女子SPA!で2024年8月に公開された記事のなかから、ランキングトップ5入りした記事を紹介します。(初公開日は2024年8月24日 記事は公開時の状況)
==========
マックフライポテトに期待することは?
食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。
先日、日本のマクドナルドのある動画が炎上しました。その動画とは、マックフライポテトの値引きキャンペーンのために制作された広告プロモーションであり、2024年8月17日にX上限定での公開されたもの。AIクリエイター架空飴(Kaku Drop)氏が手がけたものだそうです。
マックフライポテトを持った若い女性が次々に登場する内容で、生成AI(さまざまなコンテンツを生成できる人工知能)によって制作されていました。この動画を視た人々からは「不気味」「気持ち悪い」「AIの必要性がわからない」などと否定的な意見が多く寄せられる事態に。確かにこの動画は賛否両論を生み出しそうです……。マクドナルドはいったい何をミスしてしまったのでしょうか?
このAI広告に対する嫌悪感の理由については、既にさまざまなメディアにおいて議論されていますから、今回は違った視点で考えてみることに。
食文化研究家として、今回のAI広告が多くの人々に違和感をもたらした理由を考察しながら、今後マックが期待される動画とはいったいどのようなものなのか? を考えてみました。そのヒントになるポイントを海外マックの動画で見つけたので、合わせて紹介していきたいと思います。
◆問題となったAI広告には、何が欠けていたのか?
近年増えつつあるAI広告。業種を問わず、さまざまな企業が話題化をねらってチャレンジをしている分野でもあります。まずは今回炎上してしまった動画について、X上のコメントをじっくり見ていくと、わかることがあります。
それは、マクドナルドがAIによる動画制作をしたこと自体に強い嫌悪感や批判を表明しているわけではないということ。あくまでもその表現の印象面において、率直な意見が集まっていることがわかります。
そして、描かれた女性や映像全体の雰囲気をとらえて不快感を示したユーザーが多くいたことは否定できませんが、強い嫌悪感の根本要因は他にあったのではないかと、私は考えました。
それは、これまで何度となくマックフライポテトを食べてきた、愛してきた顧客に対する敬意の欠如ではないかと思うのです。
人が食事をするときに必ず伴うのは、そのときに生まれるエピソードや気持ちです。子どもの頃にポテトを食べた親子の懐かしい思い出、友達と遊ぶ流れで楽しく食べた記憶、疲れて帰ってきてLサイズを独り占めして食べたときの至福感……。
人それぞれマックフライポテトとのエピソードがあるでしょう。つまり、多くの人がマクドナルドからもらった温かな記憶や思い出に対して、マクドナルドとして敬意や感謝、共感といった気持ちが、この動画に間接的にでも込められていたのかが、疑問なのです。
つまり多くの人々は、自分たちが長らく重ねてきたリアルな思い出や体験とはつながりにくい、どこか人工的で温もりのない単発的なシーンをつなぎ合わせた動画に、「マックフライポテトの世界はこんなんじゃない!」という拒否感を抱いたのではないでしょうか?
◆マックフライポテトへの期待に、日本のマックはどうこたえるべきなのか?
世界有数のグローバル企業として成長を続けているマクドナルドですが、実は日本におけるマックのプロモーションを見ていくと、海外とはやや異質であることに気がつきます。それは、有名タレントを起用するプロモーションへの依存度の高さです。
ここでその良し悪しについて議論をするつもりはありませんが、日本のマックの未来を想像したとき、斬新そうに見える、安いだけの告知、好きなタレントを起用するだけのプロモーションが心をつかまなくなっていくのではないか?と感じはじめています。
その理由は、海外マックの動画にありました。ユーザーのマック体験に敬意や配慮を示しながら、楽しく心をつかむ動画をたくさん発見することができましたので、その事例を3つご紹介していきましょう。
◆①「こういうときあるよね!」と共感を生むイギリスのCM
イギリスで2024年6月に公開された60秒動画。最後の1本を食べる時の至福感、台所で踊りながらポテトを食べる楽しさ、ハロウィンで子どもがマックフライポテトに仮装するシーンなどの楽しいシーンを提示しながら、「マックフライポテトは嬉しいサプライズを提案します」というメッセージが込められた内容。
「こういうときあるよね! そうだよね!」という共感を生み出す演出になっています。
◆②「新しい! 食べてみたい!」とワクワクするフランスのCM
2023年にフランスで新しく登場した「ベジタブルフライ」についてのプロモーション動画。
子どもが魔法のスティックを持って街中を歩いている。スティックをふるたびにビルや犬、美容院などが鮮やかな色に変身していく。そして最後にマクドナルドで母親がスティックをふると、カラフルなベジタブルフライに変身するというもの。見ていて楽しく、大人もワクワクするテイストに仕上がっています。
◆③食欲を純粋に誘うイタリアらしいの商品とCM
イタリアで2024年2月に公開された15秒動画。パジャマ姿の女性が夜にお店に走り、話題の新商品「Le Ricche Fries」をゲットするという内容。
とろけるチーズとベーコンがトッピングされたイタリアならではのユニークな商品で、海外マックにおいてこのようなご当地メニューが誕生しています。元祖マックフライポテトも良いけれど、新しい発想の提案力は日本でも求められているのかもしれないと、考えさせられる事例でしょう。
◆マックポテトのCMに生成AIは必要なのか?
それでは最後に、マックのフライポテト動画にAIや新しいテクノロジーを駆使するのはアリなのか? という点について、考えてみましょう。アメリカ本国のマクドナルドが公開している動画を見つけました。
主役はマックフライポテトで、ヒトやモノはほとんど登場しません。たっぷりの揚げたてポテトに塩をふり、ガサッと箱に入れ、客が手にとるまでをシズル感たっぷりに描いています。このような限りなくシンプルでクラシカルな演出で作られた動画に食欲を刺激される人は少なくないと思います。さあ、皆さんはどう感じますか?
いずれにしてもAI広告がアリかどうかは、見る人が生きてきた人生や日常への配慮があり、人と商品との関係性を温めてくれる、必要性を感じさせてくれる動画こそが重要。
その上で新しいクリエイションは歓迎される要素なのではないでしょうか?
<文/スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12
==========
マックフライポテトに期待することは?
食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、食トレンド、スーパーマーケットやスタバ、ダイエットフード、食育などの情報を“食の専門家”として日々発信しています。
先日、日本のマクドナルドのある動画が炎上しました。その動画とは、マックフライポテトの値引きキャンペーンのために制作された広告プロモーションであり、2024年8月17日にX上限定での公開されたもの。AIクリエイター架空飴(Kaku Drop)氏が手がけたものだそうです。
マックフライポテトを持った若い女性が次々に登場する内容で、生成AI(さまざまなコンテンツを生成できる人工知能)によって制作されていました。この動画を視た人々からは「不気味」「気持ち悪い」「AIの必要性がわからない」などと否定的な意見が多く寄せられる事態に。確かにこの動画は賛否両論を生み出しそうです……。マクドナルドはいったい何をミスしてしまったのでしょうか?
このAI広告に対する嫌悪感の理由については、既にさまざまなメディアにおいて議論されていますから、今回は違った視点で考えてみることに。
食文化研究家として、今回のAI広告が多くの人々に違和感をもたらした理由を考察しながら、今後マックが期待される動画とはいったいどのようなものなのか? を考えてみました。そのヒントになるポイントを海外マックの動画で見つけたので、合わせて紹介していきたいと思います。
◆問題となったAI広告には、何が欠けていたのか?
