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都内在住20年の夫婦が2歳の娘と“車中泊生活”を始めたワケ「車の購入直前に恐怖心が…」

女子SPA! 2024年8月30日 8時47分

 こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。

 皆さんにとっての「幸せ」ってなんですか? ここ数年、幸せの定義が人によって大きく異なってきたことで、理想の働き方や暮らし方も多様化しています。

 今回取材させていただいた西川こみあげさん(44歳)は、2020年から約3年間、妻と当時2歳だった娘のことちゃんを連れ、キャンピングカーでの日本列島横断、車中泊生活をおくり、その様子を自身のYouTubeチャンネル「ビビりの家族が行くキャンピングカー生活」で発信していました。現在はもともと営んでいた美容師業に加え、動画制作の仕事を行っています。

 3年間の車中泊生活中は、日本全国を転々と移動していた西川家。移動したり気になった場所に一定期間定住したりと、フレキシブルな生活スタイルで過ごしていた一家ですが、こうした生活は、子育てにどういった影響があったのか気になるところです。

 もともとこみあげさんは、娘さんとの過ごし方に疑問を感じ、車中泊生活の実施を決めたといいます。どういった経緯で大きな決断に至ったのか。そもそも車中泊生活ってどうやるのか、夫であり旅の発案者である、こみあげさんに話を聞きました。

◆美容師夫婦がキャンピングカー生活を決断!その理由は?

「キャンピングカーでの車中泊生活」と聞くと、人によっては憧れを覚え、人によっては不安定感を抱きそうです。そもそもどういったキッカケから、検討し始めたのでしょうか。

「もともと僕は、いつかキャンピングカーで子育てをしてみたいと思っていました。旅によってマインドがリセットされる良さを知っていたので、子どもの頃にその感覚を養えたらと思ってのことです。しばらくは単なる憧れのままでしたが、実行を決めた日は一つの印象的な出来事がありました。

ある朝、娘が自分から靴を履こうとしていました。でも僕は早く出勤したくて、娘のチャレンジを待てずに靴を履かせてしまったんです。その日はバタバタと家を出ましたが、一日中『あれで良かったんだろうか……』と、モヤモヤが残りました。娘との関わり方の理想と現実に大きな乖離がある。そういった感覚が確信的になり、その夜、妻に車中泊生活を始めたいと相談をしました」

◆妻は“即賛成”とはならなかった

 こみあげさん夫婦は当時、東京在住歴20年。原宿で技術を磨き、フリーランス美容師として活躍しながら、店舗出店を検討していたといいます。やっと自分の“家”を持とうとするタイミングで浮かんできた車中泊生活ですが、奥さんのリアクションはどうだったのでしょう。

「妻としては、当時の相談は半分冗談だと思っていたみたいです。自分たちでお店を出そうという話もありましたし、大きく生活が変わるから、即賛成とはもちろんなりませんでした。ただ、妻も子どもが生まれる前に中南米横断の旅を僕と経験しており、旅をすると大きな成果が得られることは実感していました。それが経験としてあったので、懐疑的ではありましたが『夫が言うなら、意味があるのかもしれない』とは感じたようです。

そこから彼女は、キャンピングカー生活や旅をしながら子育てすることについて調べたようです。日本では車中泊で子育てをすると聞くと、すごく突飛なように感じられるかもしれません。でも海外では、ヒッピー文化の流れの中で、わりと受け入れられていたりもします。こうした海外情報を妻は自ら調べ、車中泊子育てによって得られるモノもなんとなくイメージがつき、最終的には同意してくれました」

◆仕事を手放し、長期の旅に出るためにやったこと

 妻という協力者を得ながら、こみあげさんも着々と準備を進めていったと思いますが、美容師という仕事は現場ありきの働き方です。仕事はどのように整理したのでしょうか。

「妻と話をしてから出発までは、1年くらいかけて準備を行いました。具体的には、訪問美容室を立ち上げたり、ブログやYouTubeチャンネルなどの発信を始めたりしました。旅の最中はノマドビジネスができるよう、なんとか場所と時間に依存しない仕組みを作っていましたね。

とはいえ、美容法は規制も厳しく、訪問美容室は、妊婦さんや育児中のお母さんなど、来店が困難な方へのサービスとしてしか行ってはいけないと法律で決まっています。訪問美容室はやりつつも、メインはYouTubeチャンネルの運営で、過去の中南米の旅の模様や、キャンピングカー生活の準備動画をあげていました」

 こみあげさんのような、自由な選択を夢みる人は少なくありません。その選択を叶える1つの手段がSNS収益かもしれません。こみあげさんも、旅に出る前から着々と準備をしていたとか。非常に順調な滑り出しにも感じますが、実際のお財布事情は、「安定はしていない」といいます。

◆キャンピングカーを購入する直前に襲ってきた恐怖心

 決断からスタートまで、ここまで話を聞くとすごく順調というか、大きな反対もなく進んだのかなという印象ですが、実際はどうだったのでしょう。

「全然スムーズではなかったです。妻ともその後対話を何度も繰り返しましたし、準備はしていきましたが、計画が進むと同時に大きな恐怖心も出てきました。普通に考えたら生活のすべてを失う行為ですし、YouTubeチャンネルはやっていましたが、当時は収益化もままなっていませんでした。

訪問美容室もやってみましたが、初月の売上は6000円でした。自分の店を出すための貯金こそありましたが、チャレンジによって全部捨てることがとにかく怖くて、最後キャンピングカーを買おうとなったときに、決断できなくなってしまい、最後は、妻が購入を決断してくれたんです。旅に出始めたら不安も減り、マインドが上がりましたが、そこに至るまでは、葛藤や恐怖がつきまといました」

 いざ夢の実現が近づくと、人は怖くなると良く言います。こみあげさんも例外ではなく、最後は大きな恐怖との戦いだったそう。

◆出発直前までは周囲に明かさなかった

 キャンピングカーでの車中生活を友だちが思いついたなら、一般的な価値観で図るなら、ちょっと心配したくなるものです。出発前は、こうした決断をどう周りに報告したのか聞きました。

「車中生活を始めることは、事前には誰にも言いませんでした。両親にも、親しい友人にも言っていません。その理由は、他人の意見が入ると、そのつど僕たちの意思がブレると思ったからです。周りの雑音に勝てるほど、自分の意思も固まっていなかったんです。

出発までは断固として妻と2人で計画し、出発後にもう引き返せないぞというタイミングで、周りには報告しました。親には言葉より文字の方が伝わるかなと思い、自分のブログを読んでもらいました。父親は『自分の決断を信じてやれているのがいいよね』と、肯定的にとらえてくれています」

 旅の準備や葛藤、仕事の整理などを経て、キャンピングカーでの車中生活をスタートさせたこみあげさん一家。ある種夢を実現させたわけですが、忙しく目の前のことをこなすので精一杯な筆者は、その挑戦と、おだやかで濃密な生活が、どこか羨ましくも感じるのでした。

<取材・文/おおしまりえ>

【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518

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