第76回エミー賞のドラマシリーズ部門で、真田広之主演の海外ドラマ『SHOGUN 将軍』(Hulu・Disney +)が、最多18部門を受賞して、真田が主演男優賞を受賞した。日本人初の快挙だとさまざまなメディアで報道されている。
一方、助演男優賞にノミネートされた浅野忠信もホットな話題性を提供してくれている。授賞式でのレッドカーペットに登場した浅野が、あるワールドワイドなスターたちとのツーショットをSNS上に投稿したのだ。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、SNS投稿が唯一無二な浅野忠信について解説する。
◆長髪スタイルから短髪ボソボソ
浅野忠信に対する賛辞を口にするとき、唯一無二という言葉以外、何と形容すべきなのか。噛めば噛むほど味わい深く、その存在の価値の所在を探せば探すほど、際限なく美しさが広がる。まるで大海原みたいな人。
今でこそ、精悍(せいかん)な短髪のボソボソ声名優のイメージがあるけど、映画初主演作『Helpless』(1996年)や『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(2006年、ロン毛の浅野忠信!)など、1990年代後半から2000年代中頃の青山真治監督作品に出演した浅野は、長髪スタイルがトレードマーク。不思議と画面から浮き立つ生々しい存在感だった。
そこから彼の短髪ボソボソが決定的に際立つようになったのは、青山監督にとっては立教大学の先輩にあたる黒沢清監督作『岸辺の旅』(2015年)で深津絵里と夫婦役を演じたときからだった気がする。いずれにしろ、彼の演技をパッと見ただけなら、何だかずっと眩しそうな表情だなとか、何だかずっと気だるそうだなくらいの感想を口できる。
それらが彼の演技の特徴的な魅力であることは確かだけれど、浅野の唯一無二感を語るためには、じっくり腰を据え、できるだけ時間をかける必要がある。でもここはひとまず、第76回エミー賞を総なめにした海外ドラマ『SHOGUN 将軍』出演がやっぱりホットな話題だし、最適かもしれない。
◆ファッショニスタとのツーショット
エミー賞授賞式のレッドカーペットに登場した浅野は、クラシカルな黒のタキシードに身を包んでいた。そのときの一枚をX上にポストしている。パッと見て、浅野忠信ルックのまとまりがカッコいいなと思う。
ポストには「#tomford」とハッシュタグが付いている。トム・フォードが完璧にフィットする身体は、この世にデザイナーであるトム・フォードと浅野忠信しか存在しないくらい、つややかな佇まい。ファッションの領域でも唯一無二なのだ。
レッドカーペットは、スターたちが着こなすエレガンスの見本市みたいな場所でもある。もう一枚、浅野は、華やかな場に相応しくファビュラスなファッショニスタとのツーショットをポストしている。
◆SNS投稿すら唯一無二な人
ジャケットを脱いだ浅野の肩に優しく手を添える人物。白と黒を鮮やかに着こなし、ディアドロップ型のメガネと白髪の組み合わせが都会的な洗練を極めるその人は、タン・フランス。ファッション担当で出演するNetflix配信作品『クィア・アイ』(2018年~)で、馴染みある人も多いかもしれない。
他にも2枚のツーショット。同作の美容担当のジョナサン・ヴァン・ネスに、インテリアデザイン担当のボビー・バーク。他に料理担当のアントニ・ポロウスキとカルチャー担当のカモラ・ブラウンを合わせていわゆる「ファブ5」のメンバー3人との記念撮影だった。
他にも世界的セレブリティは会場にたくさんいるというのに、魅力的なワールドワイドのクィアたちとのツーショットだけを並べてポストする浅野忠信。SNS投稿すら唯一無二な人である。
◆ジェンダーレスでファッショナブルな文化圏
こうした浅野のポストを見て意外に思った人もいるかもしれないが、ジェンダーレスでファッショナブルな文化圏の中で考える浅野忠信の面白さが、実は他にもある。
『GQ JAPAN』で連載された特集『男らしさって』って何? 浅野登場回(2020年3月20日掲載)。2018年から2021年までイタリアのファッションブランド「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブ・ディレクターを務めたダニエル・リーによるジェンダーレスな衣装を浅野が着た。スタイリスト・北村道子によるスタイリング。大胆に胸毛を露出することで、同特集が問う「男らしさ」とのたわむれを感じさせる。
インタビューで浅野は「本音を言うと、スカートがうらやましいんです」と答えている。自分が知らない世界に足を踏み込み、どっぷり浸かってみる。そこから自由に興味の幅が広がる。「男らしさ」の枠から考えられがちな浅野が、ジェンダーレスな文化圏から唯一無二のイメージを新たに浮かび上がらせる。とても刺激的だ。
◆エミー賞授賞式を経験したこと
自分の新世界を知ろうとするスタンスが、これまでの俳優人生を豊かに発展させてきたのだろう。2011年にはクリス・ヘムズワース主演のマーベル映画『マイティ・ソー』でハリウッド映画進出を果たしている。
今回のエミー賞授賞式を経験したことで「自分がここに立っているということを認識し、エミー賞にノミネートされるということの重みと意義を考えなければいけない」と『TOWON & COUNTRY』誌に答えている。
浅野が噛み締める「重みと意義」についてはぼくらもよく考えてみる必要があるのだが、少なくとも『SHOGUN 将軍』の画面上からはっきりわかることがある。浅田が演じる伊豆領主・樫木薮重が第1話で初登場する場面。領地にやってきた薮重が馬上でひたらすらゆらゆらと揺れている。
画面奥から手前へゆらゆら。寄りの表情を見ると、うっすらにやけている。それが不気味でもある。第一声にはボソボソ感が少ない。同じ時代劇作品で公開年が近いものだと北野武監督の『首』(2023年)がある。
同作での黒田官兵衛役では、引きの画面で印象付くたどたどしいボソボソ声が逆に魅力的だった。それに対して『SHOGUN 将軍』の寄りの馬上シーンのゆるがないゆらゆら感は、浅野忠信の次なる唯一無二を揺り動かす。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
一方、助演男優賞にノミネートされた浅野忠信もホットな話題性を提供してくれている。授賞式でのレッドカーペットに登場した浅野が、あるワールドワイドなスターたちとのツーショットをSNS上に投稿したのだ。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、SNS投稿が唯一無二な浅野忠信について解説する。
◆長髪スタイルから短髪ボソボソ
浅野忠信に対する賛辞を口にするとき、唯一無二という言葉以外、何と形容すべきなのか。噛めば噛むほど味わい深く、その存在の価値の所在を探せば探すほど、際限なく美しさが広がる。まるで大海原みたいな人。
今でこそ、精悍(せいかん)な短髪のボソボソ声名優のイメージがあるけど、映画初主演作『Helpless』(1996年)や『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(2006年、ロン毛の浅野忠信!)など、1990年代後半から2000年代中頃の青山真治監督作品に出演した浅野は、長髪スタイルがトレードマーク。不思議と画面から浮き立つ生々しい存在感だった。
そこから彼の短髪ボソボソが決定的に際立つようになったのは、青山監督にとっては立教大学の先輩にあたる黒沢清監督作『岸辺の旅』(2015年)で深津絵里と夫婦役を演じたときからだった気がする。いずれにしろ、彼の演技をパッと見ただけなら、何だかずっと眩しそうな表情だなとか、何だかずっと気だるそうだなくらいの感想を口できる。
それらが彼の演技の特徴的な魅力であることは確かだけれど、浅野の唯一無二感を語るためには、じっくり腰を据え、できるだけ時間をかける必要がある。でもここはひとまず、第76回エミー賞を総なめにした海外ドラマ『SHOGUN 将軍』出演がやっぱりホットな話題だし、最適かもしれない。
◆ファッショニスタとのツーショット
