7月にスタートした夏ドラマが、続々と最終回を迎えています。すべての2024年夏クールのドラマをチェックした筆者が、プライム帯(19~23時)放送のなかから観てよかったドラマ勝手にベスト5をご紹介します。
※以下、各ドラマの放送済みの最新話までのネタバレを含みます。
◆西園寺さんは家事をしない
まずはシリアスな作品が多かった夏ドラマのなかで、まさにハートフルな作品だった『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)。徹底して家事をしない主人公・西園寺一妃(松本若菜)と、年下の訳ありシングルファーザー・楠見俊直(松村北斗/SixTONES)とその娘・ルカ(倉田瑛茉)が“偽家族”として、風変わりな同居生活をはじめる物語です。
◆“西園寺さん”のキャラが最高すぎる!
キャラ設定・俳優陣・構成・演出のバランスがよく、気軽に観られるのに心に残る。そんなTBS・火10らしい仕上がりでした。そのなかでも際立っていたのが、主人公“西園寺さん”の魅力的なキャラクター。
仕事ができる上に明るくポジティブでコミュ力高め。面倒見もよく、周囲からの信頼も厚い38歳女性なんて、まさに令和の理想的な上司です。また「やりたいことをやる、やりたくないことはやらない」主義を貫いているのも今っぽい。しかも「やりたくないことはやらない」=ズボラ・ルーズではなく、やらないための戦略も秀逸! そんな大人としての包容力を持ちながら、相手のことを優先して自分の気持ちにはちょっぴり不器用なヒロイン。
好感度抜群の“心沸き立つ西園寺さん”を、こちらも好感度の高い松本若菜がチャーミングに演じました。「家族に、職場に、友人に“西園寺さん”がいてほしい!」と思わせた役作りは圧巻! 9月17日に最終回を迎えて“西園寺ロス”なのは、筆者だけではないはずです。
◆降り積もれ孤独な死よ
サスペンスものとして楽しめたのは、成田凌主演の『降り積もれ孤独な死よ』(読売テレビ・日本テレビ系)でした。7年前に“灰川邸”で起きた13人の少年少女監禁死体遺棄事件と、2024年に起きる1人の少女失踪事件が交錯する重厚ミステリーです。
◆サスペンス展開×深い人間描写に惹きつけられる
灰川十三(小日向文世)を慕って、“灰川邸”に集まっていた子どもたちは、みな実の親から虐待を受けていました。事件の真相を追う主人公・冴木仁(成田凌)自身も、虐待を受けた傷を抱えています。
本作は毎話新たな真相が明らかになるサスペンス的展開に加え、心にも体にも傷をもつ登場人物たちの背景と心理を丁寧に描くことで、観る者を惹きつけました。刑事でありながら自身の暴力衝動を抑えられない葛藤と凶暴性を表現した成田をはじめ、深く傷ついた心をそれぞれに演じた俳優陣も印象的。
だからこそ最終回は、冴木の台詞「繋がって来たのは暴力だけじゃない。誰かが誰かを守りたいという想いもずっと繋がってきたはず」。そして冷淡に描かれ続けた灰川が、子どもたちに見せた素顔の優しさが相まって、涙なくしては観られませんでした。あの一瞬で灰川の、物語の真髄を表現した小日向文世には脱帽です。
◆笑うマトリョーシカ
サスペンスでもう1本面白かったのは『笑うマトリョーシカ』。若き人気政治家・清家一郎(櫻井翔)と有能な秘書・鈴木(玉山鉄二)の“奇妙な関係”――彼らを取り巻く黒い闇に、主人公の新聞記者・道上(水川あさみ)が迫っていきました。
◆得体の知れない笑顔の櫻井翔がハマり役
原作は、日本推理作家協会賞や山本周五郎賞など数々の受賞歴を持つ早見和真の同名小説。未公開株を巡る「BG株事件」を中心とした政治の闇と、清家と鈴木の関係を探っていくなかで、清家という人物が浮き彫りになっていく展開は見応えがありました。
物語の展開と合わせて目が離せなかったのが、櫻井翔の得体の知れない笑顔。クリーンで完璧なイメージなのに、人間としての本質や意志が感じられない――まさにマトリョーシカのように張り付いたその笑顔には、不気味さを覚えぞくっとしました。ハマりすぎでしょう! それもそのはずです。原作の早見氏は櫻井をイメージして書いたというのですから。
政治家としての“仮面”を完璧にかぶる人物を、櫻井も完璧に演じています。そして一転、最終回で「見くびるな」と、はじめて自身の心情を吐露した見せ場は圧倒的。俳優・櫻井の力を見せつけました。
◆南くんが恋人!?
