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「見た目が若すぎる」の声多数。朝ドラ『虎に翼』35歳俳優の“老けメイク”が甘いワケ

女子SPA! 2024年9月22日 8時47分

『虎に翼』(NHK総合)で岡田将生が演じる判事・星航一のビジュアルが話題である。

 すでに還暦あたりだと思われるが、見た目が若いとSNS上で意見が飛びかっているのだ。確かにパッと見そうかもしれなが、これはあえて若々しくしている気がする。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、あえて老け込ませていない星航一役について独自の視点から解説する。

◆ニュートラルにリニューアルされた航一

『虎に翼』の主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の同僚判事である星航一(岡田将生)が、第14週第66回で初登場したとき、とにかく「やりづらい」と寅子を困惑させるくらい謎めいた存在感だった。

 この人とどう接するべきなのか。日本屈指の美麗俳優・岡田将生が演じていることもあり、その人物像は二重のミステリアスな入り組み様。

 それがどうしたのだろう。ここ数週間の放送では、すっかりアクが抜けてしまったのか。あの“クセつよ”な感じが、ニュートラルにリニューアルされたかのようである。

◆リアルに霞を食べて生きてるんじゃ?

 第16週第76回からの新潟編で再会し、「永遠を誓わない、だらしがない愛」の関係性を結び、そのあと再度東京編で家族になる。その間、航一からのプロポーズを受けた寅子が、佐田姓から星姓に変わることを悩んだりするが、結果的にお互いの家同士が認め合う固い共同体になる。

 最高裁判所初代長官・星朋彦(平田満)の後を継いで、一家の長になった航一は、老年期へ向かってゆるやかに白髪がまじり、顔のシミが増えている。旧来の家長のように偉ぶるわけでも、長男・星朋一(井上祐貴)と長女・吉川のどか(尾崎真花)に対して変に父親ぶるわけでもない。

 継母である星百合(余貴美子)が家事を担当する食卓では、ただ静かに家長の席に座っている。口癖の「なるほど」をたまに発したりはする。頼りないかというとそういうわけでもない。星家の食卓には鰻重や天重が並んだりするが、この人は(たとえとかではなく)ひとりリアルに霞を食べて生きてるんじゃないか。老齢期にさしかかる航一は、空気に溶け込み、限りなく気体に近いのような空気感だ。

◆あえて老け込ませていない

 SNS上では航一のビジュアルに対して、「航一さんだけ歳を取らないな」や「もっと白髪増やしたほうが……」、「シワとシミを加えてあげて」と、実年齢よりはるか上の役柄を演じる岡田将生にもっと老けメイクを施すべきだという意見が総じて散見される。

 でもあえて老けメイクを薄めにしているんじゃないのかなと筆者は思う。『昭和元禄落語心中』(NHK総合、2018年)では、白髪まじりの七三分けスタイル。塗り重ねた老けメイクを施して八代目有楽亭八雲を演じていた。同じNHKのドラマ作品なのだから、やろうと思えば老け込める。

 なのに老け込ませていない。岡田が目指すのは、それこそ霞のような存在感なのではないかと思う。歳をとるごとにもっと気体のような存在に近づき、存在自体を超越する。そのためには、いくらキャラクターが歳をとるからといって、やたらと老けこませるわけにはいかないのだ。

◆明らかに人間性を超越しようとしている

『昭和元禄落語心中』の八雲役は、背筋が凍るような、どこか人間的な存在を超えた化け物めいたところがあった。あるいは2021年に出演する『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレビ朝日)では、劇中ドラマという形式ながら、人ではないドラキュラ教師を演じていた。

 ドラキュラつながりでいうと、第94回アカデミー賞作品賞に日本映画として初めてノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』(2021年)では、吸血鬼的な表情をする強烈な場面があった。岡田演じる人気俳優と西島秀俊扮する演出家との会話場面である。

 夜の車内。岡田の目元が怪しく光る。薄暗い照明の中でカメラを向いて浮かび上がる表情は、人間離れした何者かの形相だった。『虎に翼』の航一役からえらく飛躍した話題に思われるかもしれないが、ある時点からの岡田将生は明らかに人間性を超越する域に達しようとして、新たな役柄に挑んでいる節がある。

◆航一役の最終ビジョン

 では岡田将生はいったい、どこにたどり着こうとしているのか。すくなくとも、『虎に翼』では、“アラ還”であるはずなのに若々しく感じてしまう航一役の最終ビジョンをどこに見定めているのか?

 ここでもう一度、霞という一語を引っ張りだしておきたいと思う。そう、霞。新潟での勤務時代の航一が、心の内を初めてつまびらかにしたのは第18週第90回のこと。戦中に総力戦研究所の一員だった彼は、戦争責任の一端が自分にもあるのではないかと悩み苦しんでいた。心を開かせたのは寅子だ。

 常連のカフェ「ライトハウス」の店外でひとり冬の外気につつまれた航一の頭上、その髪の毛の何本かに雪のひと粒ひと粒が結晶化していた。毛先で溶けずに、固体の状態を何とか維持しようとする美しさがあった。

 その美しい記憶から、航一は今、越冬した春に空気中を漂う霞のように自らの精神を研ぎ澄ませているように見える。

 のどかの結婚話が持ち上がり父親として心を乱すなど、激しく気持ちを高ぶらせるエモーショナルな瞬間もそれなりにあったりはする。でもその最終ビジョンは、とても穏やかで透き通った霞そのもの。空気に自然となじむおぼろげな存在なのだと思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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