エミー賞授賞式のレッドカーペットに登場した浅野は、クラシカルな黒のタキシードに身を包んでいた。そのときの一枚をX上にポストしている。パッと見て、浅野忠信ルックのまとまりがカッコいいなと思う。
ポストには「#tomford」とハッシュタグが付いている。トム・フォードが完璧にフィットする身体は、この世にデザイナーであるトム・フォードと浅野忠信しか存在しないくらい、つややかな佇まい。ファッションの領域でも唯一無二なのだ。
レッドカーペットは、スターたちが着こなすエレガンスの見本市みたいな場所でもある。もう一枚、浅野は、華やかな場に相応しくファビュラスなファッショニスタとのツーショットをポストしている。
◆SNS投稿すら唯一無二な人
ジャケットを脱いだ浅野の肩に優しく手を添える人物。白と黒を鮮やかに着こなし、ディアドロップ型のメガネと白髪の組み合わせが都会的な洗練を極めるその人は、タン・フランス。ファッション担当で出演するNetflix配信作品『クィア・アイ』(2018年~)で、馴染みある人も多いかもしれない。
他にも2枚のツーショット。同作の美容担当のジョナサン・ヴァン・ネスに、インテリアデザイン担当のボビー・バーク。他に料理担当のアントニ・ポロウスキとカルチャー担当のカモラ・ブラウンを合わせていわゆる「ファブ5」のメンバー3人との記念撮影だった。
他にも世界的セレブリティは会場にたくさんいるというのに、魅力的なワールドワイドのクィアたちとのツーショットだけを並べてポストする浅野忠信。SNS投稿すら唯一無二な人である。
◆ジェンダーレスでファッショナブルな文化圏
こうした浅野のポストを見て意外に思った人もいるかもしれないが、ジェンダーレスでファッショナブルな文化圏の中で考える浅野忠信の面白さが、実は他にもある。
『GQ JAPAN』で連載された特集『男らしさって』って何? 浅野登場回(2020年3月20日掲載)。2018年から2021年までイタリアのファッションブランド「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブ・ディレクターを務めたダニエル・リーによるジェンダーレスな衣装を浅野が着た。スタイリスト・北村道子によるスタイリング。大胆に胸毛を露出することで、同特集が問う「男らしさ」とのたわむれを感じさせる。
インタビューで浅野は「本音を言うと、スカートがうらやましいんです」と答えている。自分が知らない世界に足を踏み込み、どっぷり浸かってみる。そこから自由に興味の幅が広がる。「男らしさ」の枠から考えられがちな浅野が、ジェンダーレスな文化圏から唯一無二のイメージを新たに浮かび上がらせる。とても刺激的だ。
◆エミー賞授賞式を経験したこと
自分の新世界を知ろうとするスタンスが、これまでの俳優人生を豊かに発展させてきたのだろう。2011年にはクリス・ヘムズワース主演のマーベル映画『マイティ・ソー』でハリウッド映画進出を果たしている。
今回のエミー賞授賞式を経験したことで「自分がここに立っているということを認識し、エミー賞にノミネートされるということの重みと意義を考えなければいけない」と『TOWON & COUNTRY』誌に答えている。
浅野が噛み締める「重みと意義」についてはぼくらもよく考えてみる必要があるのだが、少なくとも『SHOGUN 将軍』の画面上からはっきりわかることがある。浅田が演じる伊豆領主・樫木薮重が第1話で初登場する場面。領地にやってきた薮重が馬上でひたらすらゆらゆらと揺れている。
画面奥から手前へゆらゆら。寄りの表情を見ると、うっすらにやけている。それが不気味でもある。第一声にはボソボソ感が少ない。同じ時代劇作品で公開年が近いものだと北野武監督の『首』(2023年)がある。
同作での黒田官兵衛役では、引きの画面で印象付くたどたどしいボソボソ声が逆に魅力的だった。それに対して『SHOGUN 将軍』の寄りの馬上シーンのゆるがないゆらゆら感は、浅野忠信の次なる唯一無二を揺り動かす。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu