで音楽活動は終わらせるところだが、とんねるずの場合は「野猿」、「矢島美容室」でブレイクを達成。それぞれでヒット曲を発表し、長い期間にわたって音楽業界で偉業を達成し続けることになった。こんなお笑いコンビはとんねるず以前にも以降にもいなく、伝説を作り上げていった。
◆とんねるずの歌手活動終焉と同時期にダウンタウン浜田の台頭
余談だが、とんねるずとして歌手活動が終焉した時期には、同じくお笑い業界の大物がヒット曲を発表した時期と重なる。
ダウンタウンの浜田雅功が、小室哲哉と組んだ「H Jungle With t」で『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント』をリリースしたのが1995年3月。その後、1996年までに3枚のシングルを発表し、いずれも大ヒットを記録している。
とんねるずがアーティストとして勢いを無くしたのと同時に、H Jungle With tが台頭してきたのは偶然なのか?
とんねるずとダウンタウンは不仲が常に報じられていただけに(現在では当事者たちが否定しているが…)、浜田の歌手活動は、とんねるずに何かしらの影響を与えたと考えるのが普通だろう。もしかしたら、浜田の活躍がとんねるずの歌手活動を終わらせたのかもしれない。
そんなライバル同士の2組だが、今年5月には浜田がテレビ番組『ごぶごぶ』(毎日放送)の音楽フェスで、小室とタッグを組み『WOW WAR TONIGHT』を熱唱。
「H Jungle with t」は実に約29年ぶりのライブ出演となったが、なんの因果かとんねるずのライブも2人だけのステージは29年ぶりとなる。今年は2組が一時的ながら復活を遂げたわけで、お笑い業界にとって記念すべき年になったと言えるだろう。
◆悪ふざけとシリアスのバランスが歌手としての魅力
最後にとんねるずの歌手としての魅力を解説したい。どの楽曲でも言えるのだが、悪ふざけとシリアスが良いバランスで混ざり合っているところが最大の魅力だ。
コミックソングだけに偏らず、かといってまじめなシリアス路線にいきすぎない。絶妙なバランス感覚があるからこそ、それぞれの楽曲の良さが引き立ち魅力を増幅させていくと考える。
また、活動の中で2人は生歌にこだわっていた。お世辞にも石橋に関しては歌がうまいとはいえないが、それでも魂を揺さぶるような歌唱は多くのファンを引き付けて離さない。
歌手活動にも真剣だったからこそ、ここまでとんねるずの楽曲は、いまでも支持をうけているのだろう。
◆『みなさんのおかげでした』最終回の歌唱を超えるか?
今回、『とんねるず THE LIVE』はどんな構成になるのか分からない。ただ、石橋が「テーマは泣かせる」だと宣言しているだけに、推測するなら『迷惑でしょうが…』、『情けねえ』、『一番偉い人へ』などを軸として、さらに「懐かしすぎて泣ける」楽曲も用意するのではないだろうか。
現時点では、2人での歌唱という意味では、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の最終回でラストに歌唱した『情けねえ』が強烈なインパクトと感動をファンに残している。
果たして、このパフォーマンスを超えるライブをみせてくれるのか、期待して11月を待ちたい。
<文/ゆるま小林>
【ゆるま 小林】
某テレビ局でバラエティー番組、情報番組などを制作。退社後、フリーランスの編集・ライターに転身し、ネットニュースなどでテレビや芸能人に関するコラムを執筆