最後にベテラン脚本家の力を見せつけられた作品を2つ。まずひとつ目は岡田惠和氏脚本の『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)です。
1987年に刊行された内田春菊の人気漫画『南くんの恋人』が原作で、これまで何度もドラマ化されてきた作品を、初の男女逆転バージョンで映像化。主演のちよみ役を若手注目株の飯沼愛が、小さくなってしまう恋人の南くんを八木勇征(FANTASTICS)が演じました。
◆ただの令和版にあらず! 優しさに溢れた世界に涙
30年前の高橋由美子&武田真治主演のドラマも記憶に残っている筆者は「時代に合わせて男女逆にしたのか……どうせ若い子向け」と決めつけていたのですが、見事に裏切られました。まず、人が小さくなるというファンタジーに困惑しながらも、好きな人と四六時中一緒にいられることが幸せなふたりがとにかく愛おしい! 飯沼&八木が、好感度高く演じていました。
そして、可愛いふたりの恋物語に新たな解釈を加えた岡田脚本が何より秀逸。原作でははっきりと語られなかった「なぜ小さくなったのか?」という問いに、「大切な人たちとお別れをするため」という切なくも愛おしい解が添えられました。
最終回でちよみの母・楓(木村佳乃)は東日本大震災を回想して「亡くなり方が悲しかったとしても、可哀想な人で終わらせちゃいけない。幸せな人にしなくちゃいけない。それができるのは生きている人」と、語ります。悲しい出来事や別れは、どうしようもなく突然訪れる。それでもちよみも南くんも可哀想ではない。ふたり自身も、ふたりを見守る周囲の人たちも決してそうさせない。優しさがいっぱい詰まった作品でした。
◆新宿野戦病院
そしてこの夏クールNo.1はやはり宮藤官九郎氏脚本の『新宿野戦病院』(フジテレビ系)ではないでしょうか。
「英語と岡山弁を混ぜてしゃべっていい日本人は藤井風だけ」のフレーズも話題になった破天荒な元軍医・ヨウコ(小池栄子)と、気取った美容皮膚科医・亨(仲野太賀)を中心に、新宿歌舞伎町にある「聖まごころ病院」の救急外来で起こる悲喜こもごもが描かれました。
◆令和を生きる人たちの「はて?」が露わに
宮藤官九郎氏は、強烈な登場人物たちをエンターテイメントとして魅力的に描きながら、その時代を、社会を絶妙に切り取る天才だと思います。本作においても、“多様性”という言葉ですべてを許容しているかにみえるイマに蔓延(はびこ)る“違和感”を物語のなかで浮き彫りにしていきました。
その違和感とは、出演陣が被りすぎとも取り沙汰された朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)のヒロイン・寅子(伊藤沙莉)風にいえば、「はて?」です。令和を生きる人たちが漠然と抱えるモヤモヤや不平等感に、ヨウコが「命は平等」と“雑に”寄り添ってくれる面白さがクセになっていきました。
9月11日に最終話を迎えた本作。最後の2話では真正面から“コロナ禍”が描かれました(ドラマの設定では、未知のウイルス・ルミナにより世界中が再び脅威にさらされる)。その重みとリアリティは、視聴者全員が共通して感じたはず。
クドカン作品は、誰かを一方的に悪者にしない。どんな価値観を押し付けもしないし、否定もしない。不平等な世の中でも、“命があること、その命はいつか尽きること”だけは平等だから、自分の命を全うするしかない。そんなメッセージを、“雑に”受け取った気がします。絶妙な塩梅で社会風刺をするクドカンワールドが、たまらなく好き! 今回も堪能できました。
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配信系ドラマではNetflix『地面師たち』が大いに盛り上がるなど、今年の夏も熱いドラマが沢山楽しめました。個人的なランキングですが、みなさんのお気に入りはありましたか?
