Infoseek 楽天

「公園でのボール遊び禁止は誰のため?」窮屈な“公園のルール”変えた杉並区。きっかけは“小学生のひと言”だった

女子SPA! 2024年10月2日 8時44分

子どもと一緒に公園に行ったのに、「ボール遊び禁止」「大声禁止」などの禁止看板を見て、この公園では遊べないとがっかりしたことはないでしょうか。近年、こうした公園での“禁止ルール”が増えています。

そんな中、東京都杉並区が「新しい公園のルール」を7月から試行。禁止されていたボール遊びや自転車の練習などが条件付きでできるようになったり、以前は団体で区に申請をしないとできなかった花火も、5人程度で行うのであれば申請不要でOKに。こうしたルールの緩和に、SNS上では「杉並区よくやってくれた!」「全国の公園に広まってほしい」などの声が見られます。

なぜ今、「新しい公園のルール」を作ったのか。杉並区みどり公園課の大場将国さんにお話を聞きました。

◆小学生のひと言で気がついた“大きな問題”

――新しい公園のルールを試行したきっかけを教えてください。

大場将国さん(以下、大場)「杉並区には、住宅地の中にある小さな公園が多くあります。そのため、以前より近隣の方々や利用者の方からさまざまな声を頂いていました。メディアでも時折話題になりますが、騒音の問題や、安全の確保が難しいボール遊び、ペットの散歩問題です。

こうした声を受け、近隣の方々への配慮のために、禁止事項が増えていきました。たとえば、幼児用の柔らかいボール以外は一律でボール遊びが禁止されており、花火も申請がないとできないというルールです。

そんな中、小学生が『夏休みに家族で花火がしたいのに、できません』と区長の岸本(杉並区長・岸本聡子さん)に話してくれたことがありました。区民が自由に使えるはずの公園が、自由に使えていない。区長をはじめ、私たちは改めて考え直す必要があると感じました」

◆子どもたちにしわ寄せがいかないように

――庭のない集合住宅に住んでいる方も多く、都心で花火をするのはハードルが高いですよね。

大場「はい。全国の自治体でも、花火大会が開催できなかったり、さまざまな理由で催し自体が少なくなったりしてきていますよね。近隣の方々への配慮を大切に考えながらも、やはり公園は子どもたちの居場所として大切だという視点もあります。コロナ禍の時もそうでしたが、禁止事項を作ると、どうしても子どもにしわ寄せがいってしまうことに、もどかしさを感じていました。

これまでも公園のルールを少しずつ見直すことはありましたが、20年間、大きな変更はありませんでした。ですが今こそ、生活スタイルや状況に合わせて公園のルールを改善する必要があるのではないかと考え、見直しを始めました」

◆花火にボール遊び、喫煙ルールも大きく変わった

――「新しい公園のルール」でこれまでと大きく変わった点を教えてください。

大場「花火の使用に関しては、これまでは区への事前申請が必要だったのですが、家族単位で行う場合は申請が不要になりました。

期間・花火の種類・人数・場所の条件はありますが、期間を夏休み中とすることや種類を手持ち花火とするなどの条件に関しては今までのルールを引き継いでいます。基本的なルールは引き継ぎつつ、人数や対象の公園等を明確にすることで事前の申請をなくし、手軽に花火ができるようになりました。また、団体での利用も手続きを簡略化し、オンラインで申出いただけます。

ボールの使用に関しては幼児用の柔らかいボール以外は一律使用不可だったものを、場所や用途を決めて使用できるように変更しています。また公園での喫煙は、今まで喫煙可能だったものを、分煙施設のある公園以外では不可としています」

――公園での喫煙は、特定の公園以外すべて不可になったんですね。

大場「今まで23区の中でも、ほぼすべての公園で喫煙を可としていたのは杉並区だけでした。社会的に全面的な禁煙の流れは強くなっているので、本来であれば一律で禁煙とするほうが自然な流れだったと思います。ただ、一律不可とするのは簡単ですが、結局守られないルールというのはルールが現状に合っていないのでは? という議論になりました」

◆喫煙についてのアンケートで「意外な結果」に驚く

――たしかに、守られない形だけのルールでは意味がないですよね。

大場「はい。そこで公園の利用者の方々にアンケートで聞いたみたところ『喫煙を一切禁止にすべき』という声は半数ほどでした。我々も驚いたのですが、4割以上の方は『周囲に配慮し、専用のスペースが設けられていれば喫煙してもいい』と回答をされたのです。大多数の方が、『喫煙は一律不可』と回答されると思っていたので、これは意外でした」

――実際に公園を利用されている方にアンケートをとったことで、実態が見えてきたのですね。

大場「もちろん、喫煙による子どもの健康被害があってはいけないという前提は変わりません。吸い殻のポイ捨てもあってはならないことです。ただ、実際に公園に行くと、疲れて営業の合間に一服されている方や、暑い中、交通誘導員の方が仕事を終えて一服している姿もよく目にします。

公園はいろんな方が利用する場所である以上、現在の利用者を完全に無視することはできません。ですから、一律に禁止とするのではなく、分煙施設がある公園であれば喫煙できるという条件をつけています。

とは言いましても、7月に『新しい公園のルール』を試行して以降、『全面的に禁煙にすべきだ』というお声もいただいています。現在は試行期間ですので、そういった声も情報共有しながら、このルールを来年度以降も本格実施するか、実施するのであればどのような内容にするのかを検討していきたいと思います」

◆子どもたちの声が、予想以上に集まった「方法」は

――「新しい公園のルール」を試行するにあたり、子どもから高齢者までさまざまな年齢の区民の方々から意見を集めたそうですね。

大場「今回、公園のルールを試行するにあたり、事前に広報や区のホームページなどで全体向けのアンケートを実施しました。ただ、広報や区のホームページを子どもたちはあまり見ないですよね。でも、公園は子どもの居場所としてよく使われる場所です。子どもの意見をしっかり聞きたいと考えました。そこで、児童館の方々に協力をお願いしました。

子どもたちは、小学生1人に1台ずつタブレットを学校から配布されています。児童館の方にはアンケートの二次元コードをお渡しし、それを子どもたちに配っていただいたり、施設内に貼っていただくなどしました。『自分のタブレットからアンケートに答えてね』という形でお願いをしたんです」

――二次元コードを配布して、手持ちのタブレットで子どもが自分でアンケートに答えるというのは、今どきの方法ですね!

大場「はい、予想以上に多くの回答をいただき驚いています。子どもたちの意見をたくさん集めることができました」

◆区長と区民での話し合いを経て

――アンケートに加えて、区民の方とのミーティングの場も設けたとか。

大場「区長と区民の方が定期的に『聴っくオフ・ミーティング』という会をおこなっています。毎回テーマを決めて、幅広い世代の方々がそれぞれの立場で意見を話し合う場です。そこでも公園利用者の方からたくさんの声を聞かせていただきました。これらの声をもとに、さまざまな年齢の方が利用できる公園の新しいルールを作っていきました」

========

近隣の方から少しでも非難の声が上がるものを一律禁止にしてしまえば、トラブルも起きず運営もシンプルになります。しかし、そんな中であえて条件を設定し、実情に沿った新しい公園のルールを作った杉並区。

その背景には、子どもから親世代、そして高齢者にもしっかり意見を聞くための、地道な取り組みがありました。

<取材・文/瀧戸詠未>

【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。Twitter:@YlujuzJvzsLUwkB

この記事の関連ニュース