こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。
働き方が多様化し、ノマドライフに憧れる人もいるでしょう。場所や時間に囚われず、自分の感覚で生活を組むことができる。そんな楽観的なイメージを抱く人も多いものです。
今回話を聞いたのは、2020年から約3年間、当時2歳の娘・ことちゃんと夫婦の3人で、キャンピングカーで日本を周りながら、車中生活育児を実践し、その様子を自身のYouTubeチャンネル「ビビりの家族が行くキャンピングカー生活」で発信していた、西川こみあげさん(44歳)です。
「車中泊生活で子育てをする」
それだけ聞くと興味と不安が混ざりますが、実際に幼児期の一定期間、こうした普通では経験できない生活をした場合、子どもの成長には、どのような影響があるのでしょう。夫であり、車中泊生活の発案者である、こみあげさんに話を聞きました。
◆車中泊育児は、振り返ると一切の不満なし!
キャンピングカーでの車中泊生活を開始したとき、娘のことちゃんは2歳でした。出発前は、育児に十分な意識と時間を避けないことにジレンマがあったというこみあげさん。スポンジのような吸収力を持った今だからこそ、旅の素晴らしさを経験させてあげたいと思ったことも、この時期に始めた要因だといいます。
とても素敵な考えである一方で、「それって大丈夫なの?」と現実的な不安が浮かぶ人も少なくないでしょう。実際車中泊生活での子育てを経験し、お子さんはどう成長したのか、また親としてはどう感じているのかを教えてもらいました。
「キャンピングカーでの車中生活を経験して思ったことは、子育ての側面ではメリットしかないということです。いろんな景色を見せてあげられますし、その土地の空気とか、草木の香り、道端で売っている野菜の美味しさなど、旅をしないと味わえないことを伝えられました。旅は1日1日“生きること”が目的です。それを3人でこなしていけたことが、本当に良かったと思っています」
確かに、その土地に出向かないと感じられないことはたくさんあります。とはいえ、ずっと3人で、それもキャンピングカーという限られた空間で過ごすというのは、大変ではないのでしょうか。
「キャンピングカーでの生活は、3人で同じ空間にいるので時間がものすごく濃密です。問題が起きれば常に3人で向き合いますし、娘は夫婦喧嘩も目の当たりにします。夫婦喧嘩を見せることは、最初は僕も抵抗がありました。
でも、1つの空間にいる以上、見せないことは不可能です。我が家では、ケンカの後はハグをして『ごめんね』『ありがとう』を伝えることをルールとして、問題をみんなで解決していくスタイルに落ち着いています。こうしたやり方も、また1つの家族のかたちではないかと考えるようになりました」
◆子どもの教育や発達への影響は?
東京で暮らしていた頃にくらべ、子どもと一緒の時間を大幅に得ることができたこみあげさん。とはいえ、車中生活では、教育面をどうケアしていったら良いか、最初は迷いもあったといいます。
「車中泊生活を始めるまでは、旅の終わりを決めていなかったこともあり、教育はどうしたらいいのかなと悩みました。出発前の私たち夫婦は、やっぱりより良い環境で育て、良いものを教えてあげたいと考えていました。具体的にはお金をかけていい学校に進学をさせてあげるとか、英語を教えるといったことです。僕自身、教育熱心で堅めの職業の親の元で育っているので、つい同じような価値観があったんです」
自分の親の価値観を、知らぬうちに受け継ぎ、子どもにも同じように接してしまうことは良くあります。こみあげさんも例外ではなく、教育面においては、一般的に良いとされる考えを持っていた時期があったといいます。
「でも旅を計画しスタートさせる中で、子どもにとって一番大事なのは、親が隣にいて、子どもが安心している状態を作ってあげることだと思うようになりました。こうした環境を用意できれば、子どもは自然と興味のあることにチャレンジしていきます。
その証拠に、小学校1年生になった娘は現在、積極的で社交的な子どもに育っており、発達や教育の面では問題を感じていません。2歳頃の旅の記憶を、かなり鮮明に覚えていることがあり、親が驚くことも多いです」
3歳以前の子どもの記憶は、一般的に残りにくいと言われています。これは海馬の発達が不十分なことに起因しています。それ以前の記憶を覚えているということは、濃密な経験がすでに人生に大きな影響を与えていると言えるのかもしれません。
◆子育てで不安だったことは「おむつ」と「友だちづくり」
デメリットはないと語るこみがえさんですが、車中泊生活で育児をすることは、一般的な家庭と同じような準備や対応ができないことを意味します。こみあげさん自身は、「おむつ」と「友だちづくり」について不安感を持っていましたが、旅の中でそれを払拭していったといいます。
