物語を書くことに没頭するまひろ。
その物語が人々の心を動かしていく。そして、ついに、まひろが、道長が、一番動かしたかった人の心を動かす。
◆物語が人の心を魅了する
まひろ(吉高由里子)が「源氏物語」を書き始めたら、どのように話が展開していくのか、楽しみでもあり、少し不安でもあった。
ある意味、「光る君へ」は、まひろが「源氏物語」を書くまでの物語であると勝手に思っていたからかもしれない。
「源氏物語」を書き進めていくまひろ。宮中の者たちもその物語に夢中になっていく。「これは自分の物語だ」と思う者もいたり、シンプルにその物語に魅了される者も。
一条天皇(塩野瑛久)も物語に魅了されている者のひとりだ。まひろから、帝の思いに寄り添って書いた物語だと聞けば、より思い入れも強いものになるだろう。最初はきっと自分の心に近いものがあったからこそ、反発したのかもしれない。それが今ではすっかり虜だ。物語の解釈を作者本人にぶつけるのって、すごく贅沢な時間では。
◆彰子にはまだ響いていなかったが……
帝が夢中になっている物語ならば、と「源氏物語」を読み始めた彰子(見上愛)。しかし、彰子には「源氏物語」のおもしろさを理解することができない。一条天皇のような熱心な読者がいるかと思えば、「どこがおもしろいんでしょうか」と曇りなき眼で聞かれるのだから、この時代の書き手は大変である。
しかし、彰子のこの問いは大きな一歩だ。
彰子は自分の思いを表現することが少ない。何も感じていないわけではないし、頭が悪いわけでもない。ただ、自分の気持ちをどう表現すれば良いのかが分からないし、自分が気持ちを伝えたことで相手がどう感じるか、ということにも少し恐れを抱いているようにも見える。
そんな中、彰子は少しずつまひろには心を開いている。そこを逃さず、まひろは彰子に「人の心とは」というのを説いていく。道長(柄本佑)が友人たちと話をしているシーンを見せることで「殿御とはみなかわいいものですよ」と教えてみたり。
それによって、彰子の表情が次第に豊かになっていくのは見ているだけで少し嬉しく感じられる。
◆道長、命がけの祈願
都で火事が続いたり、敦康親王(片岡千之助)が病にかかるなど、不吉なことが続いていた。そこで道長は金峯山寺への参拝を決めた。彰子の懐妊と世の安寧を祈願するためだ。命がけの道のり。
それだけ、道長が彰子の懐妊を願うのは、このままでは彰子が不憫だという思いが強いからだろう。
事実だけ見ると、自分の地位を確固たるものにするためにしている可能性だってあるのに、そうは見えないのは道長の人柄によるものだろう。伊周(三浦翔平)は定子(高畑充希)に皇子を産め産めと責め立てていたな……と思い出さずにはいられない。
そんな伊周は金峯山寺からの帰路に道長を亡き者にしようとしていた。それを阻んだのは隆家(竜星涼)だった。伊周は、なぜ自分の邪魔ばかりをするのだ、というが、隆家としては兄を助けるための方法であったのだと思うけれど、弟の心、兄知らずというところだろうか。
◆彰子の心が一条天皇を動かす
道長は金峯山寺から戻ると、まひろのもとを訪れる。道長の無事な姿を見て、まひろもホッとした様子を見せる。空気感が夫婦のようだ。
そして道長が何をするかというと、「源氏物語」の続きを読むことだ。
光る君の不義密通の話を読み、どのような心積もりで書いたのかと問う道長。まひろは我が身に起きたこと、と言う。それは、道長との夜のことを指しているのだけれど、道長には伝わっているんだろうか……。
不義密通があったとして、自分と宣孝(佐々木蔵之介)以外の男の存在があった、と道長は考えるのか。まひろの部屋を出たあと、道長はふと足を止めるが、その心のうちはいかに。
でも、恋だとか愛だとかは全てが分かってしまったら少しばかりつまらないのかもしれない。
一方、彰子。彰子は「源氏物語」に登場する若紫に思いを馳せていた。若紫は自分のよう。幼いうちに光る君に引き取られ、育てられた若紫。彰子は幼いころに入内し内裏で育った。その姿が重なるのだろう。
若紫はこれからどうなるのか、と問う彰子にまひろは「どうなればよいと思うか」と問い返す。
「光る君の妻になるがよい」
光る君は一条天皇のようだと彰子は言っていた。その一言に、彰子の思いが詰まっていた。心の内を一条天皇に伝えてはどうか、というまひろだったが、そこに一条天皇が訪れた。思いが溢れるかのように、「お慕いしております!」と告げた彰子。
頬を涙で濡らし、その瞳が一条天皇をとらえる。自分の感情を初めてあらわにした瞬間だったかもしれない。
その場は立ち去った一条天皇だったが、改めて藤壺を訪れる。彰子に触れるために。
雪が積もる夜に訪れ、ふとその雪に視線を向ける帝の美しいことよ……。
思い出していたのは定子と過ごした日々のことだろうか。
定子に慈しまれ、愛されていた幼い帝。自分を慕う誰かを慈しみ、愛する人にならなければならないときが来たのかもしれない。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ
その物語が人々の心を動かしていく。そして、ついに、まひろが、道長が、一番動かしたかった人の心を動かす。
◆物語が人の心を魅了する
まひろ(吉高由里子)が「源氏物語」を書き始めたら、どのように話が展開していくのか、楽しみでもあり、少し不安でもあった。
ある意味、「光る君へ」は、まひろが「源氏物語」を書くまでの物語であると勝手に思っていたからかもしれない。
「源氏物語」を書き進めていくまひろ。宮中の者たちもその物語に夢中になっていく。「これは自分の物語だ」と思う者もいたり、シンプルにその物語に魅了される者も。
一条天皇(塩野瑛久)も物語に魅了されている者のひとりだ。まひろから、帝の思いに寄り添って書いた物語だと聞けば、より思い入れも強いものになるだろう。最初はきっと自分の心に近いものがあったからこそ、反発したのかもしれない。それが今ではすっかり虜だ。物語の解釈を作者本人にぶつけるのって、すごく贅沢な時間では。
◆彰子にはまだ響いていなかったが……
帝が夢中になっている物語ならば、と「源氏物語」を読み始めた彰子(見上愛)。しかし、彰子には「源氏物語」のおもしろさを理解することができない。一条天皇のような熱心な読者がいるかと思えば、「どこがおもしろいんでしょうか」と曇りなき眼で聞かれるのだから、この時代の書き手は大変である。
しかし、彰子のこの問いは大きな一歩だ。
彰子は自分の思いを表現することが少ない。何も感じていないわけではないし、頭が悪いわけでもない。ただ、自分の気持ちをどう表現すれば良いのかが分からないし、自分が気持ちを伝えたことで相手がどう感じるか、ということにも少し恐れを抱いているようにも見える。
そんな中、彰子は少しずつまひろには心を開いている。そこを逃さず、まひろは彰子に「人の心とは」というのを説いていく。道長(柄本佑)が友人たちと話をしているシーンを見せることで「殿御とはみなかわいいものですよ」と教えてみたり。
それによって、彰子の表情が次第に豊かになっていくのは見ているだけで少し嬉しく感じられる。
◆道長、命がけの祈願
都で火事が続いたり、敦康親王(片岡千之助)が病にかかるなど、不吉なことが続いていた。そこで道長は金峯山寺への参拝を決めた。彰子の懐妊と世の安寧を祈願するためだ。命がけの道のり。
それだけ、道長が彰子の懐妊を願うのは、このままでは彰子が不憫だという思いが強いからだろう。
事実だけ見ると、自分の地位を確固たるものにするためにしている可能性だってあるのに、そうは見えないのは道長の人柄によるものだろう。伊周(三浦翔平)は定子(高畑充希)に皇子を産め産めと責め立てていたな……と思い出さずにはいられない。
そんな伊周は金峯山寺からの帰路に道長を亡き者にしようとしていた。それを阻んだのは隆家(竜星涼)だった。伊周は、なぜ自分の邪魔ばかりをするのだ、というが、隆家としては兄を助けるための方法であったのだと思うけれど、弟の心、兄知らずというところだろうか。
◆彰子の心が一条天皇を動かす
道長は金峯山寺から戻ると、まひろのもとを訪れる。道長の無事な姿を見て、まひろもホッとした様子を見せる。空気感が夫婦のようだ。
そして道長が何をするかというと、「源氏物語」の続きを読むことだ。
光る君の不義密通の話を読み、どのような心積もりで書いたのかと問う道長。まひろは我が身に起きたこと、と言う。それは、道長との夜のことを指しているのだけれど、道長には伝わっているんだろうか……。
不義密通があったとして、自分と宣孝(佐々木蔵之介)以外の男の存在があった、と道長は考えるのか。まひろの部屋を出たあと、道長はふと足を止めるが、その心のうちはいかに。
でも、恋だとか愛だとかは全てが分かってしまったら少しばかりつまらないのかもしれない。
一方、彰子。彰子は「源氏物語」に登場する若紫に思いを馳せていた。若紫は自分のよう。幼いうちに光る君に引き取られ、育てられた若紫。彰子は幼いころに入内し内裏で育った。その姿が重なるのだろう。
若紫はこれからどうなるのか、と問う彰子にまひろは「どうなればよいと思うか」と問い返す。
「光る君の妻になるがよい」
光る君は一条天皇のようだと彰子は言っていた。その一言に、彰子の思いが詰まっていた。心の内を一条天皇に伝えてはどうか、というまひろだったが、そこに一条天皇が訪れた。思いが溢れるかのように、「お慕いしております!」と告げた彰子。
頬を涙で濡らし、その瞳が一条天皇をとらえる。自分の感情を初めてあらわにした瞬間だったかもしれない。
その場は立ち去った一条天皇だったが、改めて藤壺を訪れる。彰子に触れるために。
雪が積もる夜に訪れ、ふとその雪に視線を向ける帝の美しいことよ……。
思い出していたのは定子と過ごした日々のことだろうか。
定子に慈しまれ、愛されていた幼い帝。自分を慕う誰かを慈しみ、愛する人にならなければならないときが来たのかもしれない。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