<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>
【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201
※以下、各ドラマの放送済みの最新話までのネタバレを含みます。
◆西園寺さんは家事をしない
まずはシリアスな作品が多かった夏ドラマのなかで、まさにハートフルな作品だった『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)。徹底して家事をしない主人公・西園寺一妃(松本若菜)と、年下の訳ありシングルファーザー・楠見俊直(松村北斗/SixTONES)とその娘・ルカ(倉田瑛茉)が“偽家族”として、風変わりな同居生活をはじめる物語です。
◆“西園寺さん”のキャラが最高すぎる!
キャラ設定・俳優陣・構成・演出のバランスがよく、気軽に観られるのに心に残る。そんなTBS・火10らしい仕上がりでした。そのなかでも際立っていたのが、主人公“西園寺さん”の魅力的なキャラクター。
仕事ができる上に明るくポジティブでコミュ力高め。面倒見もよく、周囲からの信頼も厚い38歳女性なんて、まさに令和の理想的な上司です。また「やりたいことをやる、やりたくないことはやらない」主義を貫いているのも今っぽい。しかも「やりたくないことはやらない」=ズボラ・ルーズではなく、やらないための戦略も秀逸! そんな大人としての包容力を持ちながら、相手のことを優先して自分の気持ちにはちょっぴり不器用なヒロイン。
好感度抜群の“心沸き立つ西園寺さん”を、こちらも好感度の高い松本若菜がチャーミングに演じました。「家族に、職場に、友人に“西園寺さん”がいてほしい!」と思わせた役作りは圧巻! 9月17日に最終回を迎えて“西園寺ロス”なのは、筆者だけではないはずです。
◆降り積もれ孤独な死よ
サスペンスものとして楽しめたのは、成田凌主演の『降り積もれ孤独な死よ』(読売テレビ・日本テレビ系)でした。7年前に“灰川邸”で起きた13人の少年少女監禁死体遺棄事件と、2024年に起きる1人の少女失踪事件が交錯する重厚ミステリーです。
◆サスペンス展開×深い人間描写に惹きつけられる
灰川十三(小日向文世)を慕って、“灰川邸”に集まっていた子どもたちは、みな実の親から虐待を受けていました。事件の真相を追う主人公・冴木仁(成田凌)自身も、虐待を受けた傷を抱えています。
本作は毎話新たな真相が明らかになるサスペンス的展開に加え、心にも体にも傷をもつ登場人物たちの背景と心理を丁寧に描くことで、観る者を惹きつけました。刑事でありながら自身の暴力衝動を抑えられない葛藤と凶暴性を表現した成田をはじめ、深く傷ついた心をそれぞれに演じた俳優陣も印象的。
だからこそ最終回は、冴木の台詞「繋がって来たのは暴力だけじゃない。誰かが誰かを守りたいという想いもずっと繋がってきたはず」。そして冷淡に描かれ続けた灰川が、子どもたちに見せた素顔の優しさが相まって、涙なくしては観られませんでした。あの一瞬で灰川の、物語の真髄を表現した小日向文世には脱帽です。
◆笑うマトリョーシカ
サスペンスでもう1本面白かったのは『笑うマトリョーシカ』。若き人気政治家・清家一郎(櫻井翔)と有能な秘書・鈴木(玉山鉄二)の“奇妙な関係”――彼らを取り巻く黒い闇に、主人公の新聞記者・道上(水川あさみ)が迫っていきました。
◆得体の知れない笑顔の櫻井翔がハマり役
原作は、日本推理作家協会賞や山本周五郎賞など数々の受賞歴を持つ早見和真の同名小説。未公開株を巡る「BG株事件」を中心とした政治の闇と、清家と鈴木の関係を探っていくなかで、清家という人物が浮き彫りになっていく展開は見応えがありました。
物語の展開と合わせて目が離せなかったのが、櫻井翔の得体の知れない笑顔。クリーンで完璧なイメージなのに、人間としての本質や意志が感じられない――まさにマトリョーシカのように張り付いたその笑顔には、不気味さを覚えぞくっとしました。ハマりすぎでしょう! それもそのはずです。原作の早見氏は櫻井をイメージして書いたというのですから。
政治家としての“仮面”を完璧にかぶる人物を、櫻井も完璧に演じています。そして一転、最終回で「見くびるな」と、はじめて自身の心情を吐露した見せ場は圧倒的。俳優・櫻井の力を見せつけました。
◆南くんが恋人!?
