Infoseek 楽天

「不登校を3週間で解決」うたう民間業者に医師が警鐘。運営元の代表を直撃すると“まさかの返答”

女子SPA! 2024年9月12日 8時46分

 2023年に文部科学省が公表したデータによると、2022年度の小中学生の不登校の児童生徒数は約30万人に上り過去最多となっています。そのうち、学校内外で相談や支援を受けられていない児童生徒は約11万4000人で、不登校について相談ができずにいる親子が多いことがうかがえます。

 子どもの不登校に悩む親のなかには、民間の不登校支援業者を利用するケースもあります。最近では、「株式会社スダチ」という不登校支援事業の企業が話題を集めました。完全オンラインで「不登校を平均3週間で解決する」と謳うサービスですが、ネット上では賛否両論が巻き起こっています。

『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』の著者「精神科医さわ」こと塩釜口こころクリニックの河合佐和院長に、スダチの問題点や疑問点、相談先の選び方について聞きました。

◆「スダチ」騒動の経緯

 2024年8月13日、スダチが「板橋区と株式会社スダチが連携し不登校支援を強化」というプレスリリースを発表したことが騒動の発端でした。

 SNSを中心に「登校をさせれば解決するわけではない」「無理に再登校をさせるのは逆効果」といった批判の声が集まり、板橋区は同日に公式サイトでスダチとの連携を否定する声明を発表。スダチ側は当リリースを削除し、8月21日に連携の発表した経緯を説明するリリースを出しました。

 スダチの公式サイトには「再登校までの平均日数17日」「顧客満足度97.8%」「再登校できた子ども90%」とあり、また「他の不登校支援サービスとの比較」の表では再登校がゴールではない他のサービスとは違い「短期間での再登校が可能」であることが強調されています。

 完全オンラインでスダチの「サポーター」と呼ばれるスタッフが保護者とのカウンセリングを行い、各家庭専用の特別プログラムを組み、それを実践するための具体的なアドバイスを伝えるといったサポート内容で、サポーターが子ども本人とは接触しないことも、大きな特徴の一つです。

 料金は、公式サイトでは「4.5万円~」とされていますが、東京新聞が8月17日に公開した記事ではスダチを利用した女性による「利用料は総額40万円超と高額なのに正式な契約書はなく」といったコメントも紹介されており、ケースによって大きくばらつきがあるようです。

 児童精神科医のさわ先生に、スダチについての見解を聞きました。

◆精神科医が懸念、スダチの問題点

 毎月約400人の親子の診察を行っているというさわ先生は「再登校の先にあるリスク」を指摘します。

「『自殺で亡くなってしまった不登校経験者のうち、約75%が学校に再登校していた』という研究結果(※1)もあります。再登校することにより、『過剰適応』(置かれた環境に自分を合わせようとしすぎてしまうこと)の状態となり、身も心も限界となり、逃げ場がなく追い詰められてしまうことや、長期的な視点に立った支援の必要性が専門家たちによって指摘されています。スダチが再登校をした後の継続的なケアをどの程度行っているのか、非常に気になります。

不登校児の支援において親子関係に焦点を当てることは、必ずしも間違いではなく、親御さんにお子さんへの対応の仕方を助言することは診察室でもあります。しかし、親側からだけの情報をもとに親子関係に介入することで、子どもの精神状態がさらに追い詰められてしまうケースもあり、慎重に行う必要があると私は考えます。

そして、もっとも気をつけなければならないのが、命を失ってしまうリスクがあることです。不登校となる子どもの中には、知的レベルが境界知能域であったり、軽度の遅れがあったり、また学習障害や自閉スペクトラム症、ADHDなどの何らかの発達障害の特性があり、学校が特性にあった環境となっていないことが原因であるケースもあります。

支援をするうえで、必要に応じて子どものそういった生まれ持った脳の特性や精神状態を評価し、その子どもに合った適切な環境をゴール設定とすることが何よりも大切だと私は考えます。子どもの不登校によって追い詰められた親御さんへのサポートも、もちろん大切ですが、何より学校に行くのは子どもなのですから、子どもへの介入も必要だと考えています」(以下、さわ先生)

※1「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究」(研究代表者:国立精神・神経センター 精神保健研究所 加我牧子)より

◆自傷行為を過小評価してはならない

 X上にはスダチのサポーターのアカウントがいくつもあり、「小6女子がサポート12日目に再登校です」といった成果報告が投稿されています。

 そこには「子どもがベランダに足をかけたり暴言を吐いたり」することを「親御さんに対して強い揺さぶり」としたり、「過敏性腸症候群を大義名分に3か月不登校」といった表現や、自傷行為が見られる小学生に支援を行ったケースも報告されています。

「病気を“大義名分”としていますが、医療の現場で『疾病利得』という考え方があります。これは病気や疾病によって患者さんが得られる、心理的、社会的、経済的なメリットのこと。例えば、うつ病と診断されることで会社に行くというその人にとってつらいことを避けることができますよね。精神科医は、『この人にとって、病気であるメリットは何だろう』といったことも考えながら、慎重に治療方針を決定していきます。

しかし、それは身体科の医師、精神科医や、臨床心理士、公認心理師などの専門家が正しく判断するべきことです。子どもはストレスが腹痛や吐き気、頭痛などの身体の症状となって現れやすいのです。たとえ器質的な異常(病院の検査などで確かめられるような異常)がなかったとしても、実際に痛みを感じ、苦しんでいる子どもがいるのです。

また、10代のときにリストカットなどの自傷行為を一度でもしたことのある人は、したことがない人に比べて、10年以内に自殺によって死亡するリスクが何百倍も高くなるというデータ(※2)もあります。『試しているだけだから心配いらない。死ぬことはない』と精神科医は絶対に言いません。むしろ、自殺リスクが高いことを伝えておく必要のある危険因子なのです。このような知識がどこまであるのか、非常に心配な部分です」

※2 Owens,D.,Horrocks,J.,House,A.:Fatal and non-fatal repetition of self-harm. Systematic review.Br J Psychiatry,181;193-199,2002

◆過度な制限は子どもの居場所を奪うことに繋がる

 不登校児の親の多くが悩むことの一つとして「ゲームやスマホのやりすぎ」があります。

 スダチでは、代表・小川涼太郎氏がYouTube動画にて「基本的に我々は電子機器に関してはゼロにしましょうと(親御さんに)提案しています」と話していることからも、スマホやゲームの制限を徹底させる方針をとっていることがうかがえます。

「この方法で成功する例もあるとは思うのですが、親子関係がそもそも安定した関係を築けていないケースにおいては、極めて危険な方法だと思います。ゲームやネットの世界にハマる子どもたちの中に、その世界が唯一の心が安心できる場所となっている子どももいます。

もしも、家庭内が心の安全基地となれていない場合に、唯一の心の居場所までも奪うことになってしまうのです。前の記事でも述べたように、子どもは大人よりも先の見通しを立てることが難しく、現実がうまくいかないときに、心理的に追い込まれやすいのです。追い詰められた子どもが死ぬしかないという発想になるリスクがあることを知ってほしいです」

◆公的ケアがなかなか行き届いていない実情も

 各自治体に公的な相談窓口も設置されている中で、親が民間の業者を利用するのはなぜなのでしょうか。

「学校や自治体が、不登校について相談できる窓口を適切に案内してくれるかどうかは、地域によって差があるのかもしれません。そのため、相談したいのに相談機関につながれていない親子も多くいらっしゃると思います。不登校の子どもが利用できて、学習や相談が受けられる『適応指導教室』などの公的機関も自治体によっては枠が埋まっていて、すぐに利用開始できないこともあるでしょう。

児童精神科の予約が取りづらくなかなか相談できないことも、民間の事業者を利用する一因だと思います」

 子どもの再登校を強く願う親が、公的な相談窓口で納得のできるアドバイスが得られず、藁をもつかむ思いで民間のサービスを利用するのという状況もあるのでしょう。

◆まずは学校のスクールカウンセラーに相談を

 公的機関、民間業者ではさまざまな不登校支援が行われています。子どもが不登校になったとき、親はどのような相談機関を選べばいいのでしょうか。

「今は情報が溢れている分、適切な支援を選択することが難しくなっています。もちろん実際にたくさんの親子を救う民間のサービスもたくさんありますが、中には専門家の多くが疑問に思うようなサービス内容でも、医師監修などと謳っているサービスが存在するのも事実です。

そのため、最初は公的な相談窓口を利用することをおすすめします。まずは学校に配置されているスクールカウンセラーの面談予約をとって相談してみてください。子どもが嫌がるなら、親御さんだけが相談することも可能です。厚生労働省のサイトでは『不登校やいじめ、ひきこもりなどの相談窓口』として、児童相談所や児童家庭支援センター、教育センター、ひきこもり地域支援センター、発達障害者支援センターなどが紹介されています。

自傷行為が激しいなどリスクが高い場合は、公的な機関から専門的な治療が受けられる精神科につなげてもらうことも可能です」

◆“学校へ行っても行かなくても、あなたは価値のある存在”

 最後に、自身の長女も不登校が続いているというさわ先生に、親御さんたちに伝えたいことを聞きました。

「私も最初は『学校に行かせなければいけない』と思っていました。でもあるとき、これって子どものことを思っているようで、『学校に行かない娘がどうなるのか想像できない』という私自身の不安からくるものなんじゃないかと思ったんですよね。

今は不登校の子どもにもたくさんの選択肢があると知って、そういったものをいろいろと取り入れていくなかで、必ずしも学校に再登校させるだけがゴールではないということを私自身も納得感をもって受け入れられるようになりました。子どものことで悩んだとき、どこまでが親である自分の不安で、どこまでが子ども本人の課題なのか境界線を意識することがまずはとても大切だと思います」

 さわ先生は改めて「焦って再登校を目指す必要はない」と強調します。

「教育現場の実情を知ると、すべての子どもが学校に適応するのは不可能だと感じます。学校に合わないのなら、その子に合った環境を調整してあげることが、子どもの心を守るために重要です。子どもが学校に行けないからといって、あなたの子育てが悪いわけではないし、お子さんがダメなわけでもありません。

そしてお子さんにも『学校へ行っても行かなくても、あなたの価値には変わりがないんだよ。学校に行けなくてもあなたのこと大好きだよ』と、ぜひ言葉にして伝えていってくださいね」

◆編集部がスダチ代表を直撃すると

 さわ先生への取材後、女子SPA!編集部はスダチ代表・小川涼太郎氏にさわ先生からの指摘を踏まえたいくつかの質問をメール送付しました。

 すると電話にて、小川氏本人より「記事末に回答を掲載する構成では、スダチがネガティブな印象になってしまうため、回答を控えたい」といった旨を伝えられたため、後日改めて、本記事で指摘があったポイントをすべて盛り込んだ質問状と、「別記事にて小川氏のコメントを掲載したい」との旨をメールしました。

 しかしそれに対しても、「大変申し訳ございませんが、いただいた回答は差し控えさせてください。今回いただいた質問は、どのように回答してもネガティブな印象になる可能性がありそうですので。(そもそも弊社へネガティブな印象を持った上で、批判的な記事を書くための質問に受け取れてしまいます)」(メール原文ママ)との返信が。

 メールには参照先としてスダチのYouTubeチャンネルにて配信されている無料オンラインセミナー動画や小川代表のドキュメンタリー映像「スダチのこれまでと今後の未来」等のURLが記載されていました。

【精神科医さわ】

児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。名古屋市「塩釜口こころクリニック」院長。開業直後から予約が殺到し、現在も毎月約400人の親子の診察を行っている。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。2023年11月医療法人霜月之会理事長となる。近著に『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』

<取材・文/都田ミツコ(スダチ・小川代表への取材は女子SPA!編集部による)>

【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。

この記事の関連ニュース