映画、テレビと一線で活躍を続ける池松壮亮さん(34歳)。7月クールで放送の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ)での演技も、回を追うごとに評判を集めていきました。
スクリーンでは、第77回カンヌ国際映画祭出品作の『ぼくのお日さま』が公開中です。雪の降る田舎町を舞台に、吃音(きつおん)のホッケー少年とフィギュアスケートを習う少女、夢破れたコーチの3人が織り成すドラマを見つめる本作。
池松さんに、ゼロから挑んだというフィギュアスケートの裏話や、恋人役を演じた若葉竜也さんについてなど聞きました。
◆フィギュアスケートの練習は、昨年公開映画でのピアニスト役と並行で
――とても豊かな作品だと感じました。以前から池松さんのほうから奥山大史監督にアプローチされていたとか。
池松壮亮さん(以下、池松)「とある企画でお名前を上げさせていただいたことが出会いのきっかけでした。奥⼭さんは、これから必ず日本映画にとって必要な、あるいは次の日本映画を代表していくような才能を持った方だということは、デビュー作の『僕はイエス様が嫌い』や、いろいろな創作活動を観せてもらう中で感じていました」
――本作では、演じた荒川が元フィギュアスケートの選手であるため、フィギュアへのチャレンジも必要でした。池松さんは、少し前には『白鍵と黒鍵の間に』で代役なしでの演奏ありのピアニスト役を演じたばかりです。
池松「ピアノとフィギュアを同時にやってました」
――そうなんですか!?
池松「その頃、すごく習い事が多くて。中止になったボクシングの映画があって、それも同時進行で。ひと月ほどボクシングも併せてやっていました。だから1カ月間は、ピアノとフィギュアスケートとボクシングの3つの練習をしていました。
自分は一体何を目指しているんだろうかと思う日々でした(笑)。その後、ピアノとフィギュアは半年間、同時進行で習っていました。映画のためとなると取り組めてしまうんです」
――“これは無理だ”と思ったりすることはないのでしょうか。
池松「あります。でも、自分がフィギュアスケートを学ぶことによって、この映画で表現できることの可能性が広がると分かっているので、どれくらい出来るかは⼀旦置いておいて、出来る限りやってみます。
そうして没頭していく中で、その役柄の持つパーソナリティーやこれまでの⼈⽣に少しずつ触れていくような時間にもなります」
◆兄弟役、恋人役をやった若葉竜也には特別な気持ちがある
――本作では池松さんの演じた荒川と、若葉竜也さんの演じた恋人・五十嵐の物語にも引き込まれました。ふたりの関係がとても自然にスッと入ってくるものだったので、後半の展開に衝撃を覚えました。
池松「今作では、マイノリティを決して特別なこととせず、普通に、その世界に、たまたまこうした同性同士の恋人がいたことを⾒てもらえるように⽬指していました。
ふたりに関しての後半の出来事は、男⼥でも、男性と男性、⼥性と⼥性でも、⼈と⼈の間に起こりうる摩擦だと思っています。今作ではマイノリティやクィアというような⾔葉がまだ浸透していなかった、20年程前を時代設定としており、そこに秘めた⽣きづらさがあるからこそ、よりふたりだけの世界を作り上げたいと思っていました」
――若葉さんとは、『愛にイナズマ』から本作へと、兄弟役から恋人役という関係性で立て続けの共演になりました。
池松「ここの先もそうないだろうと思います。兄弟役と恋⼈役で共演した⽅は若葉くんしかいませんから、特別な想いがあります。
お互いに現場でたくさん喋るタイプではないですが、兄弟役を経て⼼の距離が縮まりました。そこで得たものを、今作の関係性にうまくいかせたらと思っていました」
◆映画の匂いが強い俳優がテレビドラマでも大活躍
――7月クールのドラマ『海のはじまり』が大好評です。若葉さんも前期『アンメット』がとても評判を集めました。池松さんは『宮本から君へ』(テレビ東京)の主演などでも映画ファン以外にも知られていますが、若葉さんは映画ファンにはよく知られた存在にも関わらず、映画を見ない層からは急にブレイクしたように騒がれた時期がありました。正直、どうご覧になっていましたか?
