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『地面師たち』『水ダウ』で怪演の76歳俳優「なりすまし老人役は“まさに今の私”です」借金、大病、独居暮らし…激動人生でも役者を続けるワケ

女子SPA! 2024年9月8日 8時45分

今年7月から配信され、いまだ注目され続けるNetflix『地面師たち』。ツカミとなる第1話で強烈な印象を残した、“なりすまし”役の老人が密かに注目を集めています。一言でも間違えれば犯罪がバレてしまう。そんな重要なシーンで、老人がたどたどしく答えた「ライフの方が安いので」というセリフはSNSで「ハラハラした」「演技がリアルすぎる」と話題になりました。

そんな“なりすまし役の老人”を演じたのは五頭岳夫さん(76歳)。本人はX(旧Twitter)を駆使しており、ファンのツイートにも反応するなど律儀な一面も。劇中とのギャップとも合間って「かわいい」などの反響も呼んでいるようです。

そこで「女子SPA!」は五頭さんを直撃。『地面師たち』撮影当時のお話をはじめ、これまでの役者人生や私生活についても伺いました。

◆『地面師たち』の老人は「まさに今の私です(笑)」

――『地面師たち』配信以降、五頭さんのXが注目されていますね。76歳でSNSを発信する人は珍しいように思いますが、どんなキッカケで始めたのでしょうか?

五頭岳夫さん(以下、五頭):もともとfacebookはやっていて、知人にXも勧められ2022年の2月から始めました。映像俳優になる前は舞台俳優をしており、その当時から年間チケットを購入して下さるお客様にはお礼状を書いたりなどご挨拶してきたので、SNSはそういう交流の場として捉えています。

あとはね、たまに「闘病中で辛いです」というようなコメントももらったりするので、Xは辛い気持ちを吐露する場でもあるのかな。気持ちの受け皿になれるのならとも思っています。そんな方には「辛いなら逃げてもいいんですよ」という言葉を返しています。

――なんて優しい…。『地面師たち』では五頭さん扮する佐々木老人のセリフ「ライフのほうが安いので」が有名となりましたが、役作りはどのようにされましたか。

五頭:認知症があって借金もある老人ということで……まさに今の私です(笑)。特別な人間ではなくただの老人だと考え、あまり深くは考えませんでした。

――短いシーンながら、ものすごいインパクトでした。

五頭:そう感じてもらえたのなら役者としては本望ですね。「なりすまし」を演じる役なので、手配師の麗子(演・小池栄子)や法律屋の後藤(演・ピエール瀧)に教えてもらったことを返すだけですから、すべて受け身の役なんです。自分としては話すスピードだけを気をつけていました。それが結果、身近にいそうな老人として皆さんの目に留まり、強いインパクトを残したんだと思います。

◆『水ダウ』無言の老人役は「不気味な仕事でした」

――ピエール瀧さんとは白石和彌監督の映画『凶悪』でもご共演されていますね。

五頭:はい、瀧さんに殴られ生き埋めにされる役でした。なぜか瀧さんにいじめられる役が多いですね(笑)。『凶悪』が白石監督との出会いの作品でもあり、その後、ドラマ『フルーツ宅配便』(テレビ東京系)やAmazon Prime Video『仮面ライダーBLACK SUN』でも使っていただきました。そのまま私で当て書きするかのようにご依頼いただいたのが映画『死刑に至る病』でした。白石監督にはご縁をいただき感謝しております。

――それらの役も『地面師たち』でのブレイクにより再注目されていますよね。中でも『水曜日のダウンタウン』(TBS)で「無言の老人」として登場したシーンも「怖い!」と話題です。

五頭:あれね……。ロケ地のキャンプ場のバンガローで待機しつつ、日没後に落とし穴に落ちてる芸人さんを「とにかく動かず見つめて」と言われて。再現ドラマに出るよりもキツかったです(笑)。だって落とされて可哀想な芸人さんを無表情で見つめ続けるなんて……涙が出ました。私にとってもキツくて不気味な仕事でした(笑)。

――セリフがないのもしんどいですね(笑)。五頭さんは6種類の方言を駆使するそうですが、どのように取得したんですか?