「当時娘は2歳だったので、おむつを外すタイミングを考えました。一般的にはトイトレ(トイレで排泄を行えるように練習をすること)をして外すと思いますが、車中泊生活中は、良いタイミングで促したりケアしたりすることに難しさがあります。当時は夫婦で葛藤があったのですが、結果としては、途中でトイトレをやめ、自然に委ねたら勝手に外れました。
こうした選択は、旅の中で出会った方に言われたことがキッカケです。『おむつがまだ取れないと悩むのは、我が子の成長を誰かと比べているからだ』と指摘をもらったんです。『健康な大人でおむつが取れていない人はいない。絶対にその子のタイミングで自然に取れるんだから、取れていないことに意識を向ける必要はない』とも言われました。
確かにそうだなと思い、それを期に、妻も一切トイトレをしなくていいってなりました。そしたら、本当に娘のタイミングで勝手に外れましたし、今はおねしょもありません。こうした経験も、旅を通じて学んだことの一つです」
おむつがいつ外れるかは、筆者も2歳の子どもを育児中なので、まさに悩み始めたばかりです。この話は少し勇気をもらえます。結局は親が子どものタイミングを待てること、が重要なのかもしれません。
◆人が集まる場所に行ったり、保育園に通うことも
「友だちづくりについては、旅を始めると勝手に払拭されていきました。キャンピングカーで日本を巡っていると、必然的に人が集まるところに行きます。そうすると、娘も自分で輪に入っていくようになっていました。その結果、今はどこでも友だちが作れるような積極的な性格に育っています。もちろんこれは、娘の元の性格もあると思いますが、最終的には、気になっていないというのが答えです。
あと、この生活中は良い場所があれば1ヶ月くらいその土地にステイもしています。その間は、保育園の一時預かりが利用できたりするので、本人が行きたがるようなら、集団生活を楽しんでいたこともあります。
余談ですが、保育園というのは、土地や人、園の方針など、すごくバリエーションがあります。いくつかの園と関わらせていただいて、僕たちも学ばせてもらった側面は大きいです」
子どものタイミングに合わせる。当たり前のことなのに、親として見ていると、つい早く早くと焦りと不安でせっつきたくなる時があります。そういう時ほど、こみあげさんが旅によって得た学びは、参考になるのかもしれません。
<取材・文/おおしまりえ>
【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518
働き方が多様化し、ノマドライフに憧れる人もいるでしょう。場所や時間に囚われず、自分の感覚で生活を組むことができる。そんな楽観的なイメージを抱く人も多いものです。
今回話を聞いたのは、2020年から約3年間、当時2歳の娘・ことちゃんと夫婦の3人で、キャンピングカーで日本を周りながら、車中生活育児を実践し、その様子を自身のYouTubeチャンネル「ビビりの家族が行くキャンピングカー生活」で発信していた、西川こみあげさん(44歳)です。
「車中泊生活で子育てをする」
それだけ聞くと興味と不安が混ざりますが、実際に幼児期の一定期間、こうした普通では経験できない生活をした場合、子どもの成長には、どのような影響があるのでしょう。夫であり、車中泊生活の発案者である、こみあげさんに話を聞きました。
◆車中泊育児は、振り返ると一切の不満なし!
キャンピングカーでの車中泊生活を開始したとき、娘のことちゃんは2歳でした。出発前は、育児に十分な意識と時間を避けないことにジレンマがあったというこみあげさん。スポンジのような吸収力を持った今だからこそ、旅の素晴らしさを経験させてあげたいと思ったことも、この時期に始めた要因だといいます。
とても素敵な考えである一方で、「それって大丈夫なの?」と現実的な不安が浮かぶ人も少なくないでしょう。実際車中泊生活での子育てを経験し、お子さんはどう成長したのか、また親としてはどう感じているのかを教えてもらいました。
「キャンピングカーでの車中生活を経験して思ったことは、子育ての側面ではメリットしかないということです。いろんな景色を見せてあげられますし、その土地の空気とか、草木の香り、道端で売っている野菜の美味しさなど、旅をしないと味わえないことを伝えられました。旅は1日1日“生きること”が目的です。それを3人でこなしていけたことが、本当に良かったと思っています」
確かに、その土地に出向かないと感じられないことはたくさんあります。とはいえ、ずっと3人で、それもキャンピングカーという限られた空間で過ごすというのは、大変ではないのでしょうか。
「キャンピングカーでの生活は、3人で同じ空間にいるので時間がものすごく濃密です。問題が起きれば常に3人で向き合いますし、娘は夫婦喧嘩も目の当たりにします。夫婦喧嘩を見せることは、最初は僕も抵抗がありました。
でも、1つの空間にいる以上、見せないことは不可能です。我が家では、ケンカの後はハグをして『ごめんね』『ありがとう』を伝えることをルールとして、問題をみんなで解決していくスタイルに落ち着いています。こうしたやり方も、また1つの家族のかたちではないかと考えるようになりました」
◆子どもの教育や発達への影響は?