最後にベテラン脚本家の力を見せつけられた作品を2つ。まずひとつ目は岡田惠和氏脚本の『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)です。
1987年に刊行された内田春菊の人気漫画『南くんの恋人』が原作で、これまで何度もドラマ化されてきた作品を、初の男女逆転バージョンで映像化。主演のちよみ役を若手注目株の飯沼愛が、小さくなってしまう恋人の南くんを八木勇征(FANTASTICS)が演じました。
◆ただの令和版にあらず! 優しさに溢れた世界に涙
30年前の高橋由美子&武田真治主演のドラマも記憶に残っている筆者は「時代に合わせて男女逆にしたのか……どうせ若い子向け」と決めつけていたのですが、見事に裏切られました。まず、人が小さくなるというファンタジーに困惑しながらも、好きな人と四六時中一緒にいられることが幸せなふたりがとにかく愛おしい! 飯沼&八木が、好感度高く演じていました。
そして、可愛いふたりの恋物語に新たな解釈を加えた岡田脚本が何より秀逸。原作でははっきりと語られなかった「なぜ小さくなったのか?」という問いに、「大切な人たちとお別れをするため」という切なくも愛おしい解が添えられました。
最終回でちよみの母・楓(木村佳乃)は東日本大震災を回想して「亡くなり方が悲しかったとしても、可哀想な人で終わらせちゃいけない。幸せな人にしなくちゃいけない。それができるのは生きている人」と、語ります。悲しい出来事や別れは、どうしようもなく突然訪れる。それでもちよみも南くんも可哀想ではない。ふたり自身も、ふたりを見守る周囲の人たちも決してそうさせない。優しさがいっぱい詰まった作品でした。
◆新宿野戦病院
そしてこの夏クールNo.1はやはり宮藤官九郎氏脚本の『新宿野戦病院』(フジテレビ系)ではないでしょうか。
「英語と岡山弁を混ぜてしゃべっていい日本人は藤井風だけ」のフレーズも話題になった破天荒な元軍医・ヨウコ(小池栄子)と、気取った美容皮膚科医・亨(仲野太賀)を中心に、新宿歌舞伎町にある「聖まごころ病院」の救急外来で起こる悲喜こもごもが描かれました。
◆令和を生きる人たちの「はて?」が露わに
宮藤官九郎氏は、強烈な登場人物たちをエンターテイメントとして魅力的に描きながら、その時代を、社会を絶妙に切り取る天才だと思います。本作においても、“多様性”という言葉ですべてを許容しているかにみえるイマに蔓延(はびこ)る“違和感”を物語のなかで浮き彫りにしていきました。
その違和感とは、出演陣が被りすぎとも取り沙汰された朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)のヒロイン・寅子(伊藤沙莉)風にいえば、「はて?」です。令和を生きる人たちが漠然と抱えるモヤモヤや不平等感に、ヨウコが「命は平等」と“雑に”寄り添ってくれる面白さがクセになっていきました。
9月11日に最終話を迎えた本作。最後の2話では真正面から“コロナ禍”が描かれました(ドラマの設定では、未知のウイルス・ルミナにより世界中が再び脅威にさらされる)。その重みとリアリティは、視聴者全員が共通して感じたはず。
クドカン作品は、誰かを一方的に悪者にしない。どんな価値観を押し付けもしないし、否定もしない。不平等な世の中でも、“命があること、その命はいつか尽きること”だけは平等だから、自分の命を全うするしかない。そんなメッセージを、“雑に”受け取った気がします。絶妙な塩梅で社会風刺をするクドカンワールドが、たまらなく好き! 今回も堪能できました。
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配信系ドラマではNetflix『地面師たち』が大いに盛り上がるなど、今年の夏も熱いドラマが沢山楽しめました。個人的なランキングですが、みなさんのお気に入りはありましたか?
<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>
【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201