五頭:ほとんどは20代から入って全国巡業していた、劇団時代に演じた様々な役で身につけたものです。幼少期からラジオでよく聞いていた民話の影響もあるかもしれません。民話にはいろんな地域の方言が入っているので。いろんな方言が耳に馴染み深くて、自然と喋れるようになっていきました。

◆小林幸子と『のど自慢』に!「演劇に生涯を捧げるつもり」

――幼い頃から役者になりたかったんですか。

五頭:本当は歌手にもなりたかったんです。高校生の時にNHK『のど自慢』の故郷の新潟会場にも出ましたよ。その当時は同じ新潟出身者の小林幸子さんも出ていて、いつも彼女が優勝していました。僕は学ラン着て『あゝ上野駅』を歌いましたが残念ながらでした(笑)。

――そうなのですね。それがなぜ役者に。

五頭:歌うことも演じることでしょ。高校生の時に市民劇団の公演を観て衝撃を受け、自分とは別の人間を演じることに魅力を感じ、演劇サークルを作ったんです。違う人になった姿を観てもらう喜びや楽しさを知ってしまったんです。小さい頃からモノマネが上手いねと言われることに喜びを感じていたし、単純に演じることが好きだったんです。

――好きなことを追い続けたんですね。

五頭:ずっとそうしてきました。演劇に生涯を捧げるつもりできたから、一度の事実婚はしたものの、子供も作らず家庭というものは持たなかった。まあその後、下顎の骨が溶ける病気をして顔の左側に金属プレートを入れる手術を何度もして……その後、胃がんも患っているので、それどころではなかった時期もありました。

◆「一回しかない人生。悔いを残したら嫌じゃん」

――今もおひとりということでしょうか。

五頭:はい、団地で一人暮らしをしています。その団地では理事長をしてまして、独居老人の生存確認的な意味合いも込めて、回覧板を渡しに一軒一軒、尋ねるんですよ。この夏はもう毎日のように救急車が来て、老人が運ばれていくのを見ました。

――役者として活動しつつ理事長としての活動もするのは大変ですよね。

五頭:そうね。ゴミ出しでは、ペットボトルのラベルを剥がしてキャップは別にして…っていうことを毎日のように言ってるんですけど、老人達が言うこと聞いてくれなくて。でも最近、だんだんとラベルを剥がしてくれるようになってね。あの時の嬉しさったらないですよ。ちなみに集めたキャップは近所のライフに持って行っています。

――もうライフのCMを狙うしかないですね。現代は元気な高齢者も増えていますが、ひとりで生きる寂しさ、孤独を感じることはありますか?

五頭:寂しさ、孤独……あまり考えたことないよ。孤独や寂しさを感じたらその考えや行動から逃げればいいだけ。逃げるっていうと、負けだとか死とかの方法を考えてしまう人も多いですが、人生の中で逃げる瞬間が何度あったっていいと私は思っています。

――これから高齢者世代になる読者に何かアドバイスをお願いできますか?

五頭:難しいなあ。それぞれ人生のバックボーンや生き方の違いや考えもあるでしょうから一言では言い切れませんが……自分がどうしたいか、そのためにどうするか、その後どう行動するか。この三段論法に尽きるのではないでしょうか。

ありきたりな言葉だけど、一回しかない人生ですよ。悔いを残したら嫌じゃん。そういう意味では私は自分のやりたかったことを仕事として最後まで全うできたら、こんな嬉しいことはないと思っています。

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信念を持って役者として活動されてきた方ならではの強いお言葉です。五頭さんのように悔いを残さず生きたいものです。

<取材・文・撮影/河合桃子 写真提供/五頭岳夫さん>

【河合桃子】
1977年、東京都生まれ。男性週刊誌の記者をしながら、気になった女性ネタを拾って書いたりしてます。2児を育てるシングルマザーでもあります。

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