東京で暮らしていた頃にくらべ、子どもと一緒の時間を大幅に得ることができたこみあげさん。とはいえ、車中生活では、教育面をどうケアしていったら良いか、最初は迷いもあったといいます。
「車中泊生活を始めるまでは、旅の終わりを決めていなかったこともあり、教育はどうしたらいいのかなと悩みました。出発前の私たち夫婦は、やっぱりより良い環境で育て、良いものを教えてあげたいと考えていました。具体的にはお金をかけていい学校に進学をさせてあげるとか、英語を教えるといったことです。僕自身、教育熱心で堅めの職業の親の元で育っているので、つい同じような価値観があったんです」
自分の親の価値観を、知らぬうちに受け継ぎ、子どもにも同じように接してしまうことは良くあります。こみあげさんも例外ではなく、教育面においては、一般的に良いとされる考えを持っていた時期があったといいます。
「でも旅を計画しスタートさせる中で、子どもにとって一番大事なのは、親が隣にいて、子どもが安心している状態を作ってあげることだと思うようになりました。こうした環境を用意できれば、子どもは自然と興味のあることにチャレンジしていきます。
その証拠に、小学校1年生になった娘は現在、積極的で社交的な子どもに育っており、発達や教育の面では問題を感じていません。2歳頃の旅の記憶を、かなり鮮明に覚えていることがあり、親が驚くことも多いです」
3歳以前の子どもの記憶は、一般的に残りにくいと言われています。これは海馬の発達が不十分なことに起因しています。それ以前の記憶を覚えているということは、濃密な経験がすでに人生に大きな影響を与えていると言えるのかもしれません。
◆子育てで不安だったことは「おむつ」と「友だちづくり」
デメリットはないと語るこみがえさんですが、車中泊生活で育児をすることは、一般的な家庭と同じような準備や対応ができないことを意味します。こみあげさん自身は、「おむつ」と「友だちづくり」について不安感を持っていましたが、旅の中でそれを払拭していったといいます。
「当時娘は2歳だったので、おむつを外すタイミングを考えました。一般的にはトイトレ(トイレで排泄を行えるように練習をすること)をして外すと思いますが、車中泊生活中は、良いタイミングで促したりケアしたりすることに難しさがあります。当時は夫婦で葛藤があったのですが、結果としては、途中でトイトレをやめ、自然に委ねたら勝手に外れました。
こうした選択は、旅の中で出会った方に言われたことがキッカケです。『おむつがまだ取れないと悩むのは、我が子の成長を誰かと比べているからだ』と指摘をもらったんです。『健康な大人でおむつが取れていない人はいない。絶対にその子のタイミングで自然に取れるんだから、取れていないことに意識を向ける必要はない』とも言われました。
確かにそうだなと思い、それを期に、妻も一切トイトレをしなくていいってなりました。そしたら、本当に娘のタイミングで勝手に外れましたし、今はおねしょもありません。こうした経験も、旅を通じて学んだことの一つです」
おむつがいつ外れるかは、筆者も2歳の子どもを育児中なので、まさに悩み始めたばかりです。この話は少し勇気をもらえます。結局は親が子どものタイミングを待てること、が重要なのかもしれません。
◆人が集まる場所に行ったり、保育園に通うことも
「友だちづくりについては、旅を始めると勝手に払拭されていきました。キャンピングカーで日本を巡っていると、必然的に人が集まるところに行きます。そうすると、娘も自分で輪に入っていくようになっていました。その結果、今はどこでも友だちが作れるような積極的な性格に育っています。もちろんこれは、娘の元の性格もあると思いますが、最終的には、気になっていないというのが答えです。
あと、この生活中は良い場所があれば1ヶ月くらいその土地にステイもしています。その間は、保育園の一時預かりが利用できたりするので、本人が行きたがるようなら、集団生活を楽しんでいたこともあります。
余談ですが、保育園というのは、土地や人、園の方針など、すごくバリエーションがあります。いくつかの園と関わらせていただいて、僕たちも学ばせてもらった側面は大きいです」
子どものタイミングに合わせる。当たり前のことなのに、親として見ていると、つい早く早くと焦りと不安でせっつきたくなる時があります。そういう時ほど、こみあげさんが旅によって得た学びは、参考になるのかもしれません。
<取材・文/おおしまりえ>
【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518