池松「テレビって凄いですね。僕はゴールデン帯連続ドラマに参加するのが 10 年ぶりだったんですが、こんなに反響があるかと驚きます。同時に映画ってあんまりみんな⾒てないよなと悲しい気持ちにもなります。でもとてもいいことだと思います。
様々なことが多様な時代、映画やドラマ、配信といったものへ、視聴者が⾃由にアクセスでき、それぞれが進化していくべき時に、各々の境界線を⾶び越えて、その領域を広げながら可能性を探っていくことは、とても良いことだと思っています。
⽇本映画、⽇本のドラマ、⽇本の映像界全体が、過渡期にあって停滞していることを⼤前提として、別分野からどんどん刺激を与えて変化を促していくことは必要なことだと思います。映画を中⼼に活躍してきた若葉くんが、ボーダーを超えて求められ、本⼈が納得して⾶び込んで活躍するというのは、素晴らしいことだなと思います」
◆実家が保育園をやっていたので、子どもに対する抵抗感は一切ない
――『ぼくのお日さま』も『海のはじまり』も、子どもとの共演作ですが、池松さんは、ほかにも「池松壮亮が子どもと出会い、週末を一緒に過ごしてみたら」というプロジェクト「Fill Me In!(ねぇ、おしえて)」もされていますね。池松さん自身は、10歳のときにデビューされましたが、子ども時代から大人に囲まれてお仕事してきて、子どもが苦手になることはなかったのでしょうか。
池松「僕は兄弟やいとこが多い環境で育ちました。それから⽗が建築の会社をやっているのですが、25年程、保育園も運営していました。
実家の近くにあって、4⼈兄弟みなそこに通い、お迎えの時間に間に合わなかった⼦どもたちが、僕が家に帰ると実家で⾛り回っていたりしました。⼦どもが多い環境が当たり前にありました。そうした環境があったおかげか、⼦どもに対する抵抗感みたいなものは、⼀切ありません」
――そうなんですね。
池松「また、30代を迎えて、コロナ禍を経て、これからの社会や時代を⾒つめたときに、もっと未来にフォーカスしていくべきだと強く感じるところがありました。
『ぼくのお⽇さま』は、参加を決めた時点では 6枚のプロット段階でした。それでも、⼦どもの指導者として、⼤⼈としてどういう態度を取ることがこれからの未来を担う⼦どもに対して正しいのかを、この作品や役を通じて探求できるかもしれないと思いました。若くして成熟した感性を持つ、奥⼭さんというこれからの才能と共に、そうした答えのない旅に出たいと思いました」
<取材・文・撮影/望月ふみ>
(C) 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS
テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
スクリーンでは、第77回カンヌ国際映画祭出品作の『ぼくのお日さま』が公開中です。雪の降る田舎町を舞台に、吃音(きつおん)のホッケー少年とフィギュアスケートを習う少女、夢破れたコーチの3人が織り成すドラマを見つめる本作。
池松さんに、ゼロから挑んだというフィギュアスケートの裏話や、恋人役を演じた若葉竜也さんについてなど聞きました。
◆フィギュアスケートの練習は、昨年公開映画でのピアニスト役と並行で
――とても豊かな作品だと感じました。以前から池松さんのほうから奥山大史監督にアプローチされていたとか。
池松壮亮さん(以下、池松)「とある企画でお名前を上げさせていただいたことが出会いのきっかけでした。奥⼭さんは、これから必ず日本映画にとって必要な、あるいは次の日本映画を代表していくような才能を持った方だということは、デビュー作の『僕はイエス様が嫌い』や、いろいろな創作活動を観せてもらう中で感じていました」
――本作では、演じた荒川が元フィギュアスケートの選手であるため、フィギュアへのチャレンジも必要でした。池松さんは、少し前には『白鍵と黒鍵の間に』で代役なしでの演奏ありのピアニスト役を演じたばかりです。
池松「ピアノとフィギュアを同時にやってました」
――そうなんですか!?