近年増えつつあるAI広告。業種を問わず、さまざまな企業が話題化をねらってチャレンジをしている分野でもあります。まずは今回炎上してしまった動画について、X上のコメントをじっくり見ていくと、わかることがあります。
それは、マクドナルドがAIによる動画制作をしたこと自体に強い嫌悪感や批判を表明しているわけではないということ。あくまでもその表現の印象面において、率直な意見が集まっていることがわかります。
そして、描かれた女性や映像全体の雰囲気をとらえて不快感を示したユーザーが多くいたことは否定できませんが、強い嫌悪感の根本要因は他にあったのではないかと、私は考えました。
それは、これまで何度となくマックフライポテトを食べてきた、愛してきた顧客に対する敬意の欠如ではないかと思うのです。
人が食事をするときに必ず伴うのは、そのときに生まれるエピソードや気持ちです。子どもの頃にポテトを食べた親子の懐かしい思い出、友達と遊ぶ流れで楽しく食べた記憶、疲れて帰ってきてLサイズを独り占めして食べたときの至福感……。
人それぞれマックフライポテトとのエピソードがあるでしょう。つまり、多くの人がマクドナルドからもらった温かな記憶や思い出に対して、マクドナルドとして敬意や感謝、共感といった気持ちが、この動画に間接的にでも込められていたのかが、疑問なのです。
つまり多くの人々は、自分たちが長らく重ねてきたリアルな思い出や体験とはつながりにくい、どこか人工的で温もりのない単発的なシーンをつなぎ合わせた動画に、「マックフライポテトの世界はこんなんじゃない!」という拒否感を抱いたのではないでしょうか?
◆マックフライポテトへの期待に、日本のマックはどうこたえるべきなのか?
世界有数のグローバル企業として成長を続けているマクドナルドですが、実は日本におけるマックのプロモーションを見ていくと、海外とはやや異質であることに気がつきます。それは、有名タレントを起用するプロモーションへの依存度の高さです。
ここでその良し悪しについて議論をするつもりはありませんが、日本のマックの未来を想像したとき、斬新そうに見える、安いだけの告知、好きなタレントを起用するだけのプロモーションが心をつかまなくなっていくのではないか?と感じはじめています。
その理由は、海外マックの動画にありました。ユーザーのマック体験に敬意や配慮を示しながら、楽しく心をつかむ動画をたくさん発見することができましたので、その事例を3つご紹介していきましょう。
◆①「こういうときあるよね!」と共感を生むイギリスのCM
イギリスで2024年6月に公開された60秒動画。最後の1本を食べる時の至福感、台所で踊りながらポテトを食べる楽しさ、ハロウィンで子どもがマックフライポテトに仮装するシーンなどの楽しいシーンを提示しながら、「マックフライポテトは嬉しいサプライズを提案します」というメッセージが込められた内容。
「こういうときあるよね! そうだよね!」という共感を生み出す演出になっています。
◆②「新しい! 食べてみたい!」とワクワクするフランスのCM
2023年にフランスで新しく登場した「ベジタブルフライ」についてのプロモーション動画。
子どもが魔法のスティックを持って街中を歩いている。スティックをふるたびにビルや犬、美容院などが鮮やかな色に変身していく。そして最後にマクドナルドで母親がスティックをふると、カラフルなベジタブルフライに変身するというもの。見ていて楽しく、大人もワクワクするテイストに仕上がっています。
◆③食欲を純粋に誘うイタリアらしいの商品とCM
イタリアで2024年2月に公開された15秒動画。パジャマ姿の女性が夜にお店に走り、話題の新商品「Le Ricche Fries」をゲットするという内容。
とろけるチーズとベーコンがトッピングされたイタリアならではのユニークな商品で、海外マックにおいてこのようなご当地メニューが誕生しています。元祖マックフライポテトも良いけれど、新しい発想の提案力は日本でも求められているのかもしれないと、考えさせられる事例でしょう。
◆マックポテトのCMに生成AIは必要なのか?
それでは最後に、マックのフライポテト動画にAIや新しいテクノロジーを駆使するのはアリなのか? という点について、考えてみましょう。アメリカ本国のマクドナルドが公開している動画を見つけました。
主役はマックフライポテトで、ヒトやモノはほとんど登場しません。たっぷりの揚げたてポテトに塩をふり、ガサッと箱に入れ、客が手にとるまでをシズル感たっぷりに描いています。このような限りなくシンプルでクラシカルな演出で作られた動画に食欲を刺激される人は少なくないと思います。さあ、皆さんはどう感じますか?
いずれにしてもAI広告がアリかどうかは、見る人が生きてきた人生や日常への配慮があり、人と商品との関係性を温めてくれる、必要性を感じさせてくれる動画こそが重要。
その上で新しいクリエイションは歓迎される要素なのではないでしょうか?
<文/スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12