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朝ドラ『虎に翼』32歳俳優の演技は「極めて大げさ」だけど優れているといえるワケ

女子SPA! 2024年9月23日 8時46分

 9月7日に放送された『人生最高レストラン』(TBS)に戸塚純貴が出演した。彼は俳優としての強みについて話していた。

 戸塚純貴の強みは彼の核心部分である。それはあの極めて大袈裟な表情に見える演技を確立する演技法であり、朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)の轟太一役まで着実に探求、実践されてきた。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、『虎に翼』の轟太一役の“リアクションの演技”を読み解く。

◆精神の救いとなってきた「教会」

『虎に翼』公式Xには、「#トラつばインタビュー」という一連のポストがある。これは戸塚純貴と土居志央梨が同作の裏側について語るインタビュー音声なのだが、9月10日にポストされたインタビュー中編が興味深かった。

 ふたりがそれぞれ演じる轟太一と山田よねは、主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の学友であり、戦後、上野の元カフェで共同弁護士事務所を設立した。弱きを助けるこの事務所には、毎日のように人々が相談にくる。

 インタビューでは、弁護士事務所が「自分のことを正直に話す場所」と戸塚が定義し、だんだん「教会みたいな感じ」と土居が付け加えている。そうか、教会か。言い得て妙かもしれない。この弁護士事務所は、弁護を頼みにくる人々のために平等に開かれているばかりか、轟とよねにとっても精神の救いとなってきた場所だからだ。

◆花岡を想う眼差し

 この場所が初めて教会化する瞬間があったとするなら、それはたぶん第11週第51回だろうか。この週は、明律大学で寅子たちと学んだ判事・花岡悟(岩田剛典)が餓死するというショッキングな事件直後から幕を開けた。

 誰よりもショックを受けたのが轟であり、彼にとっての花岡は親友以上の存在だった。轟が花岡に抱く愛情に気づいているよねが、ぐでんぐでんに飲み崩れた轟の元に現れ、カフェに連れてくる。

 よねから「惚れてたんだろ、花岡に」と言われ、最初は声を荒げる轟だが、彼は確かに花岡のことを愛していた。ただ、「俺にもよくわからない」と轟が言うように、この時点での轟のセクシュアリティは曖昧である。

 花岡を想う轟の眼差しが、まさに愛の告解(告白)を行うような強さとして描かれていたら十分だ。この場面以降、弁護士事務所を設立しようと結束する轟とよねにとってはある意味、設立自体がイコール精神の救いというか、つまり教会的な機能を担うことになったのだと思う。

◆暑苦しさから見出す独自の演技法

 冒頭のインタビューではおまけとして、花岡役の岩田のツアーライブに戸塚が足を運んだことも明かされている。朝ドラ俳優ではなくアーティストの姿でステージに立つ岩田を見て「本当にほれた!」と戸塚。筆者もこのツアー公演を2度観たから、気持ちは共有できる。

 インタビューの場を借りて「本当にほれた!」と発言する戸塚は、どこまでも律儀な人だと思う。伊藤沙莉の誕生日のときには、プレゼントの六法全書に出演者のサインをもらうために、岩田が所属するLDHまでサインを求めて行く人でもある。

 正義と誠実を重んじる轟役の俳優は、現実でも熱い人なのだ。戸塚は自分の熱い性格を役柄に反映させるのがうまい。熱さが暑苦しさまで高められ、大袈裟な演技の沸点を超える演技。彼はそれを武器にしながら、現在までに独自の演技法を見出している。

◆福田雄一監督からの言葉が極貧時代の救いに

 彼の演技が開眼した背景にはある映画監督の存在がある。そのことについて、『人生最高レストラン』に出演した戸塚が、極貧時代のエピソードとして話していた。

 2010年のジュノン・スーパーボーイ・コンテスト(第23回)での理想の恋人賞受賞を経て、『仮面ライダーウィザード』(テレビ朝日、2012~2013年)で魔法使いに憧れる助手役で注目されるが、仕事が一定ではなく一杯の牛丼を食べるのにも苦労していたというのだ。

 俳優としての強みや方向性で悩んでいたとき、『アオイホノオ』(テレビ東京、2014年)の福田雄一監督からまさに救いの言葉をもらう(その後、福田監督が演出した牛丼屋のWEB CMに戸塚が出演するのだが、彼にとっての牛丼屋は救いを求める教会だ)。

 当時の戸塚の演技に対して福田監督は「負け芝居が好き」と評した。つまり、自分側からのアクションではなく、むしろ相手の演技を受けての“リアクションの演技”が優れているのだと。この一言でじわじわ覚醒した戸塚は、例えば、福田雄一監督作だと『銀魂2 掟は破るためにこそある』(2018年)のラストで、ひたすら周囲の状況に対して独り相撲的にリアクションしていく表情の豊かさを得た。

 ただし、このリアクションの演技法は、別に福田雄一監督オリジナルのものではない。溝口健二監督作に出演した香川京子がひたすら「反射していますか、反射してください」と言われたことなど、日本映画の古典期から俳優が演技をする基本的な方法論だった。

 溝口監督の執拗な演出によってリアクションの演技を探求した香川直系の俳優ということではないけれど、いずれにしろ戸塚は現行リアクション型俳優として好例的存在となった。

◆轟の内面に向けたリアクションの演技

 直近の出演作だと、中村アン主演のドラマ『青島くんはいじわる』(テレビ朝日、毎週土曜日よる11時から放送)では、第1話初登場の瞬間からリアクション炸裂だ。

 戸塚演じる谷崎真司が画面上でまだピントが合っていないというのに、妙に存在感をアピールしているように感じる。リアクションする前からリアクションする気まんまんという域にまで到達しているのだ。

 そうした戸塚型リアクションの演技が、『虎に翼』でさらに奥深いものになっている。明律大学に通う学生時代の轟は、寅子たち女子部の面々に対して、あからさまな女性差別を繰り返していた。

 一方で自分の間違いを潔く認める人でもある轟は、寅子との交流によってだんだんと考え方をアップデートさせる。その間、戸塚はとにかく相手のアクションに対するリアクションを繰り返しながら、轟の心の成長を可視化していた。

 戦後に設立した弁護士事務所での轟は、不当な差別や不平等と戦う毅然とした態度を貫く精神性にまで高めている。ゲイであることを自認して同性のパートナーを得て以降は、より穏やかかつ熱い人間味を醸す。

 毅然とした熱血な同性愛者という轟像として、監督とプロデューサーから「内面は三島由紀夫」と言われた戸塚は「腑に落ちた」そうだが、この三島由紀夫的な内面的世界も轟が年齢を重ねていくごとに穏やかになっている。

 第23週第114回では、三島文学を読み解く重要なキーワード「大義名分」という一語を轟が威勢よく発する場面がある。原爆裁判の原告として法廷で証言をしようとする吉田ミキ(入山法子)を気遣う轟が「お陰様で、こちらも恋人の家に泊まる大義名分ができましたね」と言う。それは、轟の内面へ向けた戸塚のリアクションの演技が特に鋭く反射した瞬間だと思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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