池松「その頃、すごく習い事が多くて。中止になったボクシングの映画があって、それも同時進行で。ひと月ほどボクシングも併せてやっていました。だから1カ月間は、ピアノとフィギュアスケートとボクシングの3つの練習をしていました。
自分は一体何を目指しているんだろうかと思う日々でした(笑)。その後、ピアノとフィギュアは半年間、同時進行で習っていました。映画のためとなると取り組めてしまうんです」
――“これは無理だ”と思ったりすることはないのでしょうか。
池松「あります。でも、自分がフィギュアスケートを学ぶことによって、この映画で表現できることの可能性が広がると分かっているので、どれくらい出来るかは⼀旦置いておいて、出来る限りやってみます。
そうして没頭していく中で、その役柄の持つパーソナリティーやこれまでの⼈⽣に少しずつ触れていくような時間にもなります」
◆兄弟役、恋人役をやった若葉竜也には特別な気持ちがある
――本作では池松さんの演じた荒川と、若葉竜也さんの演じた恋人・五十嵐の物語にも引き込まれました。ふたりの関係がとても自然にスッと入ってくるものだったので、後半の展開に衝撃を覚えました。
池松「今作では、マイノリティを決して特別なこととせず、普通に、その世界に、たまたまこうした同性同士の恋人がいたことを⾒てもらえるように⽬指していました。
ふたりに関しての後半の出来事は、男⼥でも、男性と男性、⼥性と⼥性でも、⼈と⼈の間に起こりうる摩擦だと思っています。今作ではマイノリティやクィアというような⾔葉がまだ浸透していなかった、20年程前を時代設定としており、そこに秘めた⽣きづらさがあるからこそ、よりふたりだけの世界を作り上げたいと思っていました」
――若葉さんとは、『愛にイナズマ』から本作へと、兄弟役から恋人役という関係性で立て続けの共演になりました。
池松「ここの先もそうないだろうと思います。兄弟役と恋⼈役で共演した⽅は若葉くんしかいませんから、特別な想いがあります。
お互いに現場でたくさん喋るタイプではないですが、兄弟役を経て⼼の距離が縮まりました。そこで得たものを、今作の関係性にうまくいかせたらと思っていました」
◆映画の匂いが強い俳優がテレビドラマでも大活躍
――7月クールのドラマ『海のはじまり』が大好評です。若葉さんも前期『アンメット』がとても評判を集めました。池松さんは『宮本から君へ』(テレビ東京)の主演などでも映画ファン以外にも知られていますが、若葉さんは映画ファンにはよく知られた存在にも関わらず、映画を見ない層からは急にブレイクしたように騒がれた時期がありました。正直、どうご覧になっていましたか?
池松「テレビって凄いですね。僕はゴールデン帯連続ドラマに参加するのが 10 年ぶりだったんですが、こんなに反響があるかと驚きます。同時に映画ってあんまりみんな⾒てないよなと悲しい気持ちにもなります。でもとてもいいことだと思います。
様々なことが多様な時代、映画やドラマ、配信といったものへ、視聴者が⾃由にアクセスでき、それぞれが進化していくべき時に、各々の境界線を⾶び越えて、その領域を広げながら可能性を探っていくことは、とても良いことだと思っています。
⽇本映画、⽇本のドラマ、⽇本の映像界全体が、過渡期にあって停滞していることを⼤前提として、別分野からどんどん刺激を与えて変化を促していくことは必要なことだと思います。映画を中⼼に活躍してきた若葉くんが、ボーダーを超えて求められ、本⼈が納得して⾶び込んで活躍するというのは、素晴らしいことだなと思います」
◆実家が保育園をやっていたので、子どもに対する抵抗感は一切ない
――『ぼくのお日さま』も『海のはじまり』も、子どもとの共演作ですが、池松さんは、ほかにも「池松壮亮が子どもと出会い、週末を一緒に過ごしてみたら」というプロジェクト「Fill Me In!(ねぇ、おしえて)」もされていますね。池松さん自身は、10歳のときにデビューされましたが、子ども時代から大人に囲まれてお仕事してきて、子どもが苦手になることはなかったのでしょうか。
池松「僕は兄弟やいとこが多い環境で育ちました。それから⽗が建築の会社をやっているのですが、25年程、保育園も運営していました。
実家の近くにあって、4⼈兄弟みなそこに通い、お迎えの時間に間に合わなかった⼦どもたちが、僕が家に帰ると実家で⾛り回っていたりしました。⼦どもが多い環境が当たり前にありました。そうした環境があったおかげか、⼦どもに対する抵抗感みたいなものは、⼀切ありません」
――そうなんですね。
池松「また、30代を迎えて、コロナ禍を経て、これからの社会や時代を⾒つめたときに、もっと未来にフォーカスしていくべきだと強く感じるところがありました。
『ぼくのお⽇さま』は、参加を決めた時点では 6枚のプロット段階でした。それでも、⼦どもの指導者として、⼤⼈としてどういう態度を取ることがこれからの未来を担う⼦どもに対して正しいのかを、この作品や役を通じて探求できるかもしれないと思いました。若くして成熟した感性を持つ、奥⼭さんというこれからの才能と共に、そうした答えのない旅に出たいと思いました」
<取材・文・撮影/望月ふみ>
(C) 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS
テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi